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アニマル・コレクティヴが真夏の海辺でウォッシュト・アウトで踊り明かした翌日、スウェーデンのスタジオに出向いてレコーディングしていたら......、セイント・エチエンヌが再結成して脳天気なチルウェイヴを作ったとしら......、サザン・ショアーズはシンセ・ポップ時代における真性のバレアリックで、彼らの音楽を聴いたら10人に4人は腑抜けになってしまうに違いない。ここには過剰にドリーミーなシンセ・サウンドがある。官能的なループと心地よいビートがどこまでも続いている。女性ヴォーカルはこの甘美な音のひとつのパートして機能している。
とにかくこの3人組の新人には、チルウェイヴ以降のシンセ・ポップのモードとシンプルだがやためったら陶酔的なチルアウト・ビートがある。"テイク・ミー・エニイウェア(どこでもいいから私を連れてって)"は、いまの僕には1989年の音楽を聴くよりも1989年的なものを強く感じさせる......という言い方はよくないか......映画『アップサイドダウン』の試写を見たり、あるいは最近のUKのダンス・カルチャーの話を友だちとしているうちにセカンド・サマー・オブ・ラヴ話が盛りあがったりしたので、そういう喩えをしてしまったのだけれど、これは明白なまでに2011年の音だ。正直、ここ数年のバリアリック・リヴァイヴァルには興味を持てなかったのだけれど、サザン・ショアーズが奏でるポップスには、ウォッシュト・アウトやハイプ・ウィリアムスを親しんできた耳にとってはそれなりの魅力がある。良くも悪くもここには陰りというものがなく、呆れかえるほど徹底的に、ドリーミーでロマンティックだ。
先日、ブルックリンから一時帰国した沢井陽子さんと会って、最近のUSシーンについの話を訊いたら、やはりというか......アメリカ内部に住んでいるとチルウェイヴなんていうものはほとんど聴こえてこないそうで、住んでいながら耳に入ってきやすいのは......何よりもジー・オー・シーズ、あるいはタイ・セガールやダム・ダム・ガールズ(あるいは日本のスーザン)のようなガレージ・ロックであると。なるほど、ここには単純な話、彼女の趣味の問題が大いに関係していると思うが......、やっぱアメリカって大雑把に言えばいまでもそういう国なのか。まあたしかに、ロックンロールを生んだ国だし。
80年代、アメリカ人といっしょに暮らしたことがあった。あるとき彼から、イギリスのバンドは流行によってすぐに変わるから好きになれない、アメリカのバンドは流行に関係なく変わらないからいいんだと言われたことがあった。一理ある意見だが、僕は結局いまでも流行に左右される音楽を聴いている。僕も自分ではロックンロール愛があるほうだと思っているけれど、アメリカ人が抱いているロックンロールというスタイルに対する思いの深さは、イギリス人やドイツ人や日本人にはおよばないものがあるのかもしれない......というか、強い思いの人の絶対数がだんとつに多そうだ。ルー・リードが"ロックンロール"という曲で歌っているように、ラジオでそれが流れたときにすべてが解決するという魔法がいまでもあるのかもしれない。チルウェイヴやYMOがラジオでかかったとしても、それで悩みが解決しました! という気持ちになれるとは思えないし、アメリカにおいてシンセ・ポップはいまでも異端なのだろう。そう思うとなおさらシンセ・ポップの肩を持ちたくなってしまうのである。
追記:今日はFREEDOMMUNEですね。歴史的な日になるかもよ!
野田 努