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Various

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Planet Mu25

Planet Mu

三田格 Dec 24,2020 UP
E王

 今週発売の紙エレキングVol.26に掲載されているマイク・パラディナスのインタヴューを読んで、ちょっと驚いた。パラディナスによって運営されている〈プラネット・ミュー〉が2011年にリリースしたジューク/フットワークを世界に初めて紹介したコンピレーション『Bangs & Works Vol.1』は当時、ネガティヴな評価を受けたというくだりである。僕と野田努は『テクノ・ディフィニティヴ』を書き始める際、2011年の代表作に『Bangs & Works Vol.1』を選ぶことになんの躊躇もなかった。それこそ1秒ぐらいで決めたし、10年近く経ったいまでもその判断でよかったと思っている。しかし、パラディナスが言うには「あの作品のせいで僕たちは多くのファンを失った」というのである。衝撃的な述懐だった。僕の足元にいたネコも(偶然だけど)ひっくり返っていた。

 〈プラネット・ミュー〉は二度はじまっている。最初は〈ヴァージン〉傘下のブランド・レーベルとして主にはパラディナス自身の作品を発表し、これが3年で〈ヴァージン〉の流通に疑問を覚えたことで離脱。98年からはインディ・レーベルとして仕切り直し、パラディナスとは専門学校のクラスメートだったディラン・J・ネイサン(Jega名義)のドリルン・ベースを「ZIQ001」としてリリースしている。ネイサンはイラン系で、僕は当時、彼の音楽からベドウィン・アセントやレイラと同じくアラブ系のセンスを聞き取ろうとした記憶がある。アラベスクを思わせる緻密な打ち込みに荘厳な世界観。テクノが世界に広がっていくということは、そのような価値観の広がりだと思っていた。ところが〈プラネット・ミュー〉から多くのファンが離れたのは『Bangs & Works Vol.1』が黒人の作品だったからだという。話にならない。ネコもひっくり返ったままである(つーか、そのまま寝てしまった)。新生〈プラネット・ミュー〉が4人目に契約したクリスチャン・クレイグ・ロビンソン(Capitol K名義)はドリルン・ベースとインディー・ロックをフュージョンさせた異才だけれど、その後はクンビアに染まり、現在はトータル・リフレッシュメント・センターを主催してサンズ・オブ・ケメットやイビビオ・サウンド・マシーンといった移民系の作品を数多く世に送り出している。〈プラネット・ミュー〉は日本人(Joseph Nothing、Guilty Connector)の作品を出すのも早かったし、バブリングと呼ばれるオランダのブラック・ミュージックだって紹介してきた。UKガラージの移民的なアレンジといえるグライムやダブステップもごく初期からリリースしてきたというのに……。


 〈プラネット・ミュー〉はレーベル・コンピレーションを頻発する。なので「25年だから」という重みはない(20周年を祝う『µ20』は50曲入りの3CDだったので物理的にも軽い)。ただ単純に『Planet Mu25』にはジューク以降のダイナミクスをフォローしてきた〈プラネット・ミュー〉の現在が反映され、次から次へと素晴らしい曲が続く。個人的には1曲も捨て曲はなかった(洗脳されてるとしか思えないw)。オープニングはイーストマンことアンソニー・J・ハート。セカンド・アルバム『Prole Art Threat』からの再録で、彼については前述したパラディナスのインタヴューで詳しく編集部が話を聞き出している(ので省略)、簡素なドラム・パターンが相変わらずカッコいいとだけ付け加えておく。RPブーやDJネイトといったジューク第1世代ももちろん収録され、後者はセカンド・アルバム『Take Off Mode』に収録された“Get Off Me (Betta Get Back)”をアンソニー・J・ハートがベーシック・リズム名義でドリル風にリミックス。ウラディスラフ・ディレイもリパッティ(Ripatti)名義でセルフ・リリースを重ねてきたジュークをここには寄せている。そう、インダストリアルで寒々しいムードに変換されたジュークは驚くほどヨーロッパ風の変容を遂げ、〈プラネット・ミュー〉から離れたファンも大挙して舞い戻ってくることだろう。ハンガリーのガボール・ラザールは5thアルバム『Source』からタイトル曲を再録。『Source』はマイク・インクとオウテカが出会ったようなIDMのアルバムで、〈プラネット・ミュー〉がいまだ『Artificial Intelligence』の延長線上にあることを示した作品である。この路線を〈プラネット・ミュー〉が手放したことはない。もしかすると〈ワープ〉よりもこだわっているかもしれない。残念なことにベース・ミュージックとフリージャズを合体させたスピーカー・ミュージックはセカンド・アルバム『Black Nationalist Sonic Weaponry』からの再録、「シンゲリの巨人」と化したライアン・トレナーも同じく『File Under UK Metaplasm』からの再録と、期待の星たちから新曲はなかった。今後の予告編となるのはボグダン・レチンスキーやアイルランドのラッカーからイーオマック(Eomac)のソロ作。アンビエント・ドラムン・ベースに挑む前者にエスニックなブレイクビートを刻む後者と、〈プラネット・ミュー〉の2021年はヴィジョンにあふれている。〈ワープ〉傘下の〈ディサイプルズ〉から復活を遂げたレチンスキーが移籍したのも驚くけれど、〈R & S〉に居座るかと思っていたイーオマックがアラブ首長国連邦の〈ベドゥイン・レコーズ〉からソロ・アルバムをリリースしたり、2020年には〈ニゲ・ニゲ〉のMCヤッラーとジョイントするなど一時期よりも先が読めない動き方を見せ始め、それがまさか〈プラネット・ミュー〉と結びつくとは思わなかった。新人ではファーウォームス(FARWARMTH)に期待がかかる。


 パラディナスのインタヴューを読んでいると、妻のラーラ・リックス~マーティンが想像以上に彼に影響を与えていたことがよくわかる。最初は2人でヘテロティックというシンセ・ポップのユニットをスタートさせ、『Love & Devotion(愛と退化)』というタイトル通り、ボケボケじゃんとか思っていたのだけれど、リックス~マーティンはソロでドローンに転じ、ミーモ・カンマ(Meemo Comma)の名義で活動を始めると一気に加速度を上げていく。自らアルバムを立て続けに制作するだけでなく、女性プロデューサー専門の〈オブジェクト・リミテッド〉をサブ・レーベルとして立ち上げ、そこからはアルカを思わせる中国系のルイ・ホー(RUI HO)による“Hikari”を再録し、同じくアブストラクなジュークを聴かせるジャナ・ラッシュは“Mynd Fuc”を新たに寄せている。ミーモ・カンマとしてもビートを取り入れた“Tif’eret”を提供し、これまでのホラーじみたドローンとは違った側面を見せ始めた。パラディナスが過去音源ばかり大量放出しているのとは実に対照的というか、パラディナスのインタヴューを読みながら聴いていると、妻の才能が伸びていくのを喜んで見守っているパラディナスの表情まで見えるような気がしてしまう。パラディナスはインタヴューの中でこう言っている、「妻は僕の物事に対する考え方の多くを変えてくれた、あるいは、教育してくれた人だ、そう思う」と。#MeToo時代にこんなことが言える男性がここにいる。〈プラネット・ミュー〉、25周年、おめでとうございます。

三田格