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Silk Road Assassins

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Silk Road Assassins

State Of Ruin

Planet Mu

Tower HMV Amazon iTunes

米澤慎太朗   Mar 04,2019 UP

 〈Planet Mu〉からUKの Tom E. Vercetti、Lovedr0id、Chemist の3人によるプロジェクト、Silk Road Assassins (以下SRA)による14曲入りデビュー・アルバム『State Of Ruin』がリリースされた。過去にはそれぞれ Tom E. Vercetti と Chemist がグライムをベースとしたロンドンの実験的なレーベル〈Coyote Records〉からリリースを重ね、また Mr. Mitch や Rabit、Last Japan といったアーティストの楽曲のリミックスを手掛けてきた。SRA の作風は、グライム、トラップ、ドリル・ミュージックのインストゥルメンタルに込められた冷たさを取り出し、トランシーなパッドと混ぜ合わせるというスタイルで、Clams Casino 以降の Chillwave やそれらを発展させた「Wave」というジャンルとの共通した質感でもある。

 14曲のインストゥルメンタルを聴き通して思い浮かぶのは、アルバム・タイトルのように人気のない「廃墟」のイメージだ。昔は存在していたのにいまでは人間が「不在である」ことを強く感じさせる空間のイメージ。それは特にラップ・ミュージックのフォーマットを用いていることにある。アルバムの序盤は特にメロディではなく冷たいシンセパッドを核とした構成となっており、より強く「声の不在」を感じさせる。同じく〈Planet Mu〉から Kuedo が参加している“Split Matter”では、女性風の合成音声のように聞こえる音が使われている。またフルートやベルといった音色も打ち込みでしか出せないような音で、むき出しな無機質さをたたえている。UKドリルらしいハネ感が際立つ“Familiars”では、ハードコアやガバを思わせるリフがドリルラッパーの代わりにそのテンションを発散、アルバム中盤“Bloom” “Pulling The String”でダウンテンポで美しいメロディを挟み、WWWINGS が参加した“Shadow Realm”のグリッチやノイズの嵐、そして本作のハイライトとなる“Taste Of Metal”へと流れ込んでいく。“Taste Of Metal”にはMCの K9 を迎えた別ヴァージョンが存在するが、本作に収録されているのは声なしのインストゥルメンタルである。“Saint”からラスト・ソング“Blink”までの4曲はまた一転して、メロディックなシーケンスとパーカッションとしての銃声、消防車・警察車両のサイレンの不穏な音が重なりひとつの世界観を作り上げている。

 SRA の3人がゲーム音楽を制作していることは、クラブ・ミュージックとゲーム音楽の大きな結節点であるベリアル(Burial)の『Untrue』を思い起こさせる。Burial はUKガラージのリズムを、『メタルギアソリッド』の主人公が移動するときに持っている武器が「カチャカチャ」と立てる音をサンプリングし、パーカッションとして組み立てた。マーク・フィッシャーによれば「未来の不在に取り憑かれた時代精神を象徴した」サウンドは、仮想現実という「別の世界」からやってきたと言える。そしてここで取り上げたいのは、ベリアルがサンプリングしたように、ゲームにおける音の役割はBGMから広がり、いまでは足音や空調の音、風の音といった「リアリティ」(現実らしさ)を「シミュレーション」し構成することにあるということだ。もともとはプレイヤーの2Dの背景であったはずのゲーム内の空間は3D・4Dとなって情報量と自由度を増し、もはやゲームのプレイヤー・主人公とはパラレルで自律した世界が無限に、そして事前に演算され続ける。こうしたある種の「自然」を表現した作品にブレント・ワタナベの「サンアンドレアス・ストリーミング・ディア・カム」がある*。この作品はプレイヤーと直接関わらない一匹の鹿のキャラクターがAIによってゲーム空間を自由に動き回る様を録画している。その様子は「人間(プレイヤー)と関わらない世界」という意味での世界や現実が、こちら側の現実と同じようにゲームの中においても確かに存在していることを直感的に表現している。

 私たちがFPSゲームをするとき、スクリーン、あるいはVRヘッドセットをひとつの「窓」にしてもうひとつの完全に自律した世界を覗くことになる。そのときゲームは視覚と同時に聴覚も奪ってしまうことで完全に別の世界に没入することができる。SRA のアルバムを聴きながら、自分と音楽をつなぐ「声」は不在であり、そこにプレイヤー、あるいは主体としての「人間」が奇妙に取り除かれている。主人公不在のゲーム的リアリティが耳から流れ込み、「私」が目で追いかける風景と二重写しとなる。このアルバムを聴き思い浮かぶ情景は歪んだ現実感をもって私たちに迫ってくる。

* 現在初台ICCで開催されている「イン・ア・ゲームスケープ ヴィデオ・ゲームの風景,リアリティ,物語,自我」で3/10まで上映中。 http://www.ntticc.or.jp/ja/exhibitions/2018/in-a-gamescape/

米澤慎太朗