「DJ DON」と一致するもの

interview with The D.O.T. - ele-king


The D.O.T.
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 取材当日の午前中、マイク・スキナーの具合が悪く、病院に行った。なので、急遽、ロブ・ハーヴェイひとりで対応して欲しいとホステスの担当者から電話がかかってきた。これは困った。僕は、ザ・ストリーツはデビューからずっと聴いている。しかし、ロブ・ハーヴェイのミュージックに関してはずぶの素人。申し訳ない。
 The D.O.T.を、マイク・スキナーの新しいプロジェクトと見るか、あるいはロブ・ハーヴェイの新しい作品と見るかでは、おそらく違うのだろう。僕は、日本では少数派かもしれないが、ザ・ストリーツの最後の作品、『コンピュータ&ブルース』(2011年)の延長で聴いている。その作品が、わりとロック寄りの内容だったので、部分的にではあるが、The D.O.T.の予習はできていた。
 それでも、最初に『アンド・ザット』(既発曲の編集盤)を聴いたときには、CDを間違えたのかと思った。ほとんどラップもないし、ガラージでもないし、クラブ・ミュージックでもない。その代わりに......エルトン・ジョンのような歌が聴こえる(!)。
 『コンピュータ&ブルース』が、リリースから2年経ったいま聴いても良い作品であるように、The D.O.T.のデビュー・アルバム『ダイアリー』も、良いポップ・アルバムだ。ザ・ストリーツの作品にように、シニカルかつアイロニカルに屈折しているわけでもない。雑食的な音だが、基本にあるのはポップ・ソングだ。エモーショナルで、耳に馴染みやすいメロディ、綺麗なハーモニーがあって、クラブ・ミュージックのセンスも注がれている。

 しかし......先述したように、筆者は、ミュージックなるロック・バンドの音楽を知らない。『コンピュータ&ブルース』に参加したロブ・ハーヴェイについては知っている。ロブはその現実を受け止め、とても真摯に答えてくれた。


言葉表現の能力の高さ、素晴らしさに尽きるね。思いを言葉にするだけじゃなくて、その言葉や意味を、人に聴かせうる質にまで高めることができるんだ。正直、うらやましいと思った。

正直に言いますと、僕は、あなたのことを『コンピュータ&ブルース』で知ったような人間です。誤解しないで欲しいのは、ロブのことはリスペクトしていますけど、それまでミュージックのこともロブ・ハーヴェイのことも知りませんでした。

ロブ:オッケー、オッケー、よくそう言われるよ(笑)。

でも、『コンピュータ&ブルース』であなたが歌っている3曲は好きでした。

ロブ:アリガト。

編集部の橋元からは、「常識的に言えば、ミュージックは人気バンドで、とても有名だし、知らないのは頭がおかしい」と言われました。

ロブ:はははは。

実際、『コンピュータ&ブルース』がD.O.T.のスターティング・ポイントだったと言えるのでしょうか?

ロブ:初めて共作したのはこの作品でした。スタジオに入ったのも初めてだったし、それが可能性について考えはじめた時期でもあったよね。

ロブから見て、ザ・ストリーツのどんなところが好きでしたか?

ロブ:言葉表現の能力の高さ、素晴らしさに尽きるね。思いを言葉にするだけじゃなくて、その言葉や意味を、人に聴かせうる質にまで高めることができるんだ。正直、うらやましいと思った。音楽をやっている人間なら誰しも過去にはないものをやりたいと思うものだけれど、それを実行することは難しい。マイクはそれをできた数少ないひとりだ。その影響力は、アークティック・モンキーズにもいたる。イギリス人の直面している現実っていうのものを巧い言葉で表現するんだ。アメリカの真似ではなく、イギリス的なやり方でね。

アルバムではどれがいちばん好きですか?

ロブ:おお、難しい。『コンピュータ&ブルース』と言いたいところだけど、自分が参加しているからね......やっぱりファースト・アルバム(『Original Pirate Materia』)かな。強さを感じたのは。セカンド・アルバムはコンセプトというものを形にした作品で、シングル曲も良かった。『Everything Is Borrowed』は、スピリチュアルな歌詞も良いし、サウンドの様式的には僕が好きなタイプでもある。

『Original Pirate Materia』にはイギリスの名もない野郎どもの日常が描かれていましたが、あなたにとってはあの作品のどこが良かったんですか?

ロブ:目の前にあるモノを的確な言葉で表現していることだね。つまり、表現の仕方が、「いかにも」的な、何度も聞いたことがあるような言葉ではなく、しかも、あからさまな表現をしていない。それでも、多くの人があの歌詞に共感したんだよ。何故なら、そこには、ユーモア、知性、それから繊細さもあった。イギリス人はだいたい、繊細さを見せると弱い人間だと思われるんで、繊細さを隠す傾向にある。しかし、マイクは、繊細でありながら、弱さに覚えれなかったんだよね。

あの歌詞で描かれているようなイギリスの若者の日常には、ロブも共感できるものなの?

ロブ:まあ、僕は当時、バンドにいたし、まったく違ったライフスタイルだったからな。マイクの場合は、たったひとりの日常を描いているわけじゃないんだ。いろんなタイプの人たちの日常を描いて、物語として伝える。そこがすごいところだ。

あのアルバムは2002年でしたっけ? ああいうUKガラージに興味はありました?

ロブ:なかったね。僕がその頃いた北部は、ガラージよりもハウスやテクノのほうがかかっていたんだよね。最初に行ったギグはレフトフィールドだったよ。こういう感じで......(ドンドンドンドンとテーブルを4つ打ちで鳴らす)。

はははは。

ロブ:そう(笑)。

『コンピュータ&ブルース』は、ザ・ストリーツのなかでもロック寄りの作品でしたよね。"Going Through Hell"なんか、いま聴くとD.O.T.の原型みたいな気がします。

ロブ:うーーーん、それはやっぱザ・ストリーツの曲だと思う。ザ・ストリーツのとき、マイクはすべてをひとりで作らなきゃいけなかったんだけど、D.O.T.はもっと楽しみながら制作している。"Going Through Hell"はふたりでやった最初の仕事には違いないけどね。でも、やっぱその曲はザ・ストリーツの曲だ。

D.O.T.の方向性にとくに影響を与えた作品はありますか?

ロブ:マイクのほうがいろいろな音楽を聴いているからね。僕は、他の音楽からの影響というよりも、自分自身が良いミュージシャンになりたいという気持ちのほうが強い。生きていて、生活のなかからインスピレーションをもらって、それをいかに音楽の形にするか。ソングライターとしてとにかく成長したいという思い、新しい音楽の作り方を模索したい、自分のメロディをさらに良いモノにしたい、歌い方も、いままでやったことのない歌い方に挑戦したい。そういった思いが僕を音楽に突き進ませるんだ。

とてもエモーショナルで、ソウルフルな音楽、そして親しみやすいポップ・ミュージックだと思ったんですが、あなたから見て、もっともD.O.T.らしい曲はどれでしょうか?

ロブ:"Blood, Sweat and Tears"だね。

ああ、メランコリックな曲ですね。

ロブ:そうだね。

僕は。"Under a Ladder"や"How We All Lie"のほうがD.O.T.らしく思ってしまったのですが。

ロブ:"Under a Ladder"は基本的にマイクひとりで書いた曲だよ。

"How We All Lie"は?

ロブ:僕らふたりと、もうふたりのミュージシャンとの合作だね。歌メロは僕が担当して、他のヴァースはマイクが書いた。

"Blood, Sweat and Tears"がもっともD.O.T.らしいと思う理由は何でしょう?

ロブ:それぞれが得意としているところをしっかり見せているからだね。プロダクションもシンプルで、歌も直接的で、装飾的ではなく、人の心に訴えるような曲だと思う。

"How We All Lie"や"How Hard Can It Be"のような、興味深い曲名が並んでいますよね。

ロブ:みんなに考えさせたいと思ってそういうタイトルにしたんだよ(笑)。

歌詞についてのあなたの考えを教えて下さい。

ロブ:ひとつの具体的なことを歌っているわけじゃないので、好きに解釈してくれればいいよ。より多くの人の感情がアクセスできるような、共鳴できるような歌詞にしているし、その言葉によって自分も救われたいというか。

その言葉は社会から来ているのでしょうか? それとももっとパーソナルなもの?

ロブ:どちらにも受け取れる。たとえば"How Hard Can It Be"は、政府のことかもしれない。あるいは、恋愛関係のことかもしれない。自分と自分のことかもしれないし。聴き手次第だね。

訳詞を読みながら聴くべきだと思いますか?

ロブ:僕なら読まないね。音を聴いて欲しい。だって、同じ言葉でも、僕の歌い方によって感じ取り方が違うと思う。歌詞ってそういうものじゃん。

たしかに感情的なところは歌い方によって違いますからね。

ロブ:そういう意味では、僕の歌はつねに個人的なところから来ていると思う。芸術家ってそういうものなんじゃないかな。商品を作っているんじゃないんだ。描きたいから描くのであって、僕も謡から歌っているんだ。D.O.T.では、マイクが頭脳担当なら、僕は感情担当なんだ(笑)。たしかにザ・ストリーツの素晴らしさは言葉表現だったと思う。でも、ミュージックは、誠実さ、迫力、もっとエモーショナルものだった。僕がD.O.T.に持ち込んでいるのは、そういうことなんだ。つまり、これは、ザ・ストリーツとは違うんだ。

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 その当日、結局マイク・スキナーの体調は戻らず、取材はキャンセル。帰国後、電話を使っての取材となった。ロブ・ハーヴェイが言うように、言葉表現の巧みさを持った彼の作品について訊くのは、歌詞を精読してからのほうがベターなのは間違いないが、いままで知らなかった彼の音質へのこだわりなど、興味深い話が聞けた。

僕はダンス・ミュージックが大好きでDJもよくするし、僕のルーツのひとつだからね。いまはThe D.O.T.のリミックスもやっているところなんだけど、そっちはよりクラブっぽい音になってるよ。


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『コンピュータ&ブルース』がラップ、ダンス、ロックのブレンドだったわけですが、ロブは3曲参加していますよね。ザ・D.O.T.は、『コンピュータ&ブルース』を契機に生まれ、その延長として発展したプロジェクトとして考えて良いのでしょうか?

マイク:そうだね。これがはじまったのは偶然みたいなものなんだ、ちょうどその頃僕たちふたりとも当時やっていたプロジェクトがひと段落するところでさ、最初にまず2曲くらい一緒に作ってみたらすごくいい感じのものができて、そこからそのまま一気に進んでいったんだよ。

『コンピュータ&ブルース』制作中にはすでにThe D.O.T.の構想はありましたか?

マイク:えーっと、ロブがザ・ストリーツのツアーを一緒に回って、その後にザ・ミュージックのラスト・ツアーに出てたから、はじまったのはザ・ストリーツの活動が終わってすぐかな。僕のスタジオを中心に、ロンドンのいろんなスタジオで制作していったんだ。僕にとっては、ずっとほとんどひとりで音楽を作っていたから他の誰かとやるっていうのは初めてだったし、ずっとバンドでやっていたロブにとってはふたりだけでやるのは初めてだったから、お互いに新しい挑戦だったよ。

『コンピュータ&ブルース』に入っている"Going Through Hell"なんかはザ・D.O.T.の原型みたいじゃないですか?

マイク:ああーうん、そうだね! The D.O.T.の基本的なアイデアとしては、僕のプロダクションの上にロブの歌やメロディをのせていくって感じのものが多いんだけど、"Going Through Hell"でもロブがメロディを書いたんだ。今回のアルバムの曲の多くとは、基本的な原理は同じで組み合わせている要素も同じだから、結果的にかなり近いものが出来たと思う。

あなたは、『コンピュータ&ブルース』というザ・ストリーツの最後のアルバムで、なぜロック的なアプローチを取り入れたのでしょうか?

マイク:いろいろな違った方法を試してみるっていうのは大事だと思うんだ。同じことを同じ方法でやってばかりいると、ありきたりで予想のつく音楽になってしまうからさ。ただ僕自身はあれがとくにロック的だとは思っていないよ。ロックっぽく聴こえるのは、良いヴォーカルを入れようとした結果じゃないかな。

ザ・D.O.T.で、よりソウルフルな、エモーショナルなポップ・ミュージックにアプローチした理由を教えてください。

マイク:今回The D.O.T.の音楽を作る上では、あんまりいろいろなことを意識してやっていたわけじゃないんだ。特定の誰かと一緒にスタジオに入ったときに、なんとなく楽器を手に持って弾きはじめる......みたいな感じだった。ただ僕は元々がラップ・ミュージックから来ているから、アルバムを作るときも自然とエモーショナルな方向にいくし、ロブはソウルフルなシンガーだからそういう音になったね。

とても聴きやすいアルバムだと思うのですが、とくにザ・D.O.T.らしい曲はだれだと思いますか? 

マイク:"Blood, Sweat and Tears"は僕らがThe D.O.T.としてできることのいい見本になっていると思うよ。かなり短時間でできたストレートな曲で、僕の好きなビッグなドラムの音が入っていて、ロブのヴォーカルにもすごく感情が込もっている。

"Under a Ladder"は?

マイク:"Under a Ladder"は僕がほとんど自分ひとりで作った曲だね。なんていうか、このアルバムは僕らが作った幾つものトラックの中から選んだベスト・トラック集みたいな感じなんだよ。

では実際に作ったトラックは何曲ぐらいあったんですか?

マイク:僕のデスクにある記録だと、70曲強だね。そのなかから完成させたのは40から50曲くらいかな。

かなりありますね! そちらのリリースはしないんですか?

マイク:次にアルバムを作るときは、またいちから新しい曲を書くと思うよ。これまでにインターネットに上げた曲や今回のアルバムの曲はみんな似たような雰囲気があるしさ。でも、またもう少ししたら新しい曲を書きはじめるつもりでいるよ。

トラックの基本はマイクが作ったんですよね?

マイク:その曲によって作り方は違ったよ。まずロブがメロディを作って僕がプロダクションをしてってパターンが多かったんだけど、その逆になるときもあった。僕がビートを作るところからはじまって、ふたりで完成させたりとかさ。ほとんどの曲は僕がプロダクションの部分を仕上げたけど、なかにはロブがほとんど完成までやった曲もあったしね。他のミュージシャンと一緒にスタジオに入って、みんなで曲を書いたこともあったよ。ひとつのパターンにはまるんじゃなくて、いろいろとやり方を変えることで、いろんな違ったものが作りたかったんだ。

プロダクション面はマイク主導でやっていたんですね。具体的にはどのような感じでしたか?

マイク:僕の持っているスタジオでやることが多かったんだけど、僕はオールドスクールなやり方で作るのが好きなんだ。もちろん基本はコンピュータを使っているけど、まわりの機材はアナログが多いから、ちょっと70年代っぽい音になっていると思う。僕らはマスタリングまで自分たちでやるんだけど、マスタリング関連の機材は使っていて楽しいよ。

アーティスト自らマスタリングまでやるというのは珍しいですね。

マイク:うん、僕にとっては、ミキシングやマスタリングまでやるっていうのは大事なんだ。ミキシングまでやるミュージシャンは多いけど、マスタリングまでっていうのはあんまり多くないよね。自分で曲を書いたならプロダクションまで自分でやる方がいいと思うんだ、その曲がどういう風に聴こえるべきか自分でわかってるんだからさ。とくにマスタリングって、その曲がどう聴こえるかに大きな影響を与えるから、自分でその部分のコントロールもするっていうのが理にかなっているよ。

ダンス・ミュージックというところは意識しましたか?

マイク:もちろんさ、僕はダンス・ミュージックが大好きでDJもよくするし、僕のルーツのひとつだからね。とくに(ザ・ストリーツの)ファースト・アルバムにはそういう部分がより出ていたと思う、クラシックっていうか、ストレートにアップビートな感じの曲が多かったセカンドよりも、より遊びのあるダンスっぽい感じの音さ。いまはThe D.O.T.のリミックスもやっているところなんだけど、そっちはよりクラブっぽい音になってるよ。

自分たちの方向性に影響を与えた作品はありますか?

マイク:わからないな。僕らふたりとも、年齢とともにだんだん「これに影響を受けた」ってはっきり言うのが難しくなってきてると思うんだ、これまでにいろんな音楽を聴いたり、映画を見たり、本を読んだりしてきたからさ。最近はとくに音楽以上に、映画や本から影響を受けているんじゃないかな。

映画や本ですか。普段どのような本を読むんですか?

マイク:いま読んでいるのはハリー・セルフリッジ(イギリスの高級デパートチェーンの創業者)についての本だけど、普段好きで読むのは第一次世界大戦前の、エドワード朝時代あたりを題材にしたものとかだね。世界大戦で人びとの生活も何もかもがすっかり変わったから、その前の時代のことってすごく魅力を感じるんだよ。

個人的にいちばん好きな曲のひとつなのですが、"How We All Lie"は何についての歌ですか?

マイク:The D.O.T.の曲の多くは抽象的で曖昧なんだ、それぞれの曲にはっきりしたストーリーや視点があったザ・ストリーツのときとは違ってね。僕自身、そういうストーリーとかの制約から自由なところで活動したかったからさ。"How We All Lie"では、基本は人びと全般について歌っているんだけど、スタジオに居たときにそこにあった新聞のスポーツ面を見ながら書いたから、サッカーについてのテーマも同時に曲全体に入って いるよ。
 ザ・ストリーツでは歌詞を書くのに時間をかけていたけど、今回はできるだけ時間をかけないようにしたんだ。そうするとその分、ほかの面でクリエイティヴになる余裕ができるんだよ。

"How Hard Can It Be"は社会風刺ですか?

マイク:あの曲はちょうど、次期首相を選ぶ総選挙の直前に書いたんだ。(その選挙で選ばれた)いまのイギリスの首相(デイヴィッド・キャメロン)はエリート学校出身のお坊ちゃんなんだけどさ。

それが歌詞の「You don't know the price of bread(アンタはパンの値段なんか知らないクセに)」に繋がるわけですね。

マイク:その通り! それとその曲では、人びとのなかには、世界で何が起こっているのかよくわかっていない人たちもいるっていうことにも触れているんだ。

ザ・ストリーツには作品ごとにそれぞれのコンセプトやテーマがありましたが、そういう意味でのコンセプトやテーマが今回もあったら教えてください。

マイク:そうだね、さっき言ったように今回はより抽象的だし、コンセプトっていうのはないと言えると思う。あんまり音楽にヘヴィで現実的なテーマばっかり求めてしまうのも良くないと思うんだ。
 僕はこれまでにコンセプト・アルバムっていうのはひとつだけ作ったことがあって、あれは曲それぞれにストーリーがあって、それを繋げていくっていうものだったから、それほど現実的なテーマではなかったんだ。それを批判する人も多かったんだけど、それも無理はないと思うよ、人って音楽に何か「リアル」なものを求めてしまうものだからさ。


ちなみに来日して病に伏したマイク・スキナーが作った曲がsoundcloudに挙がっている。


Cossato (LifeForce) - ele-king

4/20 @Seco Shibuya LifeForce Airborne Bass
DJ:Deft (WotNot Music) JJ Mumbles (WotNot Music) Cossato (Life Force)
Live:Daisuke Tanabe
Sound Design:Asada (Life Force / Air Lab)
https://lifeforce.jp 
https://soundcloud.com/sato-cozi

Airborne Bass 2013.04.13


1
BlackSmif - How The Fly Saved The River - Blah Blah Blah Records
https://www.youtube.com/watch?v=jaWcDTD73Bc

2
DA-10 - Anaphase - WotNot Music
https://soundcloud.com/da10/da-10-the-shape-of-space

3
Dauwd - Heat Division - Pictures Music
https://www.youtube.com/watch?v=ZLZd6EeQgtY

4
Deft - The traveller - Skullcandy
https://soundcloud.com/deft/supreme-sound

5
Glenn Astro - Stutter Shades - WotNot Music
https://wotnot.tv/power/

6
Leif - Circumstance - Ornate Music
https://www.youtube.com/watch?v=fS9VllWyySk

7
Lorca - Giant Stars - 2020 Midnight Visions
https://soundcloud.com/lorcamusic/b1-giant-stars

8
Pjotr - Sky Is The Limit - Udacha
https://www.youtube.com/watch?v=xi597v2XgOo

9
South London Ordnance - Daphne - 2nd Drop Records
https://www.youtube.com/watch?v=bGYJUoOeZkk

10
U - Haunted - Man Make Music
https://www.youtube.com/watch?v=qP94WDnhWRA

DJ MASA a.k.a conomark - ele-king

これからもずっと好きであろうアルバムあげてみました。2013年もどうぞよろしくです!
twitter ID:conomark
Facebook ID:Masatake conomark Koike

all times best


1
Chico Hamilton - The Dealer - Impulse!

2
The Tony Williams Lifetime - Turn It Over - Polydor

3
Niagara - Niagara - Mig

4
Art Blakey - Holiday For Skins - Blue Note

5
V.A - The Garage Years - 99 Records

6
NEU! - NEU! - Gronland

7
Herbie Hancock - Dedication - CBS/SONY

8
The Watts 103rd Street Rhythm Band - In The Jungle Babe - Warner Bros

9
WAR - Young Blood - UA

10
Donny Hathaway - Live - Atco

Prettybwoy - ele-king


Various Artits
Grime 2.0

BIG DADA

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 時代は少しづつ変わっていきます。5月に〈ビッグダダ〉からリリース予定のグライム/UKガラージのコンピレーション盤『Grime 2.0』には、Prettybwoyと名乗る日本人のプロデューサーの曲が収録される。
 グライム/UKガラージとは、ブリテイン島の複雑な歴史が絡みつつ生まれたハイブリッド音楽で、ジャングルやダブステップと同じUK生まれの音楽だが、後者が国際的なジャンルへと拡大したのに対して、グライム/UKガラージは......英国ではむしろメジャーな音楽だと言うのに、ジャングルやダブステップのように他国へは飛び火していない。言葉があり、ある意味では洗練されていないからだろうか。
 僕はグライムの、洗練されていないところが好きだし、そして、迫力満点のリズム感も好きだ。グライム/UKガラージの最初のピークはワイリーやディジー・ラスカルが注目を集めた10年前だったが(ダブステップやフットワーク/ジュークに目を付けた〈プラネット・ミュー〉も、最初はグライムだった)、コード9が予言したように、最近もまた、昨年のスウィンドルのように、このシーンからは面白い音源が出ているようだ。そもそも〈ビッグダダ〉がグライムのコンピレーションを出そうとしていることが、その風向きを証明している。
 そのアルバムには、ひとりの日本人プロデューサーも加わっている。10年前にはなかったことだ。日本にながらグライム/UKガラージをプレイし続けている男、Prettybwoyを紹介しよう。

生まれはどちからですか?

Prettybwoy:東京生まれですが、地味に引越しが多く、学生時代は茅ヶ崎~逗子~横須賀と。学校は、小:鎌倉、中~大:横浜でした。東京には大人になってから帰ってきたという感じです。

子供の頃に好きだった音楽は?

Prettybwoy:子供の頃はコナミのファミコン全盛期? で、ゲーム・ミュージックがとても好きでした。サントラCDとかも良く買っていました。ゲームのはまり具合とかもあると思いますが、「ラグランジュポイント」というファミコンソフトの音楽は強烈に印象に残っています(笑)。たしか他にはないFM音源チップをカセットに積んでるとかで、カセットサイズが倍くらいあるんです。ゲームって、クリアしたらもうやらないタイプだったのですが、CDはいつまでも聴いてましたね。
 余談ですが、ゲームのサントラを買っていたのはスーパーファミコン期まで。あの制限のなかで表現している感が好きだったんだと思います(笑)。

クラブ・ミュージックやDJに興味を覚えた経緯は?

Prettybwoy:ちょうど高校生の頃、Bボーイブーム(?)のようなものがありました。行きませんでしたが、さんぴんCAMPとかもその頃だったと思います。その頃に、まぁ、人並み過ぎるんですが、HIPHOP/R&Bからクラブ・ミュージックに入りました。初めて買ったのが、バスタ・ライムスのファースト・アルバムだった気がします。そこから、フィーチャリングのアーティストを掘り進めて、買っては新しいアーチストと出会い......というのが面白くて聴いていました。
 共有できる友だちはクラスにたくさんいたと思いますが、あまり人付き合いが得意ではなく、独りで掘り進んでいました。その頃は、神奈川のローカルTVで毎週ビルボードTOP40(usR&BのPVをよくVHS録画してました)、それとどっかの局で深夜にクラブ専門番組、それ終わって「ビートUK」って番組やってたり、インターネットが普及しはじめの時期だったので、情報はそんなくらいでした。
 大学入ってヒップホップ~テクノとか適当に聴いていて、やっと、学校のPCルームでインターネットのありがたさを実感した頃でした。あるとき、バイト代が数十万貯まっている事に気付いて、たまたまVestaxの2CD&MIXER一体型のCDJを買って、さらにいろいろ満遍なく聴いてみるようになりました。

UKガラージとは、どのように出会ったのでしょう?

Prettybwoy:たまたま買ったR&Bミックス・テープのラストに、原曲の後に、2step remixを繋がれていて。ビートはかなり軽快で、あくまで歌が主役なんだけど、不協和音で、いままでのUSヒップホップとは別次元の、妙によどんだ空気を感じました。なんだコレ? って思った最初の音楽かもしれません。こういうの何て言うんだろう?今 より全然情報の無いインターネット、それとかろうじてHMVとかでもPUSHされていたおかげで、それが2ステップ/UKガラージ/スピード・ガラージという呼ばれ方は変われど、同質のひとつのジャンルなんだと知ることができました。
 いまよりもずっと、DJがミックステープでかける曲が、未知の音楽体験を与えていた時代かなと思えます。いまはリスナーがちょっと調べたら最先端を視聴程度ならできますからね。

UKガラージのどんなところが好きになりましたか?

Prettybwoy:当時横浜のHMVですら、UKガラージのミックスCDをコーナーで置いていました。MJコールのファースト・アルバムが、出たかくらいの時期だったと思います。まず僕はミックスCDから手をつけて行きました。きっと僕は運が良かったのか、これもめぐり合わせだと思うのですが、いちばん最初に手にした〈Pure Silk〉から出ていたMike"Ruff Cut" LloydのミックスCDが、最高にかっこよかったんです。まず、こんなにアンダーグラウンド感があるんだ? って感想でしたね。入ってるトラックは、いまではレジェンド級の名曲オンパレードなんだけど、全体的に土臭くてRAWな質感にヤラレました。
 派手なシンセなんかはほとんどまったく入ってなくて、お馴染みのサンプリング・ネタも随所に散りばめられて、BPM140くらいのベースと裏打ちリディム、そこにカットアップされたヴォーカル。とにかく黒いなぁ。って思いました。2000年くらいだから、ヒップホップも正直つまらなくなっていたし。本当の黒さがここにあるなって衝撃でした。
 あと面白いのが、後になって、オリジナルを手に入れて、曲の地味さに驚くことがすごく多いジャンルですね(笑)。いまは結構元から派手目なトラック多いですけどね。それだけDJのミックスしがいのあるってことだと思います。ただ繋いでるだけじゃ、絶対伝わらない。ミキサーのフェーダー使いもスイッチが随分多いジャンルだなって思いました。

PrettybwoyさんなりのUKガラージの定義を教えてください。

Prettybwoy:とても難しい質問だと思います(笑)。
 僕は、2ステップの時代にこのジャンルを知りました。そこから掘り起こしてみると、UKガラージという言葉が出てきました。さらにその前は、スピード・ガラージという言葉まであります。コレは、UKガラージのなかから発生したひとつの流行が、名前を付けて出て来たに過ぎないと思っています。
 いまに例えると、Disclosureがとても人気があって、流行っています。UKガラージのディープ・ハウス的アプローチがとても流行っています。これ単体に新しいジャンル名がつくとはまったく思いませんが、大小合わせて、そういうのの繰り返しと言うことだと思います。
 とくに2000年以降、ダブステップやグライム、ベースライン、ファンキーという言葉も出てきました。さらにはそこからまた派生ジャンルまで......ひとつひとつを厳密にジャンル分けして考えることは、もはや無意味だと思います。
 ここ6~7年で、ダブステップは世界的に拡がり、独自性をもったジャンルになっていると思います。いわゆる、特徴的な跳ねたビート・フォーマットのことをUKガラージといってしまうと、じゃああんまり跳ねない重たいビートはガラージじゃないの? ってことになるし、逆にそれさえ守ればUKガラージなの? って話にもなるし......。じゃあ、グライムは何でガラージと親和性を保っているの? という話も出てきますし。
 懐古主義ではないけれど、1997~8年から2002年くらいの、オールドスクールと言われるUK ガラージの良さを、理解して、現在、ガラージなり、グライムなり活動しているアーティストを、僕はUKガラージと定義しています。例えば、DJで言うと、Rossi B & Luca,EZ、Q、Cameoなんかは、わかりやすいですよね。UKガラージと言われるけれど、グライムもプレイするし。僕自身、UKガラージ/グライムのDJと言っていますが、厳密なジャンル分けはこの周辺音楽にとってはナンセンスと思ってます。
 ついでに、フューチャー・ガラージなんて言葉もありますが、例えばWhistlaのレーベル・アーティストなんかは、もともとUKガラージとは別の活動をしてきた人がほとんどみたいです。そういった、ガラージフォーマットを使って活動しているアーティストをフューチャー・ガラージと言うのかと思います。

衝撃を受けたパーティとかありますか?

Prettybwoy:昔、六本木にCOREという箱があって、そこで開催されたUKガラージのパーティのゲストがZED BIASだったんです。僕は大学生だったんですが、初めて見たUKガラージのアーティストだったので、衝撃でしたね。
 ちょうど、「Jigga Up(Ring the Alarm)」をリリースする前で、その曲をかけてたのがすごい印象に残っています。それと、派手な衣装を着たダンサーがブース横にいました(笑)。一緒に来日していた、たしか、MC RBだったんですが、急に曲が止まって、みんな、後ろを観てくれ! って煽って、後ろを見たら、そのダンサーたちのダンス・ショーケースがはじまったんです。しかもSunshipかなんかの曲で(笑)。その時のちょっとバブリーなパーティ感は忘れないですね。ああチャラいなと(同時に、Moduleなんかでは、超アンダーグラウンドな音楽勝負!! みたいなUKガラージのパーティもおこなわれていました)。
 それと、DBS Presentsで、GRIMEのワイリーとDJ スリミムジーが来日したパーティ。代官山UNITですね。いままで経験したなかで、MCがあんなに喋って、DJがあんなにリワインドしたパーティは初めてでした。2005年、あの時期にこれをやるDBSって、凄い!!っ て思いました。

最初は、どんなところでDJをはじめたのでしょうか?

Prettybwoy:ヒップホップのDJをやっている友だちがいて、彼に、ラウンジだけど、DJやってみる? って言われたのがきっかけで、DJ活動をはじめました。正直それまではミックステープを渡しても、個人的に好きだけど、現場ではねぇ......って言われて、やれる場所を見つけられず、DJ活動は正直半ば諦めて、働いていた服屋でBGMとして自分のミックスをかけるくらいでした。それでもちょっとアッパーすぎて、お店からNGを出されることも良くありました(笑)。それが、2006年の初め頃です。
 でも、ヒップホップ/R&Bのパーティのラウンジでやってても、共演者に上手いね。こっちのパーティでもやってよって言われることはあっても、なかなかお客さん自体に反応を貰うことはありませんでしたね。
 そんなときに、Drum&Bass Sessionsから、SALOONをUKガラージでやりたい、っていうことでオファーを頂いたんです(実は、DBS GRIME特集のパーティに言った直後、DBSのサイトに直接メールをして......)。それが、D&B、そして俗に言うUK BASS MUSICのシーンへの入口でした。それからすべてがはじまりましたね。

自分に方向性を与えた作品(シングルでもアルバムでも曲でも)を5つ挙げてください。

Prettybwoy:実は、2月に国書刊行会から出版された『ダブステップディスクガイド』で相当な枚数のUKガラージ、アーリー・グライム紹介させていただいたので、ここではあえて当時学生でお金も無く、すごい欲しかったけどレコードでは集め切れなかった盤を5枚。当時、このBPMで、ヒップホップしてるのがすごいかっこ良かったです。

・G.A.R.A.G.E(DJ Narrows Resurection remix) - Corrupted Cru ft.MC Neat
https://youtu.be/CtN8qHLaSqU
・Fly Bi - T/K/S
https://youtu.be/aj_M50uh8hg
・We Can Make It Happen (Dubaholics 4 to the floor) - NCA & Robbie Craig
https://youtu.be/Ft0V2-Wp6mM
・Haertless Theme - Heartless Crew
https://youtu.be/qEYQM1mm8Rc
・Whats It Gonna Be (Sticky Y2K Mix) - Neshe
https://youtu.be/Qp0mKDiPFP4

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UKのパーティには行ったんですか? 

Prettybwoy:残念ながら、まだ飛行機で北海道(修学旅行)しか行ったことないです。

トラックを作りはじめたのはいつからですか?

Prettybwoy:大学生の頃、(まだWindows98)ノートPCでACIDの廉価版を買って、弄っていましたが、本格的にはじめたのは、2010年の後半から、PCを新しくしてからです。その前少しのあいだ、友人から古いPCを頂いて、使っていたのですが、ソフトも新しくして、それまでWin98だったのでWin7になって一気にリニューアルしたので技術の進歩に感動しました(笑)。

DJの技術や音楽制作はどのように学びましたか?

Prettybwoy:独学ですね。DJに関しては、僕はいま家にターンテーブルしかないので(CDJはなし)。たまに楽器屋にいって、弄ってみるか、現場で覚える感じです。ターンテーブルを買った学生のとき、ちょうどパイオニアのスクラッチ可のジョグダイヤルのタイプが初めて発売された頃でした。で、当時仲良くなった店員さんが元DJで、「凄いの出るよ!」いろいろと教えて貰ったり、ふたりで店でB2Bみたいなことをよくやっていました(笑)。よく現場で言われる、CDJのちょっと変わった使い方の基礎はこの頃覚えたものです。
 いま思い出しましたが、1回、日曜デイタイムのお店のDJイヴェントに出させて貰ったのが僕の人前でのDJデビューでした。そのときも、UKガラージでしたね(笑)。
 制作は、失敗と成功の繰り返しです。いまも、毎回曲を作るごとに、思いついた新しいことを1回1回やっています。FL Studioを使っていますが、僕はとても気に入っています。ハッキリ言って、人に誇れる技術は持ち合わせていないと思います。毎回がテストです。作ってみて、仲良しの海外UKガラージのアーティストに送ってみて、感想を聞いてみたり。その人だけかもしれませんが、イギリス人は、素直に感想を聞かせてくれて、良い曲だと、プレイで使ってくれたり、日本人よりも反応がわかりやすいので、デモは彼らにまず送ってます。

どのようなパーティでまわしてたののですか? 

Prettybwoy:大きいパーティだと、「Drum & Bass Sessions」で、サブフロアのSALOONですが、たまに呼んで頂いています。それと、Goth-Trad主催の「Back To Chill」も定期的に呼んで頂いてます。
定期的にD&Bのパーティではやらせていただいてますね。Soi、Hangover、Jungle Scape......など。やっぱり、親和性は高いと思います、D&B/ジャングルは。
 それ以外は、スポットで呼んで頂いて、やらせてもらっています。
ただ、やはり、UKの低音カルチャーに重きを置いたパーティのブッキングがほとんどです。僕個人としては、UKガラージの多様性を活かして、ハウス、テクノ、ヒップホップ、レゲエなど、いろいろな音楽と交流できればと思っています。そこはもっと、リスナーの理解と、自分自身の知名度が必要だと思いますが。

UKガラージは、まさにUKならではの音楽スタイルですが、日本に根付くと思いましたか?

Prettybwoy:いまでも、根付いているとは思ったことがありません。まだたまに、日本でUKガラージが聴けると思わなかった! って外人さんから言われます(笑)。
 いま多くの日本に根付いているのは、2ステップでしかないんです。それがいい悪いではないのですが。本当に根付いているならば、こんなにグライムとUKガラージに壁があるわけはないと思います。本当に、ごくごく一部のリスナーにしか、まだ根付いてる、とは言えないと思います。
 ただ、ダブステップ、グライムがジャンルとして確立したおかげで、UKガラージに興味を抱く人が昔より増えたと思います。そういう人たちに、あまり個人では堀りにくいオールドスクールからいまの流行まで紹介していけたらいいと思っています。

もっともインスピレーションをもらった作品/アーティストを教えてください。

Prettybwoy:「U Stress Me 」K-Warren feat. Lee O(Leo the Lion)です。コレはアナログしか出てなくて、Vocal mixとDub mix(両方K Warren本人プロデュース)が入っています。こんなにハードでRawでベースなヴォーカル・トラックがあるんだなぁって。こういう前のめり感って、UKガラージならではの魅力だと思います。

UKガラージはレコードもなかなか日本に入ってきません。音源はネットを探しているんですか?

Prettybwoy:いまは時代が時代なので、比較的データ・リリースも多くはなったと思います。残念ながら、iTunesのみのリリースとかも見かけます。本当に仲良くなったアーティストは新曲を日本でも紹介してくれって送ってくれます。むしろリリース予定は無い曲とかもありますが。けっこう、昔からブート・リミックスも大量にあるので、そういう曲はフリーダウンロードになっていたり、プロモメールのみだったり。いまはほとんどそういう曲をプレイしています。
 レコードに関しては、日本の中古レコード屋で、100円とかでたまに掘り出し物みつけますね(笑)。ただ、UKガラージオリジナルの曲だと、ほとんど中古にはないです。昔はBig Appleで、初期ダブステップ、グライム、ガラージを扱っていたので、(昔はグライムではなく、SUBLOWでしたね)そこと、HOTWAXを利用していました。いまアナログを本気で掘ろうと思ったら、あんまり教えたくないんですが(笑)、DNRっていうイギリスのレコード・ショップが、大量の在庫を持っています。たまに僕もここで購入します。

Prettybwoyと名乗るようになった理由を教えて下さい(カタカナ表記も教えてください)。

Prettybwoy:あまり、カタカナ表記は拘りないのですが、プリティブォイですね(笑)。本当、思い付きです。名前をつけた20代中盤頃、クラブで女子に、何故かカワイイと言われることが多かったのと、ガラージ・アーティストで、Pretty boy Entertainmentってのがいたんで、語呂もいいし、呼びやすいかなって。もともと、ガラージ・アーティストでなんとかボーイって多かったですし。

Pretty Boy Entertainment - Buttas (Sunship Vs Chunky Mix)


 それと丁度、SoundBwoy Ent.ってアーティストが2ステップ曲出して日本にも入ってきてたので、じゃあ、Prettybwoyでいいやって(笑)。後から、prettyboyって、男好きな男子とか、チャラ男とか、いい意味ではないよって外人の友だちに言われて、まあ、ガラージDJでプリティブォイとかまんまだしネタになるしいいか。という具合です。

いつぐらいから良いリアクションが得られるようになりましたか?

Prettybwoy:もう、それこそ、その時々でリアクションは違いますが......。DBSに出させていただいてから、こんな人がいたんだってリアクションはありました。最初の頃、ガラージDJっていうイメージがもう、チャラいんですよね。でも、みんなが想像するより、低音が凄くて、ていうのは最初の頃よく言われていました。
 ただ、それは僕が好きなラインがそういう、グライムとガラージの中間ぐらいが好きなので、いい具合にみんなの期待を裏切れたんだと思います。だから、もっと、いろんな層に、違うアプローチで試してみたいとはつねづね思っています。超お洒落セットとか(笑)。

日本にもガラージ・シーンと呼べるものがあるのでしょうか? あるとしたら、どんな人たちがいるのか教えてください。

Prettybwoy:シーンと呼べるものは、ないと思います。ただガラージが好きで、メインでガラージDJをやっていなくても、プレイできる人はけっこういると思います。僕は僕のやり方で、求めるガラージ感を追求していくことが、いまやるべき事と思っています。ガラージをメインに活動している人間自体が、僕しかいないと思っているので、他にももしいるんなら、名乗り上げてほしいですね(笑)。シーンは、僕のDJや曲がいいねって言ってくれる人が増えたら、それがイコールシーンになるのかな? と、うっすら思っています。

地方ではどうですか?

Prettybwoy:DBSに初めて出演したときに、真っ先に反応してくれたのが名古屋のクルーの方だったのですが、名古屋では2000年当初、UKガラージをメインにパーティをやっていたクルーがいて、いまでも名古屋の現場にいます。だから、名古屋は比較的、ガラージに理解があると思います。栃木で活動しているBLDクルーもガラージには理解があります。他の都市は、正直ほとんど行ったことがないのでわかりません。

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Various Artits
Grime 2.0

BIG DADA

Amazon

とくにMCが重要なシーンですが、日本人MCでとくに素晴らしい人は誰がいますか?

Prettybwoy:誤解を恐れず、言わせていただきます。いません。UKガラージだけで見ても、UKにはDJの数と同じくらいMCがいます。MCのスキルだけあっても、どれがUKガラージのアンセムで、どれがいまヤバイ新譜で、という、ナビゲートができるMCでないといけないと思います。さらにレジェンドMCと言われるレベルのMCまでたくさんいます。彼らはみな、自分の決め台詞を持っています。
 また、グライムの若いMCと、UKガラージのMCとでは、求められる質が違います。MCというスタイルで、日本でそこまでやっている人が、UKガラージ、ちょっと広げてBPM140のシーンにどれだけいるでしょうか? 僕が知らないだけかもしれませんが、いないと思います。
 D&Bや、別のシーンで活躍している人は、そうやって頑張っているMCがいると思います。UKガラージシーンもまだないので、MCもこれから一緒に育っていけたらいいな。と思います。いまUKガラージに対する思い入れがあるMCは、Rallyさん、名古屋のYukako、Agoさん、福井のGoship君、僕が知っているのはこれくらいです。

J-Hardcore Dynasty RecordsのMC RALLYさんについて教えてください。

Prettybwoy:もともと、六本木クアイルでステップスという2ステップのパーティをやっていて、そこでMCをやっていました。残念ながら僕はそのパーティに行ったことはないのですが。現在はメイン活動はハードコア・テクノのパーティでマイクを握ってます。UKガラージには特別思い入れがあり、ある程度知識もあるMCだと思います。DJ Shimamuraさんと一緒にトラックも作っていたり、かなりアッパーなMCですね。元気すぎるときもあります(笑)。

UKガラージはUSのR&Bからの影響もありますよね。PrettybwoyさんはUSのヒップホップやR&Bは聴きますか?

Prettybwoy:もともと、クラブミュージックの入り口が90年代初期ヒップホップ/R&BBなので、その年代のはとくに、いまでも聴きます。TLCは大好きでDVDも買いました(笑)。

日本のR&Bというと、Jポップなイメージがついてしまっているのですが、アンダーグラウンドで良いシンガーはいますか?

Prettybwoy:僕自身、シンガーの方の知り合いがほとんどいないのでアレなのですが、名古屋にいて、D&BのMC活動もしている、yukakoというシンガーとはいま、一緒に曲を作っています。いわゆるJポップ・ガラージになってしまうのは嫌なので、いろいろ密に話し合って試行錯誤しています。初めての経験なので、勉強になるし、楽しいです。機会があれば、日本語のMCモノとかにも、今後は挑戦してみたいです。

ダブステップやジャングルなど、親類関係にあるジャンルもありますが、ガラージのみにこだわっている感じですか?

Prettybwoy:いままでの質問のなかでも触れましたが、とくにガラージのみにこだわっているわけではありません。トラックに関しては僕はガラージDJといいつつ、DBS(ドラムンベース・ジャングル)やBTC(ダブステップ)などに出演させてもらっているのもあって、そのいま現在の現場で培ったものを昇華して、UKガラージ的アプローチで表現できればな、と思って作っています。グライムとガラージは、とくに、インストモノ・グライムと、ガラージは僕のなかでまったく区別していません。ダブステップや、他にたくさんいいプレイヤーが周りにいるので、僕があえてプレイすることもないと思っています。ジャングルやD&Bに関しては、完全に僕は後追いなので、出演しているパーティで、こんなのもあるんだぁ、と勉強している感じですね。

2011年に自分ではじまた「GollyGosh」について教えてください。どんなコンセプトで、どんな感じでやっているのでしょうか?

Prettybwoy:もともとは月曜日というのもあり、気軽に楽しめるUKガラージ/グライムというコンセプトではじめました。UKガラージ好きだけど、普段あまり現場でかけることができなかったり、そういうDJの側面を実際に見て、親交を深められれば、という比較的緩い雰囲気でした。
最近は去年イギリスから日本に引っ越してきたFrankly$ickというDJとやっています。彼は、UKガラージ/グライムそしてオリジナル楽曲以外に、Jackin'という、ガラージの兄弟のようなジャンルを最近プレイするようになって、ここでしか聴けない音楽、という要素がここ最近強くなったような気がしています。
 また、Ustream配信もおこなっていたのですが、それによっての海外からの反応が意外とあることに驚きました。もともと、なかなか東京に来れない地方都市のUKガラージファンとの交流としてはじめたのですが、意外な発見ですね。これがきっかけで仲良くなった海外アーティストもいます。(ちなみに、次回は4/8月曜日です)

UKガラージというと、UKでは一時期、警察に監視されていたほど、ラフなイメージがあるのですが、日本のフロアはどんな感じでしょうか?

Prettybwoy:日本はピースですよ。さすが世界でも有数の安全な国です(外国に行ったことはありませんが)。どういうわけか日本では、そういうやんちゃな若者が、ガラージ/グライムに辿り着かないですからね。大人が聴く音楽というイメージは引きずっています。だいぶ変わってきてるとは思いますが。正直若い人たちにもどんどん聴いてほしいですね。

今回、UKの〈ビッグダダ〉のコンピレーション盤『Grime 2.0』に参加することになった経緯を教えてください。

Prettybwoy:まず、僕が自宅からUstreamでアナログのみでミックスを配信していたら、ツイッター経由でイギリス人が、「そのアナログどこで買ったんだ?」って聞いてきて、友だちになりました。そしてある日、「今度日本に行くよ!」と言ってきて、「え? 旅行?」って聞いたら、「DJだよ」って。それがHOTCITYでした。彼を呼んだのは、80kidzのAli君の「PEOPLE ROOM」というパーティでした。場所はUNITでした。
 来日した彼に音源CDRを渡して、彼が帰国後、すぐに「俺の友だち(Joe Muggs)が〈Bigdada〉のコンピに関わってて、お前のトラック入れたいってよ! やったなコングラチュレイション!」ってメールが来て......という流れです。最初は、騙されているんじゃないかと思いました(笑)。夢みたいで契約書来るまでほとんど誰にも言いませんでした。
 それと、収録される"Kissin U"は結構前からできていて、現場でも比較的プレイしていたトラックなのですが、今回リリースが決まってから、(先ほど話に出た)yukakoに新たにヴォーカルを歌って貰いました。よりドープなヴァージョンになったと思います。

日本人としては初のガラージ/グライムという感じで紹介されるんじゃないでしょうか?

Prettybwoy:おそらく、公式なリリースモノとしてはそうだと思います。最初は、Bandcampなどで自主リリースでもしようかと考えていたので、本当によいチャンスを貰えたと思います。それにこんなビッグ・レーベルで、僕がずっとやってきたことの成果として、『Grime 2.0』というコンピレーションに参加出来て本当に光栄です。日頃から、ちょっとヒネくれたガラージ表現をしてきて良かったと思います(笑)。
 これ以外でも、「Don't watch that TV」というUKアンダーグラウンドミュージックの情報サイトや、UKG専門の情報サイトなどで僕のDJ動画や、曲の紹介はしてもらっていました。
 また、去年の暮れにイギリス国内~国外でUKガラージの神様的存在として知られ、ラジオ局「KissFM UK」で10年以上ガラージ専門の番組を続ける超人DJ EZの番組で、「Guest Track from Japan」という感じの扱いで僕のトラックを紹介してくれたりしました。去年からUKのガラージDJたちからの反応が少しずつ出はじめてきたところです。たぶん、まだリスナーにまではなかなか届いていないと思います。

今後の予定を教えてください。

Prettybwoy:そうですね。せっかくだから、向こうから収録アーティスト何人か来て、リリース記念ツアーとか出来れば最高かなと思いますが、いまのところそういうお話はないので、いままで通り、トラックを作り、DJをやり続けたいと思います(笑)。
 国内から、いくつかリリースのお話はいただいているので、そちらを順に取り掛かります。それと、いくつか国内外アーティストと曲を作ったりが溜まっているのでそれもそのうち何らかの形で世に出せればと思います。パーティ情報はオフィシャル・サイトか、FACEBOOKで更新しています。いちばん直近だと、3/30に千葉〈CRACK UP MUNCHIES〉というところに行きます。

最後に、オールタイム・トップ・10のアルバムを教えてください。

Prettybwoy:アルバムに絞るとこんな感じですね。相変わらずアルバムが圧倒的に少ないですよね。個人的に、アルバムとして世界観の完成度が高かったと思うものをセレクトしました。
・MJ Cole / Sincere / Talkin' Loud
・Wookie / Wookie / S2S Recordings
・So Solid Crew / They Don't Know / Independiente
・Wiley / Treddin' On Thin Ice / XL Recordings
・In Fine Style / Horsepower Productions / Tempa
・Jammer / Jahmanji / Big Dada Recordings
・The Mitchell Brothers / A Breath Of Fresh Attire / The Beats Recordings
・Luck & Neat / It's All Good / Island Records
・True Steppers / True Stepping / NuLife Recordings
・Donae'o / Party Hard / My-ish
(順不動)

ありがとうございました! 

Prettybwoy:こちらこそ、ありがとうございました!

interview with 5lack - ele-king

たまにゃいいよな
どこか旅に出て
いまの自分を忘れて逃げるのも
東京は奪い合いさ、だいたい
パラサイトが理由をつけて徘徊
さよなら、fake friendsにバイバイ
本物ならまたどこかで会いたい
"早朝の戦士"(2013)

 先日福岡市を訪れて僕がもっとも驚いたのは、東京圏からの避難民の多さだった。「東京圏から福岡市への転入が急増 15年ぶり、震災避難が影響か」という記事は、2011年の東京圏から福岡市への転入者が前年比で31.5%増加し、1万3861人に上ったと報告している。その後も避難民は増え続けているようだ。
 福岡の友人夫婦は、彼らのまわりだけでも、震災以降(正確には、福島第一原子力発電所の事故が引き起こした放射能拡散があきらかになって以降)の本州からの避難民が30人はいると語った。さらに彼らの人脈をたどり範囲を拡大すれば、1000人は下らないのではないか、ということだった。最初は耳を疑ったが、実際に僕も福岡でたくさんの避難民と出会った。小さい子供連れの家族やカップル、ひとりで移住してきた若い女性らと話した。ラッパーや音楽家の移住者にも会った。福岡に居を移した友人は博多弁を巧みに使いこなし、繁華街の外れにあるアート・スペースのキーパーソンになっていた。彼らは新たな生活を営みはじめたばかりだったが、彼ら避難民と地元民の交流が町に新鮮な空気を送り込んでいるように感じられた。福岡は避難都市として、未来への静かな躍動をはじめていたのだ。

E王
5lack×Olive Oil - 50
高田音楽制作事務所 x OILWORKS Rec.

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 東京のダウンタウン・板橋から登場したスラックが最新作『5 0』を東京と福岡を行き来しながら、福岡在住のビートメイカー、オリーヴ・オイルとともに作り上げたというのは、それゆえに実に興味深い。制作は2012年におこなわれている。  
 スラックが2009年に放った『My Space』と『Whalabout』という日本語ラップの2枚のクラシック・アルバムは、東京でしか生まれ得ないポップ・ミュージックだった。多くの人びとが、シビアな巨大都市の喧騒のなかを颯爽と行き抜く20代前半の青年のふてぶてしく、屈託のないことばと音に魅了されている。そして、シック・チームのアルバムを含むいくつかの作品を発表したのち、この若きラッパー/トラックメイカーは、日の丸を大胆にジャケットのアートワークに用いた『この島の上で』(2011年)のなかで、震災以降の東京の緊迫と混乱をなかば力技でねじ伏せようとしているかに見えた。逃げ場のない切迫した感情がたたきつけられている作品だ。その後、センチメンタリズムの極みとも言うべき『』(2012年)を経て、最新作『5 0』に至っている。

 すべてのビートをオリーヴ・オイルに託した『5 0』が、スラックのキャリアにおいて特別なのは、東京にこだわっているかに思えたスラックが移動を創造の原動力にしている点にある。『5 0』は福岡に遊んだスラックの旅の記録であり、旅を通じてアーティストとしての新たな展開の契機をつかんだことに、この作品の可能性と面白さがある。移動が今後、日本の音楽の重要な主題になる予感さえする。東京への厳しい言葉があり、福岡への愛がある。
 僕が、はっきりとスラックの「変化」を意識したのは、2012年9月28日に渋谷のクラブ〈エイジア〉でおこなわれた〈ブラック・スモーカー〉の主催するパーティ〈エル・ニーニョ〉における鬼気迫るパフォーマンスだった。実兄のパンピーとガッパー(我破)、スラックから成るヒップホップ・グループ、PSGのライヴだった。スラックはパンピーをバックDJにソロ曲を披露した。彼は初期の名曲のリリックを、フロアにいるオーディエンスを真っ直ぐに見据え、毅然とした態度で攻撃的に吐き出した。オーディエンスに背を向け、気だるそうにラップする、聞き分けのない子供のようなデビュー当初のスラックの姿はそこにはなかった。オリーヴ・オイルと制作を進めていることを知ったのもそのときだった。

 インタヴューは、僕が福岡を訪れる前におこなっている。大量の缶ビールを両手いっぱいに抱え、取材場所の会議室に乱入してきた野田努の襲撃によって、ゆるやかな離陸は妨害され、墜落寸前のスリリングな飛行がくり広げられることとなったが、スラックは言葉を選びながら4年前のデビューから現在に至る軌跡について大いに語ってくれた。スラックのひさびさの対面ロング・インタヴューをお送りしよう。


なんでもいいってことになったら、死んでるのと変わらないから。だからこそ、ヒマを潰す。自由を一周したら責任が生まれて、社会の仕組みが見えてきた。それを理解しないで社会のことをやっててもダメだから、ちゃんとこなして文句言おうと思ってますね。

対面インタヴューはひさびさですか?

スラック:ひさびさですね。シック・チームで雑誌の取材とか受けましたけど。

僕がスラックくんにインタヴューさせてもらったのが、2009年末なので、約3年前なんです。セカンドの『Whalabout』を出したあとですね。

スラック:3年前ですか。早いっすね。

早いですよね。この3年間は個人的に激動だったんじゃないですか。作品もたくさん出してましたし。

スラック:たしかに。

野田:超若かったよね。

いまと雰囲気がぜんぜん違う(笑)。

スラック:そうですよね。22歳と25歳じゃぜんぜん違う。

そうか、25歳になったんですね。

スラック:ってことは次のインタヴューは30くらいかな。

ハハハ。

スラック:もう子供みたいにはしてられないですよね。

スラック(s.l.a.c.k.)って呼べばいいのか、娯楽(5lack)って呼べばいいのか、どっちですか?

スラック:あれでいちおうスラックなんですよね。

5がSと読めるということで、スラックと。

スラック:はい。まあ、名前なんかなんでもいいや、みたいな。オフィシャル感みたいなのをはめこもうとすると大変なんですけど、勝手に自分のあだ名を変え続けてる友達とかいたじゃないですか。

なるほどね。そうゆうノリだ。

野田:(『5 0』のCDをみながら)ああ、オリーヴ・オイルといっしょにやったんだ!

スラック:そうです。

野田:これは聴きたいなあ。オリーヴ・オイルといっしょにやってるってとこがいいと思うね。

スラック:めっちゃ気が合って。

このアルバムの制作で福岡にちょくちょく行ってましたもんね。

スラック:はい。最近はオリーヴさんとK・ボムさんと仲良いです。

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オレがラップする「適当」を、気を抜いてとか楽天的にとか、ポジティブに受けとられれば良いですけど、責任のない投げやりな意味として受けとるのは勘違いかなって。

僕が今回インタヴューさせてもらおうと思ったきっかけは、去年の9月28日の〈エル・ ニーニョ〉のスラックくんのパフォーマンスに感動したからだったんです。PSGのライヴでしたね。

スラック:はいはいはい、あの日、やりましたね。

これまで感じたことのない鬼気迫るオーラを感じて。

スラック:オレがですか?

うん。「適当」っていう言葉は当初は日本のラップ・シーンに対する牽制球みたいな脱力の言葉だったと思うんですね。もう少し気を抜いてリラックスしてやろうよ、みたいな。

スラック:はいはいはい。

それが、より広くに訴えかける言葉になってたな、と思って。

スラック:漢字で書く「適当」の、いちばん適して当たるっていう意味に当てはまっていったというか。要するに、良い塩梅ということです。だから、いいかげんっていう意味の適当じゃなくて、ほんとの適当になった。まあ、でも、最初からそういう意味だったと思うんですけど、時代に合わせるといまみたいな意味になっちゃうんですかね。ちょっと前だったら、もうちょっとゆるくて良いんじゃんみたいな意味だったと思う。

自分でも言葉のニュアンスが変わった実感はあるんですか?

スラック:オレがラップする「適当」を、気を抜いてとか楽天的にとか、ポジティブに受けとられれば良いですけど、責任のない投げやりな意味として受けとるのは勘違いかなって。

なるほど。

スラック:あの日のライヴは良かったっすね。

自分としても良いライヴだった?

スラック:そうそうそう。

どこらへんが?

スラック:楽しみまくりました。アガり過ぎて、終わってからも意味わかんなかった。

さらに言うと、スラックくんにとっても東日本大震災はかなりインパクトがあったのかなって思いましたね。スラックくんのライヴを震災後も東京で何度か観てそう感じたし、『この島の上で』のようなシリアスな作品も出したじゃないですか。実際、東京はシリアスになって、それはますます進行してると思うし、そういう緊迫した状況に対して、あの日のライヴの「適当」って言葉が鋭いツッコミになってるなって感じたんですよ。

スラック:いまやるとたしかに地震前とは違いますね。

野田:『この島の上で』を出すことに迷いはなかったの?

スラック:えっと......

野田:なんて真面目な人間なんだろう、って思ったんだけど。

スラック:そう言われますね。「真面目過ぎだよ」って。でも、自然に出しましたね。かなり混乱はしましたね。

混乱というのは、『この島の上で』を出すことについて? それとも東京で生きていくことに?

スラック:人の目はぜんぜん意識してなかったですね。たまたまああいう曲調の音楽が作りたかっただけだと思うんですよ。そこに自分の精神が自然にリンクした。自分が真面目になったイメージもなかったんですよ。

野田:わりと無我夢中で作っちゃった感じなの?

スラック:そうっすね。でも最近まで、「元々自分が音楽をどういう精神でやってたんだっけ?」ってずっと悩んでたような気がしますね。

野田:ぶっちゃけ、日の丸まで使ってるわけじゃない? 「右翼じゃないか」って受け取り方をされる可能性があるわけじゃない。

スラック:あの頃は、愛国心というか、「自分は日本人だ」みたいな意識が強くなってたんです。

『この島の上で』のラストの"逆境"はストレートに愛国心をラップした曲だよね。

スラック:なんて言ったらいいんですかね。あれはある意味ファッションですね。日本人がいまああいう音楽を残さないでどうするっていう気持ちがあった。歴史的に考えて、日本の音楽のチャンスだった思うんです。

野田:よく言われるように、国粋主義的な愛国心もあれば、土着的な、たとえば二木みたいに定食屋が好きだっていう愛国心もあるわけじゃない?

ナショナリズムとパトリオティズムの違いですよね。

野田:愛国って言葉はそれだけ幅が広い。いまの話を聞くと、あれだけ時代が激しく動いたわけだから、記録を残したかったっていう感じなの?

スラック:うーん、いろんな気持ちが同時にありました。いま上手くまとまりませんけど、全体的に描きたかったのは日本でしたね。

僕はタイトルの付け方が面白いと思ったんですよ。「この国」って付けないで、「この島」と付けたところに批評性を感じた。その言葉の違いは大きいと思う。

スラック:そうっすね。とりあえず、日本人がいまこういうことやってるぜっていうことを主張したかった。だから、音楽のスタイルも日本っぽい音を使いました。

国もそうだけど、震災以降、「東京」もスラックくんの大きなテーマになった気がしました。どうですか?

スラック:そうっすね。いろんな街に行って、東京って形がない街だなって思ったんですよ。

今回のアルバムにも東京に対する愛憎が滲み出ているじゃないですか。東京を客観的に見る視点があるじゃないですか。

野田:でも、"愛しの福岡"って曲もあるよ。

それは東京から離れて作ったからでしょ。

スラック:けっこう東京は嫌いではありますね、いま。

野田:おお。

スラック:嫌いっていうか、他の街に行くと、自分が実は騙されてんじゃないか、みたいに思うんです。

東京に住んでいてそう感じる?

スラック:はい。東京は「パラサイティスティック」ですね。

「パラサイトが理由をつけて徘徊」("早朝の戦士")っていうリリックがありましたね。ここで言うパラサイトってどういうことなの?

スラック:自分で生み出す感じじゃないということですね。

たとえば、誰かに乗っかってお金を儲けるとか。

スラック:そうですね。

もう少し具体的に言うと?

スラック:言い辛いんですけど。

他人をディスらなくてもいいので(笑)。

スラック:そうっすね。多くの人が自分発祥のものじゃないことをやっている気がするんです。

それはたとえば、日本にオリジナリティのある音楽のスタイルが少ないと感じる不満にも通ずる?

スラック:それもそうですし、市場とかを考えても......、うーん、何か落ち着か なくなってきた......

野田さんがいきなりディープな話題に行くからですよ! もうちょっとじっくり話そうと思ってたのに(笑)。

野田:そんなディープかねぇ?

ディープでしょう。

スラック:いや、ぜんぜん大丈夫です。

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人の目はぜんぜん意識してなかったですね。たまたまああいう曲調の音楽が作りたかっただけだと思うんですよ。そこに自分の精神が自然にリンクした。自分が真面目になったイメージもなかったんですよ。

ちょっと仕切り直しましょう。まず、今回のアルバムについて訊かせてください。オリーヴ・オイルといっしょにほぼ全編福岡で作りましたよね。作品を聴いて、東京を離れて感じたり、考えたことが反映されてるんだろうなって思ったんです。

スラック:そうですね。普通に落ちちゃうぐらい、東京にいたくなくなりましたね。

去年、それこそ〈エル・ニーニョ〉で会ったときに、「東京、離れるかもしれませんよ」って思わせぶりな言い方してましたもんね。

スラック:ハハハ。

野田:東京生まれ東京育ちじゃない。でも最近は、東京村みたいにもなってきてない? 「スラック以降」、とくにそういう感じがするんだけど。

スラック:だから、オレみたいな位置の人がいっぱい出てくればいいなって思う。なんかこうサービス業になってるんですよ。

野田:でも、それは東京だけに限らないんじゃない?

スラック:でも、スピード感があるからこそ、スピードが遅いことに対して文句を言うんですよね。

情報の速さに慣れてるんだよね。便利さに慣れてるっていうことですよね。

スラック:それもそうですし。

野田:それは東京じゃなくて、ネットじゃない?

スラック:ネットはありますね。ネットも携帯も超アブナイと思う。いつか電気と人間がひっくり返るときがくる気がしますね。

震災が起きた直後に"But This is Way / S.l.a.c.k. TAMU PUNPEE 仙人掌"をYouTubeにアップしましたよね。で、3月20日に〈ドミューン〉の特番に出てくれた。そのときに「情報被曝」っていう言葉を使っていて、それがすごく印象に残ってる。『この島の上で』の1曲目"Bring da Fire"でもその言葉を使ってたよね。どういうところからあの言葉が出てきたの?

スラック:起きなくていい争いが起きる可能性が何百倍にも増えてると思うんです。昔は恋人ともすごい距離歩かなかったら会えなかったのに、電話ができる回数分ケンカが増えて別れる率が上がってるとか(笑)。たとえば、そういうくだらないことが超増えてる。だから、もうちょっとシンプルに人間になって、五感を使っていきたい。

野田:フリーでダウンロードして音楽聴く人間は、意外と文句ばっか言うんだよ。サービス業じゃないんだっていうのにね。

スラック:料理人とかもそうですけど、客から文句があったら、「帰れ!」って言えばいいんじゃないかなって。それで潰れるのは店なわけだし。

この数年間でスラックくんに対する周りの見方も大きく変化したと思うんですよ。いろいろ期待もされただろうし、プレッシャーを感じているんじゃないかなって。

スラック:いや、それはないですね。みんなは新しく出てくるアーティストに盛り上がってるけど、オレはまるでよくわからないアーティストばっかりなんで。

ハハハ。つまり、スラックくんが評価できるアーティストが少ないってことですか?

スラック:日本のリスナーのハードルがそんなに高くないんじゃないかって思いますね。音楽を聴いてんのかな?って。

それに似たようなことを3年前のインタヴューでも言ってたね。「無闇にタレント化したり、ブログを頻繁に書いてみたり、そういうのが目立ってて。なんでそこを頑張ってんだよ」って(笑)。

スラック:音楽のスタイルや実力で出てきたヤツもそっちに流されてる気がする。

インターネットやSNSの弊害なのかもしれないですよね。SNSで発信したり、表現したりしないといけないという強迫観念に縛られているのかもしれない。ただ、それは音楽産業の構造の問題でもあると思う。経済的に厳しいから、ミュージシャンが、プロデューサーやプロモーターの役割も担わなくてはいけない現状があるから。

スラック:というか、ネットとカメラを使うDIYみたいのが主流になって、誰でもプロっぽく作れるから、リスナーが本物を見抜けないんじゃないすかね。まあ、どちらにしろ、プレッシャーの感じようがない。

自分に脅威を感じさせる存在がいない、と。

スラック:数人しかいないですね。

野田:本人を目の前にして言うのもなんだけど、スラックはぶっちゃけ、下手なメジャーよりも売れちゃったと思うんだよね。自分が売れて、周りからの反応ではなく、自分自身に対するプレッシャーはなかったの?

スラック:うーん。

野田:そこは動じなかった?

スラック:動じませんでしたね。だから、『この島の上で』の話に戻ると、「こういうアルバムもオレは出すんだよ」くらいでの気持ちでしたね。

野田:ハハハハハッ。

スラック:「このデザイン、ハンパなくない?」、みたいな。

野田:なるほどね。『My Space』と同じような気持ちで作ったということだ。

スラック:ある意味ではそうです。自然に真面目にやったんです。

『この島の上で』のような誤解をされかねない作品を出して、その評価や反響に賛否あっても、ぶれることなくいままで通り音楽を続けていく自信があったと。

スラック:そうっすね。でも、無意識ですね。それと、Ces2と出した『All in a daze work』を『この島の上で』のあとに出したんですけど、『この島の上で』の前に完成してましたね。

スラックくんの作品を昨日一晩で聴き直したんですよ。『情』がとくに象徴的だけど、ある時期から、泣きの表現、センチメンタルな表現に力を入れはじめた印象を受けたんですよ。

スラック:『情』では景色を描きたくて、映画を作るようなイメージで作ったんです。日本人の誰もが共感できるものっていうか。

叙情や情緒になにかを託していると感じたんですよね。

野田:サンプリングのアレもあるだろうけど、フリーダウンロードで配信したのはなぜなの?

スラック:あれはなんででしたっけ?

マネージャーF:『情』は、いままでお客さんがCDを買ってくれてたり、ライヴも観てくれたりすることへのお返しっていう意味があったんでしょ。

スラック:そうだ、そうだ。まあ、ネタのこともあるけど、かなりの赤字になるのが決まってたんですけど、正規の作品ばりにガッツリ作ったんですよ。

マスタリングもばっちりやってますよね。

スラック:そうです。行動で示したかったですね。

野田:律儀な男だね(笑)。

自分のファンに対して、愛があるんですね。

スラック:そうっすね。いや、でもファンに対して、愛はたぶんないです。

えぇぇー(笑)。ファンががっかりするよ。

スラック:でもやっぱり両想いは難しいですよ。オレのことを理解しきれるわけがないし。

厳しいね。

野田:いやいや、そりゃそうでしょ。

スラック:もちろん感謝はしてますけど。

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いろんな街に行って、東京って形がない街だなって思ったんですよ。けっこう東京は嫌いではありますね、いま。嫌いっていうか、他の街に行くと、自分が実は騙されてんじゃないか、みたいに思うんです。

ここまでの話を聞いて思うのは、スラックくんはひとりひとりの音楽リスナーに音楽を聴く耳を鍛えてほしい、育ててほしいという意識があるんだなって思いましたね。

スラック:それもありますね。

野田:あるんだ!? オレは、どっちかって言ったら、スラックはまったく頓着しないタイプなのかなって思ってた。

いや、あるんじゃないですか。

スラック:真面目とふざけが同時にあって、どうでもいいっちゃどうでもいいんですよね。でも、なんでもいいってことになったら、死んでるのと変わらないから。だからこそ、ヒマを潰す。自由を一周したら責任が生まれて、社会の仕組みが見えてきた。それを理解しないで社会のことをやっててもダメだから、ちゃんとこなして文句言おうと思ってますね。

それは3年前にインタヴューしたときには感じてなかったことなんじゃない。

スラック:感じてませんでしたね、たぶん。

ハハハハハ。22歳でしたもんね。

スラック:そうですね。だから、あのときはもう文句ばっかでしたね。

野田:ヒップホップってアメリカの文化じゃない? 日本人もアメリカ的なものに憧れて、ヒップホップにアプローチしていくところがあるでしょ。スラックはアメリカから押し付けられたアメリカに満足できないということを暗に主張したいのかなって感じたんだけど。

スラック:でも最近、オレはアメリカの自然なヒップホップをやるんじゃなくて、オレらの自然な生活感のあるヒップホップじゃないと無理があると思ってますね。これ、ちょっと話が違いますか?

野田:いやいや、そういうことだよね。あと、必ずしもアメリカが良いわけではないでしょ。日本以上に過酷なところがある社会だからさ。

スラック:そうですよね。

野田:アメリカに憧れる気持ちは、音楽好きのヤツだったら、若い頃は誰にでもあったと思う。でも、海外をまわってから日本をあらためて見直すってこともある。たとえば、幸いなことに、アメリカほどひどい格差社会は日本にはまだないと思うからさ。そういう意味での日本の良さだったらオレは理解できる。

スラック:そうですね。愛国心というか、オレが日本人であることが問題なだけで。

野田:それは思想とかじゃなくて......

スラック:自分のチームを立てるしかないってことですね。

野田:自分の親や町内や地元が好きなようなもんなんだね。しょうがないもん、そこで生まれちゃったんだから。

スラック:そうそう。だから、楽しみたい。日本の道路をアメリカやイギリスの国旗を付けた車が走ってるのを見て、「なんだろう?」、「日本はどこに行ったんだろう?」って思うときがある。「日本にももっと楽しむところがいっぱいあるはずなのに」って。そういう意味で、ファッションって言い方をしたんです。

たとえば、日本文化のどういうところを楽しもうと思ったの?

スラック:ガイジンが面白がる日本を楽しんでみたり。

ガイジンのツボを突く日本ははこういとこなんじゃないか、と。

スラック:ガイジンというか世界に対してですね。それが日本の金になっていくって発想だと思います。

シック・チームは海外のラッパーやトラックメイカーと交流があるし、スラックくんの周りにもいろんな国の友だちがいますよね。そういった人たちとの会話のなかで生まれた発想ですか?

スラック:いや、オレがひとりで走ってましたね。ただ、地震のあと、スケーターの仲良いヤツと話しても、スケボーの世界も海外に対して、「日本人ならどうする?」、「オレらはなにを作る?」って方向に向かっていったらしい。

国を大きく揺るがす大震災や原発事故が起きて、日本人のアイデンティティを問い直す人たちが多かったってことなんですよね。

スラック:多いんじゃないすかね。どうなんすかね?

野田:多かったとは思うけど、K・ボムやオリーヴ・オイルはそういう意味では、ずば抜けた日本人でしょ。言ってしまえば、日本人らしからぬ日本人でもあるじゃない。

スラック:逆にオリジナル、本物はこれだよって。

野田:みんなが思う日本人のパターンに収まりきらない日本人だよ。

スラック:怒られるかもしれないけど、Kさんもオリーヴさんも友だちっぽいんですよね。良い意味で気をつかわないし、怒らしたら恐いんだろうなっていうところが逆に信用につながっている。

K・ボムの凄さは、あの動物的な直感力だと思うんだよね。

スラック:運動神経なんですよね。オリーヴさんも音作りの運動神経がすごい。一気に作って、完成してるんです。速いんですよ。

スラックくんは、K・ボムというかキラー・ボングのアヴァンギャルドな側面についてはどう思う? ある意味で、ヒップホップから逸脱してるじゃないですか。〈エル・ニーニョ〉のときも、PSGのライヴのあとに、メルト・ダウン(キラー・ボング、ジューベー、ババ、オプトロン)の壮絶なライヴがあって、〈ブラック・スモーカー〉は、そういう異色な組み合わせを意図的に楽しんでやってると思うんだよね。

スラック:もちろんKさんには音楽の才能を感じますし、Kさんが違うジャンルの音楽をやっていても理解できる。むしろ、リスナーからは似たようなシーンにいるように見られていても、オレはぜんぜん感じないヤツもいますよ。

そこの違いみたいなものはリスナーやファンにわかってほしい?

スラック:まあ、わかったほうがいいとは思いますけど、半々ですね。理解してほしいっちゃほしいけど、それでみんなが傷つくのはかわいそうっちゃかわいそうですよね。迷いがありますね。だから、日本のシーンってまだぜんぜん形になってないと思います。これから20代以下の若いヤツらがたぶんすごいことになる気がします。

スラックくんの活動を見てると、自分が100%出せるイベントやパーティにしか出演しないというか、けっこうオファーを断ってるじゃないんですか?

スラック:そうですね。みんながどんぐらい受けてるかを知らないけど、たとえばモデルにしろ、嫌いな服は着れないし、完全に自然が良いですね。

安易に手を取り合わなかったり、オファーを断ることで守りたい自分のスタイルや信念はなんなんですかね?

スラック:けっこう生々しい東京の話になってきちゃいそうですね、そうなると(笑)。単純にだるい人間関係とか良くないものとの関係とか、ニセモノやイケてない関係とかが多いですよね。そういうのはあんまり信用してない。

スラックくんの攻撃性みたいなものはそこまで曲に反映されてないですよね。

スラック:そうなんすかね? 意外と出してますよ。

そうか、意外とラップしてるか(笑)。

スラック:次出すやつとかヒドイなあ。

野田:トゲがある?

スラック:そのときの気持ちはもう忘れてる感じですけど、イライラして曲書いて発散しましたね。

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みんなは新しく出てくるアーティストに盛り上がってるけど、オレはまるでよくわからないアーティストばっかりなんで。日本のリスナーのハードルがそんなに高くないんじゃないかって思いますね。音楽を聴いてんのかな?って。

少し話を変えると、3年前にインタヴューさせてもらったときに〈ストーンズ・スロウ〉から出すのが、ひとつの夢でもあるという話をしてましたよね。久保田利伸を例に出したりして、ディアンジェロみたいなブラック・ミュージックを消化して、表現したいと。その当時語ってた理想についてはいまどう考えてます?

スラック:〈ストーンズ・スロウ〉はいまは興味ないですね。オレはいまそっちじゃないですね。オレはただJ・ディラが好きだったんだなって思いますね。

野田:J・ディラのどんなとこが好きだったの? サンプリングをサクサクやる感じ?

スラック:彼のスタイルが、90年代後半以降のヒップホップのスタンダードになったと思うんですよ。

最近、トライブの『ビーツ、ライムズ&ライフ~ア・トライブ・コールド・クエストの旅 ~』って映画が上映されてて、すごい面白いんだけど、あの映画を観て、あらためてトライブからJ・ディラの流れがヒップホップに与えたインパクトのでかさを実感したな。

スラック:セレブっぽいっていうか。音楽としてヒップホップの人が追いつけないところに行こうとしはじめると、結果的にモデルがいっぱいいるようなオシャレな音楽になっていく。そうやってブレていく人たちが多いと思う。そうなるとあとに引けなくなるし。

それこそ漠然とした言葉だけど、スラックくんは「黒さ」に対するこだわりが強いのかなって。

スラック:黒さだけじゃないんですよ。自分もアジア人ですし。

野田:白人の音楽で好きなのってなに?

スラック:ラモーンズとかですね。

一同:ハハハハハ。

スラック:なんでも好きですよ。ピクシーズとかカート・コバーンも好きだし。

野田:ラモーンズって、けっこう黒人も好きなんだよね。

スラック:極端にスパニッシュっぽいものとかラテンっぽいものも好きです。

いま、スラックくんが追ってる音楽はなんですか?

スラック:ディプセットとかジュエルズ・サンタナとか聴いてますね。中途半端に懐かしい、あの時代のヒップホップにすごい癒されてて。いま聴くと、オレが好きなヤツらって、ここらへんの音の影響を受けてんのかなーって思ったりして。

シック・チームでもひと昔前に日本で人気のあったアメリカのラッパーをフィーチャーしてましたよね? えー、誰でしたっけ?

マネージャーF:エヴィデンス。

そうそう、エヴィデンス! あのタイミングでエヴィデンスといっしょにやったことに意表を突かれましたね。

スラック:ダイレイテッド・ピープルズですね。

そう、ダイレイテッド・ピープルズ! 日本でもコアなリスナーの間で人気あったじゃないですか。面白い試みだなと思いましたね。

スラック:だから、「これはもしかして日本人がいまちょっと来てるんじゃねぇのか」って思った。でも、いままでの日本の打ち出し方ってイケテないのが多いから、そこは慎重にかっこよくやりたいんですよ。

野田:ダイレイテッド・ピープルズに、90年代の『ele-king』でインタヴューしましたよ。

スラック:マジすか?

野田:マジ。当時はパフ・ダディがポップ・スターだったじゃない? ダイレイテッド・ピープルズやエヴィデンスは、そういうものに対するカウンターとしてあったよね。

スラック:オレの周りは年齢層も30歳ぐらいの人が多くて、ナインティーズ推し派が多いんですけど、オレはネプチューンズとかも好きなんですよ。オレはサウスが流行ってた時代に育ってるけど、その中でナインティーズっぽいことをやってた。だから、「ファレルとかも良くない?」って思う。

日本では、90年代ヒップホップとサウス・ヒップホップの溝はけっこう深いしね。

スラック:深いし、ナインティーズ推し派の人たちはやっぱ固いっつーかコアですよね。あと、オレの世代でもまだやっぱ上下関係が残ってて、オレはそれを否定して少数派になっちゃった。だから、もうちょっとやりやすい環境を求めて、いま動き回ってますね。

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動じませんでしたね。だから、『この島の上で』の話に戻ると、「こういうアルバムもオレは出すんだよ」くらいでの気持ちでしたね。「このデザイン、ハンパなくない?」、みたいな。

良い音楽を作るためにはしがらみを取っ払わないといけないときもあるよね。

野田:いや、良い音楽を作るためには独善的でなければならないときもあるんだよ。ジェイムズ・ブラウンみたいに、「おい! ベース、遅れてるぞ。罰金だ!」って言うようなヤツがいないとダメなときもある。

スラック:たしかに言えてますね。だから、人と上手くやるのって難しいですね。とくに日本のお国柄とか日本人の精神もそこにリンクしてくるから。日本はいますごい絶望的だと思うし、そのなかでポジティブに楽しんで生きていけるヤツがある意味勝ち組だと思う。社会的に勝ち組と思ってるヤツらもいきなり明日にはドン底になって動揺する可能性だってある。親父とも最近、そういう日本のことを話したりするようになって。

野田:お父さん、すごい音楽ファンなわけでしょ?

スラック:そうですね。

野田:スラックは、『My Space』と『Whalabout』を出したときにメジャーからも声をかけられたと思うのね。「うちで出さない?」って。

スラック:はいはい。

野田:それを全部断ったわけじゃん。断って自分のレーベル、高田......、なんだっけ?

スラック:高田音楽制作事務所(笑)。

野田:でも、いわゆるアンダーグラウンドやマイナーな世界に甘んじてるわけでもないじゃない。

スラック:はい。

野田:だから、「第三の道」を探してるんだろうなって思う。アメリカの第三のシーンみたいなものが、ダイレイテッド・ピープルズとかなんじゃない。

あと、レーベルで言うと、〈デフ・ジャックス〉とかね。

野田:そう、〈デフ・ジャックス〉とかまさにね。

〈ストーンズ・スロウ〉も精神としては近いでしょうね。

野田:まあそうだね。そのへんの「第三の道」というか、いままでにない可能性に関しては諦めてない?

スラック:うーん、どうですかね。自分の立場が変わって、シーンをもっと良くすることができる位置にきた気はします。元々の人には嫌われたりするかもしれないけど、シーンを自分の色にできる影響力を持った実感もちょっと出たし。やらないことも増えたり、変なことやるようになったり。「第三の道」っていうの探してるかはわからないですけど、元の自分のままでいることはけっこう無理になりましたね。いまの自分の立場になって、昔の自分みたいなヤツが出てくるのを見て、「オレはこんなことしてたんだ」って思うこともある。そういう経験をしてきたから、後輩には良くしようって。そういう変化をもたらすきっかけにはなれるんじゃないかなってたまに思っちゃう。

シーンについて考えてるなー。

スラック:「なんでオレがこんなことしなきゃいけないんだよ!?」って思いながら、「オレがやってんじゃん」みたいな。

ハハハ。

スラック:いまオレが言ったようなことをやる専門のヤツがいっぱいいたらいいのにって思う。でも日本人は、有名なラッパーに「なんとかしてください」ってなっちゃうんですよ。アナーキーくんみたいに気合い入れて自分を通してやり遂げて、曲もちゃんと書くってヤツがもっと存在していいと思う。言い訳ばかりはイヤですね。

野田:日本の文化のネガティブなことを言うとさ、やっぱり湿度感っていうか、ウェット感がある。たぶんそういうところでけっこう惑わされたのかなって思うんだけど。

あと、派閥意識みたいなのも強いですからね。それがまた面白さなんだけど。

野田:日本人がいちばんツイッターを止められないらしいんだけど、なぜ止められないかって言うと、そこで何を言われているか気になって仕方がないというか、人の目を気にしてるからっていうさ、そうらしいよ。

スラック:ああ。

野田:自分が参加しないと気になってしょうがないんだって。二木はとりあえず、そういう人の目を気にしちゃってる感じをファンキーって言葉に集約してなんとか突破しようとしてるわけでしょ。あれだね、スラックは理想が高いんだね。

スラック:理想はたぶん、高いかもしれない。

そういう意味でもスラックくんの存在はすごい重要だと思う。

スラック:あとオレは、カニエやファレルに負ける気で音楽は作ってないすね。

野田:カニエとファレルだったらどっち取る?

スラック:ファレルですね。

野田:あー、オレと同じだなあ。じゃあ、ファレルとカニエの違いはどこ?

スラック:まあ、いちばん簡単に言えば、最初は見た目なんですよ。あと、ファレルは最終的に音が気持ちいいし、器用だし、音楽だけに留まってない。音楽のセンスが違うところに溢れちゃってる。あの人とかもう、究極の楽しみスタイルじゃないですか。チャラい上等じゃないですけど。

野田:それって逆に言うと、実はいちばんずるい。

スラック:ずるいですね。

野田:バットマンの登場人物でいうジョーカーみたいなヤツじゃん。人を笑わせといて、実は殺人鬼っていうようなさ。

すごい喩えだ(笑)。

スラック:ネプチューンズというか、ファレルは作る音で信用得てますよね。それは周りからのディスで止められるものじゃない。

野田:フランク・オーシャンとかはどうなの?

スラック:フランク・オーシャンは好きっすよ。

野田:オッド・フューチャーは?

スラック:オッド・フューチャーも最終的に好きになりましたね。

野田:あのへんはファレル・チルドレンじゃない。

スラック:そうですね。メインストリームの良いものを真似して、でも惑わされずに、あの世代のアングラ感やコアな感じを出してますよね。だから、信用できる。

考えてみれば、フランク・オーシャンも「第三の道」を行ってるアーティストですよね。

野田:そうだね。

スラック:彼はなんか人生にいろいろありそうな音してますよね。

野田:そうそう。で、オッド・フューチャーにレズビアンがひとりいる。

たとえば、日本のヒップホップで「第三の道」って言ったら、やっぱりザ・ブルー・ハーブじゃない。

スラック:よく聴いてたし、オリジナルだし、彼らのはじまりを思うとすごいと思いますね。「ガイジンもなにこれ?」って思うような、日本っぽいことをやって、それをやり通してるし。

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日本はいますごい絶望的だと思うし、そのなかでポジティヴに楽しんで生きていけるヤツがある意味勝ち組だと思う。社会的に勝ち組と思ってるヤツらもいきなり明日にはドン底になって動揺する可能性だってある。親父とも最近、そういう日本のことを話したりするようになって。

スラックくんの言う「日本っぽい」っていうのがなにを意味するのかもう少し訊きたいな。たとえば、『この島の上で』の"まとまらない街"や"新しい力"では、日本の伝統音楽というか邦楽をサンプリングしたようなトラックを作ってるでしょ。

スラック:たとえば、久石譲の音楽をCMや映画で聴いたりして、オレらだけが本当の意味で楽しめることに、みんな気づいてると思うんですよ。しかも、それでかっこ良ければ、ばりばりガイジンに対しても自信満々で行けるって。

「日本っぽい」オリジナルな音楽を作るというのは、いまでもスラックくんのひとつのテーマ?

スラック:ああ、でも、もう、ぶっちゃけいまはゆるいです。いろいろやってみて、疲れてきて、いまはもういいや、みたいな。地震のあと、坊さんの話を勉強したり、善について考えたりもして。でも、オレには無理だなって。全部を動かすスタミナはオレにはなかった。だから、いまはそっちは放置プレイです。

野田:でも、日本っていうのはAKBとか、オレはよく知らないけど、アニメとかさ、そういうのもひっくるめて日本だからさ。

スラック:そうすね。

野田:そういう意味で言うと、いまスラックが言ってる日本ってすごい偏った日本だと思うんだよね。

スラック:だから、オレはオレで、自分の好みをもっと広めたい。

野田:スラックの同世代の他の子はやっぱりアニメを観てたりしたでしょ。

スラック:そうですね。

野田:携帯小説を読んだりとかさ(笑)。

スラック:オレの世代はめっちゃ携帯世代ですね。でも、若いヤツらって意外と真面目で、時代は大人たちの裏で変わっていると思う。

野田:オレもなんか、スラックより下の世代と話が合うんだよね。

それぐらいの世代ってフランクだよね。

スラック:タメ語っぽいヤツは多いですね。

野田:オレなんかスラック以上に先輩後輩の上下関係のなかで育ってるから。

スラック:若いヤツらはオレの立場とかどうでもよくて、みんなはっきり言ってくるんで。「それ違くない?」って。それがけっこう当たってたりして、自分の邪念に気づけるし、面白いすね。だから、20歳未満の世代にも期待してますね。

野田:そのぐらいになると、「インターネットは単なる道具っしょ」っていう距離感なのね。

スラック:たしかに。

野田:さっぱりしているよね。

スラック:いまの若いヤツに対しては「プライドなんて育てない方がいいよ」って言いたいっすね。東京はダメだし、警察はギャングだし。もうちょっと賢い、本当に強い選択をしないと。暴力は損することも多いから。うまくなかに入り込んで壊すような、風穴を開けるようにならないとダメだと思う。ダメっていうか、そうしないと良くはならない。

東京の状況を良くしたいって気持ちもあるっていうことなのかな。

スラック:ありますね。最近、けっこう自分が良くねぇ時代にいるんじゃないかって気づき出して。オレらの親世代とかはちょうどバブルの子供世代だったりして、地震ではじめて動揺した世代だと思う。

野田:お父さんは何歳なの?

スラック:50中盤ぐらいなんで。

野田:えー、じゃあ、ぜんぜんバブルじゃな......い......いや、バブルか。

スラック:バブルの若者で、戦争にも当たってないし、なんにも触れてなくて、めっちゃ平和ボケ世代なんですよ。

野田:運がいいんだよ。

ある意味羨ましい。

スラック:そうそうそう。だから、その子供世代とかがまさにオレらとかで、いま大変な不景気に立たされてる。オレら世代はけっこうクソ......、クソっていうか、自由を尊重する気持ちだけは育って、でも手に入れる腕もないし、趣味もなけりゃ、ほんとにみじめだなって思ったりもします。好きなことがないとかは、大変だろうなって思いますね。

いやあ、すごいおもしろいインタヴューだけど、野田さんの襲撃によって話がとっ散らかったなあ。......あれ、野田さん、どこ行くんですか?

野田:トイレですよ!!

一同:ダハハハハハッ。

『5 0』のことも訊きたくて。いちばん最後の曲、"AMADEVIL"ってなんて読めばいいんですか?

スラック:これはオリーヴさんがつけましたね。

意味はわかります?

スラック:いや。

ラストのこの曲の音が途中で消えて、そのあとにまた曲がはじまるでしょ。僕はその曲がアルバムのなかでベストだと思ったんですよね。

スラック:"BED DREAMING"だ。なんかベッドの上から一歩も出ないような日に書いた曲なんですよね。

福岡と東京を行ったり来たりしながら録音したわけでしょ。

スラック:行ったり来たりして、あっちで書いて、家で録ったり、それを送ったりしてましたね。去年の夏からですね。

そもそもどうしてオリーヴ・オイルとやろうと思ったんですか?

スラック:アロハ・シャツ着て過ごしたいなって。東京を置いといて。で、金にしちゃえって。

なるほどー。

スラック:長いラップ人生、なにをしちゃいけないもクソもねぇだろと思って、いろいろやろうかなって。あと、音を違うフィールドの人に任せたかったんですよね。これまで全部自分で仕切ってたから、任せれるアーティストとあんまり出会ってなかったんで。

2曲目に"愛しの福岡"ってあるじゃないですか。福岡の東京にはない良さ、面白さってどういうところですか?

スラック:人間ぽいすね。なんかこう、厳しいところと、緩いところがあって、日本人ぽい。また日本人出てきちゃった。

タハハハハッ。

野田:また口挟ませてもらってもうしわけないけど、福岡は日本の歴史において重要なところだよね。やっぱオリーヴ・オイルとやったっていうのが今回すごく面白いと思ったのね。オリーヴ・オイルもK・ボムもオレはリスペクトしてるトラックメイカーだけど、2人とも311があって、いわゆる感情的に涙の方向に行かなかった人たちじゃない。だから、そういう意味で言うと、『情』の叙情感とぜんぜん違うものじゃない。

スラック:たしかにそうです。

野田:『情』のあとだからさ、涙の路線の延長っていうのもあったわけじゃない。

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オレら世代はけっこうクソ......、クソっていうか、自由を尊重する気持ちだけは育って、でも手に入れる腕もないし、趣味もなけりゃ、ほんとにみじめだなって思ったりもします。好きなことがないとかは、大変だろうなって思いますね。

E王
5lack×Olive Oil - 50
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今回のオリーヴ・オイルとのアルバムには一貫したテーマは最初からありました?

スラック:まず、オリーヴさんとの組み合わせがオレは最高だったんですよね。それと個人的には旅ですね。

たしかに旅はテーマだね。

スラック:東京側にも福岡みたいな街があるっていうのを伝えたかった。東京の身内に「おまえらもちゃんとやれよ」みたいなことも説明して、身内のことをディスすることによって、みんなの環境にもリンクすると思った。

たしかに、さりげなくディスってますよね。

スラック:そうですね。けっこう身内のことばっかり否定してて、オレもカッコ悪いかもしれないけど、ただ身内だからとりあえず「カッコいい」ってなってる状態も変だと思うから。そこで調子に乗っちゃってる友だちも危ないとオレは思うから。

いや、でも、それは勇気あるディスだと思いますよ。やっぱり福岡と東京を行き来したり、旅をしながら、東京や東京にいる仲間や友だちを客観的に見たところもあるんですかね。

スラック:そうですね。もちろんどこの街に行っても同じ現状があるけど。福岡にはオリーヴ・オイルっていう素晴らしくスジの通った人がいて、そこでKさんとも出会うことができた。たまたま福岡って街も良くて、あったかくて。

へぇぇ。

スラック:運ちゃんがまずみんなめっちゃ話しかけてきて。

野田:ガラ悪いからねー。九州のタクシー。

スラック:東京って街は最先端っていうよりは日本の実験室ですよね。東京が犠牲になって、周りを豊かにしてる気がしました。

地方が犠牲になって、東京を豊かにしてるって見方もあると思うけどね。原発なんてまさにそうだし。ただ、スラックくんの地方の見方を聞いていると、生粋の東京人なんだなーって思う。悪い意味じゃなくてね。

スラック:そうですね。たとえば、揉め事があったとして、他の地域だったらその場でケリがつくんじゃないかってことも、東京は引っ張って、引っ張って、引っ張って、みたいな。音楽のやり取りでも問題が起きると、じゃあ、本人同士で話し合って、決別するならして、仲良くするならすればってところまでが複雑。すごい街だなって思いますね。

どうなんだろう、大阪にしても、京都にしても、物理的に街が小さいっていうのもありますよね。人口も少ないし。たとえば、音楽シーンだったら、ヒップホップとテクノの人がすぐつながったりするし、シーンっていうより街で人と人がつながってる感じもあるし。人間の距離感が東京より近いんですよね。

スラック:ああ。

札幌に行ってもオレ、そう感じましたよ。ともあれ、板橋の地元で音楽をやりはじめたころと、付き合いが広がりはじめてからでは、なにかしらのギャップを感じてるってことなんだ。

スラック:オレは家で勝手に音楽をやりはじめただけなのに、そこを忘れちゃうんですよね、都心に出てやってると。しかもそこが重要なのに。なんか人がどうこうとか、責任が出てきて。地元帰ってくると、「いや違う。そうじゃない」ってなるんです。都心はシンプルじゃなさすぎて。

「鳴るぜ携帯/今夜は出れない/社会人としてオレはあり得ない/理由は言えない」("BED DREAMING")ってラップもしてますもんね。

野田:ハハハハハッ。

スラック:そう、電話の束縛も超苦手で。

このインタヴューの日程決めるやり取りも超スローでしたもんね。

スラック:電話出なかったりとかで、人と揉めたりしたんですよ。

たしかに揉めると思う(笑)。

スラック:そうなんすよね。揉めたり、怒られたりしましたね。でも、オレはそういうスタイルにマインドはないんですよ。彼女だってキレてこないのにって。

「社会人として失格」とか「だらしない」って言い方されたら終わってしまう話なんだろうけど、スラックくんには強い拒絶の意思を感じますね。そこに信念がある。

野田:信念あると思うね(笑)。

たぶん「第三の道」っていうのはそういうところからはじまると思うんだよね。社会的なしがらみから自由にやりたいわけでしょ。

スラック:そうですね。だから、そこは逆にわからせたいですよね。悪気はないし、ちゃんとやってる人に敬意もあるんです。ただ、こういうやり取りのなかでは敬意を表せないって思うときがあるんです。オレは自分のペースを保ってやりたいし、ストレスはやっぱりダメですね。

野田:まあ、アメリカはすごい孤立しやすい社会で、たとえばJ・ディラみたいな人でさえも、放っとけば孤立しちゃう。日本って逆に言うと孤立し辛い社会でしょ。

スラック:そうですよね。

放っといてくれない。

野田:「オレは独りになりたいんだ」って言っても。

スラック:それはそれで幸せなんだなって思いますけどね。

野田:そうだよ。

スラック:でも、まあ、そこも塩梅ですよね。そういう意味でも上手くできるヤツといるようにしたい。一般的には難しいことなんだと思いますけど。いまは、そういうこと考えまくった上で、生きてるときは気を抜いてますね。

野田:ところで、311前に愛をテーマにした『我時想う愛』を出したじゃない? あれはなんでだったの? しかも、ジャケなしで、いわゆる透明プラスティックのさ。

スラック:あれ、裏にジャケがあったんですよ。そういう意味でも、みんな、固定概念に縛られ過ぎだよって。

野田:ダハハハハ。

虎の絵があったよね。

スラック:あれがレーベル・ロゴで、黄色い人種ってことですね。

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けっこう身内のことばっかり否定してて、オレもカッコ悪いかもしれないけど、ただ身内だからとりあえず「カッコいい」ってなってる状態も変だと思うから。そこで調子に乗っちゃってる友だちも危ないとオレは思うから。

それで思い出したけど、あのアルバムに"I Can Take it(Bitchになった気分だぜ)"って曲があったでしょ。スラックくんが男と女の一人二役やるじゃない。

スラック:はいはいはいはい。ビッチ本人と説明にまわってる自分という設定でやったやつですね。

そうそうそう。ビッチになりきって女の子の気持ちをラップして、フックでスラックくん本人が出てきて、「オレはそうとは思わない」って優しく語りかけるでしょ。歌謡曲だと、男が女の恋心や気持ちを歌うパターンがあったりするけど、ヒップホップで男が女の気持ちをああいう形でラップをするっていうのはなかったことでしょ。あれは革新的な試みだと思った。

スラック:ビッチになった気分だったんですよね。

しかも、ビッチっぽい女の子の心の機微を上手く表現してるんだよね(笑)。

スラック:そうなんですよね。あの曲、いわゆる自称ビッチみたいな娘たちに評判が良くって。

いい話だなあ。

スラック:「わかる~」みたいになっちゃって。

野田:ねぇなぜ、あのときに愛っていうテーマを持ち出したの?

スラック:愛情を感じてたんだと思いますね。いろんなものから。しかもその後、めっちゃ地震とリンクしていったことは、まったく不意だった。

野田:そうだよね。よく覚えてるのが、ちょうどあのアルバムが出て、しばらくして311があって、〈ドミューン〉に出演してくれって頼んだ。それこそ、シミラボ、パンピー、K・ボムが出てくれた。

そう考えると、あのメンツはすごかったなあ。

スラック:そうですね。

野田:あのとき、1曲目で、アルバムの1曲目("But Love")をやったじゃない。

スラック:うんうん。

野田:あのときはすごく力を感じた。

スラック:そうっすね。愛っていうか、愛って言葉自体、たぶんあのときはもう日本化してたんですよね。

野田:ふぅーん。

スラック:愛っていう言葉が、響きとしてもいいだろうって思ったんです。オレ的には『我時想う愛』で一周した感じだったんですよ。あそこで『My Space』くらいに戻ったなって。『我時想う愛』を作ってるときは、「死ぬ気でやってないと後悔するぜ」ってことに仕事柄気づいたんです。そういう哲学は常に考えちゃうタイプなんです。そしたら、地震がたまたま起きて、ほんとに死ぬ気がしたから、あのアルバムと気持ちがリンクしたんじゃないかなって思うんですよ。だから、そうですね、うん、そういう本気で生きる、みたいなタイトルだと思うんですよね。タイトルはちょっと邦楽っぽいですね。東京事変じゃないけど。

野田:アハハハハ。

スラック:ニュアンスで言えば、中島みゆきとかウルフルズとかエレカシとかの言葉に近いのかもしれない。エレカシとか好きっすね。エレカシとかの言葉のニュアンスをラップで使いたかったんですよね。そこに日本人としての自然さ、侍とか忍者とかじゃない、日本人のオレらの自然さを出したかった。

なるほどね。

スラック:ブラック・ミュージックとかソウルで「~オブ・ラブ」って言葉やタイトルがあるじゃないですか。

うんうんうん。

スラック:それを日本で表現したら、ああなった感じです。ソウルのバラードにはバラの絵があったり、そういう時代のソウルのイメージですね。

へぇぇ。

野田:アナログ盤にしなかったのはなぜだったの? 

スラック:たしかに出そうと思ってたんですけど、この島が動いてそれで忘れてましたね。アナログにするっていう話はあったんですよね。いま自分の行動を振り返ってみても、やっぱり地震のあとは熱くなり過ぎたなーって思うんですよね。


大きなベッドにダーイブ
オレは人生を変える夢を見た
ふざけてる現実に手を振り
イカしたデザインの船で目指すのさ
そこは東京、アメリカ、中国にコリア、UK、ジャメイカ、帰り道、レイバック
光る星の近くを通る
クソも離れて見れば光るらしい
だけど本物も転がってる
そいつに触ると目が覚める
ここがトゥルーだぜ
まだオレはベッドの上
まだオレはベッドの上
"BED DREAMING"(2013)


5lack x Olive Oil 「- 5 0 -」 のrelease party

-平日にもSPECIALは転がっている!!―

この街、福岡で生まれた奇跡のSESSION !!

5lack x Olive Oil 「- 5 0 -」 のrelease partyを本拠地BASEで開催!!

第3月曜日はO.Y Street で祝福の杯を交わしましょう!!

*終電をご利用の方も楽しめるタイムテーブルとなっています*

2013.03.18 monday@福岡CLUB BASE
open 18:00 - close 24:00
ADV : 2,000yen (w1d) 【LIMITED 70】
DAY : 2,000yen
** 20:00までにご来場の方には1drinkをプレゼント!!

RELEASE GUEST: 5lack x Olive Oil

GUEST VJ: Popy Oil

CAST:
HELFGOTT
WAPPER
LAF with PMF
ARCUS
DJ SARU
MOITO
DJ KANZI

上映: 『LATITUDE SKATEBOARD』

** 当日「- 5 0 -」アイテム販売あり!! **

<WEB予約>
当日の18:00までに contact@club-base.netヘ『件名:5O release party』『本文:代表者名と予約人数』
をメールしていただいた方は前売料金での入場が可能に!!

【チケット取扱店舗】
Don't Find Shop 福岡市中央区大名1-8-42-4F 092-405-0809 https://www.oilworks-store.com/
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第7回:忘却の手ざわり - ele-king

 先日、ニューヨークの恩田晃さんから新作の案内をもらった。といっても、恩田さんは音(楽)を探しながら、つくりながら世界中をめぐっているので家を空けることも多いが、そのときはニューヨークにいたようだった。メールといっしょに、ごていねいに試聴音源もいただいたのだが、メールを送られたのが昨年の暮れだから、2ヶ月以上も経ってからのご紹介になってしまい、もうしわけない。文面には「数週間前に Important Records から久々のソロ・アルバムをリリースしました」とあったから、作品自体はさらにその前に出ていたことになる。


Aki Onda / South Of The Border

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 恩田晃(ここからは本題に入るので敬称を略します)の新作は『South Of The Border』と題し、副題に「Cassette Memories Vol.3」とある。これは恩田晃のライフワークともいえるポータブル・プレイヤーによるフィールド・レコーディング音源を元にした連作の3作目であり、最初のアルバムはDJオリーヴとカジワラ・トシオが2000年代なかばまで運営していた〈Phonomena Audio Arts & Multiples〉から、2003年に『Ancient & Modern』と題して、そして同年には、早くも、日本の即興音楽、それも既存の即興の流れにおさまりきらない即興音楽を数多く発表してきた〈Improvised Music From Japan〉から第2弾『Bon Voyage!』を出している。『Ancient & Modern』のジャケットに「(詳しくは憶えていないが)私はたぶん、5~6年前からポータブル・カセット・プレイヤーを音の日記のように、あるいはインスピレーションの源として使いはじめた」とあるから、はじめたのは90年代末ということになる。彼が使うのは基本的に民生品のカセット・プレイヤー、俗に「テレコ」と呼ばれるもので、ちょうど今年の1月をもって、ソニーもその生産から完全に撤退したというから、電器屋でもあまりみかけなくなったシロモノである。恩田晃はそれを携え、訪れたあらゆる場所の情景を音に切り取る。日記代わりだが、多くの場合、ふきこんだカセットに日時や場所の情報は記さない(と彼は以前私にそういった)。無造作に段ボールに投げ込んだカセットを、いざ何かする段になって、あたりをつけて取り出す。意図的に(?)場所と時間から切り離れた吹きこまれた音はそのとき、恩田晃の記憶の所有となることで記憶と素材の中間にとどまり、そこに何かしらの操作を加えることは具体と抽象との両方に接する領域をつくることになるが、これは誰もやっていないことではない。フィールド・レコーディングはもちろん、ミュージック・コンクレートといったクラシカル(赤字に傍点)な分野にいくつもの先例と名作がある。がしかし、既存の手法を援用していても、そことの関係にわずかに差異をつくれば方法論は確実に斬新になる。いや、方法論以前に位相が違うといってもいいのだ。フィールド・レコーディングは空間の、環境の記録である。ミュージック・コンクレートは具体音をもちいた音楽であり、個別の抽象としての音が問題になる。副題に掲げた通り、恩田晃はそこに「メモリー」を対置する。私はこのメモリーは多義的で、主体の記憶であるとともに、その反対概念として場所性としてのトポスであり、外部メモリーとしての、ほとんど擬人化されたモノとしてのテレコの記憶としての記録である、と思う。だから恩田の「Cassette Memories」はソロだけれども重奏的であり、かつ、複雑さはあえて目指していないかにみえるけれども、きわめて重層的である。というのは恣意的な解釈ではない。ロウファイであつかいづらいいくつかのカセット・レコーダーだけが頼りの手法上の制約。その逆説だけであれば2000年代の即興~実験音楽の問題の圏域であり、あえて(赤字に傍点)カセットを使うインディ・ミュージックのトレンドとも似ているが、恩田の音楽は多様な問題をはらむとしても、つねにある種の質感を忘れない。

 ここで急に余談になるが、さっき読んでいた都築響一の『ヒップホップの詩人たち ROADSIDE POETS』(新潮社)のTwiGyの章で、都築氏は1992年、日本のヒップホップ界隈のスチャダラパーやEAST END×YURIの「DA. YO. NE」の大ヒット前夜の話と前置きして以下のように書いていたので紹介したい。
「ここで個人的な体験を言わせてもらうと、その当時、雑誌の取材でアメリカに頻繁に通っていた僕(都築氏のこと/引用者注)は、一歩間違えば漫才に行きかねない、そんな風潮にどうしてもなじむことができず、日本語ラップを積極的に聴こうとはまったくしていない。そんななかでほとんど1枚だけ、聴いた瞬間にその音の重さとクールさにビクッとしたアルバムがあった。竹村延和(スクラッチ)、恩田晃(プログラミング)、そしてMCにボアダムスの山塚EYEを擁した京都のバンド「Audio Sports」である」
 都築氏が続けて書いている通り、オーディオ・スポーツの1992年のファースト『Era Of Glittering Gas』はいま聴くことのできるTwiGyの最初の音源である。恩田さん(ここではなぜか敬称付き)は苦笑するかもしれないが、メンバーの異様な豪華さ以前に、国内の流れと無縁に、音楽(トラック)の成熟度を深めつつあったヒップホップをこの時点で早くも相対化している。私もいまだに棚から引っ張り出して聴くこともあります(これこそほんとうの余談である)。それはともかく、同書にはTwiGyによる「これはバンドをやっていた恩田君から、ラッパーを入れたいって電話があって。それでEYEちゃんに『TwiGy君はリリックどうやって書くの?』って聞かれて、『いや、自分で考えて書きますけど』って言ったら、『僕はバロウズとかから引用すんねん』って言われて。えー、そういうことっていいの?と思ったのを覚えています(笑)」という興味深い発言もあるが、ここを深追いするとどんどん長くなりそうなので別項に譲って、私は何がいいたいのかというと、スタイルを確立する途上の「日本(語)のラップ/ヒップホップ」における「ハードコアかそうでないか」を、オーディオ・スポーツはもう一段階相対化する狙いをもっていた。担っていたのは恩田晃だった。彼らがおもしろかったのは、それなのに実験的になりすぎないことだった。TwiGyのいうEYEのやり方がそうであるように、あるいは、ボアダムスが代表する90年代の日本(と、あえていうが)がそうであったように、フォーマットをデフォルメする外部因子よりも、オーディオ・スポーツはあくまでジャジーでアブストラクトなヒップホップにこだわりつづけた。というより、恩田はそこから「重さとクールさ」ハウトゥや記譜法ではいかんともしがたい質感を導き出すことに力を傾けていた。いや、むしろ情感こそ形式に依存しているから恩田はそうしていたのだし、ジャジー・ヒップホップがやがてラヴァーズ・ロックと同じような雰囲気ものの音楽に先細っていった90年代後半を期に、バンドが解体したのはやむを得なかった。
 そのころにはオーディオ・スポーツは恩田晃だけになっていたからグループである必要もなかった。最初のソロ、98年の『Beautiful Contradiction』(All Access)では、たとえばブリクサ・バーゲルトとの共作“In Windungen”などにはヒップホップの影響ははっきり残っているが、即興を内在させ作曲を解体するベクトルのなかで、サンプリングの手法そのもののもヒップホップのそれというよりも記憶装置に、あまたある楽器のひとつに、最終的にはケージ的な意味でいう「サイレンス」を含むものに遡行していく。しかしこれは後退ではない。

 前述の通り、この時期から恩田はカセット・レコーダーを積極的に使いはじめた。『Beautiful Contradiction』での恩田の担当楽器は「サンプラー/プログラミング/カセット・レコーダー」とクレジットされている。それが2001年の『Precious Moments』(Softlmusic)では「テープ(カセット・レコーダー)」が先頭にきた。重箱の隅をつつくような話でもうしわけないが、私はこの間に恩田に確信がめばえたと思う(ちょうどこの時期にニューヨークに移住したのもそのことと無縁ではない)。2年後の『Don't Say Anything』(EWE)から間を置かず、翌年には『Ancient & Modern』、つまり私たちがいま語っている〈Cassette Memories〉の第1弾を発表している。この2作にはつながりがある。表題曲のほかは“Cosmos”“Mellow”“Dance”“Naked”“Ballad”といった曲名からして『Don't Say Anything』は言葉による意味づけを拒む抽象への意思をもっているが、それ以上に、聴き直してみると、恩田のソロ曲はすでにあきらかに〈Cassette Memories〉なのである。つまり恩田晃は本作で、スティーヴン・バーンスタインやデヴィッド・フュジンスキーなどの客演を迎え、ミュージシャンを組織するプロデューサーであるだけでなく、(音楽上の)コスモポリタンであるとともにテレコをもったノマドであることも選択肢に加えている。
 いや、この場合は、ノマドではなくベドウィンといったほうがしっくりくる。恩田晃は『South Of The Border』で砂漠に赴いているから。サボテンが点在するメキシコの砂だらけの大地に。死の世界としてのそこに。
「すべてのフィールド・レコーディングはメキシコで録音されています。わたしは幼少の頃から彼の国と何かしら縁がありました。物心ついてから始めて見た写真や8ミリの映像は父がメキシコ・オリンピックに運動選手として出場した際に撮られたものでした。おそらく4歳か5歳ぐらいでしたが、日本とはまったく違う別の世界がこの世には存在するのだと意識した記憶があります」
 恩田晃はそうメールに書き添えている。『South Of The Border』とはいうまでもなくアメリカの国境の南であるメキシコである。シナトラ、ジーン・オートリーなど、古くから無数に歌われてきた曲名でもあり、ここではない場所、異境の暗喩である「南」である。
 恩田晃が最初にメキシコを訪れたのは2005年だった。彼はそこで、昔観た『エル・トポ』、70年代を代表するカルト・ムーヴィの古典であり、アレハンドロ・ホドロフスキーのあの映画でメキシコに抱いたイメージを追認した。『エル・トポ』をご覧になっていない方は、DVDも出ているはずなので、お手にとっていただきたいが、この前の紙『ele-king』の年末座談会で、シャックルトンのアルバムを指して、野田努が「めちゃくちゃバッドだよ。『エル・トポ』だから」というような映画ではある。
 ちなみに、昨年末に出たホドロフスキーの『リアリティのダンス』(青木健史訳/文遊社)によれば、ロシア系ユダヤ人移民の三代目としてチリに生まれたホドロフスキーの幼年期は穏やかなものではなかった。挫折したマルクス主義者の父はことのほか息子に厳しく、母親にもらったゴム底の短靴をあげてやった靴磨きの少年が海辺の岩場から滑り落ちて死んだ。隣の家には象皮病の母の元で全身カサブタに覆われた息子が苦しんでいて、アルコールと熱湯で二ヶ月かけてカサブタをはがしてあげた等々、そこではマルケスなんかよりずっと人間臭いマジック・リアリズムがくりひろげられる。それらがホドロフスキーのシュールレアリスムの導線となり、南米のユダヤ人の原風景からめばえた詩は演劇へ、さらに行為芸術へ姿をかえ、ヨーロッパを経由しメキシコの砂漠で映像に実を結ぶことになる。そして恩田晃は現代と古代、生と死、聖と俗、富と貧しさ、知性と迷信が共存、というより、噴出する『エル・トポ』の乱調の美に「自由」を見いだしたという。
 私たちは『South Of The Border』への入り口となる“A Day Of Pilgrimage”で鳴り物を打ち鳴らす巡礼者たちの群に鉢合わせる。マーチングバンドみたいに陽気だが、酔っぱらっているかのようにリズムは粘っている。テレコの音質のせいか、雑音まじりの音は霞がかったように遠い。音質にこだわったハイスペックのフィールド・レコーディングのように恩田晃は音を再現していはいない。だから私たちはその場に居合わせたような気持ちにならないし彼の道ゆきを追体験できず、夢のなかのように、もうひとつの現実が抽象化された目と耳の前でくりひろげられるのにつきあわざるを得ない、と思う間もなく、群衆はちりぢりなり、曲が“Dust”になったころには、人気はまるでなく、砂嵐のような音が周期的に明滅するところに別の音源を音が重なってくる。“Dust”のテーマが音響なら、穀物を挽くような音の規則性が基調の“Bruise And Bite”の主題はリズムである。といえる側面はあるにはあるが、『South Of The Border』の曲はこのような言葉の貧しさにつきあうような主題をもっているわけではない。一曲のなかでも焦点はどんどんかわる。“A Day Of Pilgrimage” の巡礼者のスネア・ドラムの音が、“Bruise And Bite”の臼を挽く音が “The Sun Clings To The Earth And There Is No Darkness”に回帰し、“Bruise And Bite”にあらわれた『エル・トポ』で主人公のガンマンに扮したホドロフスキーが吹く笛の音を思わせる、単純な、しかし忘れがたい呪術的なメロディをアルバム最後の“I Tell A Story Of Bodies That Change”でもくりかえす。マテリアルはむしろ、ごく限られていて、恩田晃はそれを拡張し再編することで、いくつかの場面を描きながら、音にギリギリ意味を与え、生まれるそばからそれを脱臼させていく。その方法論はミュージック・コンクレートのそれであり、ダンスミュージックの系譜へ現代音楽の接続点でもある(『テクノ・ディフィニティヴ』前半をご参照ください)、というか、恩田晃はヒップホップへ外から接近し、その原理へ探る課程で、音素にまで細分化していったサンプリング・ミュージックの傾向に逆行しながら、コラージュないしはモンタージュの大らかさ、いいかえれば、大雑把さに可能性を見いだしたのではないか。もちろんそれは万能ではない。万能ではないが自由ではある。カセットに吹きこんだ音はたしかに自分が録ったものだが、あらためて聴き直してみたり、一部をとりだしてみたりすると印象がまるっきり違う。『South Of The Border』は、いや、〈Cassette Memories〉はそのときの発見を元になっている。読者諸兄よ、思いだしていただきたい。恩田晃は2005年にはじめてメキシコを訪れた。このアルバムの音源がすべてそのときのものかどうか私は知らないが、いつのものであっても、それが記憶の領域にあれば発見の対象となる。つまるところ、忘却がなければ発見はない。忘却とは記憶の深さであり、記憶の不在の発見であるから、日付や場所を特定してしまっては発見する自由をかえって殺ぐ。恩田晃はかつて「カセットは日記代わりだった」といったが日記そのものではない。ようはアリバイではない。それよりも、何気なくきった日付の打たれていない旅先のスナップに近くはないか(恩田晃はもともと写真家でもある)。たいしたものは写っていないが空気をとらえている。私は写真が好きだから、写真集なぞもよく目にするのですが、写真は撮影者の技量とか手法とかによらず、写す場所の空気がつねに写っている。海外の写真と国内の写真はまちがえようがない。これは海外に行ったとき、風景以前に空気がちがいに驚くのと同じだ。過去の写真が記憶をくすぐるのは写っている対象のせいばかりではない。重要なのは記録ではなく風化であり、欠落した部分を休符のようにあつかいながら、忘却と現在の耳とが語らい、音楽ができていく。にもかかわらず/だかこそ、それが官能的な質感をもつのが恩田晃の音楽家としての資質である。

 ここからは付記になります。ついでといってはなんだが、恩田晃の近況もお知らせしたい。彼は去年の9月、鈴木昭男、吉増剛造と大友良英のデュオを招聘し北米をツアーしてまわったという。そのときのルポが『現代詩手帖』の2013年1月号に載っているので興味のある方は手にとってみてください(ele-kingの読者にはシブすぎるかもしれぬが)。鈴木昭男は「アナラポス」というリヴァービー(というかリヴァーブそのもの)な創作楽器をはじめ、「日向ぼっこの空間」(1988年)などのサイトスペシフィックな作品でも知られる丹後の湖のほとりに住むサウンド・アーティスト。詩人・吉増剛増が詩と朗読とともに、それらと内奥で結びついた多重露光写真や映像をもちいたパフォーマンスを行うのはよく知られている、かもしれないし、大友良英については多言を要しまい。この三者を結びつけることで、恩田晃が何を見せ聴かせ感じさせたかったのか、ここまでおつきあいいただいた読者にはおわかりのことと思う。

 ありそうでなかった。とはこういうときの言葉だ。フリーペーパーにライヴハウスのスケジュールが並んでいるのは目にするけれど、ライヴハウスに行こうというときにフリーペーパーを開いていることはあまりないだろう。だいたい、そういったフリーペーパーをパラっと開くときはだいたいがライヴハウスにいるときだし、持ち帰らないし......。
 「DIY/ALTERNATIVE TEAM(組合)」を標榜する〈DUM-DUM LLP〉が、「LIVEHOUSE N.O.W.」の正式版を2月8日(金)に開設する! ベータ版である厳選された数か所のライヴハウスの週毎のスケジュールを集約し、一覧にしてとても見やすく紹介してくれている。点在したライヴ情報を集約しているので、「ライヴハウスにでも行こうかと思うけど、今週はどこでなにが観れるかな」という気分のときに重宝できるだろう。実際、そうした気分を掬ってくれるサービスとして貴重なものだ。

 2月8日の正式版オープンを記念したイヴェントが、同日夜の18:00から渋谷クアトロで開催される。
 出演者は、デビュー・アルバムも噂されているTHE OTOGIBANASHI'Sから、トイプードル(岡村靖幸)とのタッグOL KILLERでも知られる=DJ WILDPARTY、快速東京のフロントマン・福田哲丸がギターを弾いているらしいカタコト、最近たて続けにアルバムをリリースをしたどついたるねん、奇をてらいながらボトムも頼もしい演奏をするFat Fox Fanclubなどなど。ヒップホップ色のあるユニークなメンツだ。

■LIVEHOUSE N.O.W. | DUM-DUM MAGAZINE
https://magazine.dum-dum.tv/livehouse-n-o-w

■DUM-DUM LLP weblog - DUM-DUM通信 LIVEHOUSE N.O.W.正式版完成(2/8 Open)
https://dum-dum.tv/blog/?p=852


今回DUM-DUM LLP監修のライブハウス情報一覧サイト「LIVEHOUSE N.O.W!」の正式版完成記念してライブハウス自由化計画イベント開催します!

ポップミュージックの世界では再結成の流れも顕著で元気な大人が人気ですが、これは若者の椅子が次々とられていく流れでも確かにある。

若者は若者らしく、 先人を敬わず、大人はわかってくれない、或いはDon't trust over 30のスタンスで、形骸化したこの業界に切り込んで欲しいと切に願います。

大人が眉をひそめ、躊躇することを若者が本能的に平然とやってのける!その瞬間に私たちは痺れています!

「N.O.W!-Don't trust over 30-」
2013年2月8日(金)@渋谷クラブクアトロ
OPEN/START:18:00
Charge :Free !!!!(Drink charge 別)
Lineup :
THE OTOGIBANASHI'S
told
DJ WILDPARTY(Maltine Records)
アンダーボーイズ
どついたるねん
カタコト
GAGAOSA(GAGAKIRISE+MARUOSA)
POLTA
Fat Fox Fanclub

司会進行:キクリン(ele-king / DUM-DUM)×210yen(ele-king / パブリック娘。)

問い合わせ:
LIVEHOUSE N.O.W.
https://magazine.dum-dum.tv/livehouse-n-o-w

Canno Masanori(Dub Structure #9) - ele-king

初めまして。DUB STRUCTURE #9でギター弾いてます、菅野です。
ここ2,3年でよく聴いてたアルバム、曲から今の気分で選んでみました。
最近買ったJustin Velorの2013はかなりオススメ。


1
Justin Velor - 2013 - Brutal Music(UK)

2
Peter Gordon & Love of Life Orchestra - Another Heart Break - DFA

3
Petar Dundov - Oasis - Music Man

4
Soundstream - Love Town - Soundstream

5
Pharoah Sanders - Rejoice - Theresa Records

6
The Rolling Stones - Too Much Blood(Demo Mix) - Slow To Speak

7
Conrad Schnitzer - Ballet Statique - m=minimal

8
NEU! - '86 - GRÖNLAND

9
Sandro Perri - IMPOSSIBLE SPACES - constellation

10
D.A.F - DEUTSCH AMERIKANISCHE FREUNDSCHAFT - Virgin

小林祐介 (THE NOVEMBERS) - ele-king

初めまして。THE NOVEMBERSというバンドで活動をしている小林祐介です。2012年によく聴いた(最近よく聴いている)ものを選びました。今回書かせていただいたチャートを見返すと、個人的に2012年は新たなアーティストとの出会いは少なかったように思いました。(Wild Nothingはele-kingで知りましたが。)
あと、3/10が4ADという結果的な贔屓っぷりにも驚きです。

Chart


1
Godspeed You! Black Emperor - Allelujah! Don't Bend! Ascend! (Constellation)

2
Wild Nothing - Nocturne (Captured Tracks)

3
Chairlift - Something (Columbia)

4
Flying Lotus - Until The Quiet Comes (Warp)

5
Ariel Pink's Haunted Graffiti - Mature Themes」 (4AD)

6
THA BLUE HERB - TOTAL (THA BLUE HERB RECORDINGS)

7
Grimes - Visions (4AD)

8
Scott Walker - Bish Bosch (4AD)

9
OGRE YOU ASSHOLE - 100年後 (VAP)

10
Beach House - Bloom (Sub Pop)

2012 Top 20 Japanese Hip Hop Albums - ele-king

 2012年の日本のヒップホップ/ラップのベスト・アルバム20を作ってみました。2012年を振り返りつつ、楽しんでもらえれば幸いです!!

20. Big Ben - my music - 桃源郷レコーズ

 スティルイチミヤのラッパー/トラックメイカー、ビッグ・ベンのソロ・デビュー作。いま発売中の紙版『エレキング Vol.8』の連載コーナーでも紹介させてもらったのだが、まずは"いったりきたりBLUES"を聴いて欲しい。『my music』はベックの「ルーザー」(「I'm a loser baby so why don't you kill me?」)と同じ方向を向いている妥協を許さないルーザーの音楽であり、ラップとディスコとフォークとソウル・ミュージックを、チープな音でしか表現できない領域で鳴らしているのが抜群にユニークで面白い。

Big Ben"いったりきたりBLUES"

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19. LBとOTOWA - Internet Love - Popgroup

 いまさら言う話でもないが、日本のヒップホップもフリー・ダウンロードとミックステープの時代である。ラッパーのLBとトラックメイカーのOTOWAが2011年3月にインターネット上で発表した『FRESH BOX(β)』は2ケ月の間に1万回以上のDL数を記録した。その後、彼らは〈ポップグループ〉と契約を交わし、フィジカル・アルバムをドロップした。「FREE DLのせいで売れないとか知ったこっちゃない/これ新しい勝ち方/むしろ君らは勉強した方がいいんじゃん?」(『KOJUN』 収録の「Buzzlin` 2」)と、既存のシーンを挑発しながら、彼らはここまできた。ナードであり、ハードコアでもあるLBのキャラクターというのもまさに"いま"を感じさせる。

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18. Goku Green - High School - Black Swan

 弱冠16歳のラッパーのデビュー作に誰もが驚いたことだろう。そして、ヒップホップという音楽文化が10代の若者の人生を変えるという、当たり前といえば、当たり前の事実をリアルに実感した。money、joint 、bitchが並ぶリリックスを聴けばなおさらそう思う。そうだ、トコナ・XがさんぴんCAMPに出たのは18歳の頃だったか。リル・諭吉とジャック・ポットの空間の広いゆったりとしたトラックも絶妙で、ゴク・グリーンのスウィートな声とスムースなフロウがここしかないというところに滑り込むのを耳が追っている間に最後まで聴き通してしまう。

Goku Green"Dream Life"

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17. Zen La Rock - La Pharaoh Magic - All Nude Inc.

 先日、代官山の〈ユニット〉でゼン・ラ・ロックのライヴを観たが、すごい人気だった! いま東京近辺のクラブを夜な夜な盛り上げる最高のお祭り男、パーティー・ロッカーといえば、彼でしょう。つい最近は、「Ice Ice Baby」という、500円のワンコイン・シングルを発表している。ご機嫌なブギー・ファンクだ。このセカンド・アルバムでは、ブギー・ファンク、ディスコ、そしてニュー・ジャック・スウィングでノリノリである。まあ、難しいことは忘れて、バカになろう!

Zen La Rock"Get It On"

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16. Young Hastle - Can't Knock The Hastle - Steal The Cash Records

 ヤング・ハッスルみたいなユーモラスで、ダンディーな、二枚目と三枚目を同時に演じることのできるラッパーというのが、実は日本にはあまりいなかったように思う。"Spell My Name Right"の自己アピールも面白いし、日焼けについてラップする曲も笑える。ベースとビートはシンプルかつプリミティヴで、カラダを震わせるように低音がブーッンと鳴っている。そして、キメるところで歯切れ良くキメるフロウがいい。もちろん、このセカンド・アルバムも素晴らしいのだけれど、ミュージック・ヴィデオを観ると彼のキャラクターがさらによくわかる。2年前のものだけど、やっぱりここでは"V-Neck T"を。最高!

DJ Ken Watanabe"Hang Over ft.Young Hastle, Y's, 十影, Raw-T"

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15. MICHO - The Album - self-released

 フィメール・R&Bシンガー/ラッパー、ミチョのミックステープの形式を採った初のフル・アルバム。凶暴なダブステップ・チューン「Luvstep(The Ride)」を聴いたとき、僕は、日本のヤンキー・カルチャーとリアーナの出会いだとおののいた。さらに言ってしまえば......、ミチョに、初期の相川七瀬に通じるパンク・スピリットを感じる。エレクトロ・ハウスやレゲエ、ヒップホップ/R&Bからプリンセス・プリンセスを彷彿させるガールズ・ロックまでが収められている。ちなみに彼女が最初に発表したミックステープのタイトルは『恨み節』だった。凄まじい気合いにぶっ飛ばされる。

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14. D.O - The City Of Dogg - Vybe Music

 田我流の『B級映画のように2』とはまた別の角度から3.11以降の日本社会に大胆に切り込むラップ・ミュージック。D.Oは、「間違ってるとか正しいとか/どうでもいいハナシにしか聞こえない」("Dogg Run Town")とギャングスタの立場から常識的な善悪の基準を突き放すものの、"Bad News"という曲では、「デタラメを言うマスコミ メディア/御用学者 政治家は犯罪者」と、いち市民の立場からこの国の正義を問う。"Bad News"は、震災/原発事故以降の迷走する日本でしか生まれ得ない悪党の正義の詩である。ちなみに、13曲中8曲をプロデュースするのは、2012年に初のアルバム『Number.8』)を完成させ、その活躍が脚光を浴びているプロダクション・チーム、B.C.D.M(JASHWON 、G.O.K、T-KC、LOSTFACE、DJ NOBU a.k.a. BOMBRUSH)のJASHWON。

D.O"悪党の詩"

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13. Evisbeats - ひとつになるとき - Amida Studio / ウルトラ・ヴァイブ

 心地良いひと時を与えてくれるチルアウト・ミュージックだ。タイトルの"ひとつ"とは、世界に広く開かれた"ひとつ"に違いない。アジアに、アフリカに、ラテン・アメリカに。元韻踏合組合のメンバーで、ラッパー/トラックメイカーのエビスビーツは、4年ぶりのセカンドで、すべてを優しく包み込むような解放的な音を鳴らしている。彼にしかできないやり方でワールド・ミュージックにアプローチしている。鴨田潤、田我流、チヨリ、伊瀬峯之、前田和彦、DOZANらが参加。エビスビーツが自主でリリースしているミックスCDやビート集も素晴らしいのでぜひ。

Evisbeats"いい時間"

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12. BRON-K - 松風 - Yukichi Records

 これだから油断できない。年末に、SD・ジャンクスタのラッパー、ブロン・Kのセカンド・アルバムを聴けて本当に良かった。こういう言い方が正しいかはわからないが、クレバの『心臓』とシーダの『Heaven』に並ぶ、ロマンチックで、メロウなラップ・ミュージックだ。ブロン・Kはネイト・ドッグを彷彿させるラップとヴォーカルを駆使して、日常の些細な出来事、愛について物語をつむいでいく。泥臭く、生々しい話題も、そのように聴かせない。オートチューンがまたいい。うっとりする。長い付き合いになりそうなアルバムだ。

BRON-K"Matakazi O.G."

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11. Soakubeats - Never Pay 4 Music - 粗悪興業

 新宿のディスク・ユニオンでは売り切れていた。タワー・レコードでは売っていないと言われた。中野のディスク・ユニオンでやっと手に入れた。これは、トラックメイカー、粗悪ビーツの自主制作によるファースト・アルバムである。「人生、怒り、ユニークが凝縮された一枚」とアナウンスされているが、怒りとともにどの曲にも恐怖を感じるほどの迫力がある。 "ラップごっこはこれでおしまい"のECDの「犯罪者!」という含みのある叫び方には複数の意味が込められているように思う。シミラボのOMSBとマリア、チェリー・ブラウンは敵意をむき出しにしている。"粗悪興業モノポリー"のマイク・リレーは、僕をまったく知らない世界に引きずり込む。ちょっと前にワカ・フロッカ・フレイムのミックステープ・シリーズ『Salute Me Or Shoot Me』を聴いたときは、自分とは縁のないハードな世界のハードな音楽だと思っていた。このアルバムを聴いたあとでは、音、態度、言葉、それらがリアリティを持って響いてくる。そういう気持ちにさせるショッキングな一枚だ。

粗悪興業公式サイト

10. AKLO - The Package - One Year War Music / レキシントン

 「カッコ良さこそがこの社会における反社会的/"rebel"なんです」。ヒップホップ専門サイト『アメブレイク』のインタヴューでアクロはそう語った。アクロが言えば、こんな言葉も様になる。2012年に、同じく〈One Year War Music〉からデビュー・アルバム『In My Shoes』を発表したSALUとともに、ひさびさにまぶしい輝きを放つ、カリスマ性を持ったトレンド・セッターの登場である。日本人とメキシコ人のハーフのバイリンガル・ラッパーは初のフィジカル・アルバムで、最高にスワッグなフロウで最新のビートの上をハイスピードで駆け抜ける。では、"カッコ良さ"とは何か? 最先端のUSラップを模倣することか? その答えの一つがここにある。

AKLO"Red Pill"

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9. ECD - Don't Worry Be Daddy - Pヴァイン

 このアルバムのメッセージの側面については竹内正太郎くんのレヴューに譲ろう。"にぶい奴らのことなんか知らない"で「感度しかない」とリフレインしているように、ECDは最新のヒップホップの導入と音の実験に突き進んでいる。そして、このアヴァン・ポップな傑作が生まれた。イリシット・ツボイ(このチャートで何度この名前を書いただろう)が、サンプリングを大幅に加えたのも大きかったのだろう。USサウスがあり、ミドルスクールがあり、エレクトロがあり、ビッグ・バンド・ジャズがあり、"Sight Seeing"に至ってはクラウド・ラップとビートルズの"レヴォリューション9"の出会いである。

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8. Kohh - Yellow T△pe - Gunsmith Productions

 Kohh & Mony Horse"We Good"のMVを観て、ショックを受けて聴いたのがKohhのミックステープ『Yellow T△pe』だった。「人生なんて遊び」("I Don`t Know")、「オレは人生をナメてる」("Certified")とラップする、東京都北区出身の22歳のラッパーのふてぶてしい態度は、ちょっといままで見たことのないものだった。しかし、ラップを聴けば、Kohhが音楽に真剣に向き合っているアーティストであることがわかる。シミラボの"Uncommon"のビートジャックのセンスも面白い。また、"Family"では複雑な家庭環境を切々とラップしている。"Young Forever"でラップしているのは、彼の弟でまだ12歳のLil Kohhだ。彼らの才能を、スワッグの一言で片付けてしまうのはあまりにももったいない。

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7. Punpee - Movie On The Sunday Anthology - 板橋録音クラブ

 いやー、これは楽しい! パンピーの新曲12曲とリミックス3曲が収録された、映画をモチーフにしたミックスCDだ。パンピーのポップ・センスが堪能できる。"Play My Music"や"Popstar"では、珍しくポップな音楽産業へのスウィート・リトル・ディスをかましている。そこはパンピーだから洒落が効いている。もうこれはアルバムと言ってもいいのではないか。ただ、このミックスCDはディスク・ユニオンでの数量限定発売で、すでに売り切れているようだ。ポップ・シーンを揺るがす、パンピーのオリジナル・ソロ・アルバムが早く聴きたい!

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6. ERA - Jewels - rev3.11( https://dopetm.com/

 本サイトのレヴューでも書いたことだけれど、この作品はこの国のクラウド・ラップ/トリルウェイヴの独自の展開である。ドリーミーで、気だるく、病みつきになる気持ち良さがある。イリシット・ツボイがプロデュースした7分近い"Get A"が象徴的だ。"Planet Life"をプロデュースするのは、リル・Bにもトラックを提供しているリック・フレイムだ。エラの、ニヒリズムとデカダンス、現実逃避と未来への淡い期待がトロリと溶けたラップとの相性もばっちりだ。インターネットでの配信後、デラックス版としてCDもリリースされている。

ERA feat. Lady KeiKei"Planet Life"

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5. 田我流 - B級映画のように2 - Mary Joy Recordings

 「ゾッキーヤンキー土方に派遣/893屋ジャンキーニートに力士/娼婦にキャバ嬢ギャルにギャル男 /拳をあげろ」。ECDを招いて、田我流が原発問題や風営法の問題に真正面から切り込んだ"STRAIGHT OUTTA 138"のこのフックはキラーだ。これぞ、まさにローカルからのファンキーな反撃! そしてなによりも、この混迷の時代に、政治、社会、個人、音楽、バカ騒ぎ、愛、すべてに同じ姿勢と言葉で体当たりしているところに、このセカンド・アルバムの説得力がある。ヤング・Gのプロデュースも冴えている。まさに2012年のラップ・ミュージック!

田我流 "Resurrection"

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4. キエるマキュウ - Hakoniwa - 第三ノ忍者 / Pヴァイン

 キエるマキュウは今作で、ソウルやファンクの定番曲を惜しげもなく引っ張り出して、サンプリング・アートとしてのヒップホップがいまも未来を切り拓けることを体現している。そして大の大人が、徹底してナンセンスとフェティシズムとダンディズムに突っ走った様が最高にカッコ良かった。「アバランチ2」のライヴも素晴らしかった! ここでもイリシット・ツボイのミキシングがうなりを上げ、CQとマキ・ザ・マジックはゴーストフェイス・キラーとレイクウォンの極悪コンビのようにダーティにライムする!

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3. MC 漢 & DJ 琥珀 - Murdaration - 鎖GROUP

 ゼロ年代を代表する新宿のハードコア・ラップ・グループ、MSCのリーダー、漢の健在ぶりを示す事実上のセカンド・アルバムであり、この国の都市の暗部を炙り出す強烈な一発。漢のラップは、ナズやケンドリック・ラマーがそうであるように、ドラッグや暴力やカネや裏切りが渦巻くストリート・ライフを自慢気にひけらかすことなく、クールにドキュメントする。鋭い洞察力とブラック・ユーモアのセンス、巧みなストーリー・テリングがある。つまり、漢のラップはむちゃくちゃ面白い! 漢はいまだ最強の路上の語り部だ。長く現場を離れていたベスの復帰作『Bes Ill Lounge:The Mix』とともに、いまの東京のひとつのムードを象徴している。それにしても、このMVはヤバイ......。

漢"I'm a ¥ Plant"

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2. QN - New Country - Summit

 QNは、この通算三枚目を作る際に、トーキング・ヘッズのコンサート・フィルム『ストップ・メイキング・センス』から大きなインスピレーション受けたと筆者の取材で語った。そして、ギター、ドラム、シンセ、ベース、ラッパーといったバンド編成を意識しながら作り上げたという。ひねくれたサンプリング・センスや古くて新しい音の質感に、RZAのソロ作『バース・オブ・ア・プリンス』に近い奇妙なファンクネスがある。そう、この古くて新しいファンクの感覚に未来を感じる。そして、今作に"新しい国"と名づけたQNは作品を作るたびに進化していく。

QN "Cheez Doggs feat. JUMA"

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1. OMSB - Mr."All Bad"Jordan - Summit

 凶暴なビート・プロダクションも楽曲の構成の独創的なアイディアも音響も変幻自在のラップのフロウも、どれを取っても斬新で面白い。こりゃアヴァンギャルドだ! そう言いたくなる。トラックや構成の面で、カニエ・ウェストの『マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー』とエル・Pの『Cancer for Cure』の影響を受けたというが、いずれにせよOMSBはこの国で誰も到達できなかった領域に突入した。そして、またここでもミックスを担当したイリシット・ツボイ(2012年の裏の主役!)の手腕が光っている。シミラボのラッパー/トラックメイカーの素晴らしいソロ・デビュー作。

OMSB"Hulk"

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 さてさて、以上です。楽しめましたでしょうか?? もちろん、泣く泣くチャートから外したものがたくさんあります。いろいろエクスキューズを入れたいところですが......言い訳がましくなるのでやめましょう! 「あのアルバムが入ってねえじゃねえか! コラッ!」という厳しい批判・異論・反論もあるでしょう。おてやわらかにお願いします!

 すでにいくつか、来年はじめの注目のリリース情報が入ってきています。楽しみです。最後に、宣伝になってしまって恐縮ですが、ここ10年弱の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした拙著『しくじるなよ、ルーディ』も1月18日に出ます。2000年から2012年のディスク・レヴュー60選などもつきます。どーぞ、よろしくお願いします!

 では、みなさま良いお年を!!!!

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