「DJ DON」と一致するもの

Zettai-Mu“ORIGINS” - ele-king

 大阪の KURANAKA a.k.a 1945 が主宰するパーティ、《Zettai-Mu “ORIGINS”》最新回の情報が公開されている。今回もすごい面子がそろっている。おなじみの GOTH-TRAD に加え、注目すべき東京新世代 Double Clapperz の Sinta も登場。10月15日土曜はJR京都線高架下、NOONに集合だ。詳しくは下記よりご確認ください。

Zettai-Mu “ORIGINS”
2022.10.15 (SAT)

next ZETTAI-MU Home Dance at NOON+Cafe
Digital Mystikzの Malaが主宰する UKの名門ダブステップ・レーベル〈DEEP MEDi MUSIK〉〈DMZ〉と契約する唯一無二の日本人アーティスト GOTH-TRAD !!! ralphの「Selfish」 (Prod. Double Clapperz) 、JUMADIBA「Kick Up」など(とうとう)ビッグチューンを連発しだしたグライムベースミュージックのプロデューサーユニット〈Double Clapperz〉Sinta!! CIRCUS OSAKA 人気レギュラーパーティー〈FULLHOUSE〉より MileZ!!
大阪を拠点に置くHIPHOP Crew〈Tha Jointz〉〈J.Studio Osaka〉から Kohpowpow!!
27th years レジテンツ KURANAKA 1945 with 最狂 ZTM Soundsystem!!
2nd Areaにも369 Sound を増設〈NC4K〉よりPaperkraft〈CRACKS大阪〉のFENGFENG、京都〈PAL.Sounds〉より Chanaz、DJ Kaoll and More!!

GOTH-TRAD (Back To Chill/DEEP MEDi MUSIK/REBEL FAMILIA)
Sinta (Double Clapperz)
MileZ (PAL.Sounds)
Kohpowpow (Tha Jointz/J Studio Osaka)
and 27years resident
KURANAKA a.k.a 1945 (Zettai-Mu)
with
ZTM SOUND SYSTEM

Room Two
Paperkraft (NC4K)
FENGFENG (CRACKS)
Chanaz (PAL.Sounds)
DJ Kaoll
Konosuke Ishii and more...
with
369 Sound

and YOU !!!

at NOON+CAFE
ADDRESS : 大阪市北区中崎西3-3-8 JR京都線高架下
3-3-8 NAKAZAKINISHI KITAKU OSAKA JAPAN
Info TEL : 06-6373-4919
VENUE : https://noon-cafe.com
EVENT : https://www.zettai-mu.net/news/2210/15

OPEN/START. 22:00 - Till Morning
ENTRANCE. ADV : 1,500yen
DOOR : 2,000yen
UNDER 23/Before 23pm : 1,500yen
※ 入場時に1DRINKチケットご購入お願い致します。

【予約はコチラから】
>>> https://noon-cafe.com/events/zettai-mu-origins-yoyaku-7
(枚数限定になりますので、お早めにご購入ご登録お願い致します。
 LIMITED枚数に達した場合、当日料金でのご入場をお願い致します。)

【新型コロナウイルス感染症拡大防止対策】
・マスク着用での来場をお願いします。
・非接触体温計で検温をさせて頂き、37℃以上の場合はご入場をお断り致しますので、予めご了承ください。
・店内の換気量を増やし、最大限換気を行います。
・体調がすぐれないとお見受けするお客様がいらっしゃいましたら、スタッフがお声がけさせて頂きます。

【お客様へご協力のお願い】
以下のお客様はご来場をお控え頂きますようお願い申し上げます。
・体調がすぐれないお客様
・37℃以上の発熱や咳など風邪の症状があるお客様
・くしゃみや鼻水などによる他のお客様にご迷惑をかけする可能性があるお客様
・60歳以上の方のご入店をお断りしています 。

その他、会場 WEB SITE : https://noon-cafe.com を参照下さい。

● SNS
Facebook -
Instagram (@zettaimu)
Twitter (@zettai_mu)

● Special Supported by Flor de Cana

Tribute to Ras Dasher - ele-king

 「ONE BLOOD, ONE NATION, ONE UNITY and ONE LOVE」。LIVE はいつもこの一言から始まった。本作は昨年惜しくもこの世を去ってしまった“RAS DASHER”。彼といっしょに音楽を作ってきた仲間から、 最大限の感謝を込めて、それぞれのアーティストが現在進行形の音を天に響かせる追悼と音の祭典が開催される。

10/14 (金) 場所: 新宿Loft
Open:18:00-Til Late 27:00

REGGAELATION INDEPENDANCE & Special Guests from Cultivator & KILLA SISTA
MILITIA (SAK-DUB-I x HEAVY)
光風 & GREEN MASSIVE
UNDEFINED

BIM ONE PRODUCTION
LIKKLE MAI (DJ set)
MaL & JA-GE
外池満広 *Live
I-WAH & MARIKA
176SOUND
OG Militant B
山頂瞑想茶屋 feat. FLY-T
And more

Sound System by EASS HI FI

Food:
新宿ドゥースラー


Adv. ¥4,000
Entrance ¥4,500

前売りチケット情報
ZAIKO
https://tokyodubattack.zaiko.io/e/voiceoflove
ローソンチケット https://l-tike.com/order/?gLcode=72177
( Lコード:72177)

INFO
新宿LOFT 
tel:0352720382 


About Ras Dasher:
 80年代後半〜90年代初頭、SKA バンドのトランペットから始まったという彼の音楽キャリア、 その後 JAMAICA や LONDON を旅して帰国後、レゲエ・ヴォーカリストとして歌うようになった。 下北沢のクラブ ZOO (SLITS) で行われていたイベント「ZOOT」などに出演し、Ska や Rockstedy のカヴァー曲を歌っていた。
 その後、Mighty MASSA が始めた Roots Reggae Band “INTERCEPTER" の Vocal として参加、 Dennis Brown や Johnny Clark の ROOTS REGGAE を主に歌っていた。 95年頃、前述の クラブZOOT では、MIGHTY MASSA が本格的にUK Modern Roots Styleの SOUND SYSTEM を導入し、自作の音源を発表し始める。 発足よりシンガーとして参加し、97 年に MIGHTY MASSA の1st 12inch 「OPEN THE DOOR/LOVE WISE DUB WISE」 (Destroid HiFi) がリリース。 (Singer RAS DASHER として録音された最初のリリース) 後の MIGHTY MASSA 作品への参加 (2001 年 Album『ONE BLOW』、2003年 7inch 「Love Wise Dub Wise」) や DUB PLATE の制作に繋がっていく。 また、INTERCEPTER も音楽性の趣向がUK Modern Roots色が強くなり INTERCEPTER 2 として活動が始まり、 後の DRY & HEAVY の 秋本“HEAVY" 武士と RIKITAKE が加入し、その出会いが CULTIVATOR の結成に繋がっていく。

 CULTIVATOR は、何度かメンバーチェンジと試行錯誤を繰り返し 徐々にオリジナルの楽曲とサウンドアイディアで LIVE 活動が始まったのが90年代ももうすぐ終わる頃。 2000年に1st 12 inch Vinyl 「Promise Land/More Spilitual」を〈Reproduction Outernational〉レーベルからリリース.。この音源と DIRECT DUB MIX を取り入れた LIVE が注目される。
 2001 年 6月 1st CD mini album “BREAKOUT FROM BABYLON”をFlying Highレーベルから発表。 同年 FUJI ROCK FESTIVAL (RED MARQUIE)にも出演を果たした。また、 UK SOUND SYSTEM の重鎮 ABA SHANTI」の東京公演や、IRATION STEPPERS, ZION TRAIN の東京公演のフロントアクトを務めるなどLIVE も活発化し、2003年3月 2nd CD album 『Voice Of Love』 をリリース。 2004 年にこれらのシングル・カットとして 「Hear the voice love / In My Own / Freedom of reality」と 「Aka-hige /Spanish town」を発表した後、残念ながら活動を休止となった。


■Cultivator - 『Voice of Love』 レコードリリースについて
 Bim One Production / Riddim CHango Recordsの1TAによる、国産ルーツ/Dubの魅力を再評し新たな視点を深堀りするべくスタートするレーベル〈Rewind Dubs〉が始動!
 記念すべき第一弾は、2003年発表のCultivatorの名作CDアルバム『Voice of Love』 をLPアナログ用にリマスターした復刻盤! 本作は昨年惜しくもこの世を去ってしまった同バンドのフロントマン、Ras Dasherをトリビュートした限定300枚の再発作品である。
https://rewinddubs.bandcamp.com/releases

■ Voice of Love / Cultivatorオリジナルロゴ復刻T-シャツ販売決定
限定枚数販売!お見逃しなく!

Ras Dasher - Voice of Love T-Shirts (White / Black)
Cultivator Logo T-Shirts (Black)
M / L / XL / 2XL
¥3,000

Dry Cleaning - ele-king

 メロディアスなギター、静かに語りかけるようなヴォーカルに、高い文学性を備えたリリック。突き抜けるようなポストパンク・サウンドで大いに称賛を浴びている4人組、ドライ・クリーニングがついに日本にやってくる! 東京と大阪の2公演で、11月30日(水)は恵比寿 LIQUIDROOMにて、12月1日(木)は梅田 CLUB QUATTROにて開催。10月21日に発売されるニュー・アルバム『Stumpwork』のリリース直後という、絶好のタイミングでもある。これを逃す手はないでしょう。売り切れる前に急げ。

DRY CLEANING
待ちに待ったドライ・クリーニングの初来日公演、詳細決定!
最新作『Stumpwork』は 10月21日発売!

新進気鋭バンドがひしめき合うサウス・ロンドンのシーンでも 80~90s の US ニュー・ウェーヴ / オルタナ の芳香を纏ったアートな佇まいで、多くの音楽ファンを魅了し、 デビュー・アルバムがいきなり全英チャートを4位まで駆け上がった4人組バンド、ドライ・クリーニングの初来日公演が決定!

デビュー・アルバム『New Long Leg』は、全英アルバム・チャートで4位を獲得、2021年のベスト・アルバムの一つとしても選定され高い評価を得た(The New York Times、Pitchfork、SPIN、The Atlantic、The Ringerが、その年のトップ10アルバムに選出)。ここ日本でも音楽専門誌からファション誌まで幅広いメディアに取り上げられ、大絶賛を浴びた。

今回の初来日に先駆け10月21日には最新アルバム『Stumpwork』が発売される! このアルバムを聴けば、彼らの勇気ある挑戦を感じるに違いない。最新作でも、巧みで複雑なリフにしっかりと絡みつくヴォーカル、フローレンス・ショウのシュールな歌詞は、様々なテーマに渡り感受性も強めていて、激しくソリッドなオルタナ・ロックやポストパンクのアンセム感とジャングルやアンビエント・ノイズとが融合したバンドの鋭くも豊かな音楽性、アート感が作品全体に漲っている。これは、完全にドライ・クリーニング独自のものであり、同世代のバンドとは一線を画す、刺激的なサウンドである。
ディーヴォからソニック・ユースまでを彷彿とさせる個性的なサウンドを放つに要注目バンドの初来日公演、これは見逃せない!

東京  11月30日(水) LIQUIDROOM
大阪  12月1日(木) 梅田 CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
前売¥6,000(スタンディング、ドリンク別 )
INFO: BEATINK [www.beatink.com], SMASH [smash-jpn.com]

●TICKET INFORMATION
オフィシャル先行受付*外国語受付有り
受付期間:9月13日 18:00~9月19日(月)23:59
日本語受付: https://eplus.jp/dry-cleaning22-official/
For Foreign languages: https://ib.eplus.jp/drycleaning

●最速プレオーダー
受付期間: 9月20日 12:00~9月25日 23:59
受付URL: https://eplus.jp/dry-cleaning/

●一般チケット発売 *外国語受付有り
10月1日(土) 10:00~
東京:e+ 、ぴあ(227-390)、ローソン(73557)
大阪:e+ 、ぴあ(227-258)、ローソン(55648)
For Foreign languages : https://ib.eplus.jp/drycleaning

チケットに関しての注意事項
・先行予約・一般発売共に1回の申込に付き4枚まで購入可能
・電子チケットのみの取り扱い。(発券は公演2週間前になります。)
・チケット購入者は購入時に個人情報の入力が必要になります。
 複数枚購入の場合は、チケット分配時に同行者の方の個人情報の入力をお願いします。
・小学生以上はチケットが必要となります。
・保護者1名同伴につき、未就学児童1名まで入場可能。
・未就学児は同行の保護者の座席の範囲内で観覧可能。

企画/制作:SMASH/BEATINK
INFO:SMASH [smash-jpn.com] / BEATINK [www.beatink.com]

10月21日に世界同時発売となる新作『Stumpwork』の日本盤CDには解説および歌詞対訳が封入され、ボーナス・トラックを追加収録される。なお、限定ブラック・ヴァイナルには購入者先着特典としてシングル「Don't Press Me」とアルバム未収録曲をカップリングした特典7インチ(レッド・ヴァイナル)をプレゼント。通常アナログ盤はホワイト・ヴァイナル仕様でのリリースとなり、どちらも初回限定日本語帯付仕様となる。現在各店にて絶賛予約受付中。

label: 4AD / Beat Records
artist: Dry Cleaning
title: Stumpwork
release: 2022.10.21 FRI ON SALE

国内盤CD
4AD0504CDJP(解説・歌詞対訳付/ボーナス・トラック追加収録/先着特典タオル)¥2,200+税

LP限定盤
4AD0504LPE(限定ブラック/初回日本語帯付仕様/先着特典7インチ)¥3,850+税

LP輸入盤
4AD0504LP(通常ホワイト/初回日本語帯付仕様)¥3,850+税

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12859

TRACKLISTING
01. Anna Calls From The Arctic
02. Kwenchy Kups
03. Gary Ashby
04. Driver's Story
05. Hot Penny Day
06. Stumpwork
07. No Decent Shoes For Rain
08. Don't Press Me
09. Conservative Hell
10. Liberty Log
11. Icebergs
12. Sombre Two *Bonus Track for Japan
13. Swampy *Bonus Track for Japan

Moor Mother - ele-king

 1960年代後半から1970年代初頭にかけて、ドラマーのアーサー・テイラーは、当時を代表するジャズ・ミュージシャンたちにインタヴューを行い、後に著書『Notes and Tones』にまとめた。ジャズが商業的な影響力を失いはじめた時代を捉え、シーンにおける政治的な力学から、当時は「フリーダム・ミュージック」と呼ばれていた音楽の様式的な刷新に至るまでのさまざまな議論が交わされているわけだが、なかでももっとも論争を引き起こしたのは、ジャズという言葉そのもので、アート・ブレイキーがたいした問題ではないと主張した一方、マックス・ローチなどはニューオーリンズの売春宿を起源とし、文脈によっては“クソ”と同義的に使われることもある言葉を自分たちの音楽に押し付けられたことに不快感を示した。ニーナ・シモンはこの問いかけに異なる角度からアプローチし、テイラーに「ジャズはただ音楽であるというだけでなく、生き様であり、在り方であり、物の考え方。それは、アフロ・アメリカ系の黒人を定義するものだ」と語った。
 『Jazz Codes』を聴きながら、私はこのことを思い出した。ムーア・マザーの最新ソロ・アルバムは、亡き詩人アミリ・バラカの精神にのっとって、過去と現在(彼女の言うところの「パッド(メモ帳)とペンで瞑想する)」のジャズ・ミュージシャンたちのリズムをリフにすると同時に、音楽を埋め込まれた記憶や奥深い真実として、異界の領域への入り口のように扱っている。2020年の『Circuit City』では、「タイムトラベルや 内外の次元を追求することは不可能‏‏/フリー・ジャズなしには」と宣言している。また、アルバムと同じぐらいの長さのビリー・ウッズとのコラボレーション作「Brass」では、「ブルースは、国が忘れてしまった全てのことを覚えている」と注目曲のひとつで書いている。

 『Jazz Codes』では、ムーア・マザーの最近のソロ・ミュージックの瑞々しさというトレンドが引き継がれ、2020年のロックダウン時にリリースされた『Clepsydra』や『ANTHOLOGIA 01』、そして昨年の『Black Encyclopedia of the Air』で紡いだ糸を繋いでいる。彼女は再びスウェーデンのプロデューサーでインストゥルメンタリストのオロフ・メランダーと組み、ある種の明晰夢の状態にあるイリュージョン(幻影)と暗示の音楽を呼び起こしている。いくつかの曲は小品に過ぎないが、これらは人を酔わせる、宇宙的な作品だ。

 いちばん長く、人を惑わせるような“Meditation Rag”では、サン・ラからジェリー・ロール・モートン、フィスク・ジュビリー・シンガーズといったアーティストの名前を挙げながら、そのまわりをアリャ・アル=スルターニのソプラノのヴォーカルが分散する光のように浮遊し、まるで降霊術の会の様相を呈している。他では、ジェイソン・モラン、メアリー・ラティモアにアイワのインリヴァーシブル・エンタングルメンツのバンド仲間がインストゥルメンタルで貢献し、R&Bヴォーカルのフックやサイケデリックな煌めきや、不明瞭なトリップ・ホップのリズムを紡ぐ。コラボレーションの多いこのようなアルバム制作では、あえてフォアグラウンド(前景)とバックグラウンドを分けていない事が多く、重なり合うヴォイスのなかからリスナー自身が、どれに焦点を当てて聴くのかを選ぶことを任される。
 クロージング・トラック“Thomas Stanley Jazzcodes Outro”では、作家でアーティストのトマス・スタンリーがテイラーの著書のテーマを拾い上げている。

  多くの評者たちが
  ジャズはかつてセックスを意味したと言っている
  そしておそらく、
  ジャズはセックスを意味するものに
  戻る必要があるだろう
  性行為や交尾、
  ハイパー・クリエイティヴィティ、
  繁殖力、
  そして誕生と同一視されるように。

 『Jazz Codes』の気だるいグルーヴは、アイワがイリヴァーシブル・エンタングルメンツとともに披露する扇情的なフリー・ジャズとは別世界のように思えるが、どちらも音楽が解放の源となり得るという鋭い認識を共有している。

 それはまた、彼女と同じフィラデルフィア在住のDJハラムとのデュオ、700 Blissの『Nothing To Declare』でもときどき響いている。このアルバムは、ムーア・マザーの作品のなかでも、2016年の『Fetish Bones』に代表されるようなより挑戦的な側面が好きなファンには即座に魅力的に映るだろうが、ここではサウンドと怒りがある種の無頓着なユーモアのセンスによって抑制されている。
 とくにアルバムの前半は、〈Hyperdub〉レーベル・メイトのアヤ(ピッチシフトを好む傾向を含めて)と共通する何かがあり、後半ではクラブから遠くへ離れ、ときには毒気の少ないファルマコンにも似た趣となる。アイワの歌詞は徹底的にルーズで、歌うような韻と言葉のフィジカリティを楽しんでいるように聞こえる。“Bless Grips”で彼女がデス・グリップスのフロントマン、MCライドのリズムを真似る様子をチェックしてほしい。まるでコメディの寸劇のような“Easyjet”では、700 Blissをあきれ顔で批判する二人組をデュオが演じている(おいおい、これはそもそも音楽と言えるのか?)
 しかし、より深いところまで切り込んでいるのは、傑出した曲たちだ。“Capitol”でのアイワの冒頭のヴァースは、血で書かれた一般教書演説で(夢の成分をすすりたい/私たちを奴隷にした奴らの喉を切り裂きたい)、何時間でも没頭できる。ほぼインダストリアル・テクノのような“Anthology”では、20世紀半ばに人類学に基ずき振付を芸術に変えた〝ラック・ダンスの女家長〟として活躍したキャサリン・ダナムにオマージュを捧げている。
 さらに、数年前にリリースされた“Sixteen”は、このデュオのこれまでの最高傑作といえるかもしれない。アイワは、「もう戯言にはうんざりだ、世界はとても暴力的だ/自分だけの島が欲しい。でも奴らが気候を破壊した」と激しく非難し、ダンスフロアに自らを解き放つ前に「私はただ踊って汗をかきたい/踊って忘れてしまいたいだけ」と歌う。それは、世界がどれほどひどい場所かというのを無視することではなく、生き残るためのツールを見つけることだ。それは音楽であるというだけでなく、生き様や物の考え方のひとつなのだから。


by James Hadfield

In the late 1960s and early 1970s, the drummer Arthur Taylor conducted a series of interviews with some of the day’s leading jazz musicians, later collected in his book “Notes and Tones.” It captured a period when jazz was losing its commercial clout, while debates raged over topics from scene politics to the stylistic innovations of what was then still called “freedom music.” But one of the most contentious issues was the word itself: jazz. While Art Blakey insisted it was no big deal, others, such as Max Roach, were upset that their music had been lumbered with a term that originated in the brothels of New Orleans, and in some contexts could be used interchangeably with “shit.”

Nina Simone approached the question from a different angle. “Jazz is not just music, it’s a way of life, it’s a way of being, a way of thinking,” she told Taylor. “It’s the definition of the Afro-American black.”
I was reminded of this while listening to “Jazz Codes.” Moor Mother’s latest solo album finds her working in the spirit of the late poet Amiri Baraka, riffing on the rhythms of jazz musicians past and present (“meditatin′ with the pad and the pen,” as she puts it), but also treating the music as a source of embedded memories and deeper truths—a portal to other realms. As she declared on 2020’s “Circuit City”: “You can’t time travel / Seek inner and outer dimensions / Without free jazz.” Or, in the words of one of the standout tracks from “BRASS,” her album-length collaboration with billy woods: “The blues remembers everything the country forgot.”

“Jazz Codes” continues the recent trend in Moor Mother’s solo music towards lushness, picking up the thread from her 2020 lockdown releases “Clepsydra” and “ANTHOLOGIA 01,” and last year’s “Black Encyclopedia of the Air.” Once again, she works with Swedish producer and instrumentalist Olof Melander to conjure a sort of lucid-dream state: a music of illusions and allusions. Even though some of the tracks are barely more than vignettes, this is heady, cosmic stuff.
On “Meditation Rag,” one of the longest and most transporting songs, she seems to be staging a seance, name-checking artists from Sun Ra to Jelly Roll Morton to the Fisk Jubilee Singers as the soprano vocals of Alya Al-Sultani float spectrally around her. Elsewhere, instrumental contributions—including by Jason Moran, Mary Lattimore and Ayewa’s bandmates from Irreversible Entanglements—weave together with R&B vocal hooks, psychedelic shimmer and slurred trip-hop rhythms. In an album heavy on collaborations, the production often doesn’t distinguish between foreground and background, leaving listeners to decide which of the overlapping voices to focus on.
On the closing track, “Thomas Stanley Jazzcodes Outro,” author and artist Thomas Stanley picks up on a theme from Taylor’s book:

“Many observers have told us that jazz used to mean sex
And maybe it needs to go back to meaning sex:
To being identified with coitus and copulation,
Hyper-creativity, fecundity and birth.”

Although the languid grooves of “Jazz Codes” may seem a world apart from the incendiary free-jazz that Ayewa serves up with Irreversible Entanglements, both share a keen awareness of how music can be a source of liberation.
That’s echoed occasionally on “Nothing to Declare” by 700 Bliss, her duo with fellow Philadelphia resident DJ Haram. It’s an album that will instantly appeal to fans of the more confrontational side of Moor Mother’s work, typified by 2016’s “Fetish Bones,” though here the sound and fury is tempered by an insouciant sense of humour.

Especially during its first half, the album has something in common with Hyperdub label-mate Aya (including a penchant for pitch-shifted vocals); later on, it drifts further from the club, at times resembling a slightly less bilious Pharmakon. On many of the tracks, Ayewa’s lyrics sound downright loose, happy to delight in sing-song rhymes and the physicality of words; check the way she seems to mimic the cadences of Death Grips frontman MC Ride on “Bless Grips.” There’s even a comedy skit, “Easyjet,” in which the duo play a pair of eye-rolling naysayers talking smack about 700 Bliss (“I mean, come on, is this even music?”).
However, the standout tracks are the ones that cut a little deeper. You could spend hours picking apart Ayewa’s opening verse in “Capitol,” a state-of-the-nation address written in blood (“I wanna sip what dreams are made of / I wanna slice the throat of those who enslaved us”). On “Anthology”—over a track that’s practically industrial techno—she pays tribute to Katherine Dunham, the “matriarch of Black dance,” whose pioneering anthropology transformed artistic choreography during the mid-20th century.

Then there’s “Sixteen,” first released a couple of years ago, which may just be the best thing the duo has done so far. “I'm tired of the bullshit, the world's so violеnt / I just want my own island, but they destroyed thе climate,” Ayewa declaims, before finding her release on the dancefloor: “I just wanna dance and sweat / I just wanna dance and forget.” It’s not about ignoring what a fucked-up place the world is, but finding the tools to survive. It’s not just about the music: it’s a way of being, a way of thinking.

Don't DJ - ele-king

 アンダーグラウンドでカッティングエッジなダンス・ミュージックのカセットテープを発売し続けているファッション・ブランドの〈C.E〉、今回は、Don't DJことFlorian Meyerによる作品「Nulla Crux Nulla Corona」。〈Honest Jon's〉をはじめ〈Berceuse Heroique〉や日本の〈EM Record〉などすでに多くの作品でファンを魅了している。
 「Nulla Crux Nulla Corona」は超アンダーグラウンドな雰囲気が充満する、じつに尖った内容で、収録されている3曲すべてがDon't DJの新曲。これはお薦めです。(C.Eのウェブサイトにて試聴できます)

アーティスト:Don't DJ
タイトル:Nulla Crux Nulla Corona
カタログナンバー:CESAR33
フォーマット:カセットテープ
音源収録時間:約31分
価格:1,100円(税込)
販売場所:C.E
〒107-0062 東京都港区南青山5-3-10 From 1st 201
https://g.page/cavempt
問合せ先:C.E www.cavempt.com

Mykki Blanco - ele-king

 LAのラッパー、ミッキー・ブランコのニュー・アルバム『Stay Close To Music』が10月14日にリリースされる。プロデューサーは昨年のミニ・アルバム『Broken Hearts & Beauty Sleep』同様、フォルティDLが務めており、さまざまなジャンルからの影響を落とし込んだ1枚に仕上がっているようだ。ソウル・ウィリアムズ、アノーニケルシー・ルー、デヴェンドラ・バンハートにシガー・ロスのヨンシーなど、客演陣にも注目。

ラッパー/詩人/トレイルブレイザー、ミッキー・ブランコのニュー・アルバムが完成。
2021年のミニ・アルバム『ブロークン・ハーツ・アンド・ビューティ・スリープ』に続く自身2枚目のフル・アルバム『ステイ・クロース・トゥ・ミュージック』、トランスグレッシヴよりリリース。

●プロデュース:フォルティDL
●ゲスト:マイケル・スタイプ(R.E.M.)、ソウル・ウィリアムズ、アノーニ、ダイアナ・ゴードン、デヴェンドラ・バンハート、エメニケ、ヨンシー(シガー・ロス)他
アルバムより、「French Lessons」のビデオを公開。

★Mykki Blanco - French Lessons (Official Video) ft. Kelsey Lu
https://youtu.be/xTBlghQ7eJM

2022.10.14 ON SALE[世界同時発売]


■アーティスト:MYKKI BLANCO(ミッキー・ブランコ)
■タイトル:STAY CLOSE TO MUSIC(ステイ・クロース・トゥ・ミュージック)
■品番:TRANS580CDJ[CD/国内流通仕様]
■定価:未定
■その他:世界同時発売、解説付
■発売元:ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ
■収録曲目:
01. Pink Diamond Bezel
02. Steps (feat. Saul Williams and MNEK)
03. French Lessons (feat. ANOHNI and Kelsey Lu)
04. Ketamine (feat. Slug Christ)
05. Your Love Was A Gift (feat. Diana Gordon)
06. Family Ties (feat. Michael Stipe)
07. Your Feminism Is Not My Feminism (feat. Ah-Mer-Ah-Su)
08. Lucky
09. Interlude
10. Trust A Little Bit
11. You Will Find It (feat. Devendra Banhart)
12. Carry On (feat. Jónsi)

Your Love Was A Gift
https://youtu.be/yhEW4ViE_MQ?

Mykki Blanco - Family Ties (Official Video) ft. Michael Stipe
https://youtu.be/_KIFN6T-Xvg

●Mykki Blancoのニュー・アルバム『Stay Close To Music』は、これまでMykkiがリリースしてきた作品とは一線を画す。これは、Mykkiの芸術性に関してこれまで抱いていた思い込みを打ち砕き、Mykkiが自由に自らのサウンドを定義できるようにするアルバムだ。詩人、アーティスト、ミュージシャンのMykki Blancoは、その進化を通して、ジャンルを常に曖昧にしてきた。レイブ、トラップ、グランジ、パンクからの影響を、クィア/トランスとしての経験を称える実験的なヒップホップの渦の中に引き込んできたのである。今回、Mykkiは、自分たちの音の世界を一から創り上げたい、という結論に達し、プロデューサーでマルチインストゥルメンタリストのFaltyDLとコラボレート。豊かな生楽器による新しいサウンドスケープを思い描くことを可能にした。曲作りはリスボン、パリ、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスで行われ、数々のジャムセッションを通じて曲が作られていった。2019年までに、Mykkiは2つの異なるレコードを同時に制作していることに気付いた。1枚目は2021年の賞賛されたミニ・アルバム『Broken Hearts & Beauty Sleep』、2枚目は『Stay Close To Music』となった。『Stay Close To Music』には、Michael Stipe、Saul Williams、ANOHNI、Diana Gordon、Devendra Banhart、MNEK、Jónsi等がフィーチャリングされている。

●Mykki Blancoはアメリカのラッパー、詩人、パフォーマー、活動家だ。2012年にEP『Mykki Blanco & the Mutant Angels』でデビュー。『Betty Rubble: The Initiation』(2013年)、『Spring/Summer 2014』(2014年)と2枚のEPを経て、2016年9月にデビュー・アルバム『Mykki』をリリース。クィア・ラップ・シーンのパイオニアとして知られ、Kanye WestやTeyana Taylor等とコラボレート。MadonnaのMVへ出演し、Björkとツアーを行なったりもしている。2021年には5年振りとなるオフィシャル作品である9曲入りのミニ・アルバム『Broken Hearts & Beauty Sleep』をTransgressive Recordsよりリリース。スペシャル・ゲストとしてBlood Orange(Dev Hynes)、Big Freedia、Kari Faux、Jamila Woods、Jay Cue、Bruno Ribeiro等がフィーチャーされたこの新作は高い評価を博した。

■More info: https://bignothing.net/mykkiblanco.html

Dry Cleaning - ele-king

 昨年の『New Long Leg』が高い評価を得たロンドンのバンド、ドライ・クリーニング。エレキングでも年間ベストの4位に選出しましたが、先日セカンド・アルバムのリリースがアナウンスされています。発売はCD・ヴァイナルともに10月21日、現在 “Don't Press Me” が公開中です。

Dry Cleaning
大注目の新世代バンド、ドライ・クリーニング
最新アルバム『Stumpwork』を10月21日に発売!

ロンドンを拠点に活動するバンド、ドライ・クリーニングが、10月21日にセカンド・アルバム『Stumpwork』を発売することを発表した。合わせてリード・シングル「Don't Press Me」のMVを公開した。デビュー・アルバム『New Long Leg』は、全英アルバム・チャートで4位を獲得、2021年のベスト・アルバムの一つとしても選定され高い評価を得ている。(The New York Times、Pitchfork、SPIN、The Atlantic、The Ringerが、その年のトップ10アルバムに選出)ここ日本でも音楽専門誌からファション誌まで幅広いメディアに取り上げられ、絶賛された。

公開された「Don't Press Me」は、ゲームをする快感と、強烈だが短命な、罪悪感のない体験の楽しさについて歌っている。ヴォーカルのフローレンス・ショウは、次のように語っている。「コーラスの言葉は、自分の脳みそに向かって歌う曲を書こうとして生まれたの。『あなたはいつも私と敵対している/あなたはいつも私にストレスを与えている』ってね。」アニメーションによるオフィシャル・ビデオは、ピーター・ミラードが手がけたもので、ナイーブに描かれたバンドの姿が、曲のフックとリフに完璧にマッチしている。

Dry Cleaning - Don't Press Me
https://www.youtube.com/watch?v=gjVc8lYIaUM

アルバム『Stumpwork』は、2021年末にウェールズの田園地帯に戻り、再びジョン・パリッシュとエンジニアのジョー・ジョーンズとタッグを組み製作された。同じスタジオで、同じチームと信頼関係を築いたことで、インポスター症候群(*自分の能力や実績を認められない状態)と不安感は、自由へと変換され、すでに豊かだった彼らの音のパレットをさらに探求し、自分たちのクリエイティブなビジョンにさらなる自信をつけることができた。新作は様々な出来事や概念、政治的混乱からインスピレーションを受けている。今回もシュールな歌詞が前面に押し出されているが、家族や、金、政治、自虐、官能といったテーマに対する感受性も新作では高まっている。作品全体に渡り、激しいオルタナ・ロックのアンセムがジャングル・ポップやアンビエント・ノイズと融合し、バンドが受けてきた影響の豊かさと彼らの音楽に対する深い造詣として表れている。

アルバムとシングルのアートワークは、他分野で活躍するアーティスト・デュオであるロッティングディーン・バザール(Rottingdean Bazaar)と写真家のアニー・コリンジ(Annie Collinge)によって考案・制作された。本作の日本盤CDには解説および歌詞対訳が封入され、ボーナス・トラックを追加収録される。なお、限定ブラック・ヴァイナルには購入者先着特典としてシングル「Don't Press Me」とアルバム未収録曲をカップリングした特典7インチ(レッド・ヴァイナル)をプレゼント。通常アナログ盤はホワイト・ヴァイナル仕様でのリリースとなる。6月15日より各店にて随時予約がスタートする。

label: 4AD / Beat Records
artist: Dry Cleaning
title: Stumpwork
release: 2022.10.21 FRI ON SALE

国内盤CD:4AD0504CDJP ¥2,200+税
解説+歌詞対訳冊子/ボーナストラック追加収録

CD 輸入盤:4AD0504CD
¥1,850+税

LP 限定盤:4AD0504LPE(限定ブラック/先着特典7インチ)
¥3,850+税

LP 輸入盤:4AD0504LP(通常ホワイト)
¥3,850+税

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12859

TRACKLISTING
01. Anna Calls From The Arctic
02. Kwenchy Kups
03. Gary Ashby
04. Driver's Story
05. Hot Penny Day
06. Stumpwork
07. No Decent Shoes For Rain
08. Don't Press Me
09. Conservative Hell
10. Liberty Log
11. Icebergs
12. Sombre Two *Bonus Track for Japan
13. Swampy *Bonus Track for Japan

edbl × Kazuki Isogai - ele-king

 トム・ミッシュ以降を担う存在として人気を集めているロンドンのプロデューサー、エドブラックと大分のギタリスト、磯貝一樹とのコラボ作がリリースされる。発売はCDが9月7日、LPが12月21日。エドブラックのソウルフルな音楽と磯貝のジャジーなギターが生み出すマジックを楽しみたい。

山本アキヲの思い出 - ele-king

山本アキヲとシークレット・ゴールドフィッシュ
文:三浦イズル


「ほな、行ってきますわ」

 アキヲと最後に電話をした数日後に、アキヲの突然の訃報が届いた。シークレット・ゴールドフィッシュの旧友、近藤進太郎からのメールだった。
 2021年秋頃からアキヲは治療に専念していた。その治療スケジュールに沿っての入退院だった。その間もマスタリングの仕事をしていたし、機材やブラック・フライデー・セールで購入するプラグインの情報交換なども、電話でしていた。
 スタジオ然とした病室の写真も送って来た。Logic Proの入ったMacbookProや、小型MIDIキーボード、購入したてのAirPodsProも持ち込んでいた。Apple Musicで始まった空間オーディオという技術のミックスに凄く興味を持っていて、「これでベッドでも(空間オーディオの)勉強ができるわ〜」と嬉しそうだった。

「夏までに体力をゆっくり戻して、復活やわ」

 明日からの入院は10日間で、これで長かった治療スケジュールもいよいよ終了だと言っていた。

「ほな、行ってきますわ。じゃ10日後にまた!」

 近所にふらっと買い物にでも行く感じで電話を切った。その日は他の友人にも連絡しなくてはいけないということで、2時間という短い会話だった。
 アキヲと俺はお互い本当に電話が好きで、普通に何時間も話す。あいつが電話の向こうでプシュッと缶を開けたら「今日は朝までコースだな」と俺も覚悟した。明日の仕事のことは忘れ、まるで高校生のように会話を楽しんだ。話題が尽きなかった。
 電話を切った後、アキヲが送ってきた写真をしばらく眺めていた。
 それは先日一気に購入したという、2本のリッケンバッカーのギターとフェンダーUSAのテレキャスターを自慢げに並べたものだった。

「リッケン2本買うなんて気狂いやろ!」
 中学時代父親にギターをへし折られて以来、ギターは弾いていなかったらしい。

「最近無心でギターずっとジャカジャカ弾いてんねん。気持ちええな」
「今さらやけどビートルズってほんますごいわ」
「ほんまいい音やで。今度ギターの音録音して送るわ」

 アキヲの声がいまだにこだまする。
 赤と黒のリッケンバッカーたちが眩しかった。


俺はそいつを知っていた——アキヲとの出会い

 シークレット・ゴールドフィッシュは1990年に大阪で結成された。英4ADの人気バンド、Lushの前座をするためだ。その辺りのエピソードに関しては以前、デボネアの「Lost & Found」発売の際に寄稿したので、そちらをご覧になっていただきたい。
 1990年、Lushの前座が終わり、ベースを担当していたオリジナルメンバーのフミが抜けることになった。フミも経営に携わっていたという、当時はまだ珍しいDJバーの仕事に専念するためだ(その店ではデビュー前の竹村延和が専属DJをしていた)。
 そんななか、近藤が「同級生にめっちゃ凄い奴がおるで」と言って、ベーシストを紹介してくれることになった。
「学生時代番長や」近藤は得意のハッタリで俺をビビらせた。当時勢いのあった大阪のバンド、ニューエスト・モデルのベース・オーディションにも顔を出したことがあったという(*)。「むっちゃ怖いで〜、顔が新幹線みたいで、まさにゴリラや」そして俺の部屋にアキヲを連れてきた。たぶん、宮城も一緒だったと思う。
 現れたのは近藤の大袈裟な話とは違い、体と顔はたしかにゴツイが、気さくで物腰の柔らかい男だった。しかも俺はそいつを知っていた! 忘れることもできないほど、俺の脳裏に焼きついていた人物だったからだ。
(*)現ソウル・フラワー・ユニオンの奥野真哉氏の回想によれば、「ええやん、やろや!」となったそうだがその後アキヲとは連絡取れず、この話は途絶えてしまったそうだ)

 1989年か1990年に、(たぶんNHKで放送していたと記憶しているが)「インディーズ・バンド特集」的な番組を観ていた。新宿ロフトで演奏する大阪から来たというパンク・バンドの映像が流れた。彼らはインタビューで語気を強めて答えた。
「わしらぁ武道館を一杯にするなんてクソみたいなこと考えてないからやぁ」
 そう語る男の強面な顔と威切った言動が強く印象に残った。
 しばらくして、バイト帰りに梅田の書店で無意識に「バンドでプロになる方法」らしきタイトルの本を立ち読みした。その本の序文の一説に、先日NHKで見た「武道館クソ発言」とそのバンドについて書いてあった。それは否定的な内容で、そういう考えのもとでは一生プロにはなれない、と著者は断じていた。
「あいつや……」
 忘れようとしても忘れられない、あの大阪のバンドの奴の顔が浮かんだ。
 そう、近藤が連れてきた番長の同級生、目の前の男こそが「あいつ」だった。山本アキヲ。物腰の柔らかさと記憶とのギャップに驚いた。

 俺も最近知ったのだが、シークレットのメンバーは大阪市内の中学の同級生が半分を占めていたらしい。近藤進太郎、山本アキヲ、朝比奈学、近所の中学校の宮城タケヒト。皆、俺と中畑謙(g. 大学の同級生)とも同い年だった。彼らは「コンフォート・ミックス」というツイン・ヴォーカルのミクスチャー・バンドをやっていて、自主制作レコードもその時持参してくれた。同じ日に宮城も加入した。
「コンフォート・ミックス」のLPは在庫がかなりあったらしく、シークレットがCDデビューする前の東京でのライヴで便乗販売していた。当時の購入者は驚いただろうが、今となっては超貴重盤である。

  こうしてアキヲがしばらく、シークレットのベースを担当することになった。俺にとっては運命的な出会いだった。その友情はその後30年以上も続くのだから。


1991-アキヲと宮城が゙加入した頃-京都にて

 アキヲはシークレットのベースとして多くライヴに参加したが、仕事の都合で渡米したりするので、アキヲの他にも朝比奈、ラフィアンズのマコちゃん(後にコンクリート・オクトパス)など、ライヴの際は柔軟に対応していた。
 2nd EP「Love is understanding」では、アキヲが2曲ベースでレコーディングに参加している。東京のレコーディング・スタジオまで飛行機で来て、弾き終えると大阪へとんぼ帰りだった。今思えば仕事との両立も大変だったろうに、本当にありがたい。アキヲが他のメンバーよりも大人びていると感じたのは、そういう姿も見ていたからかも知れない。


LOVE IS UNDERSTANDING / SECRET GOLDFISH 1992

 シークレットは多くの来日アーティストのオープニング・アクト(前座)を務めていた。その中でも英シェイメン(Shamen)のオープニング・アクトは特に印象に残っている。
 俺たちのライヴには「幕の内弁当」というセットリストがあった。「もっと見たいくらいがええねん」と、踊れる7曲を毎回同じアレンジ、ノンストップで30分ほど演奏していた。
 せっかくシェイメンと一緒のステージだし、いつもの演奏曲も宮城のエレクトロ(サンプラー)を前面に出したアレンジに変えた。練習も久しぶりに熱が入った。アキヲはそのスタイルに合わせ、ベースラインを大きく変えて演奏した。

「ええやん、そのベース(ライン)」
「せやろ!」

 そのライヴでの「Movin’」のダンスアレンジは今でもかっこいいと思う。その時のアレンジが先述のEP「Love is〜」や「Movin’」のリミックス・ヴァージョンに、宮城タケヒト主導で反映された。


MOVIN' / SECRET GOLDFISH (Front act for SHAMEN,1992)


1991年の大阪にて

 シークレットの最初期こそ京都を中心にライヴをしていたが、活動場所は地元の大阪へと移っていく。心斎橋クアトロをはじめ、十三ファンダンゴ、難波ベアーズ、心斎橋サンホール、大阪モーダホールなどでライヴをした。
 ちなみに91年難波ベアーズでのライヴの対バンは、京都のスネーク・ヘッドメンだった。「アタリ・ティーンエイジ・ライオット」を彷彿させるパンク・バンドだった。アキヲとTanzmuzikのオッキーことOKIHIDEとの出会いはその時だったのかもしれない。
 心斎橋サンホールでは「スラッシャー・ナイト」にも参加した。出演はS.O.BとRFDとシークレット。そのイベントに向けてのリハーサルは演奏より、メンチ(睨むの大阪弁)を切られても逸らさない練習をした記憶がある。なんせ近藤と宮城が真顔でこういうからだ。「ハードコアのライヴは観客がステージに上がって、ヴォーカルの顔面1cmまで顔近づけてメンチ切るんや。イズルが少しでも目逸らしたら、しばかれるでぇ」
 アキヲは笑ってたと思う。俺も負けじとドスの効いたダミ声で「Don't let me down」と歌うつもりで練習した。当日、S.O.BのTOTTSUANがシークレットのTシャツを着て登場し、「次のバンドはわしが今一番気に入ってるバンドや!」とMCで言ってくれたおかげでライヴは超盛り上がった。予期せぬ事態にメンバー一同胸を撫で下ろした。

 10月にはデビュー・アルバムも発売され、そこそこヒットした。あまり実感はなかったが、心斎橋あたりを歩いていると、その辺の店から自分の下手な歌が聞こえてくる。と、同時に多くの「ライヴを潰す」とか「殺す」などの噂も耳に入った。それはかなり深刻で、セキュリティ強化をお願いしたこともあったほどだ。


1992-心斎橋クアトロ-4人でのステージ

 そんな状況下でアキヲとの関係が深まる出来事が起こる。英スワーヴ・ドライヴァーの前座、クラブチッタ川崎でオールナイト・イベントがあり、その夜にはそのまま心斎橋クアトロでワンマンという日だった。諸事情で近藤と宮城はそれらに参加できなくなった。ステージを盛り上げる二人の不参加に俺は不安になった。

「ガタガタ抜かしてもしゃあない、わしも暴れるし思い切りやろうや!」

 その言葉通りアキヲは堂々と4人だけのステージで、近藤のコーラス・パートも歌いながらリッケンバッカーのベースを弾いた。その姿とキレのある動きはまさにザ・ジャムのベーシスト、ブルース・フォクストン! しかもチッタでは泥酔&興奮してステージに上がろうとする外国人客を蹴り落としたり、演奏中に勢い余って転んで一回転しながらも演奏を続けたりしてめっちゃパンク! 派手なステージングに俺のテンションも上がった。

 大阪行きの新幹線で初めてアキヲと向き合って話した。距離が少し縮まった気がした。


Taxman - Secret Goldfish 1992 @ CLUB CITTA'


祭りの後

 心斎橋のワンマンも無事に終え、シークレットはさらに勢いづいた。が、元来気性の荒い個性的な集団だっただけに、ぶつかり合いも多々あった。若さだけのせいにはしたくないが、未熟でアホやった。俺も独善的だった。
 祭りはいつかは終わるものだが、神輿の上に乗ったまま、知らない間にそれは終わっていた。バンドもメンバー・チェンジをしながら、音楽の新しいトレンドが毎月現れる、激流のようなシーンのなかで抗った。次第にメンバー同士が会う機会も減った。
 正式に解散したわけでもなくフェード・アウトしていく。それは単に、皆がそれぞれ違う音楽や表現手法に興味が向かっただけだった。無責任ではあるが、ごく自然なポジティヴな流れで、決して感傷的ではない。もともと皆新しもの好きだったのだから。


アメ村で見たフードラム

 暫くアキヲをはじめとするメンバーとは連絡を取り合っていなかったが、96年頃大阪に行った時、アメ村の三角公園前にある、アキヲが働いていた古着屋に立ち寄った。
 Hoodrumのメジャー・デビュー直後で、レコードショップでは専用コーナーも作られていた頃だ。アキヲがどんどん有名になっていくのは俺も嬉しかったし、誇らしかった。
 その店に立ち寄ったのも、単に一緒にいた仲間にアキヲの店だよ、と自慢したかっただけだが、レジのカウンター越しで怠そうに座っていたのはアキヲ本人だった。メジャー・デビューであれだけメディアに露出してるのに、普通に店番もしているなんて、まさにシークレット時代のアキヲのままだ。かっこ良すぎる。
 まだ携帯もメールもない時代。アキヲは当時と変わらず接してくれた。考えてみるとアキヲとは、過去から今に至るまで一度も衝突したことがない。それだけ大人だったんだな、とふと思う。
それ以来、時々また連絡を取り合うようになった。

 ミックス作業が上手くいかなくなった時などアキヲに聞くと、
「ミックスっちゅうんは一杯のコップと考えればいいんよ。その中で音をEQなどで削って、上手に配置するんやで」
 今ではAIでもやってくれるマスキングという作業についてだ。
 当時その情報は目から鱗だった。今でもミキシングの真髄だと思っている。


2000年の夏、河口湖にて。居候・山本アキヲ

 2000年の夏、アキヲが河口湖の俺の仕事場兼自宅に、2ヶ月ほど滞在(と言えばかっこいいが居候だな)することになった。その経緯は割愛するが、アキヲはちょっといろいろと精神的に疲弊していたんだと思う。俺も同じ経験をしているので、それは思い違いではないだろう。

「富士山をみると背筋が伸びんねん。叱られてる気分やわ」


2000-西湖にて富士山をバックにするアキヲ

 富士北口浅間神社では「今まで訪れた神社で一番空気が凛としてるわ」など気分転換になったと思う。慣れてくると自転車に乗って一人で河口湖を一周したり、俺の実家の父親の仕事を手伝ったりして汗も流していた。
 夜になると必ず一緒に音楽を爆音で聴きながら酒を呑んだ。湖畔の古民家だったので、夜中の大音量に関しては問題ない。まだSpotifyなどの配信は当然ない時代。俺のレコードやCDライブラリを聞いた。時には湖畔で夜の湖を眺めながら。
 日課のように聴いていたのは、B-52'sやThe Clash、JAPANやコステロなどのニューウェイヴ、他にもグレイトフル・デッド、ティム・バックリィ等々。音楽なら何でも。クラシックから民謡までも聴いたりした。Cafe Del Marを「品質がええコンピ」と紹介してくれたのもこの時期だった。

 酒が深くなると職業柄のせいか、制作側の視点へと熱を帯びながら話題も変化していく。例えばこんな感じに。

「The Clashの『London Calling』 (LP)のミックスは研究したけど、あれは再現不可能や。誰にも真似できひん」

「(Tanzmuzikの2ndのつんのめるようなリズムについて)あれはな、脳内ダンスなんや。頭の中で踊るんやで」

「(大量に持参した89年辺りの当時一番聴かないようなDJ用レコードについて)今は陽の目を見ないこれらの音楽を切り刻み、そのDNAを生かして再構築して再生させるんや」──その手法で作られたSILVAのリミックスには本当に驚いたのを覚えている。

「リヴァーブは使わんとディレイだけで音像を処理するんよ」

 アキヲには音のみならず、何事に対しても独特の哲学とインテリジェンスがあった。感心するほどの勉強家で、読書家でもあった。何冊かアキヲの忘れていった本があるが、どれも難しい評論や硬派な文学だった(吉本隆明著『言語ににとって美とはなにか』など)。
 例えば不動産の仕事に就けば、一年掛かりで宅建資格を取得して驚かせる。他の仕事に就いた時も常にそうだ。そして、楽しそうにその仕事のことを話す。とことん深く掘り下げる。高杉晋作の句に置き換えると「おもしろき こともなき世を おもしろく」を体現していた。

 俺たちはギターの渡部さん(渡部和聡)とアキヲと3人で、シークレット・ゴールドフィッシュとして4曲レコーディングした。2000年の夏の河口湖の記録として。


2000-河口湖のScretGoldfishスタジオにてくつろぐアキヲ


あの最高の感覚

 いつだったかアキヲがまた大阪から河口湖に来た際、旧メンバー数人でスタジオに入った。
 まず「All Night Rave」を合わせたのだが、その刹那、全身が痺れた。これだよ。この感覚。タツル(Dr)のドラムとアキヲの太くうねるベース。全員の息の合った演奏とグルーヴ。一瞬で時が巻き戻された。そう感じたのは俺だけではないはず。皆の表情からも伝わってきた。

 バンドは結婚と似ているというが、俺は今でもそう思う。シークレット以来パーマネントのバンドは組んでない。ごくたまにベースで手伝うことはあったが、まあ正直興奮はしない。だけど、このセッションではアドレナリンが溢れた。この快感が忘れられないからだったんだな。


山本アキヲとシークレット・ゴールドフィッシュ

 今回のアキヲの訃報で多く人の哀悼の言葉を読んだ。アキヲの音楽と人柄が愛されていることを知り、本当に嬉しかった。と同時にモニター越しに「厳然たる事実」を突きつけられ、不思議な感覚に陥った。3月から気持ちの整理を徐々にしているつもりだったのに。
 俺の知らないアキヲの側面を知っている仲間もたくさんいるし、各々がアキヲとの大切な思い出や関係性を持っている。近藤や宮城たちは謂わば幼なじみだ。その心中は俺には計り知れない。
 ただ、今こうしてシークレット・ゴールドフィッシュのメンバーと気兼ねなく電話やメールもでき、本当に幸せだと感じる。アキヲの訃報を直接口で伝え、アキヲとの馬鹿な思い出話を笑いながらできたことは良かった。ネットニュースで聞いたという形にはしたくなかった。
  バンドとしての在籍期間や活動期間は短かかったが、20歳そこそこの多感な時期、一緒に経験したあの密度の濃い瞬間は永遠だ。
 アキヲのマスタリングで過去のアルバムをサブスク(配信)に入れる話もしてたが、今後どうするかはまだ決めていない。

 アキヲは昨年から、河口湖にマンションを買って引っ越すつもりで調べていた。冗談なのか本気だったのかは、今となってはわからない。俺も地元の仲間も、その話には大歓迎だった。これからも酒を飲みながら音楽の話をしたり、一緒に制作したりする将来を楽しみにしていた。そういえば河口湖は第二の故郷だといっていたなあ。

 アキヲとの話はここでは語りきれないし、語らない。ただ、全部を胸に秘めておくだけでもいけない、ともう一人の自分が言う。アキヲという人間の一面を知ってもらうためだ。
 アキヲの音楽がそれを一番多く語ってくれている。そう、俺たちは音楽家だ。

「イズルも俺もミュージシャンやないねん。抵抗あるやろ? アーティストとか」
「音楽家や。今でも俺らはこうして音楽に携わっている。感謝せなあかんくらい、これってむっちゃ幸せなことやで」
 酒をごくりと飲む音と一緒にあいつの叱咤する声が聞こえた。

 最後にアキヲが言った一番嬉しく、一番心強かった言葉を記して終わることにする。
「イズルがシークレットやるって言うんなら、わしゃあいつでもやるで!」

 アキヲ、ありがとう。

2022年6月30日

三浦イズル(Secret Goldfish)


"All Night Rave" Secret Goldfish (12/07/15)


https://secretgoldfish.jp/
Secret Goldfish in 1991 ;
Drums:Tatsuru Miura
Bass: Akio Yamamoto
Guitar:Ken Nakahata
Vocal & Guitar:Izuru Miura
Dance & Shout: Shintaro Kondo
Synth & Sampler: Takehio Miyagi

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アキヲさんとの思い出のいま思い出すままの断片
文:Okihide

■出会った頃

 たぶん91年かそこらの、なんかやろうよって出会った頃にアキヲさんが作ってくれた「こんなん好きやねん曲コンパイルテープ」。当時みんなよくやった、その第一弾のテープには、そのちょっと前にくれたアキヲデモのテクノな感じではなく、フランス・ギャル(お姉さんからの影響だと、とても愛情を込めて言っていた)やセルジュ・ゲンズブールの曲が入っていた。僕がシトロエンに乗っていたのでフレンチで入り口をつくったのか、そこからのトッド・ラングレンの“ハロー・イッツ・ミー”や“アイ・シー・ザ・ライト”、その全体のコンセプトが「なんか、この乾いた質感が好きやねん」って、くれたその場のアキヲの部屋で聴かせてくれた。その彼は当時タイトに痩せながらもガタイが良く、いつものピチピチのデニム、風貌からもなんとなくアキヲさんは乾いたフィーリングを持っていて、で、その好きな音への愛情や気持ち良さをエフェクトのキメや旋律に合わせて手振り身振り、パシっとデニム叩きながら、手で指揮しながら語ったくれた。
 その部屋には大きな38センチのユニットのスピーカーがあって、周りを気にせずでかい音で鳴らしてたのは僕と同じ環境で、その音の浴び方もよく似ていたが、昭和な土壁の鳴りは乾きまくってて、そんなリスニングのセッティングもアキヲさんの一部だった。
 そのテープの最後に入っていたYMOは、彼が少年期に過ごしたLA時代に日本の音として聴いたときの衝撃について話してくれた。初期のTanzmuzikに、僕がよく知らなかった中期のYMOへのオマージュ的な音色がときどき出てくるのも、こうした出来事があったから。
 そんなことがあって、アキヲさんには、その体格を真似できないのと同じように、真似できない音楽的感性の何かがあって、そこにはお互いに共鳴するものがあると気づいて、リスペクトする関係になった、そんな初めの頃のエピソードを思い出す。

 〈Rising high〉 のファーストが出て、やっとお互いいちばん安いそれぞれ違うメイカーのコンソール買って、少しは音の分離とステレオデザインがマシになったけど、それまではほんとにチープなミキサーと機材でやっていた。そのチープ機材時代の印象的な曲として、“A Land of Tairin”という曲がある。アキヲさんがシーケンスやコード、ベースなど全ての骨格の作曲を作って、こんなん……って聴かせてくれたものに僕がエフェクトやアレンジを乗せた曲。このノイズ・コードをゲート刻みクレシェンドでステレオ別で展開させたいねん!って、アキヲさんに指と目で合図しながら、2人並んで1uのチープなゲートエフェクタのつまみをいじって、当時のシーケンス走らせっぱなしで一発録りしたのを思い出します。
 あの曲のそんなSEや後半〜ラストに入れたピアノは僕がTanzmuzikでできたことのもっとも印象的なことのひとつで、アキヲさんだからこそさせてくれたキャッチボールの感謝の賜のひとつです。


■最後の頃。

 こんなして思い出すとキリがないので、最後の頃。アキヲさんが亡くなる前の数ヶ月ほどは不思議とよく会いました。僕が古い機材をとにかく売って身軽になってからやりたいなぁ、って機材を売りにいくって言うと、着いてきてくれてね、帰りに大阪らしいもの食べよって 天満の寿司屋に連れてってくれて、そしたら「久々こんなに食べれたわ!」って8カンくらい食べたてかな、ありがたいわって。その前のバカナルのサラダも。
 帰りに2人で商店街歩いてたら、民放の何とかケンミンショーのインタヴュー頼まれて、断ったけど「危ないわ、こんなタンズて」って笑ってて。

 たぶん最後に会ったときなのかな、気に入って買ったけどサイズ合わへんし、もしよかったら着てくれへん?ってお気に入りのイギリスのブランドの僕の好きなチェックのネルシャツを色違いで2枚。おまけに僕の両親に十三のきんつばも。
 で、最後のメールは、僕におすすめのコンバータのリンクだったと思います。
 彼はもちろん平常心、良くなるはずでしたから、マスタリングの仕事からそろそろ自作をと、ギターやベースも買ったばかりで意気込んでたし、なかなか音に触れない僕にも常に機材や音の紹介をしてくれていました。
 そんなことともに、僕のなかのアキヲ臭さっていうのは、クセのある人でパンクで短気であると同時に、20代の頃から僕と違ったのは、ことあるごとに、〇〇があってありがたい、〇〇さんには感謝やねん、って僕によく言っていたことで、アキヲさんは僕の感謝の育ての親でもあると今さら思うのです。 
 彼が面白がって興味を持った作曲のきっかけになったモチーフには、彼なりの独自な愛情が注がれてます。ターヘル名義のハクション大魔王やタンツムジークのパトラッシュ(たまたま思い出せるのがアニメ寄り)……、色々あるけど、アキヲさんの曲を聴いてる人のなかで産まれるおもしろさや気分を覗いてみたい気分にもなってきました(笑)。音楽は不思議です。アキヲさんと、アキヲさんの音楽に感謝。


■トラック5選


Dolice/Tanzmuzik
アルバム『Sinsekai』のあと、追って〈Rising high〉から出た5曲入りEPのなかのB1の曲。アキヲさんのセンチメンタルサイドの隠れ傑作と思ってます。〝最終楽章” のたまらん曲!です。実はデモはもっとすごくて、なにこれ!って絶賛するも再現なく、「あれ、プロフェットのベンダーがズレてたわ……」



Countach/Akio Milan Paak
着信音にしたい、この1小節。



Mothership/SILVA..Akio Milan Paak Remix
Silvaのリミックス、強いキックの隙間にノイズの呼吸するエロティックなアキヲ・ファンクの特異点。これもデモテイクは下のねちっこいコードから始まって上がってそのまま終わってしまうという、もっと色気のある展開だったのに……


Classic 2/Hoodrum
Fumiyaのフィルターを通してアキヲさんが純化されたカタチの傑作と思う。PVによく表現されたベースラインもアキヲさんらしくたまらないし、他に絡む抑えの乾いた707(?)のスネアは707のなかでいちばんカッコいいスネア。あの当時の2人の僕のなかの印象を象徴する。
 ほかにも、“HowJazz It”のサックスとオルガンの〝お話”合いのような裏打ち絡みも好きだし、“Classic 1”は青春期の鼻歌アキヲ節全開な面あって、シークレットのイズルやトロンのシンタロー……アキヲの好きな旧友の顔が不思議と浮かんでくる。
 あと1曲挙げようと思ったけれど、いっぱい出てくるのでここまでにします。
 サブスクにもあまり出てこないマニアックな曲も多いけど、是非機会があれば聴いてみてください! Radio okihide が出来ればかけたい曲やテイクが山ほどあります。

 アキヲさん、ありがとうございます。

文:Okihide

interview with Kentaro Hayashi - ele-king

 はっとさせられたのはまだまん防中だった3月5日。DOMMUNE の阿木譲追悼番組でのパフォーマンスを目撃したときだ。小ぎれいな PARCO の上階で流すにはあまりにダークでひずんだサウンド。思い返せば2021年、デンシノオトさんがレヴューした『Peculiar』ですでにその神秘は開陳されていたわけだけれど、ライヴで体験する Kentaro Hayashi の濁りを含んだ音響は盤には収まりきらない魅力を放っていた。この2年、パンデミックがメディテイティヴな音楽を増加したことにたいする、ちょっとした異議申し立てのようにも聞こえた。なにせあの炎の男、ザ・バグでさえアンビエント作品を量産した時代である。あるいは、(一見)豊かだった日本の幻想から抜けきれない近年の風潮だったり、どんどんクリーンアップされていく都市の風景にたいする、素朴な疑問符だったのかもしれない。なんにせよ、いまの日本からなかなか出てこない音楽であることは間違いない。

 UKはニューカッスルのレーベル〈Opal Tapes〉から送り出された『Peculiar』は、もともと阿木譲の〈remodel〉からリリースされていた作品だ(リミックスでメルツバウジム・オルークが参加)。その音楽をひと言で形容するのは難しい。インダストリアル、ノイズ、エクスペリメンタル、テクノ……そのすべてであると同時にそのすべてから逸脱していくような感覚。「いちばん影響を受けたのはだれですか?」と PARCO で尋ねたとき、真っ先に返ってきた固有名詞はデムダイク・ステアだった。たしかに、それを想起させる部分もある。アルバムは凍てついた彫刻作品のごとき美を放射する一方、ところどころダンスへの欲求を垣間見せてもいて──おそらく手がかりはそこにある。大阪を拠点に活動する Kentaro Hayashi は、ハイブロウなサウンド・アートの文脈からではなく、より肉体的なものに根差した場所から世界を眺めているのではないか。

音楽的な影響という意味ではDJクラッシュ、DJシャドウ、DJフード、DJカムとか、〈Mo’Wax〉や〈Ninja Tune〉とかのアブストラクト勢、マッシヴ・アタックやポーティスヘッドなどのブリストル勢のほうが大きいと思います。

3月5日の DOMMUNE でのライヴがとても良くて。昨年『ele-king』でアルバム・レヴューは掲載していたんですが、もっと前にライヴを観ておくべきだったと反省しました。

ハヤシ:DOMMUNE は初めてだったので緊張しました。DOMMUNE にはたまたま来ていただいた感じですよね?

そうです。編集長が急遽サプライズ出演することを知って。これまでも東京でもライヴはされているんですよね?

ハヤシ:中目黒の Solfa で数回、あと落合 soup、Saloon でもやりました。

大阪ではライヴはよくされているんですか?

ハヤシ:以前はそうでした。environment 0g [zero-gauge] という阿木譲さんがやっていたお店をメインに活動しています。コロナ前はちょくちょくイヴェントをやっていたんですが、いまは年に数回くらいですね。

DJもされますか?

ハヤシ:むかしはやっていたんですが、いまはDJはほとんどしていません。ライヴがメインですね。

environment 0g が足場とのことですが、ほかのアーティストやシーンみたいなものと接点はあるのでしょうか?

ハヤシ:少しはという感じですね。個人的にはそんなに頻繁に交流がある感じではないです。environment 0g まわりのミュージシャンや、東京から友だちを呼んでイヴェントをやったりしていて、大阪のアーティストで固まっているわけではないという感じですね。

なるほど。

ハヤシ:大阪はシーンがあるようで、じつはあまりないのではという気がします。そこがいいところでもあると思います。ハコが持っているお客さんも東京に比べて規模が小さいでしょうし、シーンといえるのかどうかというレヴェルかなと。たしか風営法のときに一気にいろいろなくなって、いまは朝までやってるイヴェントも少ないです。デイ・イヴェントが多い印象ですね。

音楽をはじめたのはいつからですか?

ハヤシ:高校生のころはギターを弾いていましたが、19~20くらいのときに打ち込みをはじめました。DJクラッシュを聴いて興味を持って、そこからヒップホップのイヴェントでよく遊ぶようになったんです。大阪に DONFLEX というヒップホップのハコがあって、そこで一時期働いていたのでいろいろな知り合いができました。

意外ですね!

ハヤシ:それが90年末から00年代初頭で。チキチキ・ビートってありましたよね。ちょうどティンバランドが出てきたころで。あとDJプレミアやドレーあたりもよく聴いていました。DJのひとたちとよくつるんでいたので、友だちの家にレコードがいっぱいあったんです。ずっと聴いてましたね。音楽的な影響という意味ではDJクラッシュ、DJシャドウ、DJフード、DJカムとか、〈Mo’Wax〉や〈Ninja Tune〉とかのアブストラクト勢、マッシヴ・アタックやポーティスヘッドなどのブリストル勢のほうが大きいと思います。その流れでダブやジャングルなども聴いていました。

“Odyssey” はダブ的ですよね。

ハヤシ:キング・タビーは好きでレコード買っていましたね。むかし INDICARDA というアブストラクト・ヒップホップのユニットをやっていたんですけど、そのときイヴェントに呼んでくれた方たちがダブ寄りだったので、ちょこちょこ遊びにも行ってました。モア・ロッカーズと共演したことがありますよ(笑)。

それはすごい! しかし最初からインダストリアルにどっぷりだったわけではないんですね。

ハヤシ:ヒップホップを通ったあとにハウスやテクノも聴くようになって、そのあと2014年ころに阿木さんと出会ってから、インダストリアルとかも聴くようになりました。阿木さんはイヴェントをやるときレコード・バッグの中をぜんぶ見せてくれたり、曲をかけるときもアーティストがわかるようにレコードを置いてくれたり。それで知識や音のデザインを吸収できた気がします。

阿木さんとの出会いが大きかったんですね。

ハヤシ:そうですね。もともとはアブストラクト・ヒップホップをつくっていたんですが、そのダークな感じから、テクノや4つ打ちの踊る方向に行きました。そのときは4つ打ちが最強のツールだと思ってました。いろんなジャンルを取りこんでぜんぶつなげられるので、これ以上のものがあるのかと思っていたくらいで。でも、いま思えば、あまり自分自身と噛み合ってなかった気がします。阿木さんと出会って、あらためてアブストラクトで暗い感じが自分に向いてるなと思って。もう一回やろうかなと。

向いてるというのは、単純に音としてしっくりきたということですか?

ハヤシ:そうですね。ドラムのダーティな感じとか、サンプリング音楽を聴いてた影響からか、荒い質感が好みで、つくるのが得意だなと。あと、踊れなくてもいいところとか。

アルバムを聴いてぼくは逆に、ダンスへのこだわりがあるのかなと思ったんですよ。“Peculiar” や “Octagon” もそうですし、〈Opal Tapes〉盤に入っている “Arrowhead” のジャングルとか。

ハヤシ:ダンス・ミュージックの進化はとても興味深いですし、それを表現したいとは思っていました。ただ一時期、新しさを感じることが減って飽きてしまって、ドローン系やダーク・アンビエントをよく好んで聴いていたんです。ライヴでもそういう音楽もやっていました。反復やうねりはあるけど、具体的なリズムがないような音楽が新鮮でした。でも、似たような作品がたくさん出てきてから興味がなくなってしまったんです。その反動でまたリズムのある作品をつくりたいと思いました。

10年代前半~半ばころですかね。

ハヤシ:阿木さんのイヴェントでも、リズムが入っている作品をよく聴いていました。衝撃を受けた作品の多くにはリズムが入っていましたし、その影響でリズムを意識的に取り入れたのかもしれません。語弊があるかもしれませんが、ドローン系とか持続音が中心の作品は見せ方とかで、それっぽく聴こえる気がして、もうちょっとつくりこんだものをやりたいとは思いました。

ちなみにベース・ミュージックは通っていますか?

ハヤシ:ロゴスやマムダンス、ピンチは好きですね。

やっぱり暗いですね(笑)。

ハヤシ:はっはっは(笑)。でもベース系のイヴェントにはぜんぜん行けてないですね。

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クリアな音より汚れた音のほうが好みなのは、ヒップホップを通ったからかもしれません。ハードのサンプラーの音が好きですし、自分の作品にとって重要な要素です。作品を聴いたら、そのひとがどれくらい手をかけているかってわかると思うんですよ。そこはしっかりやりたいなと。

こうしてお話ししていると、まったく暗い方には見えないのですが、ダークなものに惹かれるのはなぜでしょう?

ハヤシ:暗いと言われている音楽もストレートに「かっこいい」とか「美しい」と感じているだけで、あまり「暗い」とは考えていない気がします。雰囲気や空気感、緊張感が好みなのかもしれません。

なるほど。ちょうど最初にアルバムが出たころは穏やかなソウルが流行っていたり、日本ではシティ・ポップ・ブームがつづいていたり、そういうものにたいするいらだちみたいなものがあったりするのかなあと、勝手に想像していたのですが。

ハヤシ:いらだちはないですね。好みではないですけど。ワルい雰囲気を持った音楽が好きなんですよ。むかしはクラブに行くとなんか緊張感がありましたし、イカつくてカッコいいひとたちがいて。ワルい音楽というか、イカつい音。そういうのが好きなのかなとは思います。クラブには音を聴きに行っていたので、社交の場には興味がなかったですね。テクノでも、タナカ・フミヤさんとか、本気で遊んでいる雰囲気のイヴェントが好きでした。

アルバムでは1曲めの “Gargouille” だけ、ちょっとほかの曲とちがう印象を受けました。賛美歌みたいなものも入っていますし、題もガルグイユ(ガーゴイル)ですし、最後の曲も “Basilica” (バシリカ=教会の聖堂などで用いられる建築様式)で、もしかして宗教的なことに関心があるのかなと思ったんですが。

ハヤシ:まったくそういうことはなくて、イメージですね。鳥ではないけれど、ああいうグロテスクなものが飛んでいるイメージで、曲名は後づけです。本を読んで単語をストックしてそれを使うという感じで、深い意味はまったくないです。

本はどういうものを読まれるんですか?

ハヤシ:そんな頻繁には読みませんが、昨年までメルツバウのマスタリングをしていたので、そのときは秋田(昌美)さんの『ノイズ・ウォー』(1992年)を読んでいましたね。

ものすごい数のメルツバウ作品のマスタリングをされていますよね。

ハヤシ:去年までで50~60枚くらいは。制作ペースがすごく早くて、クオリテイも高くおなじものがないんですよ。展開も早いですし。すごいなと思います。

リミックスでそのメルツバウと、ジム・オルークが参加しています。

ハヤシ:おふたりには、デモ音源を渡してリミックスしてもらったんです。そのリミックスのほうが先に完成してしまったので、影響を受けつつ自分の曲をそこからさらにつくり直しています(笑)。

オリジナルのほうがあとにできたんですね(笑)。

ハヤシ:「このままじゃ自分の作品が負けるな」と思って。ジム・オルークがあんなにトゲトゲした、バキバキなものをつくってくれるとは思わなかったので、嬉しかったんですが、それと並べられるような作品にしないとと。プレッシャーでした(笑)。

ちなみに〈Opal Tapes〉盤のジャケはなぜウシに?

ハヤシ:ほかにも候補はあったんです。きれいな模様みたいなものもあったんですが、それよりはウシのほうがレコード店に並んだときに手にとってもらえるだろうなと思って。なんでウシなんだろうとは思いましたけど、デビュー・アルバムだし、インパクトはあったほうがいいかなと。ノイズっぽいジャケだと思いましたし、写真の雰囲気や色合いも好きだったので。でも、希望は伝えましたが最終的にどっちのジャケになるかはわからなかったんです。

ノイズというのはやはりハヤシさんにとって重要ですか?

ハヤシ:ノイズは効果音やジャパノイズのような使い方だけではなく、デザインされた音楽的な表現や、ギターリフのような楽曲の中心的な要素にもなると思うので、とても重要だと思います。感情も込められるというか。

音響的な作品でも、クラブ・ミュージックを経由した雰囲気を持っているアーティストにはシンパシーを感じますね。いろいろな要素が入っている音楽が好きなのかもしれません。

ではご自身の音楽で、いちばん欠かせない要素はなんでしょう?

ハヤシ:いかに手をかけるかというか手を動かすというか……音質というか雰囲気というか、色気のある音や動きが重要な要素なので、ハードの機材を使って手を動かしていますね。ただハードでも新しい機材は音がきれいすぎるので、古い機材のほうが好きです。クリアな音より汚れた音のほうが好みなのは、ヒップホップを通ったからかもしれません。ハードのサンプラーの音が好きですし、自分の作品にとって重要な要素です。作品を聴いたら、そのひとがどれくらい手をかけているかってわかると思うんですよ。そこはしっかりやりたいなと。

シンパシーを抱くアーティストっていますか? 日本でも海外でも。

ハヤシ:デムダイク・ステアですね。とくに、ベルリンの《Atonal》でライヴを体験してからそう思うようになりました。ほかの出演者もかっこいいと思っていたんですけど、ちょっときれいすぎたり、洗練されすぎている印象だったんです。おとなしい印象というか。でもデムダイクのライヴは洗練された、そのさらに先を行っていて、ジャンルは関係なく荒々しく、自由にライヴをしていたのがすごく印象に残っています。テクノなスタイルだけではなく、ブレイクビーツを使い意図的にハズしたり、そのハズしかたがすごくかっこよかった。京都のメトロに彼らがきたときに本人たちとも喋ったんですけど、彼らもヒップホップがすごく好きで。そこを通ってるのがほかのひととちがうのかなと。スタジオのセットアップについて話をしたときも、彼らは自分たちはオールドスタイルだと言っていました。

なるほど。

ハヤシ:あとはピュース・マリーとかローリー・ポーターとか。イヴ・ド・メイ、サミュエル・ケリッジ(Samuel Kerridge)、ヘルム、FIS、エンプティセットパン・ソニック、ペシミスト、Metrist とかですね。ペダー・マネルフェルトもすごく好きです。最近はテクノっぽくなってきていますけど。阿木さんが『Lines Describing Circles』をよくかけていて。音響的な作品でも、クラブ・ミュージックを経由した雰囲気を持っているアーティストにはシンパシーを感じますね。いろいろな要素が入っている音楽が好きなのかもしれません。テクノでもたんに4つ打ちだけではなくて、ジャングルやダンスホール、ブレイクビーツの要素が入っていたり、インダストリアルな要素が入っているとシンパシーを感じます。

ヒップホップをはじめ、いろいろルーツがあると思うのですが、ご自身の音楽をひと言であらわすとしたら?

ハヤシ:難しいですね……エクスペリメンタル・ノイズ、インダストリアル・テクノ、アブストラクトなどの要素を混ぜた感じでしょうか。定義するのは難しいです。自分としては、クラブ・ミュージックの発展形のようなイメージです。先端音楽というのかわかりませんが、いろんな要素を含んだハイブリッドで新しい作品をつくりたいと思っていますね。

音楽で成し遂げたいことってありますか?

ハヤシ:まずは2作目をちゃんとつくりたいです。ライヴももっと頻繁にやりたいですし、もっと大きなステージでもやってみたい。いつか《Berlin Atonal》のステージにも立ってみたいです。映画音楽も興味があります。テクノもつくりたいし、モダン・クラシカルも好きなので、ピアノだけの作品も出したいですね。

それはぜひ聴いてみたいです。

ハヤシ:でもいまピアノ作品出したら逃げてる感じがしちゃうので(笑)。そこは1作目の続きでマウンドに立ってフルスウィングしたいなと(笑)。でも2枚めでコケるパターンってよくあるので、2枚めで終わらないようにしないと(笑)。

いいものができると思いますよ。というのも、ヒップホップ時代もあり、テクノ時代もあり、阿木さんとも出会ってという、いろんな経験をされてきてると思うので、20歳くらいのひとがセカンドをつくるのとはぜんぜんちがうと思うんですよ。

ハヤシ:いろんな経験をしてきたからこそわかるものにはしたいですね。深みのある作品をつくりたいです。

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