ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Actress - Statik | アクトレス
  2. Black Decelerant - Reflections Vol 2: Black Decelerant | ブラック・ディセレラント
  3. Terry Riley ——テリー・ライリーの名作「In C」、誕生60年を迎え15年ぶりに演奏
  4. Brian Eno ──観るたびに変わるドキュメンタリー映画『ENO』のサウンドトラック収録曲のMVが公開、発掘された90年代イーノの姿
  5. Cornelius 30th Anniversary Set - @東京ガーデンシアター
  6. 『ボレロ 永遠の旋律』 -
  7. interview with salute ハウス・ミュージックはどんどん大きくなる | サルート、インタヴュー
  8. Beth Gibbons - Lives Outgrown | ベス・ギボンズ
  9. Overmono ──10月に来日するオーヴァーモノ、新曲が公開
  10. Lusine ──エレクトロニカのヴェテラン、ルシーンが11年ぶりに来日
  11. Cornelius - Ethereal Essence
  12. Theo Parrish ──セオ・パリッシュがLIQUIDROOM 20周年パーティに登場
  13. High Llamas - Hey Panda | ハイラマズ
  14. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  15. Natalie Beridze - Of Which One Knows | ナタリー・ベリツェ
  16. LIQUIDROOM 30周年 ──新宿時代の歴史を紐解くアーカイヴ展が開催
  17. Mighty Ryeders ──レアグルーヴ史に名高いマイティ・ライダース、オリジナル7インチの発売を記念したTシャツが登場
  18. Adrian Sherwood presents Dub Sessions 2024 いつまでも見れると思うな、御大ホレス・アンディと偉大なるクリエイション・レベル、エイドリアン・シャーウッドが集結するダブの最強ナイト
  19. Meitei ──延期となっていた冥丁のツアー日程が再決定、11都市を巡回
  20. The Stalin - Fish Inn - 40th Anniversary Edition - | ザ・スターリン

Home >  Reviews >  Album Reviews > Matthew Herbert- One

Matthew Herbert

Matthew Herbert

One

Accidental/Hostess

Amazon iTunes

三田 格   Apr 16,2010 UP

 マイク・インクを聴いたことがきっかけでハウスをつくりはじめ、それによって頭角を現したハーバートは、それ以前にドクター・ロキットやウィッシュ・マウンテンの名義でイージー・リスニングからミュージック・コンクレートの応用まで手を広げ、いわば「なにがやりたいのかよくわからないプロデューサー」の代表格だった。ハード・ミニマルやドラムンベースがフロアを最高潮に持ち上げた後で、いまから思えば次にどっちへ行こうかとシーン全体が模索期に入っていたような時期だったから、どんなつまらないこともネクストにつながる何かに感じられ、ハーバートの試みも、そのひとつひとつがそれなりに意味を持っているように感じられたということもあるだろう。ミステリアスでありながら、彼の存在はなぜか信頼できるような気がし、もしかすると必要以上に評価しながら聴いていたような気がしないでもない。「レディ・トゥ・ロキットEP」(95)、「D・フォー・ドクター」(96)、「レイディオ」(96)、「フーシュ」(97)、「ヴィデオ」(97)......いまから思えばヘンな感じである。聴き返したいような、それもまたコワいような。

 ハウスやテクノへの没入が一段落して『ボディリー・ファンクションズ』(01)をリリースした辺りから、ハーバートは匿名性が支配するDJカルチャーの住人であることに距離を取りはじめ、それまで福袋のように差し出されていた彼のたたずまいから明確に作家性というものが立ち上がっていく。それと同時にジャズが表現のセンターコートへと躍り出、ビッグ・バンドへの視座やラテンへの目配せなど、まるで菊地成孔とともに時代を併走しているかのようなタイプへと様変わりしていく。90年代を昇華したハーバートと、それを否定した菊地には、もちろん、ハイブリッド感や音楽に持たせる意味がまったく違っていたようだけれど。

 「型」をどう演じるか。何度も書いてきたように、これが00年代の課題だった。ハーバートにとってのジャズは、それを狂言回しのように扱っているという印象を与えることでエレクトロクラシュやポスト・クラシックとも一脈で通じるものがあった。裏側に回ればいろいろと小細工は労しているものの、表面的な音のタッチはあくまでもオーソドックスに徹し、実際、ハーバートのそれは「洗練」された商品としての風格を兼ね備えるようになった。『ミュージック・オブ・サウンド』や『レッツオールメイクミステイクス』は遥かに遠い。そして、ビッグ・バンドなど作品を経てリリースされた『ワン』では、ついに、70's風味のなんら変哲のないポップ・サウンドへと歩を進めてしまった。これまでのソロ作に少しは影を落としていたハウスのフォーマットは霧消し、特別な世界でもなければ日常に埋没するでもない「ポップ・サウンド」そのものへと。

 曲名はすべて地名になっている。マンチェスター、ミラノ、ライプチッヒ、シンガポール、ダブリン、パーム・スプリング......本人に訊けば、きっと回りくどいコンセプトが饒舌に語られることだろう(そういうところも菊地成孔と寸分違わない)。『ワン』というのはリチャード・バックのような集合無意識のことをいっているのだろうか。それとも単に『ツー』が続くのだろうか。国名ではなく、都市名になっているところはツアー先を意味するのだろうか。どの曲も適度に感傷的で、この世界はそのような気分の積み重ねでできているといわんばかりである。地味なアルバルだけど、その意志は強く、聴く度に存在感を増し、そして、とても落ち着く。そう、ハーバートは相変わらず「なにがやりたいのかよくわからないプロデューサー」の代表格である。こんな作品になるとはまったく予想できなかった。

三田 格