ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 別冊ele-king 音楽が世界を変える──プロテスト・ミュージック・スペシャル
  2. Cornelius ──コーネリアスがさらなる新曲“Twisting & Glistening”を公開
  3. Beatrice M. - Sinking | ベアトリス・M
  4. R.I.P. Miru Shinoda 追悼:篠田ミル
  5. Visible Cloaks - Paradessence | ヴィジブル・クロークス
  6. MariMari ——佐藤伸治がプロデュースした女性シンガーの作品がストリーミング配信
  7. 未来マニア──エレクトロニック・ミュージック・ガイド
  8. YHWH Nailgun - Magazine | ヤハウェ・ネイルガン
  9. Cornelius ——コーネリアス、ニュー・アルバム『REFRACTIONS』の詳細を発表
  10. Ryo Isobe ——磯部涼の新著は『脱法』
  11. Columns Boards of Canada ボーズ・オブ・カナダの帰還  | ──その軌跡、その影響、そして13年ぶりの新作『Inferno』をめぐって
  12. Tadekui ──北海道出身の期待のバンド、タデクイのファースト・アルバムが全国流通開始&LPもリリース
  13. UKインディ・ロック入門──ポスト・パンク、ギター・ポップ、スカとダブ編
  14. Columns #16:ワールドカップ2026 ──時代は変わった(日本代表のことではない)
  15. interview with Mouse on Mars 僕たちはダブを、ジャンルではなく社会的なものとして捉えたい | ——リー・ペリーとの共作を発表したマウス・オン・マーズ、インタヴュー
  16. Jeff Mills × Jun Togawa ──ジェフ・ミルズと戸川純によるコラボ曲がリリース
  17. AMBIENT KYOTO - TOKYO ——坂本龍一と高谷史郎による「async - immersion」がついに東京で開催
  18. FUTURE FREQUENCIES FESTIVAL 2026 ──新たなフェスティヴァルが始動、ジョイ・オービソンやザ・セイバーズ・オブ・パラダイス、ノウワーらが出演
  19. Columns Introduction to P-VINE CLASSICS 50
  20. interview with Loraine James ロレイン・ジェイムズの“ポップ”な冒険 | ——来日直前インタヴュー

Home >  Reviews >  Album Reviews > YOSUKEKOTANI- Anywhere

YOSUKEKOTANI

ElectronicPop

YOSUKEKOTANI

Anywhere

AWDR/LR2

Tower HMV Amazon

斎藤辰也   May 15,2014 UP

 朝に起きて、仕事へ出る。仕事を終え、夜に帰る。これを週5回くりかえす。このありふれた生活がスタートしただけで、平日の夜に聴く音楽が変わった。激しいのはちょっと勘弁。なるべくならメロウな方へ。あまりにもわかりやすい変化だけど、本当なのだからしょうがない。
 このアルバムを聴くなら、平日の夜が似合う。有給をつかわなくても、イメージの小旅行をすればいい。それだけでずいぶんと気が楽になる。

 作者の小谷洋輔はHARVARDやAVALONというエレクトロ・ポップのバンドで活動していたミュージシャンだが、そうした経歴がレーベル・コピーではいっさい明かされていない。どうやら本作『ANYWHERE』は、それらとはちがう耳のモードで聴いてほしいようだ。
 個人名義から生まれてくるパーソナルな印象は、「どこか」というタイトルの抽象的な情景に溶けてなくなる。うまいとはいえない不明瞭な英語の歌も、異国で感じる孤独を思いださせる。僕自身、得意な方だと思っていた英語が現地ではなかなか伝わらず、ぼんやりとしか聴き取れず、もどかしい思いをしたものだ。イギリスでのぞいた鏡に映ったのは、自分個人でも日本人でもなく、猫背気味のアジア人だった。あの感覚が甦る。
 小谷は海外の都市10箇所を20日間で旅行し、滞在先のホテルで本作を録音したそうだ。曲間のフィールド・レコーディングが示すように、小谷はところどころで自身の漂着点とその足取りを記録している。目的地はない。目的地がないから、旅が終わればチケットをもって家に帰るだけだ。その気楽さと安心感、あるいは、寂しさと物足りなさがアルバムに吹き込まれている。

 全編ポップだが内省的で、イリシット・ツボイによってひたすらメロウに、そして綺麗なヒップホップに仕上げられている。なかでもニューエイジ風でメロディアスなインスト“Night In The Virginal”が魅力的で、1分半で終わってしまうのが惜しい。

 夢にみたストロベリー・フィールズの風にのって窓から軽やかに飛び立つようなイントロ(ただしタイトルは“ステーキとフライ”)にはじまって、“星に願いを”をおもわせる“My Ideal(僕の理想)”でアルバムが終わるまで、たったの20分。よくできた作品だ。くどくない。すこし足りないくらいが、現実に帰るにはちょうどいい。

アーテイストHP:
YOSUKEKOTANI.COM
http://www.yosukekotani.com

斎藤辰也