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Conrad Schnitzler & Borngraber & Struver

Conrad Schnitzler & Borngraber & Struver

Con-Struct

M=minimal

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野田 努   Oct 27,2011 UP

 先日、恵比寿のリキッドルームでのANBBのライヴで、そのフロントアクトのために上京していたNHKyxことマツナガ・コウヘイは、ひょっとしたらコンラッド・シュニッツラーと最後に会った日本人なんじゃないだろうか。1年のほとんどをベルリンで暮らしているマツナガ・コウヘイは、市内にあるシュニッツラーの自宅を訪ね、そしてコラボレートしている。もちろんその楽曲はまだ発表されていないが、今年の8月4日、患っていた癌のために逝去したコンラッド・シュニッツラーに関しては、とりあえずこれから先も未発表作品が出てきそうだ。

 エイミー・ワインハウスがこの世を去ってからおよそ10日後に、涙や悲しみ、あるいは人生論や精神論、この社会が規定する真面目さといった人並みの重みからも、そしてどんなムーヴメントからも100万光年離れていたかのような、この一見風変わりなドイツ人の電子音楽家は70代なかばにして死んだ。彼の膨大なディスコグラフィーの半分も聴いているわけではないものの、それでも家には10枚ほどのアルバムがあり、しかし、いまだこの音楽をうまく表す言葉を持たない始末である。たまに赤(ロート)や青(ブラウ)や黒(シュヴァルツ)なんかを引っ張り出して聴くのだけれど、いまだ言葉が出てこない......。同じように膨大な自主制作盤を多く出しているサン・ラにはすでに多くの言葉やいくつかの書物があるというのに、1937年生まれのコンラッド・シュニッツラーは死んでもなお言葉で説明されるよりもさらにその先にいたかのようだ。
 コンラッド・シュニッツラーに関しては、彼のバイオグラフィーやエピソードのほうがいまだ彼の音楽をより良く表しているように思える。タンジェリン・ドリームのオリジナル・メンバーにして"K"時代のクラスターのメンバーでありながら、バンドの継続や発展というものには何の興味もないかのようにいずれも最初だけいてすぐに脱退している。音楽活動以前はヨゼフ・ボイスに師事していた過去もあり、本人によれば影響はないという話だが、それとてどこまで真意かわからない。わかるのはコンラッド・シュニッツラーの清々しいまでに反権威的(に見えるそれ)で、そしてちまたで言うところの音楽的であることや、あるいはその意味なるものをとことん拒絶するかのような軌跡だ。ノン・ミュージシャンというブライアン・イーノの提言をシュニッツラーほど最後まで実践した人もいないとも言える。セールスや評価どころか、自分の作品の曲名(無題か、たんなる数字)やアルバム・タイトル(無記)、あるいはアルバムのアートワーク(たんなる色)すらもどうでもいいと言わんばかりの彼の経歴に関しては、とても詳しい日本語のサイトを見つけたので、ぜひ読んでいただきたい(http://www.fancymoon.com/mrs/)。

 彼が死ぬ4日前に録音したという『00/830 EndTime』を僕はまだ聴いていない。まだ聴いていない作品ばかりがある。本作はコンラッド・シュニッツラーのもっともよく知られた『Ballet Statique』や"Zug"のリミックス盤(リミキサーにはPoleもいる)を昨年リリースしていたベルリンの〈M=Minimal〉レーベルのふたりの主宰者、ボーングレイバーとストゥルヴァー(元々はジャーマン・トランスの人である)が彼の曲を再構築した『コン・ストラクト』なるアルバムだ。本国では死ぬ直前にリリースされているようだが日本に入ってきたのは死後なので、レコード店で見つけて反射的に買ってしまった。不可解きわまりない70年代の作品に比べれば、ベルリンのミニマリズムに落とし込んである分だけ聴きやすいものとなっているが、それでも名状しがたいところはある。なんというか......ポポポポポポ、ゴォオオ、ポ、ポ、ポポ、プチ、コキコキコキコケケケ......そんな感じが1から8まである。アナログ盤をカッティングしているのはPoleで、作品のディストリビューションはケルンの〈コンパクト〉が担当している(マスタリングは例によってハードワックス地下のダブプレート&マスタリングだろう)。

 コンラッド・シュニッツラーの家を訪ねたマツナガ・コウヘイの回想によれば、彼の自宅の地下にあるスタジオには古いアタリのコンピュータが数台並び、その横にはアナログ機材から最近の電子機材も数台並んでいたという。つまり機材が更新があり、おそらくは死ぬ直前までやる気満々だったそうなのだ。スタジオの音はそのまま1階のリヴィングのスピーカーからも聴くことができ、庭にはリンゴの木が生えていたそうだが、そのリンゴの実にはいっさい手を出さなかったという。そしてコンラッド・シュニッツラーは自分の死後の計画までマツナガ・コウヘイに話したそうだ。それは死後、自分の身体のいち部を切断し、それを世界のいくつかの場所に埋めるというものだった。おそらくそれが彼の最後の"アート"なのだろう。言うまでもなく僕のようなしみったれた人間がもっとも憧れるのは、コンラッド・シュニッツラーのような人だ。ところでNHKyxとのコラボレーション作品はいつ出るのだろう。

野田 努