「DJ DON」と一致するもの

Villaelvin - ele-king

 2000年代にはリアルなアフリカを舞台にした超大作がハリウッドでも次から次へとつくられ、小品にも忘れがたい作品が多かったものの、現在では『ブラックパンサー』のようにおとぎ話のようなアフリカに戻ってしまうか、そもそもアフリカを舞台にした作品自体が激減してしまった(90年代よりは多い。あるいはセネガルなど現地でつくられる作品にいいものが増えてきた)。アフリカに対する注目は音楽でも同じくで、ボブ・ゲルドフとミッジ・ユーロがライヴ・エイドから20周年となる2005年に世界8大都市で「ライヴ8」を同時開催し(日本ではビョークやドリームズ・カム・トゥルーが出演)、G8の首脳にアフリカへの支援を呼びかけたり、ベルギーの〈クラムド・ディスク〉がコンゴのコノノNo. 1をデビューさせてアフリカの音楽に目を向ける機会を増大させてもいる。これに続いてデイモン・アルバーンはアフリカ・エクスプレスを組織したり、コンゴの現地ミュージシャンたちと『DRC Music』を制作、ベルリンのタイヒマン兄弟も同じくケニヤなどに赴いて『BLNRB(ベルリンナイロビ)』や『Ten Cities』といったコラボレイト・アルバムを、マーク・エルネスタスはセネガルでジェリ・ジェリ『800% Ndagga』をそれぞれつくり上げている。こうした動きはしかし、第1次世界大戦前にイギリスとドイツが次々とアフリカ各地を植民地にしていったプロセスともどこか重なってみえる、個々の動きとは別に全体としては複雑な感慨を呼び起こす面もある(ディープ・ハウスのアット・ジャズが早くから南アフリカのクワイトにコミットしていったことも多面的な要素を持つことだろう)。アフリカの音楽産業は、規模でいえば1に南アフリカ、2にナイジェリアである(北アフリカとフランスの関係は煩雑になりすぎるので省略)。西アフリカを代表するナイジェリアではイギリスとアメリカの資本が暴れている一方、この数年で東アフリカを代表し始めたのがウガンダで、同地にもイギリスやドイツ、そして中国の資本が相次いで投入されている。イギリスのコンツアーズとサーヴォが現地のパーカッション・グループとつくり上げた『Kawuku Sound』、ゴリラズのジェシ・ハケットによる『Ennanga Vision』……等々。

 「先進国から来る人たちは演奏を録音して持って帰るだけ。出来上がったものを聞かせてもくれない」という不満は以前から少なからずあったらしい。アフリカと先進国の関係を変える契機が、そして、クラブ・ミュージックとともにやってくる。ウガンダのクラブ・ミュージックを牽引してきたのはDJ歴20年を超えるDJレイチェルと、2013年ごろから始動し始めた〈ニゲ・ニゲ・テープス(Nyege Nyege Tapes)〉である。東アフリカ初の女性DJとされるDJレイチェルはレコードも売っていないし、わずかなCDも高価で手の届かないものだったという90年代からDJやラップを始め、それは彼女が中流で、平均的な家族よりもリベラルな親だったから可能だったと本人は考えている(https://blog.native-instruments.com/globally-underground-dj-rachaels-journey/)。ウェデイング・プランナーとして働く彼女は結婚式で使うサウンドシステムをDJでも使いまわすことでなんとか生計を立てているようで、CDJが国全体でも3台しかないというウガンダではレンタルも簡単にはできないという。一般的にウガンダで音楽を楽しむにはスマホしかなく、それは『Music From Saharan Cellphones』(11)の頃も現在もあまり変わっていないらしい。ヒップホップからゴムまで横断的に扱うDJレイチェルの流儀に応えるかのようにして、そして、〈ニゲ・ニゲ〉がスタートする(詳細はあまりに膨大なので詳しくは→https://jp.residentadvisor.net/features/3127)。〈ニゲ・ニゲ〉の特徴を2つに絞るなら最新のエレクトロニック・ミュージックと伝統的な過去の音楽を等価に扱っていること、そして、ウガンダだけではなく、南に位置するケニアやタンザニア、あるいは西アフリカのマリやマダカスカル島東方に浮かぶレユニオンで活動するプロデューサーたちの音源もリリースしていることだろう(〈ニゲ・ニゲ〉のリリースで大きな注目を集めたタンザニアのシンゲリを紹介するコンピレーション『Sounds Of Sisso』については→https://www.ele-king.net/review/album/006179/)。〈ニゲ・ニゲ〉自体は音楽を生み出す母体として機能しているというよりDJ的な編集センスで存在感を示しているといえ、その頂点に位置しているのが現在はカンピレ(Kampire)である。DJレイチェルと同じくアクシデントでDJになったというカンピレは音楽に対する知識がなかったことが幸いしたと自身のユニークさを説明する。彼女がミックスすると、嫌いだった曲まで魅力的に聞こえてしまうので、僕もかなり舌を巻いた(ということは以前にも当サイトで書いた)。

 「ウガンダのアンダーグラウンドはどんどん大きくなっている。〈ニゲ・ニゲ〉は国際的に認知され、多くの西側メディアがウガンダを記事にしている」(DJレイチェル)


 そして、〈ニゲ・ニゲ〉が2018年にクラブ専門のサブ・レーベル、〈ハクナ・クララ(Hakuna Kulala)〉をスタートさせる(ようやく本題)。「安眠」というレーベル名とは裏腹にあまり聞いたことがない種類のベース・ミュージックをぶちかますケニヤのスリックバック(Slikback)やウガンダのエッコ・バズ(Ecko Bazz)などアルバムが楽しみなプロデューサーばかりが名を連ねるなか、〈ニゲ・ニゲ〉のハウス・エンジニアを務めるドン・ジラ(Don Zilla)と、ベルリンからやってきたエルヴィン・ブランディによるユニット、ヴィラエルヴィン(Villaelvin)のコラボレイト・アルバム『Headroof』がまずは群を抜いていた。バンクシーのように公共空間を使ったアート表現でも知られるというブランディはこれまで3人組のイエー・ユー(Yeah You)として4枚の実験的なアルバムをリリースした後、ソロでは本人名義の「Shelf Life(賞味期限)」などでアルカもどきの極悪インダストリアル路線をひた走り、とくにアヴリル・スプレーン(Avril Spleen)名義では混沌としたサウンドを背景にリディア・ランチばりの絶叫を聞かせてきた(それはそれで完成度の高い曲もある)。これがドン・ジラと組んだことでグルーヴを兼ね備えたインダストリアル・テクノへと変化。ドン・ジラ自身は昨年、やはり〈ハクナ・クララ〉から「From the Cave to the World」でデビューし、シンゲリを意識したようなトライバル・テクノや不穏なダーク・アンビエントを披露したばかり(コンゴ出身の彼は自分の音楽をコンゴリース・テクノと呼んでいる)。2人が起こしたアマルガメーションはアフリカとヨーロッパの音楽が混ざり合うという文脈でもすべてが良い方に転んだといえ、それぞれの音楽性が互いにないものを補完し合うという意味でも面白い結果を引き出している。インダストリアル・ノイズをクロスフェーダーで遊んでいるようなオープニングからシンゲリにはない重量感を備えた“Ghott Zillah”へ。タイトル曲の“Headroof”ではコロコロとリズムが変わる優雅なインダストリアル・アンビエントを構築し、これだけでも次作があるとすれば、それは〈パン〉からになるような気がしてしまう。ゴムをグリッチ化したような”Ettiquette Stomp”からアルヴァ・ノトとDJニッガ・フォックスが出会ったような“Zillelvina”へと続き、”Hakim Storm”ではチーノ・アモービを、ダンスホールを取り入れた“Kaloli”ではアップデートされたカンをもイメージさせる。全編にわたって知的でダイナミック。想像力とガッツにあふれたアルバムである。



〈ハクナ・クララ〉の最新リリースはアフリカ・エクスプレスにも参加していた南アのインフェイマス・ボーズによるメンジ(Menzi) 名義のカセット「Impazamo」で、これがなんとも不穏でダークなインダストリアル・ゴムに仕上がっていた。〈ニゲ・ニゲ〉がこれまで大々的にプッシュしてきたシンゲリとはだいぶ異なっった雰囲気であり、こうした方向性はしばらく維持されるに違いない(シンゲリを発展させたリリースももちろん〈ニゲ・ニゲ〉は続けている)。さらには、この夏、〈ニゲ・ニゲ〉の最初期からリリースを続けてきたナイヒロクシカ(Nihiloxica)のデビュー・アルバムが〈クラムド・ディスク〉から、という展開も。母体をなすのはドラムセット1人に7人のパーカッションが加わったウガンダの伝統的な打楽器グループ、ニロティカ・カルチャラル・アンサンブル(Nilotika Cultural Ensembl)で、この編成で彼らは昨年、〈メガ・ミュージック・マネージメント〉から『KIYIYIRIRA』というラヴリーなアルバムをリリースしたばかり。これにイギリスでアフロ・ハウスの佳作を連打してきた〈ブリップ・ディスク〉から“Limbo Yam”をリリースしていたスプーキー~Jとpq(もしかして〈エクスパンディング・レコーズ〉から『You'll Never Find Us Here』をリリースしていたpqか?)がプロデュースとシンセサイザーで加わり、ニロティカにニヒリズムの意味を加えたナイヒロクシカと名称を変形させたもの(pqは前述したエッコ・バズのプロデューサーも務めている)。イギリスの地下室とアフリカの伝統を結びつけたと自負するナイヒロクシカは2017年に〈ニゲ・ニゲ〉からカセットでデビューし、1年間ツアーを続けたことで伝統音楽「ブガンダン」に対する理解を深めたと確信し、そのままスタジオ・ライヴを収めたEP「Biiri」を昨年リリース、これをアルバム・サイズにスケール・アップさせたものが『Kaloli』となる。怒涛のドラミングは冒頭からアグレッシヴに響き渡り、まったくトーン・ダウンしない。次から次へとポリリズムが乱れ飛び、スリリングなドラミングをメインにした構成はさながら23スキドゥー『Seven Songs』の38年後ヴァージョンだろう。本人たちはこれを「ブガンダン・テクノ」と称し、「不吉なサウンド」であることを強調してやまない。エンディング近くに置かれた“Bwola”などはそれこそ『地獄の黙示録』でウィラード大尉が血だらけの顔を河から浮かび上がらせたシーンを思わせる。エンディングでは少し気分を変えるものの、全体に漲るパッションはとても暗く、情熱的である。

 世界中からヴォランティア・スタッフが集まり、4日間も続くという〈ニゲ・ニゲ・フェスティヴァル〉(CDJは2台!)はもちろん警察から狙われ、今後は新型コロナウイルスの影響も避けられないだろう。ウガンダはしかし、政府がしっかりとした広報機能を兼ね備えていないらしく、コロナ対策もオーヴァーグラウンドで人気のヒップホップやダンスホールが音楽に乗せて民衆にその知識を伝え、いまのところ死者はゼロだという。つーか、タンザニアでも6月7日に終息宣言が出たものの、「神の恩恵により新型コロナウイルスを克服できた」というマグフリ大統領の言葉を聞くとかえって不安に……。韓国とともにメガ・チャーチが猛威を振るうウガンダはLGBTに対してかなり厳しい視線を向けるらしく、前述したDJレイチェルもレズであることがわかった途端に友だちを何人か失ったそうで、〈ニゲ・ニゲ〉に集まる人たちのなかには、そこが「安全地帯だから」という理由も少なからずあるらしい。

 健全なオーヴァーグラウンドがあり、必要なアンダーグラウンドが機能している。ウガンダの音楽状況をイージーにまとめるとしたら、そんな感じになるだろうか。そして、それはなかなか容易に手に入るものではない。

interview with Laurent Garnier & Eric Morand - ele-king

僕たちの野心は慎ましいと言えるものではなかった──なにしろそれは、パリを叩き起こすことなのだ。
ロラン・ガルニエ『エレクトロショック』

 パリのレーベル〈F Communications〉、通称Fコミ。テクノDJのロラン・ガルニエ、レーベル・マネージャーのエリック・モーランの2人によって、1995年からはじまっている。つまり今年で25年。
 ロラン・ガルニエは、たとえばデリック・メイやウェストバムのように、シーンのないところにシーンを切り拓いたフランスにおけるテクノの開拓者で、情熱がそのまま歩いているような人物である。なにしろこの男ときたら、1998年パリの路上のテクノ・パレードにおいてマイクを握り「テクノはバスティーユを奪った」と高々と宣言したほどなのだ。
 そう、たしかに革命は果たされ、〈F Communications〉は多くの名盤をリリースしていった。彼の自伝『エレクトロショック』はフランスではベストセラーとなり、映画化されることになっている。テクノに関しても、パリで大がかりな展覧会が開催されるほど文化としての評価を固めている。

 いま世界はコロナウイルスによって甚大なダメージを受け、変化を強いられている。「DJの仕事とは、場所がどこであろうと、ギャラがいくらであろうと、客を踊らせること」、『エレクトロショック』においてこう記したロラン・ガルニエをはじめ、世界中のDJたちはオーディエンスを前にブースに立つことはできないでいる。つい数か月前まであったクラブ・カルチャーがいつ戻ってくるのかいまの時点では見えていない。5月21日の時点でのフランスでの死者数は2万8千人、イギリスとイタリアに次いで多いことになる。
 以下は、そんな渦中でのインタヴューである。

僕にとってもっとも重要なことは、人びとを踊らせるためにタンテーブルの後ろに立つことだ。それが僕の使命だ。

私たちはいま、歴史のただならぬ雲行きの渦中にいるわけですが、この状況をどのように捉えていますか?

エリック:まずはその質問に対して、いま私はじっさいどのように答えられるのだろうか? つまりこの瞬間は、そしてその次の瞬間には、さらに多くの質問を引き起こしているのだから。より一般的に言えば、この地球上のすべての人間と他の生命体がどのようにして、私たちが変化とともに、たしかな進化とともに生きなければならないかということだろう。
 もうひとつ言えるのは、西洋の文化は人生、変化、未知のサイクルとのつながりを失っていると私は見ている。18世紀の「啓蒙運動」以来、フランスではより(それまで恐れていた)科学を推奨し、むしろ精神や神聖さを排除しようとしてきた。「科学的」な時代においてはすべてを明晰に説明し、すべてを制御し、すべてを計画できるという盲信がある。しかし、高度に組織化された現代の社会は、その適応能力を失っている。生命はつねに適応する方法を知っていると私は深く感じているが、おそらく現在の社会のシステムではそれができないのだろう。未知なるものに対応する私たちの能力とは、つまりそれらを制御するのではないはずだ。これらの変化において踊ること。人生の一部であるものをコントロールできると盲信するのではなく、生、死、病気とともに生きること。そういうことについていまは考えるべきではないだろうか。

なるほど。それは興味深い話です。ところで、パリはどんな感じなのでしょうか?

ロラン:状況は非常に複雑で、とても大きな不安を引き起こしている。政府からの支援もあったけれど、多くの人びとはロックダウン以来収入がないからね。特定の商業分野──たとえば旅行、ホテル、ケータリング、エンターテインメント、映画館、バー、ナイトライフ──は、この夏またはこの秋までに再開することができないかもしれない。すべてのフェスティヴァルとスポーツ・イベントはキャンセルされているし、さらに多くの失業者が出る可能性がある。経済的に見れば状況は壊滅的であり、ロックダウンの延長は僕たちの多くにとってさらに事態を複雑にするだろう。特定の都市での門限、ロックダウンを強制するための警察のパトロール、スーパーマーケットでの特定の食料品──卵、パスタ、小麦粉など──の欠如などがあって、まったく、僕たちは「戦争の時代」を生きているようでもあるんだ。
 が、その一方フランスでは現在、並外れた連帯が生まれてもいるんだよ。介護者、ホームレス、高齢者、経済的に不安定な人々ための連帯──地域社会は、もっとも弱い立場の人たちを助けるために組織している。毎晩のことフランス全土が窓やバルコニーに集まり、仲間の市民の世話をするために毎日命を危険にさらしている医師や介護者、そして働き続けているすべての人びとを称賛しているんだ。
 いまのフランスは、介護者、レジで働いている人たち、ごみ収集人、配達人、宅配便業者、ホームヘルパーが僕たちの国を回していることに気づいている。銀行員ではなくね。マクロン大統領も、それ以前にくらべてはるかに謙虚さを示しているようだけど、フランス人は本当にこの危機を契機に、より良い世界を構築すんだろうか? それはまだわからない。

ロックダウンされた状況下で、人びとはどんな風に過ごしているんでしょうか?

ロラン:できる人は在宅勤務している。多くの人はかなりの時間を掛けて子供たちが何とかうまく授業を受けらるように手伝っている。人びとは本を読んだり、音楽を聴いたり、料理したり、スポーツをしたり、ドラマ・シリーズを次々と見たりしているね。
 僕たちは皆、電話で多くの時間を過ごしたり、愛する人、友人、家族からのニュースを受け取っている。Skypeで友人と食前酒を飲んだりね! 片付けをしたり、ガーデニングをしたり、初めて絵を描くことをしたり……
 僕は、家で息子とたくさん話しているよ。ロックダウンによって僕たちは考えたり、話し合ったり、たくさんのことを共有したり、たくさんの音楽を聴いたり、クラシック映画を見たり、ボードゲームをしたり……。実際、僕たちはこの休憩時間を利用して、家族で一緒に良い時間を過ごすようにしているんだ。

そういうポジティヴな側面もあると。しかし、それにしてもFコミ25周年の年にこんなことが起きるなんて……。

エリック:現在(4月末)のロックダウンにより、フランスでは窒息について話す人もいるね。自由の欠如。音楽で逃れる人もいる。そして、それは私がフランスに住んでいる80年代の終わりに感じた感覚を直接思い出させるんだ。あの頃も音楽シーン、クラブ、レコード業界が本当に行き詰まっていた。イギリスまたはベルギーに行くとすぐに私は新しいエネルギーとすべてのダイナミックを見た。当時の私にはイギリスやオランダに住むという誘惑はあった。でも、私はフランスに残って物事を起こしたいと思った。それがロラン・ガルニエと私がパリで立ち上げたパーティ〈Wake Up〉なんだよ。そしてこれが、フランスのエレクトロニック・ミュージック・レーベルを設立する契機を与えてもくれたと。周りの人に「目を覚ませ」と伝えるというね。そのコンセプトはこうだ。つまり「別の人生は可能である!」と。「あなたには踊るし、あなたには夢を見る権利がある!」と。もしロックダウンの終わりに、物事を変えるのと同じエネルギーがあれば、ふたたびマジックが起きるかもしれない!

Fコミは25年ですが、〈Fnac〉時代から数えるともっと年数はいくんじゃないですか? 「A Bout De Souffle EP」が1993年ですし。

エリック:今年はFコミの25年だけれど、それ以前の歴史もある。たしかに1991年11月にロラン・ガルニエの最初の12"のリリースが〈Fnac Music Dance Divisio〉であった。しかし、その〈Fnac Music Dance Division〉は1994年2月に終了した。
(※Fnacとは当時のフランスにおけるもっとも大きなレコード・チェーン店で、当初はその店の事業部がダンス・ミュージックの12インチをリリースした)

これまでの25年のあいだの、とくに思い出深い出来事はなんでしょうか?

エリック:その質問に答えることができるとしたら、パリのクラブ〈La Locomotive〉で、月曜日の夜にクリシー大通りの交通を遮断して開催されたレーベルの1周年パーティになるんだろうな。でも、私個人にとっては、1995年のベオグラードでのFコミのパーティが一番の思い出だよ。

 ちょうどのそのときは、ユーゴスラビアでの戦争が数か月前に終わってはいたものの、ユーゴスラビアはまだ封鎖されていた。で、1人のプロモーターがFコミのパーティをベオグラードで開催したいと、そのために我々を彼の地に連れていきたいと言ってきてね、彼はその数ヶ月前は戦地で戦っていた。
 ロランはエレクトロニック・ミュージックが存在しなかったり、そのジャンルに対して決して好意的とは思えない国でプレイすることが大好きなDJなんだ。だから、私たちはこのクレイジーなプロジェクトに乗り出した。フランスからの直行便はないので、ブダペストに着陸し、ミニバスで移動したんだけど、軍隊がいる国境を越える瞬間が思い出深い。ロラン、Shazz、Scan X、私、プロモーター、ドライバーとライヴセット用の機材で満たされたミニバスをじっと見つめる機関銃と不吉な顔をした税関職員の顔を想像してみて欲しい。やっとの思いで通過して、ベオグラードに到着した。市長との式典に招待されて、 そのあとすぐに古いベオグラード空港でのパーティーがはじまった。戦後初のパーティでね、2000から3000人の興奮された人びとがやって来た。とても素敵な人たちだった。まさに私たちが好むクレイジーな冒険であり、素晴らしい思い出だ!

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なにもライヴ体験に取って代わることでは決してない。音楽は「その場で」体験できること、それはDJの本質でもある。瞬間を理解し、捉え、人びとと交流すること。

あなたのなかのFコミのベストな5枚は? 選ぶのはたいへんでしょうけど、ぜひ!

エリック:はい、レーベルの280枚のリファレンスから選択するのは非常に困難だ! これだけ異なる音楽ジャンルから選択するとなるとなおさらね!
 この多様性のなかで、私は常にA Reminsicent Driveのアルバム『Mercy Street』に大きな愛情を持っている。Ludovic Navarre(St Germain / Deepside)の「French」、もちろんLaurent Garnierの「Crispy Bacon」、アルバム『Unreasonable behaviour』の「Communications from the lab」、Aqua Bassinoの「Milano Bossa」、またはAvrilの「Velvet Blues」、Del Dongoの「Samiscience」の完全にサイケデリックなハイパー・グルーヴ、いまでは廃盤になったけれど、1996に再発したDJ Kudoの「Tiny Loop」もある……あ、5タイトルを大幅に超えたね(笑)!

コロナによって、音楽ファンの嗜好は変化すると思いますか?

ロラン:人びとの好みが変わるかどうかはわからないけど、ロンクダウンしている現在、人びとはより多くの音楽を聴いている可能性があるだろうね。多くの人びとが音楽を聴いている。音楽はより強く、よりそのひと個人の味方となって、内面や恩恵になるだろう。「私たちを慰めるためにそこにいる親友」のようにね。外界との接触の欠如により、おそらく現在の一部の人びとの人生のなかには音楽は別の意味を示しているかもしれないね。
 僕の場合、それは指数関数的で、いまは以前よりも多くの音楽を聴いている。もちろん以前もたくさん聴いていたけれどね。しかし奇妙なことに、新しいもの、新譜を聴くのはとても難しい。目の前を見るのに苦労しているような感じだね。
 ロックダウン以来、僕は自分のレコード・コレクションを再発見しているんだよ。完全に忘れていたアルバムを何時間も聴いている。自分はノスタルジックな人間ではないんだけれど、でもいまは、自分を形成してきた音楽を評価をする必要があるような気がする。これはおそらく、今後数週間で実際に何が起こるかについての情報がないことに関連しているのだろうけれど。
 もうひとつ少し奇妙な発見があって、それは僕はいま(ハード)テクノを絶対に聴くことができないということ。僕にとって、この時期この手の音楽を聴くことにはまったく向いてない。テクノは僕にとっての心臓の一部のはずなのに、いまはまったく無理なんだよ!

そうですよね。5年前の『La Home Box 』はテクノ、ハウスに向き合ったあなたの原点回帰とも言える内容でしたもんね。ところで、あれからアルバムをリリースしていませんよね。ご自身の制作はいまどうなっているんでしょうか?

ロラン:僕にとって、いま音楽を作ることは楽しみではあるけれど、絶対ではない。僕は自分をホンモノのミュージシャンだと思ったことはないからね。アーティストとして僕にとってもっとも重要なことは、人びとを踊らせるためにタンテーブルの後ろに立つことだ。それが僕の使命だ。
 それに……音楽を作るには時間がかかる。緊急時に作曲するのも悪いことではないだろうけどね。ただ、僕のDJツアー+毎日新譜を聴く時間+ラジオ番組の制作+僕がギャビン・リヴォワールと4年間取り組んできたドキュメンタリー・プロジェクトの制作+家族生活とすべて……以上の他に皆さんがあまり知らない小さなプロジェクトを数えると、制作に割ける時間は決して多くないんだよ。

なるほど。

ロラン:『La Home Box』以降でいえば、〈Kompakt〉のEP「Tribute EP」とRekidsのEP「Feelin' Good」があったね。Madbenと共作した「MG’s Groove」、〈Skryptom records〉のアニヴァーサリー・コンピ用に1曲提供したし、Roneもリミックスしたよ。ロック系ではフランスのバンドThe Liminanasをリミックスしたし、Steeple Removeのリミックスもやったよ。
 それから、フランスのドラマ長編映画「Paris est a Nous」のサウンドトラックの50%を作曲したし、フランスのテレビ局のドキュメンタリー番組の音楽も担当したね。僕のドキュメンタリーでは、一部のKickstarter参加者のために超限定アナログ盤企画用に新しい12分のダンスフロア・トラックも作曲したな。そして、この夏はツアーができないので、フランスのロック・バンド、The Liminanasと一緒にアルバムを共作するプロジェクトが予定されてるよ。

いろいろやることがあるわけですね?

ロラン:その他、僕が住んでいる村で毎年ポップ/ロック・フェスティヴァル(YEAHフェスティヴァル)を共催している。フェスティヴァルの傍で、僕たちはより多くの社交的な目的──刑務所、家、障害者の家、学校、大学など──のために、年間を通してたくさんのミニイベントを企画しているんだ。
 執筆にも多くの時間を費やしているよ。僕は自伝『エレクトロショック』の映画化企画に10年以上取り組んできているし。こんな感じで、あまり自分の音楽に時間をかけることができないんだけど、ずっと忙しいんだよ。ちなみに来週引っ越しをするので、新しい場所、新しいスタジオに引っ越すことで、また音楽を作る気になるかもしれないね!

いま言ったドキュメンタリー映画プロジェクト#LGOTR Laurent Garnier: off the recordについて教えてください?

ロラン:ギャビン・リヴォワール監督は4年以上も僕をフォローしている。ドキュメンタリーのアイデアは、テクノについて少し語りながら、僕のキャリアのある局面、瞬間をさかのぼってかなり親密な肖像画を作ること。実際、僕たちが興味深いと考える特定の主題、場所、瞬間に立ち止まりながら、僕が歩んで来た道をフォローしている。ドキュメンタリーの目的は、この音楽(テクノ)の全体像を伝えたいと思って教訓を示すことではない。もしそれをやるなら、25時間のドキュメンタリーを実行する必要があるだろうし。ここではむしろ、この音楽(テクノ)の歴史にとって僕にとって重要であった場所、人びと、または瞬間によって区切られた一種の個人的な歩行としての体験が強調されているんだ。だからすべては主観的だね。

長年ナイトライフの世界が維持してきた経済モデルを劇的に変化させなければならないだろうし、それが論理的に重要に思える。少しの謙虚さと親切さが僕たちに最大の益をもたらすんじゃないだろうか。

いまこういう状況のなかフランスの音楽シーンで、なにか新しい取り組みなどありますか?

ロラン:現時点では、Covid-19の影響で、今後数か月の間に何が起こるかについて明確なヴィジョンを持つことは不可能だよ。すべてのクラブは閉鎖されていて、フェスティヴァルは禁止されている。僕たちは国境を越えて隣国に行くことさえできない、現状は非常に深刻だよ。ロックダウンの開始以来、誰にも何の収入が入っていない──0セントもね! この危機が長続きすると、僕たちの多くは間違えなく職を失う。DJ、クラブ、コンサートホール、フェスティヴァルなどなど。
 リニューアルについて考える前に、このシーンが今後に単純に生き残ることができるかどうかについてまず知る必要があるんじゃないのかな。もし生き残れるのであれば、どのように、誰が? たしかなことのひとつは、フランスのテクノ・シーン──他のすべての国のシーンと同様──がこの前例のない危機から多大な影響を受けることだ。残念なことに多くの人が姿を消すことを僕たちは認識しなければならない。何が起こるかがわかるまで、しばらく待たなければならないだろうな。
 僕たちみんながいままでの職業を守り続けるためには、長年ナイトライフの世界が維持してきた経済モデルを劇的に変化させなければならないだろうし、それが論理的に重要に思える。少しの謙虚さと親切さが僕たちに最大の益をもたらすんじゃないだろうか。
 あるいは、この危機が音楽よりもお金が好きな連中、日和見主義者的DJ、無能なマネージャー、変態ツアーマネジャー、不正なプロモーターを排除することができたら、それはそれで僕たちにとってとても良いことだろうけれど。

コロナ渦においてはストリーミングはひとつの手段だけど、ほかにどんなことが考えられると思いますか?

ロラン:人びとは現在、僕たちが以前知っていたのとは非常に異なる状況で音楽を聴いている。たぶんストリーミングでのDJセットで特定の経済が発展するだろうね。
 でも音楽がそこにあっても、同じダンスフロアで一緒にいるとき、DJセットやコンサートを一緒に楽しむ体験に勝るものはないよ。いまはストリーミングも良いと思うよ。ストリーミングは人と人との間に何らかのつながりを保つから。しかし、ライヴ体験に取って代わることでは決してない。音楽は「その場で」体験できること、それはDJの本質でもある。瞬間を理解し、捉え、人びとと交流すること。

とにかく、お互い無事生き延びて、いつかダンスフロアでお会いしましょうね。

ロラン:僕も心からそう願っている。僕たちみんなが愛する音楽は、それが同じダンスフロアで一緒に聴けて、体験できるときにだけ本当の価値があるんだ。そしてそれが日本のダンスフロアでもあるとすると……僕にとってそれは本当に世界でもっとも美しいものなんだよ。

最後に、25周年ということで特別に企画していることがあれば教えて下さい。

エリック:最近になってFコミを発見し、そしてフランスの音楽の歴史において私たちがどのような役割を果たして来たかを理解したいと思ってる20〜25才くらいの若いオーディエンスから多くの要望があった。こうしたインターネットでの連絡があって、私はこの25年間を祝いたいと思ったんだよ。今日では、1991年以前にフランスのハウス/テクノまたはエレクトロニック・ミュージックのアーティストについて誰も知らなかったことを想像することは難しい。しかしじっさいは、フランスのインディペンド・レーベルがフランス国外でレコードを販売することすらなかった。Gypsy Kings(ジプシー・キングス)やMory Kante(モリー・カンテ)などのワールド・ミュージックのアーティストを除いて、フランスのアーティストはフランス国外でコンサートを行うことはほとんどなかった。
 FnacとFコミでひとつのドアを開くことができたと思っている。だからこそ、すべてのレコードを復活させる必要があると思っているんだ。25年の祝いとして、元のDATマスターから完全にリマスターされた25枚の名盤、そしてあまり知られてない作品まで25枚の12"を選択した。アナログ盤とデジタルで5回に渡って5枚づつリリースするよ。今年の終わりには、アナログ盤2枚でMegasoft Officeの特別ヴァージョンもリリースする。また、デジタルで利用可能なタイトル数も増やそうと思う。デジタルで利用できなかったタイトル、宝物がまだたくさんあるからね。

──────

 個人的なよき思い出としては、2006年に『エレクトロショック』の日本語版を出せたことと、ゴダールの映画『勝手にしやがれ』でジャン・ポール・ベルモンドが最後にぶっ倒れる道路を明け方よれよれに酔っぱらいながらいっしょに歩いたことだ。その『勝手にしやがれ』のフランス語の原題「A Bout De Souffle」が、彼の最初の出世作だった。1993年のEPでその1曲目は『勝手にしやがれ』の英語タイトル“Breathless”。彼がエリック・モランとはじめたパリで最初のアシッド・ハウス/テクノのパーティの名前となった“Wake Up”も、その「A Bout De Souffle EP」に収録されている。
 このEPはFコミからではなく〈Fnac〉からのリリースで、当時は〈Warp〉にもライセンスされている、時代を切り拓いた決定的なシングル。その筋で重要なもう1枚は、同じく1993年にデリック・メイの〈Fragile〉と〈Fnac〉からリリースされたChoice(ロランとサンジェルマン=ルドヴィック・ナヴァールによる)の「Paris EP」で、収録された“アシッド・エッフェル”は永遠のクラシックである。

Alex from Tokyo Pratによる〈F Communications〉25枚

(年代順))

St Germain-en-Laye - Mezzotinto EP
D.S. – Jack On The Groove
Shazz – A view of Manhattan EP
Nuages – Blanc EP
Juantrip – Switch out the sun
Nova Nova – Nova Nova EP
St Germain – Boulevard LP
Laurent Garnier – Club Traxx EP
Various – Musiques pour les plantes vertes CD
Nova Nova – Tones
Scan X – Earthquake
DJ K.U.D.O – Tiny Loop
Laurent Garnier – Crispy Bacon
Aqua Bassino – Deeper EP
Various- Megasoft Office 97 CD
A Reminiscent Drive – Mercy Street LP
Jii Hoo – Let me love you
Frederic Galliano – Espaces Baroques LP
Jori Hulkonen – You don’t belong here
Various – Live & Rare 3LP
Mr.Oizo – Flat Beat
Laurent Garnier – The Man with the Red Face
Frédéric Galliano with Hadja Kouyaté - Alla Cassi Magni
Avril – French Kiss
Laurent Garnier - Retrospective LP

【元F Communications日本大使としての思い出】

 文:ALEX FROM TOKYO PRAT

 1991年9月、大学のために東京から出身地のパリへ。ダンス・ミュージックに関しては東京での高校時代にからすでに心酔、フランスに来てからパリのアンダーグランド音楽とクラブ・シーンを発見しました。
 まずは毎週木曜日、伝説のRex ClubでLaurent GarnierとDj DeepがレジデントDJを務めていたフランス初のアンダーグランド・テクノ・ハウス・パーティ〈Wake Up〉に通う。そして、Gregory(グレゴリ−)とDj Deepと親しくなって、Dj Deep通して〈Fnac Music Dance Division〉のレーベル・マネージャー、Eric MorandとFnacのアーティストSt Germain(サンジェルマン)やShazz(シャズ)等と知り合いました。
 1993年にDj DeepとDJ Gregoryと共にDJユニット「A Deep Groove」を結成します。伝説的なRadio FG 98.2fmのランチタイムに放送された「リアル・アンダグランド・ダンス・ミュージック」ラジオ番組が、St. GermainやShazzなどの初期シーンのディープ・ハウス・アーティストに初めてスポットライトを当てます。
 1995年、東京に帰還しました。テクノとエレクトロニック・ミュージックが日本で爆発してるなか、来日するフランスやヨーロッパのレーベル、DJやアーティストたちの橋渡し役として活動。そのなかで、パリで仲良くなったLaurent GarnierとEric Morandのレーベル〈F Communications〉の日本大使役を1996年から2002年まで務めることになりました。
 1995年の秋、King Recordとのレーベル契約に合わせて新宿Liquid Roomで〈F Communications〉のパーティが開催されました。Fumiya TanakaがオープニングDJでしたが、そのときのLaurent Garnier, Scan X, Lady Bらが出演したパーティはいまでも鳥肌が立つほど感動的でした。
 1996年には西麻布のクラブ〈Yellow〉でレギュラー・パーティをはじめました。日本のエレクトロニック・ミュージックDJの立役者のひとり、DJ Kudoが〈F Communications〉から12”「Tiny Loop」をリリースします。日仏関係がさらに結ばれるようで、嬉しかった!
 1996年にはP-VineからSt Germainのデビュー傑作アルバム『Boulevard(ブルヴァード)』が日本盤でリリースされます。普段限られた状況だけでしかDJプレイしないSt.Germain本名Ludovic Navarre(ルドヴィック・ナヴァール)がわざわざ来日し、Yellowで2公演を披露しました。そして、美しいディープ・ハウスをプロデュースするスコットランドのAqua Bassinoとの出会いと東京と大阪での日本ツアーがありました。Scan Xが1997年に「攻殻機動隊-Ghost In The Shell」のゲーム・サウンドトラックに参加したことも忘れられません。
 1998年からは、Toys Factoryとのレーベル契約から数々の素晴らしい日本特別企画アーティスト・アルバムを発表&ツアー。2000年のLaurent Garnierのアルバム『Unreasonable Behavior』のリリースに合わせて『ele-king』ではパリの現地取材をしましたが、これはとても思い出深いです。
 1998年から2002年頃までに掛けては、Frederic Galliano(フレデリック・ガリアーノ)のジャズ&アフリカ音楽の企画が日本でも注目されました。Fredericが〈F Communications〉を通して担当していた、マリ音楽の再発/リミックス特別企画レーベル〈Frikyiwa〉では、井上薫ことChari Chariが参加しましたが、自分もTokyo 246 Ave. Project名義でAbdoulaye Diabateのリミックスを手掛けました。青山CAYでFredericがフル・バンドと女性ヴォーカリストAfrican Divas(アフリカン・ディヴァーズ)と来日ライヴを披露したときは本当に感動しました!
 それから、70年代から活動している作詞/作曲家と写真家であるJay Alanskiのエレクトロニカ/アンビエント・プロジェクト、A Reminiscent Drive(ア・レミ二セント・ドライヴ)の美しい桜の写真のアルバム『Mercy Street』も日本でとても人気がありましたよね。また、北海道、札幌のTha Blue HerbがライヴでNova Novaのピアノ傑作“Tones(トンズ)”をバックトラックに良く使っていたことを初めて聞いた時はビックリしました。
 最後に、2006年にはロラン・ガルニエの自伝『エレクトロショック』を日本語に訳して、野田努さん監修のもと河出書房から出版しました。自分が学生の頃に通っていた東京の日仏学院でロラン、野田さんと三田さんとトークショーをやって、その後日仏学院をクラブ・パーティにしたことはとくに自分の人生のなかでは重要な素晴らしい出来事でした。その後、ロランとは一緒に、日本の数々の素晴らしいパーティ&ツアーでプレイしてます。〈F Communications Japan〉では日本のミュージック・ラヴァーと感動的で楽しい思い出深い時間を共有することができた。実に素晴らしい体験でした。
 いままでサポートをしてくれた日本の音楽&クラブ業界のパートナーの皆さんや日本のファンには本当に感謝してます!
 この25周年を祝って、日本の新世代にもここで〈F Communications〉レーベルの魅力を知ってもらいたいです。
 Tres bon 25eme anniversaire F Communications!

Jamie xx - ele-king

 すでにコロナ禍に見舞われていた3月半ば、ぎりぎりで来日を果たしオーディエンスを沸かせたジェイミー・エックスエックス。その後4月にはヘディ・ワンの新作に名を連ねたり、ソロ名義としては2015年の『In Colour』以来じつに5年ぶりとなる新曲 “Idontknow” を発表したり、BBCのレディオ1では2時間にもおよぶミックスを公開したりと、パンデミックもどこ吹く風……というわけではけっしてないようで、“Idontknow” の12インチ化にあたり彼は「家で踊ってほしい」とコメント、「レコード店にはサポートが必要だ」とも添えている。
 先週同曲のMVが公開されているが、リズムも音響も展開もはっきり言って格好いい、彼の才能を見せつけたトラックなので(試聴はこちらから)、余力のある方はぜひヴァイナルを買おう(Beatink / TOWER / HMV / disk union / TECHNIQUE / JET SET / Amazon)。

Jamie xx
ジェイミー・エックス・エックス、ベンUFOやフォー・テットらも
ヘビロテ中の話題の最新シングル「Idontknow」のMV公開!
12インチ・シングルも予約受付中!

ザ・エックス・エックス(The xx)のメンバーで、プロデューサーのジェイミー・エックス・エックス(Jamie xx)は、2015 年のソロ・デビュー・アルバム『In Colour』以来ソロ名義では初となる新曲 “Idontknow” のMVを公開した。同曲は各ストリーミングサービスで好評配信中のほか、12インチ・シングルも発売が決定している。

Jamie xx – Idontknow
https://youtu.be/rcaf9pBdhrw

MVには、ジェイミー・エックス・エックスが “Idontknow” の制作中に出会い意気投合したというアイルランドのベルファスト出身の振り付け師/ダンサー、ウーナ・ドハティーが出演している。

待望の最新シングル「Idontknow」は、2019年秋頃から密かに世界各国のクラブのダンスフロアで披露されており、ベンUFOやフォー・テット、カリブー、バイセップなどが自身のDJセットで流すなど、既にダンス・ミュージック・シーンでは話題となっていた。

ダウンロードまたはストリーミングはこちら
https://jamiexx.ffm.to/idontknow

ジェイミー・エックス・エックスは先日、BBC Radio 1 で自身のエッセンシャル・ミックスを公開した。ジェイミー・エックス・エックスによる Radio 1 でのエッセンシャル・ミックスの披露は実に9年ぶりとなり、先に配信開始された新曲 “Idontknow” も含まれるファン必聴のミックスとなっている。

BBC Radio 1’s Essential Mix – Jamie xx はこちら
https://www.bbc.co.uk/programmes/m000hhrn

ジェイミー・エックス・エックスは、ザ・エックス・エックスとしての活動だけでなく、ドレイクやアリシア・キーズ、リアーナなどのプロデューサーを務め、レディオヘッドやアデル、フローレンス・アンド・ザ・マシーンなどのリミックスを手掛けたことでも知られる。2015年にリリースしたソロ・デビュー・アルバム『In Colours』は、第58回グラミー賞最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバム賞とブリット・アワード2016最優秀ブリティッシュ男性ソロ・アーティスト賞にノミネートされるなど、世界最高峰の音楽家としてのキャリアを積み重ねている。

label: YOUNG TURKS
artist: Jamie xx
title: Idontknow
release date: NOW ON SALE

輸入盤12inch YT213T
BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11056

TRACKLISTING
A. Idontknow

KURANAKA & 秋本 “HEAVY” 武士 × O.N.O - ele-king

 今年でなんと25周年(!)を迎える KURANAKA a.k.a 1945 主催のパーティ《Zettai-Mu》が、4月25日(土)にストリーミングにてライヴ配信を敢行する。題して「Zettai-At-Ho-Mu」。もともと24日に開催される予定だった NOON でのパーティに代わって開催されるもので、秋本 “HEAVY” 武士 と O.N.O によるスペシャル・セッションもあり。これはすばらしい一夜になること間違いなしでしょう。なお視聴は無料の予定とのことだが、投げ銭のような仕組みも試験的に導入されるそうなので、アーティストや運営・製作に携わる人たちをサポートしよう。

[4月23日追記]
 上記の「Zettai-At-Ho-Mu」ですが、開催が5月23日(土)に延期となりました。詳しくはこちらをご確認ください。

Playlists During This Crisis - ele-king

家聴き用のプレイリストです。いろんな方々にお願いしました。来た順番にアップしていきます。楽しんで下さい。

Ian F. Martin/イアン・F・マーティン

This is a multi-purpose playlist for people stuck at home during a crisis. The first 5 songs should be heard lying down, absorbed in the music’s pure, transcendent beauty. The last 5 songs should be heard dancing around your room in a really stupid way.

Brian Eno / By This River
Nick Drake / Road
Life Without Buildings / The Leanover
Young Marble Giants / Brand - New - Life
Broadcast / Poem Of Dead Song
Holger Czukay / Cool In The Pool
Yazoo / Bad Connection
Lio / Fallait Pas Commencer
Der Plan / Gummitwist
Electric Light Orchestra / Shine A Little Love

野田努

週末だ。ビールだ。癒しと皮肉と願い(冗談、怒り、恐怖も少々)を込めて選曲。少しでも楽しんでもらえたら。問題はこれから先の2〜3週間、たぶんいろんなことが起きると思う。できる限り落ち着いて、とにかく感染に気をつけて。お金がある人は音楽を買おう(たとえば bandcamp は収益をアーティストに還元している)。そして本を読んで賢くなろう。いまのお薦めはナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』。

Ultravox / Just For A Moment
フィッシュマンズ / Weather Report
Talking Heads / Air
Funkadelic / You Can’t Miss What You Can't Measure
New Age Steppers / Fade Away
RCサクセション / うわの空
Horace Andy / Rain From the Sky
Sun Ra / We Travel the Spaceways
Rhythim is Rhythim / Beyond the Dance
Kraftwerk / Tour De France

小林拓音

考えることはいっぱいあるけど、暗くなってしまいそうなのでちょっとだけ。被害は万人に平等には訪れない。割を食うのはいつだって……。問題の根幹は昔からなにも変わってないんだと思う。そこだけ把握しといて、あとは明るく過ごそうじゃないか。

Skip James / Hard Time Killing Floor Blues
The Beatles / Money
Public Enemy / Gotta Give the Peeps What They Need
Drexciya / Living on the Edge
Milanese vs Virus Syndicate / Dead Man Walking V.I.P.
Mark Pritchard / Circle of Fear
Erik Truffaz & Murcof / Chaos
Ata Ebtekar and the Iranian Orchestra for New Music / Broken Silence Cmpd
Psyche / Crackdown
Autechre / Flutter

河村祐介

怒るべきことにはちゃんと怒りましょう。僕らの生活と文化を守るために。そして、リラックスと快楽の自由も。

The Specials / Ghost Twon
Bob Marley / So Much Trouble In the World
Tommy McCook / Midnight Dub
Nightmares on Wax / Mores
7FO / Waver Vapour
石野卓球 / TRIP-O-MATIC
Nehoki / Morgentrack
Kodama And The Dubstation Band / かすかな きぼう
思い出野郎Aチーム / 灯りを分けあおう
Janelle Monáe / Smile

Neil Ollivierra/ニール・オリヴィエラ(The Detroit Escalator Co.)(LA在住)

Absorbing Songs for Armchair Traveling

Robin Guthrie, Harold Budd / How Close Your Soul
Thore Pfeiffer / Alles Wird Gut
Cortex / Troupeau bleu
Milton Nascimento / Tudo O Que Você Podia Ser
The Heliocentrics / A World of Masks
Kodo / Shake - Isuka Mata
Miles Davis / Indigo
Gordon Beck / Going Up
Funkadelic / Maggot Brain
Simply Red / I’m Gonna Lose You

Matthew Chozick/マシュー・チョジック

自己隔離生活にぴったりの癒し曲を集めてみました。コロナ野郎のせいで新しいレコード発表は激減、そんなときこそ古いアルバムを聴き直してみよう。家でパジャマパーティでも開きながら、僕のプレイリストをエンジョイしてくれたら嬉しいな。目に見えないもの同士、ウィルスとの戦いには心を癒す良薬で対抗だ!

Björk / Virus
The Knife / Afraid of You
The Velvet Underground / After Hours
John Lennon / Isolation
Harold Melvin & The Blue Notes / I Miss You
Grouper / Living Room
Beat Happening / Indian Summer
ゆらゆら帝国 / おはようまだやろう
Nico / Afraid
高橋幸宏 / コネクション

細田成嗣

つねにすでにオリジナルなものとしてある声は、しかしながら変幻自在のヴォーカリゼーションや声そのものの音響的革新、あるいは声をもとにしたエクストリームな表現の追求によって、より一層独自の性格を獲得する。見えない脅威に襲われる未曾有の事態に直面しているからこそ、わたしたちは「ひとつの声」を求めるのではなく、さまざまな声を聴き分け、受け入れる耳を養う必要に迫られているのではないだろうか。

Luciano Berio, Cathy Berberian / Sequenza III for voice
Demetrio Stratos / Investigazioni (Diplofonie e triplofonie)
David Moss / Ghosts
Meredith Monk, Katie Geissinger / Volcano Songs: Duets: Lost Wind
Sainkho Namchylak, Jarrod Cagwin / Dance of an Old Spirit
Fredy Studer, Ami Yoshida / Kaiten
Alice Hui Sheng Chang / There She Is, Standing And Walking On Her Own
Senyawa / Pada Siang Hari
Amirtha Kidambi, Elder Ones / Decolonize the Mind
Hiroshi Hasegawa, Kazehito Seki / Tamaki -環- part I

沢井陽子(NY在住)

非常事態が発生し、仕事もない、やることもない、家から出られないときには元気が出る曲を聴きたいけれど、いつもと変わらないヴァイヴをキープしたいものです。

Deerhunter / Nothing Ever Happened
Unknown Mortal Orchestra / Necessary Evil
Thin Lizzy / Showdown
Janko Nilovic / Roses and Revolvers
Courtney Barnett / Can’t Do Much
Big Thief / Masterpiece
Brittany Howard / Stay High
Kaytranada, Badbadnotgood / Weight Off
St Vincent / Cruel
Gal Costa / Lost in the Paradise

デンシノオト

少しでもアートという人の営みに触れることで希望を忘れないために、2018年から2020年までにリリースされた現代音楽、モダンなドローン、アンビエント、電子音響などをまとめた最新型のエクスペリメンタル・ミュージック・プレイリストにしてみました。

James Tenney, Alison Bjorkedal, Ellie Choate, Elizabeth Huston, Catherine Litaker, Amy Shulman, Ruriko Terada, Nicholas Deyoe / 64 Studies for 6 Harps: Study #1
Golem Mecanique / Face A
Werner Dafeldecker / Parallel Darks Part One
Yann Novak / Scalar Field (yellow, blue, yellow, 1.1)
3RENSA (Nyatora, Merzbow, Duenn) / Deep Mix
Beatriz Ferreyra / Echos
Anastassis Philippakopoulos, Melaine Dalibert / piano piece (2018a)
Jasmine Guffond / Degradation Loops #1
Dino Spiluttini / Drugs in Heaven
Ernest Hood / At The Store

Paolo Parisi/パオロ・パリージ(ローマ在住)

Bauhaus / Dark Entries
Sonic Youth / The End of the End of the Ugly
Mission of Burma / That’s How I Escaped My Certain Fate
Wipers / Return of the Rat
Pylon / Feast on my Heart
Gun Club / Sex Beat
The Jim Carroll Band / It’s Too Late
Television / Friction
Patti Smith / Kimberly
The Modern Lovers / Hospital

末次亘(C.E)

CS + Kreme / Saint
Kashif, Meli’sa Morgan / Love Changes (with Meli’sa Morgan)
Tenor Saw / Run From Progress
Phil Pratt All Stars / Evilest Thing Version
坂本龍一 / PARADISE LOST
Beatrice Dillon / Workaround Three
Joy Orbison, Mansur Brown / YI She’s Away
Burnt Friedman, Jaki Liebezeit / Mikrokasper
Aleksi Perälä / UK74R1721478
Steve Reich, Pat Metheny / Electric Counterpoint: II. Slow

木津毅

If I could see all my friends tonight (Live Recordings)

ライヴハウスがスケープゴートにされて、保障の確約もないまま「自粛」を求められるいま、オーディエンスの喜びに満ちたライヴが恋しいです。というわけで、ライヴ音源からセレクトしました。来日公演は軒並みキャンセルになりましたが、また、素晴らしい音楽が分かち合われるライヴに集まれることを願って。

Bon Iver / Woods - Live from Pitchfork Paris Presented by La Blogothèque, Nov 3 2018
James Blake / Wilhelm Scream - Live At Pitchfork, France / 2012
Sufjan Stevens / Fourth of July - Live
Iron & Wine / Sodom, South Georgia
Wilco / Jesus, Etc.
The National / Slow Show (Live in Brussels)
Jaga Jazzist / Oslo Skyline - Live
The Streets / Weak Become Heroes - One Live in Nottingham, 31-10-02
LCD Soundsystem / All My Friends - live at madison square garden
Bruce Springsteen / We Shall Overcome - Live at the Point Theatre, Dublin, Ireland - November 2006

髙橋勇人(ロンドン在住)

3月25日、Spotify は「COVID-19 MUSIC RELIEF」という、ストリーミング・サービスのユーザーに特定の音楽団体への募金を募るキャンペーンを始めている。

スポティファイ・テクノロジー社から直接ドネーションするわけじゃないんかーい、という感じもするのが正直なところだし、その募金が渡る団体が欧米のものにいまのとこは限定されているのも、日本側にはイマイチに映るだろう。現在、同社はアーティストがファンから直接ドネーションを募れるシステムなどを構築しているらしいので、大手ストリーミング・サービスの一挙手一投足に注目、というか、ちゃんとインディペンデントでも活動しているアーティストにも支援がいくように我々は監視しなければいけない。

最近、Bandcamp では、いくつかのレーベルが売り上げを直接アーティストに送ることを発表している。そういう動きもあるので、この企画の話をいただいたとき(24日)、スポティファイが具体的な動きを見せていないので、やっぱり Bandcamp ともリンクさせなければと思った。ここに載せたアーティストは、比較的インディペンデントな活動を行なっている者たちである。このプレイリストを入り口に、気に入ったものは実際にデータで買ってみたり、その活動をチェックしてみてほしい。

ちなみに、「こんなときに聴きたい」という点もちゃんと意識している。僕はロックダウンにあるロンドンの部屋でこれを書いている。これらの楽曲は人生に色彩があることを思い出させてくれる楽曲たちだ。さっきこれを聴きながら走ってきたけど(友達に誘われたらNOだが、最低限の運動のための外出はOKだと総理大臣閣下も言っていたしな)、最高に気持ちよかった。

object blue / FUCK THE STASIS
Prettybwoy / Second Highball
Dan-Ce / Heyvalva Heyvalva Hey
Yamaneko / Fall Control
Tasho Ishii / Satoshi Nakamoto
Dayzero / Saruin Stage
Chino Amobi / The Floating World Pt.1
Brother May / Can Do It
Elvin Brandhi / Reap Solace
Loraine James / Sensual

松村正人

MirageRadioMix

音楽がつくりだした別天地が現実の世界に浸食されるも、楽曲が抵抗するというようなヴィジョンです。Spotify 限定で10曲というのはたいへんでしたが、マジメに選びました。いいたいことはいっぱいありますがひとまず。

忌野清志郎 / ウィルス
Björk / Virus
Oneohtrix Point Never / Warning
憂歌団 / 胸が痛い
The Residents / The Ultimate Disaster
The Doors / People Are Strange
キリンジ / 善人の反省
坂本慎太郎 / 死にませんが?
Can / Future Days - Edit
相対性理論 / わたしは人類(Live)

三田格

こんなときは Alva Noto + Ryuichi Sakamoto 『Virus Series Collectors Box』(全36曲!)を聴くのがいいんじゃないでしょうか。ローレル・ヘイローのデビュー・アルバム『Quarantine(=伝染病予防のための隔離施設)』(12)とかね。つーか、普段からあんまり人に会わないし、外食もしないし、外から帰ったら洗顔やうがいをしないと気持ち悪い性格なので、とくに変わりないというか、なんというかコロナ素通りです。だから、いつも通り新曲を聴いているだけなので、最近、気に入ってるものから上位10曲を(A-Reece の “Selfish Exp 2” がめっちゃ気に入ってるんだけど Spotify にはないみたいなので→https://soundcloud.com/user-868526411/a-reece-selfish-exp-2-mp3-1)。

Girl Ray / Takes Time (feat. PSwuave)
Natz Efx Msaki / Urban Child (Enoo Nepa Remix)
DJ Tears PLK / West Africa
Afrourbanplugg / General Ra (feat. Prettyboy)
SassyBlack / I Can’t Wait (feat. Casey Benjamin)
Najwa / Más Arriba
Owami Umsindo / eMandulo
Cristian Vogel & Elektro Guzzi / Plenkei
Oval / Pushhh
D.Smoke / Season Pass

AbuQadim Haqq/アブカディム・ハック(デトロイト在住)

These are some of my favorite songs of all time! Reflections of life of an artist from Detroit.
Thanks for letting me share my favorite music with you! Stay safe and healthy in these troubling times!

Rhythim is Rhythim / Icon
Underground Resistance / Analog Assassin
Public Enemy / Night of the Living Baseheads
Orlando Voorn / Treshold
Drexciya / Hydrocubes
Oddisee / Strength & Weakness
Iron Maiden / Run To The Hills
The Martian / Skypainter
Gustav Holst / Mars: Bringer of War
Rick Wade / First Darkness

Sk8thing aka DJ Spitfi_(C.E)

10_Spotify's_for_Social _Distancies_!!!!List by Sk8thing aka DJ DJ Spitfi

Francis Seyrig / The Dansant
Brian Eno / Slow Water
The Sorrow / Darkness
Owen Pallett / The Great Elsewhere
DRAB MAJESTY / 39 By Design
Our Girl / In My Head
Subway / Thick Pigeon
Einstürzende Neubauten / Youme & Meyou
Fat White Family / I Believe In Something Better
New Order / ICB

矢野利裕

人と会えず、話もできず、みんなで食事をすることもできず……という日々はつらく寂しいものです。落ち着きのない僕はなにをしたらいいでしょうか。うんざりするような毎日を前向きに乗り越えていくために、少なくとも僕には音楽が大事かもしれません。現実からの逃避でもなく現実の反映でもない、次なる現実を呼び寄せるものとしての音楽。そのいちばん先鋭的な部分は、笑いのともなう新奇な音楽(ノヴェルティソング)によって担われてきました。志村けんのシャウトが次なる現実を呼び寄せる。元気でやってるのかい!?

ザ・ドリフターズ / ドリフのバイのバイのバイ
雪村いずみ / チャチャチャはいかが
ザ・クールス / ラストダンスはCha・Chaで
セニョール・ココナッツ・アンド・ヒズ・オーケストラ / YELLOW MAGIC (Tong-Poo)
Negicco / カリプソ娘に花束を
スチャダラパー / レッツロックオン
4×4=16 / TOKISOBA Breakbeats
イルリメ / 元気でやってるのかい?
マキタスポーツ / Oh, ジーザス
水中、それは苦しい / マジで恋する五億年前

Sinta(Double Clapperz)

大変な時ですが、少しでも肩の力抜けたらいいなと思い選曲しました。

徳利 / きらめく
gummyboy / HONE [Mony Horse remix]
Burna Boy / Odogwu
Stormzy / Own It [Toddla T Remix feat. Burna Boy & Stylo G]
J Hus / Repeat (feat. Koffee)
LV / Walk It / Face of God
Free Nationals, Chronixx / Eternal Light
Pa Salieu / Frontline
Frenetik / La matrice
Fory Five / PE$O

Midori Aoyama

タイトルに色々かけようと思ったんですがなんかしっくりこなかったので、下記10曲選びました。よく僕のDJを聴いてくれている人はわかるかも? Party の最後でよくかける「蛍の光」的なセレクション。1曲目以外は特にメッセージはないです。単純にいい曲だと思うので、テレワークのお供に。
ちなみに最近仕事しながら聴いているのは、吉直堂の「雨の音」。宇宙飛行士は閉鎖されたスペースシャトルの中で自然の音を聴くらしい。地球に住めないのであればやっぱり宇宙に行くしかないのだろうか。

Marvin Gaye / What’s Going On
The Elder Statesman / Montreux Sunrise
12 Senses / Movement
Culross Close / Requiem + Reflections
Children Of Zeus / Hard Work
Neue Grafik Ensemble feat. Allysha Joy / Hotel Laplace
Aldorande / Sous La Lune
Michael Wycoff / Looking Up To You
Stevie Wonder / Ribbon In The Sky
Djavan / Samurai

高島鈴

コロナ禍のもとで生じている問題はひとつではないから、「こういう音楽を聞くといい」と一律に提言するのはすごく難しい。危機を真面目に受け止めながらどうにか生存をやっていくこと、危機を拡大させている政治家の振る舞いにきちんと怒ること、今私が意識できるのはこれぐらいである。みなさん、どうぞご無事で。

Kamui / Aida
Moment Joon / TENO HIRA
Garoad / Every Day Is Night
Awich / 洗脳 feat. DOGMA & 鎮座DOPENESS
Jvcki Wai / Anarchy
田島ハルコ / holy♡computer
Rinbjö / 戒厳令 feat. 菊地一谷
田我流 / Broiler
ASIAN KUNG-FU GENERATION / 夜を越えて
NORIKIYO / 神様ダイヤル

Mars89

一曲目はゾンビ映画サンプリングの僕の曲で “Run to Mall” って曲だけど、今は Don’t Run to Mall です。
それ以外は僕がお気に入りでずっと聞いてる曲たちです。部屋で悶々と行き場のない感情を抱えながら精神世界と自室の間を綱渡りで行き来するような感じの曲を選んでみました。

Mars89 / Run to Mall
Tim Hecker / Step away from Konoyo
Burial / Nightmarket
Raime / Passed over Trail
KWC 92 / Night Drive
Phew / Antenna
The Space Lady / Domae, Libra Nos / Showdown
Tropic of Cancer / Be Brave
Throbbing Gristle / Spirits Flying
Paysage D’Hiver / Welt Australia Eis

大前至

桜が満開な中、大雪が降りしきる、何とも不思議な天気の日曜日に、改めて自分が好きな音楽というものに向き合いながら選曲。今自分がいる東京もギリギリの状態ですが、昔住んでいたLAはすでにかなり深刻な状態で、そんな現状を憂いながら、LA関連のアーティスト限定でリラックス&少しでも気分が上がるような曲でプレイリストを組んでみました。

Illa J / Timeless
Sa-Ra Creative Partners / Rosebuds
NxWorries / Get Bigger / Do U Luv
Blu & Exile / Simply Amazin’ (steel blazin’)
Oh No / I Can’t Help Myself (feat. Stacy Epps)
Visionaries / If You Can’t Say Love
Dudley Perkins / Flowers
Jurassic 5 / Hey
Quasimoto / Jazz Cats Pt. 1
Dâm-Funk / 4 My Homies (feat. Steve Arrington)

天野龍太郎

「ウイルスは生物でもなく、非生物とも言い切れない。両方の性質を持っている特殊なものだ。人間はウイルスに対して、とても弱い。あと、『悪性新生物』とも呼ばれる癌は、生物に寄生して、防ぎようがない方法で増殖や転移をしていく。今は人間がこの地球の支配者かもしれないけれど、数百年後の未来では、ウイルスと癌細胞が支配しているかもね」。
氷が解けていく音が聞こえていた2019年。まったく異なる危機が一瞬でこの世界を覆った2020年。危機によってあきらかになるのは、システム、社会、政治における綻びや破綻、そこにぽっかりと大きく口を開いた穴だ。為政者の間抜けさも、本当によくわかる。危機はテストケースであり、愚かさとあやまちへの劇的な特効薬でもありうる。
ソーシャル・ディスタンシング・レイヴ。クラブ・クウォランティン。逃避的な音楽と共に、ステイ・ホーム、ステイ・セイフ・アンド・ステイ・ウォーク。

Kelly Lee Owens / Melt!
Beatrice Dillon / Clouds Strum
Four Tet / Baby
Caribou / Never Come Back
Octo Octa / Can You See Me?
tofubeats / SOMEBODY TORE MY P
Against All Logic / Deeeeeeefers
JPEGMAFIA / COVERED IN MONEY!
MIYACHI / MASK ON
Mura Masa & Clairo / I Don’t Think I Can Do This Again

James Hadfield/ジェイムズ・ハッドフィールド

Splendid Isolation

皆どんどん独りぼっちになりつつある事態で、ただ独りで創作された曲、孤立して生まれた曲を選曲してみました。

Alvin Lucier / I Am Sitting in a Room
Phew / Just a Familiar Face
Massimo Toniutti / Canti a forbice
Ruedi Häusermann / Vier Brüder Auf Der Bank
Wacław Zimpel / Lines
Kevin Drumm / Shut In - Part One
Mark Hollis / Inside Looking Out
Magical Power Mako / Look Up The Sky
Arthur Russell / Answers Me
Mike Oldfield / Hergest Ridge Part Two

小川充

都市封鎖や医療崩壊へと繋がりかねない今の危機的な状況下で、果たして音楽がどれほどの力を持つのか。正常な生活や仕事はもちろん、命や健康が損なわれる人もいる中で、今までのように音楽を聴いたり楽しむ余裕があるのか、などいろいろ考えます。かつての3・11のときもそうでしたが、まず音楽ができることを過信することなくストレートに考え、微力ながらも明日を生きる希望を繋ぐことに貢献できればと思い選曲しました。

McCoy Tyner / For Tomorrow
Pharoah Sanders / Love Is Everywhere
The Diddys feat. Paige Douglas / Intergalactic Love Song
The Isley Brothers / Work To Do
Kamasi Washington / Testify
Philip Bailey feat. Bilal / We’re Winner
Brief Encounter / Human
Boz Scaggs / Love Me Tomorrow
Al Green / Let’s Stay Together
Robert Wyatt / At Last I Am Free

野田努(2回目)

飲食店を営む家と歓楽街で生まれ育った人間として、いまの状況はいたたまれない。働いている人たちの胸中を察するには余りある。自分がただひとりの庶民でしかない、とあらためて思う。なんも特別な人間でもない、ただひとりの庶民でいたい。居酒屋が大好きだし、行きつけの飲食店に行って、がんばろうぜと意味も根拠もなく言ってあげたい。ここ数日は、『ポバティー・サファリ』に書かれていたことを思い返しています。

Blondie / Dreaming
タイマーズ / 偽善者
Sleaford Mods / Air Conditioning
The Specials / Do Nothing
The Clash / Should I Stay or Should I Go
Penetration / Life’s A Gamble
Joy Division / Transmission
Television / Elevation
Patti Simth / Free Money
Sham 69 / If the Kids Are United

Jazzと喫茶 はやし(下北沢)

コロナが生んだ問題が山積して心が病みそうになる。が、時間はある。
音楽と知恵と工夫で心を豊かに、この難局を乗り切りましょう!(4/6)

Ray Brayant / Gotta Travel On
Gil Scott Heron / Winter In America
Robert Hood / Minus
Choice / Acid Eiffel
Armando / Land Of Confusion
Jay Dee / Fuck The Police
Liquid Liquid / Rubbermiro
Count Ossie & The Mystic Revelation Of Rastafari / So Long
Bengt Berger, Don Cherry / Funerral Dance
民謡クルセイダーズ / 炭坑節

中村義響

No winter lasts forever; no spring skips it’s turn.

Ducktails / Olympic Air
Johnny Martian / Punchbowl
Later Nader / Mellow Mario
April March / Garden Of April
Vampire Weekend / Spring Snow
Brigt / Tenderly
W.A.L.A / Sacrum Test (feat. Salami Rose Joe Louis)
Standing On The Corner / Vomets
Babybird / Lemonade Baby
Blossom Dearie / They Say It’s Spring

野田努(3回目)

Jリーグのない週末になれつつある。夕暮れどきの、窓の外を眺めながら悦にいる感覚のシューゲイズ半分のプレイリスト。

Mazzy Star / Blue Light
The Jesus & Mary Chain / These Days
Animal Collective / The Softest Voice
Tiny Vipers / Eyes Like Ours
Beach House / Walk In The Park
Hope Sandoval & The Warm Inventions / On The Low
Devendra Banhart / Now That I Know
Scritti Politti / Skank Bloc Bologna
Yves Tumor / Limerence
Lou Reed / Coney Island Baby

ALEX FROM TOKYO(Tokyo Black Star, world famous)

この不安定な時代に、ラジオ番組のように Spotify で楽しめる、「今を生きる」気持ち良い、元気付けられる&考えさてくれるポジティヴでメッセージも響いてくる温かいオールジャンル選曲プレイリストになります。自分たちを見つめ直す時期です。海外から見た日本の状況がやはりとても心配になります。みなさんの健康と安全を願ってます。そしてこれからも一緒に好きな音楽と良い音を楽しみ続けましょう。Rest In Peace Manu Dibango & Bill Withers!(4/7)

Susumu Yokota / Saku
Manu Dibango / Tek Time
Final Frontier / The warning
Itadi / Watch your life
Rhythim Is Rhythim / Strings of Life
Howlin’ Wolf / Smokestack Lightin’
Massive Attack / Protection
Depeche Mode / Enjoy the Silence
Tokyo Black Star / Blade Dancer
Bill Withers / Lean on me (Live from Carnegie Hall)

Kevin Martin(The Bug)

(4/9)

The Necks / Sex
Rhythm & Sound / Roll Off
Miles Davis / In A Silent Way / It’s About That Time
William Basinski / DLP3
Thomas Koner / Daikan
Talk Talk / Myrrhman
Nick Cave + Bad Seeds / Avalanche
Jacob Miller / Ghetto on fire
Marvin Gaye / Inner City Blues
Erykah Badu / The Healer


増村和彦

最近は、「音楽やサウンドに呼吸をさせて、ゆがみや欠陥の余地を残して流していくんだ」というローレル・ヘイローの言葉が妙に響いて、その意味を考えるともなく考えながら音楽を聴いている。いまは、できるだけ雑食で、できるだけ聴いたことがなくて、直感で信頼できる音楽を欲しているのかもしれない。人に会わないことに慣れているはずのぼくのような人間でも、あんまり会わないと卑屈になってくるので、冷静にしてくれる音楽を聴きたくなります。(5/15)

Laurel Halo / Raw Silk Uncut Wood
Alex Albrecht pres.Melquiades / Lanterns Pt1 & Pt2
Minwhee Lee / Borrowed Tongue
Moritz von Oswald & Ordo Sakhna / Draught
Grouper / Cleaning
Moons / Dreaming Fully Awake
"Blue" Gene Tyranny / Next Time Might Be Your Time
Sun Ra / Nuclear War
Tony Allen With Africa 70’ / Jealousy
Tom Zé / Hein?

Pop Smoke - ele-king

 2020年2月19日、午前4時半頃。フードを被った4人の男がハリウッド・ヒルズのある邸宅に侵入。豪邸が立ち並ぶ明け方の街に、数発の銃声が鳴り響く。複数の銃弾を受けた20歳の男、Bashar Barakah Jackson は、シダーズ・サイナイ医療センターに搬送されるも、命を落とす。

 ブルックリン出身の Jackson は、“Pop Smoke” というステージ・ネームを名乗っていた。

 99年、ジャマイカ系の母とパナマ系の父のもとに生まれたという彼は、パナマ系の名前が「パッパ(Poppa)」であり、それがいつしか「ポップ(Pop)」と呼ばれるようになった、と語っている。仲間を「パパ」とは呼びたくないからだろう、と。

 その Pop Smoke がラッパーとして注目を集めたのは、2019年4月にリリースした “Welcome to the Party” という曲だった。この原稿を書いている時点では YouTubeで3,300万回、Spotify で2,400万回以上聴かれている(前週にもチェックしたが、いずれも数百万回単位で増えている)。Complex や XXL といったメディアが昨年のベスト・ソングに選んだ “Welcome to the Party” は、2019年を代表する一曲として受け止められ、ニッキー・ミナージュによるリミックスも注目を集めた。あの曲が Pop Smoke という名前とブルックリン・ドリルのサウンドを街の外に知らしめた、と言っていいだろう。Pop の重要性は、“Welcome to the Party” をヒットさせ、ブルックリンの顔役としてドリル・シーンを牽引してきたことにある。

 同年7月、Pop は〈ビクター/リパブリック〉からデビュー・ミックステープ『Meet the Woo』をリリース。その後もブロンクスの Lil Tjay が客演した “War”など、休みなくシングルを発表しつづけ、年末には Travis Scott の JACKBOYS からもフックアップされる。注目を集めるなかで今年2月にリリースされたのが、この『Meet the Woo 2』だった。

 そもそもシカゴのサウス・サイドのギャングスタ・ラップとして先鋭化したドリルは、ロンドンを中心とするイギリスのロード・ラップ・シーンに輸入され、同地でグライムやUKガラージなどと交雑し、やがてUKドリルとして特異化した。英国のプロデューサーたちが生み出す独自のスタイルとリズムを持ったドリル・ビートは、タイプ・ビート・カルチャーが発展するなかでブルックリンの若いラッパーたちによって注目され、海を越えてオンライン上で取り引きされるようになる。ブルックリンのMCたちが 808 Melo や AXL Beats といったプロデューサーたちのビートを買い、その上でラップをしたことで、ブルックリン・ドリルのシーンは独自の展開を見せていく。

 シカゴ南部、ロンドンのブリクストン、そしてNYのブルックリン……。言葉とビート、スタイルとフロウがいくつものフッドを経由し、複雑に交錯した結果生まれた混血の音楽──それがブルックリン・ドリルだ、とひとまず言うことができるだろう(そのあたりのことは、FNMNLの「ブルックリンドリルの潮流はいかにして生まれたか?」にも詳しい)。

 低くハスキーにかすれた声を持ち、まるで言葉を吐き出すような独特の発声、狼の雄叫びのようなアド・リブ(“woo”)をシグネイチャーとする Pop は、ドリルのビートにのせてブルックリンのストリート・ライフをレプリゼントしていた。たとえば、『Meet the Woo 2』からカットされたシングル “Christopher Walking”は、ニューヨークを舞台とするクリストファー・ウォーケン主演のマフィア映画『キング・オブ・ニューヨーク』にかけたものだし(「俺がニューヨークの王だって、彼女は知っている」)、JACKBOYS との “GATTI”では「俺はフロス(ブルックリンのカナージー)から来た」とラップしながら、自身のクルー “Woo” と敵対関係にあるライバルの “Cho” をこき下ろす。

 Migos の Quavo や A Boogie wit da Hoodie といった売れっ子、ブルックリンの同胞である Fivio Foreign などが参加した『Meet The Woo 2』は、シーンの急先鋒を行く者として、Pop の立ち位置を決定的なものにする作品になる、はずだった。だがいまでは、「フロッシー(カナージー)に来るなら、銃を持っておいたほうがいい」「空撃ちか? 俺が怖いのか?」(“Better Have Your Gun”)というラインも、「無敵に感じるんだ」(“Invincible”)という豪胆さも、「俺は武装していて危険だ」(“Armed n Dangerous (Charlie Sloth Freestyle)”)という虚栄も、なにもかもがむなしく感じられる。

 Pop の殺害は当初、強盗目的だとも考えられていた。が、実はそうではなく、計画的なものだったと見られている。死の直前にはニューヨークでのショーへの出演をキャンセルするなど、彼は敵対していたギャングとのトラブルの渦中にいたからだ。

 暴力と金銭欲を礼賛し、称揚していた Pop の死を、自業自得だというのは易い(Pop の死後、Cho のメンバーたちが彼の死を嘲り笑う投稿がソーシャル・メディア上で散見されたことは、指摘しておく必要があるだろう)。しかし、パーコセットとコデインの過剰摂取で亡くなった Juice WRLD にしても、彼らの死の背後には、ひとびとの憎しみと欲望が渦巻く社会があり、システムがあり、歴史がある。特に、武装権と絡み合った市民の銃所持、それとコンフリクトする銃規制の議論は、アメリカという国の重要な一側面を象徴する問題である。一方でギャングスターたちのひとりひとりが背負っているのは、壊れた街を舞台とする、生々しい暴力である。

 21 Savage は、こうラップしていた。“How many niggas done died? (A lot)”と。そして Childish Gambino は、こうラップしていた。“This is America / Guns in my area”と。

 わたしは、何度もじぶんをかえりみ、みずからに問いかける。アメリカ社会の異常さを知りながら、銃声を模したアド・リブや発砲音、「グロックがどうだ」というリリックが詰め込まれたラップ・ミュージックを「リアル」だとして享受し、消費しているわたしはなんなのだろう、と。答えはでない。

 Pop の音楽には、いくつもの可能性があったはずだ。そもそも、きわめてドメスティックだったアメリカのラップ・シーンと英国のそれとが直接的に交差したことは、(近年、カナダの Drake が積極的に試みてきたにせよ)それ自体が珍しいことだったし、“Welcome to the Party” をロンドンの Skeptaリミックスしたことは、そういったカルチャーのクロスを象徴していた。

 またそのリズムとグルーヴには、トラップ・ビートが一般化したアメリカのポップ・ミュージックの現況を相対化する力が宿っていた。トラップ・ビートが前提条件となり、一種の「環境」と化した今、超低音のサブ・ベースとキックとが同時に鳴らされることでベースラインはほとんど消失し、グルーヴは均一化されている。そういった状況において、UKベースの伝統に由来するドリルの跳ね回るリズムや太くうねるベースラインは、トラップ一辺倒のシーンに異論をなげかける、オルタナティヴになりうる。ドリル・ビートがアメリカのポップ・ミュージックにグルーヴを取り戻す、新しいグルーヴを提示する、というのはいいすぎだろうか。

 そういったブルックリン・ドリルの可能性は、Pop 亡きいま、同地の仲間たちが担っていくことになるだろう。先に挙げた Fivio Foreign はもちろん、Sheff G、22Gz、Smoove’L、PNV Jay……すでに多くのラッパーたちが活躍している(Woo と Cho との対立は温存されたままではあるものの)。さらに、アメリカのプロデューサーたちもドリル・タイプのビートをつくりはじめている。シーンとは無関係だったラッパーたちもドリル・ビートにラップをのせはじめているし(Tory Lanez の “K Lo K”などがそれにあたる)、これが一過性のブームに終わるか、ラップ・ミュージックのスタイルとビート/リズムの発展に寄与するかは、もうすこし見守ってみないとわからない。

 皮肉なことに、Pop が亡くなってから、彼のシングル “Dior” が初めて Billboard Hot 100 にチャート・インした。典型的なブルックリン・ドリルのサウンドとスタイルを伝えるこの曲は、これからも広く聞かれていくことになるだろう。

 いずれにせよ、Pop の死を典型的なギャングスタ・ラップの伝説として、素朴に消費してはならない。

 RIP Pop Smoke

Squarepusher 9 Essential Albums - ele-king

 もう25年ものキャリアがあって、メイン名義の〈Squarepusher〉のスタジオ作だけでも15枚というアルバムをリリースしているトム・ジェンキンソン。初来日した頃はまだ22歳とかだったので、よくぞここまでいろんな挑戦をしながら自分をアップデートし続けてきたものだと感心する。段々と自分ならではの表現を確立していったミュージシャンならともかく、彼の場合は特に最初のインパクトがものすごかったわけで、正直こんなに長い間最前線で活躍しつづけるとは、当時は予測できなかった。改めて古いものから彼の作品を並べ、順番に聴いてみると、想像以上にあっちゃこっちゃ行きまくって、それでも芯はぶれない彼のアーティストとしての強靱さ、発想のコアみたいなものが見えてくるようだ。
 ここでは、今年1月にリリースされた最新アルバム『Be Up A Hello』に到るまでの重要作9枚を振り返りつつ、スクエアプッシャーという稀代のアーティストのユニークさをいま一度噛みしめてみたい。


Feed Me Weird Things
Rephlex (1996)

 いまでも、〈Warp〉からの「Port Rhombus EP」がどかんと東京の街に紫の爆弾を落とした日のことはよく覚えている。CISCO とか WAVE の棚は全部それに占拠され、“Problem Child” の殺人的にファンキーな高速ブレークビーツと、うねりまくるフレットレス・ベースの奏でる自由奔放なベース・ラインがあまりに新鮮でずっと繰り返し店でも流されていた。そして、実は〈Rephlex〉からコイツのアルバムが出てるぞっていうことで皆がこのデビュー作に飛びついたのだった。当時はそんなに意識しなかったが、本作は〈Rephlex〉にしては随分とアダルトな雰囲気がある。冒頭の “Squarepusher Theme” にしても方法論としてはその後一気に知れ渡る彼の十八番ではあるものの、ギターのカッティングから始まり、ジャジーでどちらかというと生っぽくレイドバックした響きをもったこの曲は、既にトム・ジェンキンソンの幅広い趣味を示唆している。次に非常にメランコリックで、時折打ち鳴らされるブレークビーツ以外はチルウェイヴかというような “Tundra”、さらにレゲエ/ダブに倍速のブレークビーツを合体させたレイヴ・スタイルをジャズ的なリズム解釈で徹底的にこじらせたような “The Swifty” が続くという冒頭の展開がダントツにおもしろいが、内省的で墓場から響いてくるような “Goodnight Jade” “UFO's Over Leytonstone” といった後半の曲も魅力的。


Hard Normal Daddy
Warp (1997)

 そして〈Warp〉から満を持してリリースされたのが、この2作目。ダークな装いだった前作に比べると随分とメロディックになって、明るく飄々とした印象で、トム・ジェンキンソン自身のキャラクターがよりサウンドに解放されたのかなとも思う。勝手な印象論だけど、こういうジョーク混じりみたいなノリは〈Rephlex〉が得意で、むしろデビュー作のような叙情性と実験性をうまい具合に配合したようなのは〈Warp〉かなというイメージがあって、当時はちょっと意外に感じた。ただ、カマシ・ワシントンがこれだけ持て囃されるような現代ならともかく、90年代後半にファーストの路線をさらに深化させていくのは得策じゃなかったろう。で、これを出した直後くらいに来日も果たし、ステージでひとりベース弾きまくる、作品よりさらにはっちゃけた印象のトムは、より大きな人気を獲得していくのであった。


Big Loada
Warp (1997)

 レイヴにもよく遊びに行っていたし、〈Warp〉に所属することになったきっかけは(初期) LFO だというトムの享楽的側面やシンプルなダンス・ミュージックの悦びが溢れた初期の重要なミニ・アルバム。クリス・カニンガムが監督した近未来ホラー的なMVが有名なリード・トラック “Come On My Selector” が、チョップと変調を施しまくったサイバー・ジャングルちっくでいま聴いても奔放なかっこよさを誇るのはもちろん、ペリー&キングスレイ的なお花畑エレクトリカル・アンサンブル+ドリルン・ベースな “A Journey to Reedham” も素晴らしい。余談だが、トレント・レズナーの〈Nothing〉からリリースされたアメリカ盤では、「Port Rhombus EP」や「Vic Acid」から選ばれた曲も追加収録されているので、かなりお得な入門盤だった。


Music Is Rotted One Note
Warp (1998)

 そして意表を突くように生演奏をベースにした、ほぼフリー・ジャズなアルバムをリリースしたスクエアプッシャー。どうも初期のトレードマーク的スタイルは『Big Loada』でやり尽くしてしまったから、まったく違うことに挑戦したくなったという経緯らしい。それにしても、全楽器を自分で演奏し、しかもあらかじめ曲を作らずドラムから順に即興演奏して録音していくなんて、アイデアを思いついても実際にやろうとするだろうか。まぁそれを実現できる演奏力や曲のイメージが勝手に湧くという自信があったんだろうけど。デビュー作でちらちらと見せていたアダルトでエクスペリメンタルな側面が一気に爆発したこのアルバム、近寄りがたいところもあり、一番好きな作品だというスクエアプッシャー・ファンはほぼいないだろうが、本作があったからこそ、その後の彼の活動もさらに広がりや説得力を持ちえたのだ。ちなみに、ジャケを飾る妙なオブジェはトム手作りのリヴァーヴ・マシンで、ジャケのデザインも自分で発案したそう。


Selection Sixteen
Warp (1999)

 トムには Ceephax Acid Crew として活躍する弟アンディーがいる(本作にもボーナス曲のリミキサーとして参加)。その弟からの影響、もしくは彼らがレイヴァーだった時代から強く持っているアシッドへの憧憬をさまざまなカタチでアウトプットした意欲的な盤。前作からの流れを引きずっているようなジャズ風味の強いトラックや、“Mind Rubbers” のようにドリルン・ベースが復活したような曲もあるが、全体的にはビキビキと鳴るアナログ・シンセのベース音が主役を張っている。これ以前にも酸味を出したトラックはときたま作っていたものの、ジャコ・パストリアスばりの超技巧ベース奏者という売り文句で世に出たアーティストが、わざわざそれをかき消すようなアシッド・ベースだらけの作品を作ってしまうとは……。テクノのBPMでめっちゃファンキーなブレークビーツ・アシッドを響かせる “Dedicated Loop” が、Da Damn Phreak Noize Phunk 名義の Hardfloor を彷彿させるドープさ。


Go Plastic
Warp (2001)

 全編生演奏だった『Music Is Rotted One Note』に “Don’t Go Plastic” という曲があって、日本語でも「プラスチッキー」と言うと安物、(金属に見せかけたような)粗悪品的なものを指すが、この場合は作り物(シンセ音楽)からの離脱を意図していたと思う。それがここに来て宗旨変え、「作り物がいいじゃん!」という宣言だ。時は2001年、エレクトロニカが大きな潮流となっていく少し前。スタジオの機材を一新したスクエアプッシャーは、コンピュータで細かくエディットしてトラックを弄っていくDAW的な手法ではなく、データを緻密にシーケンサーに打ち込むことでこのマッドな高速ブレークビーツを生み出した。ジャズ/フュージョンやエレクトロニック・ミュージックに惹かれたのは、サウンドに存在する暴力性だと語っていたトムが、その本性を露わにしたアルバムだ。全体を貫くダークで偏執的なまでのミュータントDnBは踊ることはもちろん、アタマで考えることや感じることも拒否するような局面があり、激しい電気ショックを浴びる感覚に近いかも。ただ、最初と最後にレゲエ~ダブを解体した比較的とっつきやすい曲をもってくる辺りに、トムの優しさも垣間見える。


Ultravisitor
Warp (2003)

 Joy Division の “Love Will Tear Us Apart” のカヴァーと、フジロックでのライヴ(海賊盤かというくらい音が悪いのが残念)を収録したボーナス・ディスクが話題になった『Do You Know Squarepusher』を経て、03年にリリースされた傑作との呼び声高い心機一転作。極端に言うと、これまでのスクエアプッシャーが試みてきた様々な要素/手法をすべて注ぎ込んだような混沌としたアルバム。どういうわけか、歓声やMCまで入ったライヴ録音の曲も結構多い。アルバム後半を支配する激しくノイジーなエクスペリメンタル・ブレイクコアと対照的なインタールード的な小曲は、ほぼすべてアコースティックな楽器の演奏でまとめられていて、それもトム得意のフリー・ジャズ的なものではなく、むしろクラシックやクラウトロック等を感じさせる(特にラストの2曲が美しい)。さらに本作の間違いないハイライトである、ゆったりとしたテンポと生ドラムの生み出す心地よいグルーヴに被さる、メランコリックな重層的メロディーが印象的な “Iambic 9 Poetry”。これを中心とした冒頭5曲の完璧な構成と展開は、スクエアプッシャーの才がついに二度目の大輪を咲かせたと感じられた。


Ufabulum
Warp (2012)

 手練れのミュージシャンを従えたセルフ・カヴァーをするバンド、Shobaleader One としての活動を挟みつつ、スクエアプッシャーが新たな次元に突入したことを知らせてくれたアルバム。CDではなく YouTube で音楽を聴き、盤を買うよりライヴやフェスに繰り出す、という近年のリスナーの傾向を写したように全曲にトム自身が作成したLEDの明滅による演出が施された映像が存在する。Shobaleader One ではフランスの〈Ed Banger〉から(Mr. Oizo のリミックス入りで!)リリースするなど抜け目のないところを見せ、今作ではその影響もあってか、エレクトロ・ハウスやEDMに通じるような迫力満点の(だが、彼の前衛性やエクスペリメンタルな面を好むファンからしたら大仰な展開や音色はコマーシャルに感じられてがっかりと受け取られるかもしれない)トラック群を仕上げている。混沌度を増すアルバム後半、電子回路が暴走したように予想のつかない展開でリスナーに襲いかかる “Drax 2” や、ヴェイパーウェイヴ的な美学も感じるラストの “Ecstatic Shock” が白眉。


Be Up A Hello
Warp (2020)

 そして、5年ぶりにリリースされた、スクエアプッシャーの原点回帰とも言える最新アルバム。『Ufabulum』や続く『Damogen Furies』では自作のソフトウェアやテクノロジーを駆使して、いわゆるヴィジュアル・アートや最新の IoT にまで斬り込んでいくのではないかという意欲的な姿勢を見せていたトム・ジェンキンソンが、旧友の突然の死去をきっかけに、デビュー前に使っていたような古いアナログ機材や、コモドールの古い 8bit コンピュータまで動員してメモリアル的に作り上げた。近しいひとの死がテーマになっているアルバムだから当然かもしれないが、かつてのはっちゃけまくったスクエアプッシャーを想起させる音色や曲の構成は随所に感じられるものの、どこか悲しげで暗いトーンに覆われている。そして、常に以前の自分に一度ダメ出しして新たなことに挑戦してきた彼が、敢えて彼の音楽性や名声を確立するに到った初期の手法に立ち返ったのには、やはり大きな意義を感じる。特にUKでここ数年盛り上がっているレイヴやハードコア(初期ジャングル)を復興させようという試みは、おもしろいけれど懐古を完全に超越した新しいムーヴメントを生み出しているかというとそうでもなくて、では90年代初頭にそういう現場の雰囲気やサウンドに囲まれて、そこで多くを吸収してプロになったトムのようなひとが改めて当時と同じ道具を手にしたとき、何を表現するのかというのはとても示唆的だと思うからだ。

 4月に行われることになったこちらも5年ぶりの単独ライヴは、『Be Up A Hello』の内容を考えると、ここしばらく注力してきたような、大型スクリーンと派手に明滅する映像をメインの要素に据えた未来的なプレゼンテーションとは違ったものになるのだろうか。ロンドンで行われたアルバムの発売記念ギグを映像で確認すると、機材の音が剥き出しでそれこそドラムマシンやシーケンサーが奏でるループがどこまでも続けばそれだけで幸せなんだ、というかつてDJ以外の演者が “ライヴPA” などと呼ばれた時代にあった雰囲気を感じるシンプルなものだった。もうほとんどレコードでDJをすることはないし、その感覚を思い出すのに少し時間がかかったとすら言っていたジェフ・ミルズの本当に久々のアナログと909でのセットを昨年11月に聴きにいった。ただの懐古に陥らないための演出や伝説の確認ではなくフレッシュな体験としてそれを受け止める若い聴衆とアーティストのインタラクトがおもしろく、今回も新たな発見がありそうだと期待している。
 かつて一世を風靡した “Come On My Selector” のMVは、日本を舞台にしてる風の配役や設定だったが、その実 “Superdry 極度乾燥しなさい” 的な細かな違和感がありまくりだった。最新のビデオ “Terminal Slam” ではやはり渋谷を中心にした東京の街を舞台にし、「また日本贔屓の海外のアーティストに東京を超COOLに描かれてしまった!」というのが大半の日本人の最初の反応で、実は監督したのが真鍋大度だったので、なるほど、さすが〈Warp〉とスクエアプッシャー、よくわかってる!と思ったものだ。今回の来日ステージでも、もしかしたら日本ならではのなにかを反映した演出を用意してくれるかもね。

5年ぶりとなる超待望の単独来日公演が大決定!!

2020年4月1日(水) 名古屋 CLUB QUATTRO
2020年4月2日(木) 梅田 CLUB QUATTRO
2020年4月3日(金) 新木場 STUDIO COAST

TICKETS : ADV. ¥7,000+1D
OPEN 18:00 / START 19:00
※未就学児童入場不可

MORE INFO: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10760

チケット情報
2月1日(土)より一般発売開始!

R.I.P. Andrew Weatherall - ele-king

野田努

 1997年初夏、日曜日の晩、場所はロンドンはカムデンタウンのライヴハウス。新代田FEVERぐらいのフロアに客は20人いるかいないか。DJはアンドリュー・ウェザオール。彼は映画音楽や古いラウンジ・ミュージック、そしてダウンテンポのトラックをおよそ1時間以上にわたってプレイしながら、その日の目玉であるレッド・スナッパーのライヴのためのサポートに徹していた。
 「あれだけの大物でありながら、彼は自分の好きなバンドのためなら、こうした小さな場所でも率先してDJをやるんだよ」、イギリスの音楽業界のひとりがぼくにそう自慢げに語った。ライヴが終わると再びウェザオールは彼の信念のこもったDJを再開した。客がいなくなるまで。
 WARPの創業者のひとり、スティーヴ・ベケットはウェザオールのことを「アンダーワールドやケミカル・ブラザース以上にビッグになれたのに、敢えてそれとは逆の方向のマイナーなほうに走った」と説明したことがある。こう付け加えながら。「レーベルとしては残念だったけれど、アーティストとしては尊敬に値する」

 アンドリュー・ウェザオールとはそういう人だった。
 彼の名声は、1990年、プライマル・スクリームのこれ以上ないほど素晴らしい“Loaded”によってたしかなものとなった。負け犬のソウルを歌ったあの魅力たっぷりのオリジナル曲(I'm Losing More Than I'll Ever Have)を、ウェザオールは薄汚れていながらも崇高な高まりへとみごとに変換させた。冒頭の映画『ワイルド・エンジェル』の科白、そして70年代のアメリカのソウル・グループ、ジ・エモーションズの“I Don't Wanna Lose Your Love”のコーラス、こうしたカットアップによる彼のリミックスは、たんなる曲の再構築ではなく、別の意味をはらんだあらたな曲の創造だった。そして言うまでもなく、それはあの時代の最高中の最高のアンセムとなった。

 2月17日、アンドリュー・ウェザオールがロンドンの病院で他界したことが発表された。死因は肺塞栓症。56歳だった。これまた言うまでもないことだが、アンドリュー・ウェザオールは歴史を変えたDJのひとりである。UKダンス・カルチャーを代表するDJであり、挑戦と努力を惜しまないプロデューサーだった。“Loaded”以外でも、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン“Soon”やニュー・オーダー“Regret”、セイント・エチエンヌ“Only Love Can Break Your Heart”やイエロや……挙げたらキリがないが、まだハウスを知らないインディキッズにそれを教えた第一人者でもある。イギリス人から「Andrew Weatherall is my hero」という言葉を、これまで何度聞かされてきたことか……。
 日本においてもその影響は計り知れない。渋谷系からテクノやダブのシーンにいたるまで、インディからクラバーにいたるまで広範囲に及んでいる。とてつもなく重要なDJがこの世界からいなくなってしまった。

 アシッド・ハウスの狂騒のなかから登場したアンドリュー・ウェザオールだが、その延長であるバレアリックのシーンが巷でもてはやされると、ハッピーではなく、軽快でもなく、そしてノリノリでもない、おそらくその当時の誰もがあまり望んでいなかったダークでアブストラクトな方向性=ザ・セイバース・オブ・パラダイスへとシフトした。レイヴの季節が終わり、厳しい時代の到来を予見していたかのように。
 彼はそういうプロデューサーだった。ときのトレンドがどうであれ、まわりにどう思われていようと自分がやりたいことをやる。ダブであれロカビリーであれIDMであれ、そのときの自分が本気で愛情を注げるものしかやらない。ほとんどすべてのDJがスポーティーなクラブ・ファッションで身を包んでいた90年代初頭にただひとりラバーソウルを履いていたように。彼は結局最後まで、ソロ・アルバムとしては最後となってしまった2017年の『Qualia』まで、そのやり方を曲げなかった。

 ぼくがウェザオールのDJを初めて聴いたのは1992年のロンドンの映画館を貸し切って開催された、あの時代特有の狂ったレイヴ・パーティ(High on Hope=希望ある高揚という、いま思えばふざけた名前のパーティ)だった。その後もロンドンのテクノ・イベントや彼自身が主宰していたクラブ(テムズ川を越えたいまは無き、人気などまったくない倉庫街にあった)でのDJなど、さまざまな場所で聴いているけれど、ウェザオールは同じようなセットを二度と繰り返していなかった。
 おそらく94年かそれくらい、当時彼が主宰していたレーベル〈Sabres Of Paradise〉の事務所も忘れがたい。それは再開発されるずっと前のソーホーの、ポルノショップなどが並ぶいかがわしい一角のビルの2階にあった。イビサでDJしたらたった2曲でデッキから降ろされたという経験を持つ彼のセンスは、リゾート地の太陽からは100万光年離れていたし、大勢を喜ばすためにレコードバッグのなかに好きでもないレコードを2~3枚入れることもできない人だった。いまでこそそうした態度を格好いいと言える人も少なくないのだろうが、当時としては極めて異端だった。
 また、90年代前半はエイフェックス・ツインやマイケル・パラディナスのような、クラブで踊っているというよりは自室に籠もって機材をいじくり倒している、いわばオタクなプロデューサーが出てきているが、ウェザオールはこうした新しい才能も積極的に評価した。これもいまとなっては当たり前に思えるだろうが、当時はダンス至上主義がまかり通っていたので、とくにハウス系の玄人連中の一部からは、あの手の踊れないサウンドは低級だと見なされていた、そんな時代のことである。

 ぼくが彼と初めて対面取材したのは90年代末のことで、場所はロンドンのトゥー・ローン・スウォーズメンのスタジオだった。シャイな人柄で、格好付けたところもなく、ひとつひとつの質問に正直に答える人だった。スタジオのなかには大量のレコードとCDが散乱しており、取材が終わると彼はそのとき自分が気に入っているレコードやCDをいくつか教えてくれた。その1枚は60年代の電子音楽の発掘もので、ほかの1枚にはまだ出て来たばかりのキャレクシコのレコードがあった。これまたよく知られていることだが、彼は本当に幅広く、いろんな音楽を愛していた。

 ぼくは彼の音楽をこの30年間ずっと聴いてきている。とくに思い入れのあるウェザオール作品は、トゥー・ローン・スウォーズメンの初期作品だ。『The Fifth Mission』(1996)、「Swimming Not Skimming」(1996)、「The Tenth Mission」(1996)、「Stockwell Steppas」(1997)。
 セイバースのときもそうだったが、『The Fifth Mission』を初めて聴いたときは、どう捉えていいのかよくわからなかった。しかし、時間が経つとその素晴らしさに気が付くのである。自らを孤独な剣士だと名乗ったこの頃の作品は、とことん地味で、そしてとことんメランコリックで圧倒的に美しい。

 「恋に落ち、恋に冷め、誰かを愛し、誰かを愛するのをやめる、誰かに愛されなくなる……人間の人生経験は、芸術経験と同じくらい大切なものだ」、7年前のぼくのインタヴューで彼はこう語っている。
 アンドリュー・ウェザオールは、古き人間だった。そのことは彼自身も自覚していたし、〈Rotters Golf Club〉になってからの彼は19世紀趣味をむしろ強く打ち出していた。インターネットが世界を変えてしまうちょうどその渦中にあって、つねに3種類の書物(小説、歴史、芸術)を身近に置いていた本の虫は、テクノロジーの利便性に何も考えずに身を委ねるような真似はしなかった。19世紀のネオゴシック運動のように、テクノロジーの快適さに対する疑いの目を忘れなかった。それがたとえ怒りであっても感情を持つことを賞揚し、人びとの感情の劣化を案じてもいた。
 「パソコンでアートを作ってもいいと思う。そのアートがパソコン以外の世界でも存在できると感じられることができるならね」、液晶画面を眺めていさえすれば、24時間買い物のできるし、ポルノもニュースも他人がどう思っているかも自分がどう思われているかも見ることができる世界が日常化している現代において、アンドリュー・ウェザオールには明らかにやるべきことがまだまだあった。彼は表現すべきこと、打ち出すべき声明を持っていた。
 「状況が不安定で、世界がダークになってくると、作られるアートはより興味深いものになる。最高のアートは困難との闘いから生まれるものだ」、ブッシュとブレア時代の2002年のインタヴューで彼はこう語っている。「俺たちはいま恐ろしいほど興味深く危険な時代に生きている。俺は世界の状況を心配をしながらも、毎日をすごくエンジョイしているんだ」

 「人生にはいろんな道があるだろ、人はそれを選択するわけだけど、俺が選んだ道はいつも難道だった」、これは2009年のインタヴューで語っていたことだ。刺青を入れたために実家を追い出された彼の若かりし日々は、決して平坦なものではなかっただろう。
 以下、同じインタヴューからの抜粋。「アンダーグランドの音楽的先駆者たちは、厳しい道を突き進んで来た。俺も好きでそれを追いかけてきたけど、それは厳しい道で、必ずしも楽な生活とは言えない。だから、その道にガイドした先駆者たちをたまに恨んだりする(笑)」
 「もっとポップな曲を書いていたら金を儲けていたかもしれないけど、俺はハードワークな状況を楽しめるタイプなんだ。若いときにやった最初のバイトが肉体労働だったから、キツさや困難な状況から得る満足感みたいなものが好きなんだよ」

 “Loaded”があまりにも名曲なのは、あれは人生を表現しているからだろう。「あなたの愛を失いたくない」とジ・エモショーンズは繰り返す。愛の喪失はアンドリュー・ウェザオールが生涯いだき続けたオブセッションのようなものだったのではないだろうか。
 「人生こそ愛と死だね」。2007年のインタヴューで彼はこう言っている。「自分の音楽のテーマには“生と死”がいつもあって、歳を重ねるごとにその“死すべき運命”がさらに現実味をましてくる」

 しかしそれが来るのは早すぎた。2016年のアルバム『コンヴェナンザ』のなかで彼はこう歌っている。「どうかこの手紙を許して欲しい、これが最後だから、友よ/どんな祈りも僕を救えなかった/もう一度亡霊を呼び出そう」

 さようなら、アンドリュー・ウェザオール。そして、あまりにも多くの音楽をありがとう。今夜はきっと世界中で“Loaded”が、そしてあなたの深く美しく素晴らしい音楽が流れているのだろう。

King Krule - ele-king

 きっと今年は音楽の風向きが変わる。キング・クルールことアーチー・マーシャルのニュー・アルバムは、おそらくその最初ののろしになるだろう。たとえばアメリカのフランク・オーシャン同様、時代のアイコンとも呼ぶべき存在、じつにイギリスらしいサウンドにのせて独特のことばを吐き出すこの若き才能は、来るべき3枚目(本名名義を含めると4枚目)のアルバム『Man Alive!』でいったいどんな世界を描き出すのか。発売は2月21日。心して待とう。

[2月6日追記]
 まもなくリリースされる新作からのセカンド・シングル、“Alone, Omen 3” のMVが公開された。「君は独りじゃない」というメッセージがこめられているようで、監督はアーチーの友人であるジョセリン・アンクイーテルが担当、脚本はアーチーとジョセリンのふたりが手がけている。チェック。

[2月19日追記]
 いよいよ明後日に発売となる最新アルバム『Man Alive!』より、新曲 “Cellular” が公開された。MVのアニメを制作したのは、過去にアーチーと “Vidual” でコラボしたことのあるジェイミー・ウルフ。リリースまであと2日!

Stormzy - ele-king

 Stormzy の『Gang, Signs & Prayers』以来の2年ぶりのニュー・アルバム『Heavy Is The Head』が届けられた。前作リリース時には Spotify とのパートナーシップで、アルバム・カヴァーが街中に貼られ、彼自身もTVトークショーに出演するなど、一般人にも広く存在が広まった。この2年でも “Vossi Bop” や Ed Sheeran への客演でヒットを飛ばしてきた。

 待望の本作のアルバム・カヴァーには、UKの有名音楽フェスティヴァル《Glastonbury Festival》のヘッドライナーを務めた際に着用していた Banksy 制作の防刃ジャケットを見つめる若きラップスターが映されている。防刃であることがイギリスの都市で問題となっているナイフ犯罪へのアンサーであるだけでなく、ブラックで描かれたユニオンジャックはイギリスにおける「黒人」のあり方を問いかけるなどさまざまな意味を含んでいる。国旗をモチーフにしたアルバム・カヴァーという意味では、昨年リリースされたUKラップの傑作 slowthai 『Nothing About Britain』を思い出させた。

 ブラス・サウンドで幕を明ける本作。1. “Big Michael”はこの2年で成し遂げた功績を紹介するような1曲で、フェスティヴァルのヘッドライナーとして出演したことや、出版社ペンギンブックスとのパートナーで自身の出版レーベルを立ち上げたことを曲で誇っている。UKドリルのトップ・アーティスト Headie One を迎えた 2. “Audacity” では、Stormzy のストレートなフローと直接的なリリックに対して、Headie One は有名人や歴史上の人物を比喩に取り上げながらリリカルに展開し、勢いに乗る Headie One が一本取ったようだ。

 3. “Crown” ではアルバム・タイトルの「Heavy is the Head」の意味が、世間からの期待や止むことのない批判や重圧へのオマージュであることが明かされる。特に抜粋したラインは Stormzy の「優等生」を期待する声や批判への応答である。

Heavy is the head that wears the crown
王冠を被っている頭が重いんだ……

They sayin’ I’m the voice of the young black youth,
And I say “Yeah Cool” then I bun my zoot And I’m...

あいつらは俺が「黒人の若者の声」だって
だから俺は「あぁ、いいね」って言った後にズートに火を付ける

I done a scholarship for the kids, they said it’s racist
That’s not anti-white, it’s pro-black

俺はキッズのために奨学金を作ったのに、
やつらはそれを人種差別だって言いやがる
これは「アンチ・ホワイト」じゃなくて、「プロ・ブラック」なんだ

“Crown”

 静かに意見を表明する曲は続く。4. “Rainfall” では、アメリカの警察の黒人に対する暴力事件として知られ、後の Black Lives Matter 運動のきっかけとなった射殺事件の被害者トレイボン・マーティンへ哀悼の意を示し、「鎖につながれない黒人がどうなったか」を示したと再提起している。自制的に淡々と意見を表明していくラップには、かえって「静かな怒り」を感じる。アルバム中盤は家族などの身の回りの人々へ送る曲が並び、コーラスワークや弦楽器使いが光っている。姉へのリスペクトや家族とのストーリーを歌った 5. “Rachel’s Little Brother” に続き、J Hus の Snapchat をイントロに用いた 6. “Handsome” も実の姉でDJの Rachael Anson へのリスペクトを送る1曲で、彼のラップスキルが光る。7. “Do Better” は元彼女の Maya Jama へ送るラヴソングにも聞こえる。

 インタールードを挟み、アルバム後半ではシンガーの H.E.R を迎えた 9. “One Second” で物怖じしない姿勢でメンタルヘルスの問題を取り上げたり、テレサ・メイ前首相への痛烈な批判を加えたりする。マンチェスター出身の MC Aitch を迎えた 10. “Pop Boy” ではトライバルなダンス・トラックに乗せて、「ポップスター」であるという批判にクレバーに応答し、Ed Sheeran と Burna Boy というスターを迎えた 11. “Own It” でそのヒットメイカーぶりをまざまざと証明する。終盤は再びハードなチューンが並ぶ。グライム・チューンとしてヒットとなっている 12. “Wiley Flow” では、Wiley と自分を重ねるようにして、むしろグライムの「生みの親」の Wiley を持ち上げる1曲だ。しかし、アルバム・リリース後に Wiley と Stormzy の間にビーフが勃発した後で、Stormzy はこの曲をどのように思っているのだろう。邪推だが、Wiley は 13. “Bronze” で Stormzy が自身を「King of Grime」と名乗ったのが許せなかったのかもしれない。

Wiley へのディス曲 “Still Disappointed”

 ビーフの内容は脇に置くとして、数字面だけを見れば Stormzy の人気は圧倒的だ。アルバムを締めるダーティなクラブ・チューン 16. “Vossi Bop” は公開10ヶ月で YouTube で7000万回以上に達している。淡々としているが単調にはならないラップは唯一無二のスキルである。音楽的にはトラップやグライムだけでなく、中盤のピアノと弦楽器を基調としたトラックもあり、ゴスペルの要素も彷彿とさせる。家族や友人、人種や政治といった問題に応える Stormzy の良いサウンドトラックになっている。本作は商業面での期待に応えながら、自分に向けられた批判に直接的に応答する形で問題を提起する。そのふたつのバランス感が彼らしい、ユニークな一作だ。

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