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Eddi Reader

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岡村詩野   Jun 06,2014 UP

 エディ・リーダーで思い出すのは94年春、ロンドンに滞在していた時のことだ。ヒースロー空港に到着するとロビーでかかっていたのが“ペイシェンス・オブ・エンジェルス”。その後、タクシーに乗ってもカフェでお茶を飲んでいてもテレビをつけてもラジオをつけても、そしてもちろんレコード・ショップに入ってもとにかくひたすら流れてくるのは、エディにとって2作めのソロとなる『天使の溜息』に収められたシングル曲で、約10日間の滞在中にその8分の6拍子のバラードは見事に筆者の耳にこびりついてしまった。

 こういうこと自体はけっして珍しいことではない。だが、特筆したいのは、ブリット・ポップに沸いた年の春に町中でもっともよくかかっていたのがブラーでもオアシスでもないエディ・リーダーだったということ。さらに、エディが、若手……少なくとも地元スコットランドの連中からリスペクトされていたという事実にも驚かされた。「おもしろいバンドがインディから登場しているのにラジオではエディ・リーダーがかかっている。これについてはどう思いますか」。筆者からのそんな失礼な質問に対し、その年に会ったティーンエイジ・ファンクラブのノーマン・ブレイクはこう答えたのだ。「最高だよ! だってエディは僕らのミューズだもの。彼女のようなスタンダードがヒットしていないとだめだよ」。
 そんなエディの約5年ぶり10作めとなるスタジオ・アルバムには、彼女がヨーロッパ中をバスキングをした後にグラスゴーに戻ってきてフェアーグラウンド・アトラクションを結成した頃とほとんど変わらない、スウィング・ジャズ、トラッド・フォーク、ボサ・ノヴァなど古くからの大衆音楽への希求をベースにしたスタンダードな風合いのポップスが揃っている。曲はオリジナルだが(日本盤にはフレッド・ニールやスーパー・ファーリー・アニマルズなどのカヴァーが収録されている)、アコースティック・ギター、ピアノ、アコーディオンなどを用いた演奏、アレンジのスタイルも定番中の定番。録音場所は変わることなくグラスゴーで、ロイ・ドッズ、ブー・ヒューワディーン、ジョン・ダグラスら参加メンバーもお馴染み旧知の仲間が中心、いかに彼女の目線がブレていないかがわかる、言わば安定の一枚と言える。
 そうした定番路線にいささかの物足りなさを感じなくもないし、刺激があるかと問われれば答えに窮するだろう。だが、それこそノーマン・ブレイクが話していたように、エディのようなアーティストが日夜パブやカフェで人々の耳や心を潤しているからこそ、それを否定するような急先鋒の音楽が時代をかき乱すことに意味が生まれる。大衆音楽というのは得てしてそうした宿命を担わされているわけで、誰もが共有できるスタンダードな大衆音楽に憧れ、いつのまにか自分自身がスタンダード・ポップスになったエディ・リーダーというアーティストは、もしかしたら損な役回りになっているのかもしれない。

岡村詩野