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Columns

J・ディラの名作『Welcome 2 Detroit』が7インチ12枚組ボックスセットとしてリイシュー、未発表音源やDJ MUROによるリミックスも

J・ディラの名作『Welcome 2 Detroit』が7インチ12枚組ボックスセットとしてリイシュー、未発表音源やDJ MUROによるリミックスも

文:大前至 Feb 15,2021 UP

 UKのレーベル、〈BBE〉がプロデューサー/DJを主役にして立ち上げたアルバム・シリーズ「The Beat Generation」。Madlib による『WLIB AM: King Of The Wigflip』まで通算11作がリリースされたこの人気シリーズの第一弾を飾ったのが、2001年に Jay Dee aka J Dilla 名義で発表された『Welcome 2 Detroit』であり、数々のヒップホップ・クラシックを残してきた故 J Dilla にとって初のソロ・アルバムとなった作品だ。そんな歴史的アルバムである『Welcome 2 Detroit』の20周年を祝ってリリースされたのが、本作『Welcome 2 Detroit - The 20th Anniversary Edition』である。

 90年代半ばから2000年前後にかけて Jay Dee 時代の彼は実に様々なプロジェクトに参加していた。Pharcyde や De La Soul など様々なアーティストのプロデュースを手がけ、その後、Q-Tip、Ali Shaheed と結成したプロダクション・チーム「The Ummah」や、The Roots の Questlove を中心としたヒップホップ/ソウル・コレクティヴ「Soulquarians」の一員としても活動。さらに自らのグループである Slum Village としてもアルバムをリリースしている。そんな多忙な状況の中、〈BBE〉の指名を受けて制作したのがこの『Welcome 2 Detroit』だ。タイトルが示している通り、彼の地元であるデトロイトのヒップホップ・シーンおよびデトロイト・サウンドのショウケースであり、J Dilla 自身のルーツを辿る作品でもある。


J-Dilla exclusive pictures by Paul Hampartsoumian

 Slum Village ではプロデューサー兼MCとして活動していた J Dilla だが、本作では自身のラップに加えて仲間であるデトロイトのラッパーを多数フィーチャー。J Dilla の脱退と同タイミングで Slum Village のメンバーとなる Elzhi など、世間的にはまだまだ知名度の低かった彼らの存在をヒップホップ・シーンに知らしめた。バウンシーなトラックに乗った Frank-N-Dank によるデトロイト賛歌 “Pause” や、シンプルなビートの質感が最高に気持ち良い “It's Like That” での Hodge Podge (Big Tone)と Lacks (のちの Ta'Raah)によるマイクリレーなど、J Dilla とデトロイトMCたちとの相性の良さは本当に素晴らしく、様々なタイプのトラックとラップの掛け算を堪能できる。タイトル通り Phat Kat の紹介曲である “Feat. Phat Kat” の印象的なサンプル・フレーズは、のちに Q-Tip が “Renaissance Rap” で再利用したり、本作にも参加している Karriem Riggins が自らの曲 “J Dilla the Greatest” で引用するなど、このアルバムの裏クラシック的な一曲と言えよう。

 本作には非ラップ曲やインスト曲もいくつか含まれており、それらが前述した「J Dilla 自身のルーツを辿る」曲だ。中でも至極の一曲と言えるのが、Donald Byrd の同名曲をカヴァーした “Think Twice” だろう。幼い頃からジャズを聞いて育ったという J Dilla だが、ここでは Mizell ブラザーズがプロデュースしたダンサブルなジャズ・チューンの原曲をジャズ+R&Bのテイストでアレンジし、ヴォーカルも自ら担当している。驚くのは、この曲がほぼ生楽器による演奏でレコーディングされているということだ。キーボードとトランペットを担当した Dwele と共に、この曲で J Dilla はドラム、ベース、ピアノ、パーカッションなどを演奏している。サンプリングの達人というイメージの強い J Dilla が、一方で楽器も使って曲作りをしていたことはいまでは広く知られているが、おそらく本作でもサンプリングに生楽器を重ねる手法が多数用いられている。そういった手法でトラックを作っていたヒップホップ・プロデューサーは、このアルバムがリリースされた2001年の時点では非常に稀だったはずで、そういう意味で本作は非常に前衛的な作品であった。『The 20th Anniversary Edition』収録の “Think Twice (DJ Muro’s KG Mix)” は、そんな J Dilla に対するリスペクト溢れるリミックスで、聞き手の心に深く染み込んでくる素晴らしい仕上がりだ。

 “Brazilian Groove (EWF)”も同様に生楽器を主体に作られているが、タイトルが示す通り Earth, Wind & Fire からインスパイアされ、名曲 “Brazilian Rhyme” のコーラスが引用されている。これは、J Dilla のルーツのひとつに70年代のソウル/R&Bがあることの証だ。そして、生楽器の使用と言う意味ではジャズボッサ曲 “Rico Suave Bossa Nova” も “Think Twice” と並ぶ最重要曲のひとつ。この曲は一部、既存の曲からフレーズの引用はあるものの、ほぼ J Dilla のオリジナル曲と言って差し支えないだろう。Pharcyde “Runnnin'” を筆頭に、早くからブラジル音楽をサンプリング・ネタとして取り入れてきたことでも知られる J Dilla であるが、自らの演奏でこれほど完成度の高い曲を作り上げることには恐れ入る。さらに、今回の『The 20th Anniversary Edition』には、ブラジル音楽の本家 Azymuth によるこの曲のカヴァーが収録されており、ブラジル音楽とヒップホップを強く結びつける非常に意義深い一曲だ。ちなみにこのカヴァー・ヴァージョンには、ドキュメンタリー映画『Brasilintime』を手がけたフォトグラファーの B+ と Eric Coleman がプロデューサーとしてクレジットされており、彼らがカヴァーを企画したと思われる。

 もうひとつ、最後に取り上げたいのが、Kraftwerk “Trans Europe Express” の J Dilla 流カヴァーとも言える “B.B.E. (Big Booty Express)” で、様々なシンセサイザーの電子音が飛び交う曲調は本作の中でも非常に異色である。ここで表現されているのはデトロイト・テクノからの影響だ。タイトルはストリップ・クラブの常連であった J Dilla らしいノリで付けられているが、遅めのBPMで、デトロイト・テクノにヒップホップのフレイヴァを加えたハイブリッドな仕上がりは実に中毒性が高い。非常に特殊な一曲ではあるものの、これもまたこの時代の J Dilla だからこそ作り上げることのできた一曲だろう。

 J Dilla は本作がリリースされた5年後に亡くなっている。その後も『Donuts』をはじめ様々な作品がリリースされているが、本作のように様々な要素が入り混じった作品はひとつも作られていない。もし、いまも彼が生きていて『Welcome 2 Detroit』の第二弾を作ったらどんな作品になっていただろうか? そんなことを想像しながら、この『The 20th Anniversary Edition』をさらに聴き込んでみたい。

文:大前至

アーティスト名: J DILLA
タイトル: WELCOME 2 DETROIT - THE 20TH ANNIVERSARY EDITION [7INCH × 12枚組 BOXSET]

バスタ・ライムスが名付けたという J・ディラ名義でリリースされた本作、彼の出身地デトロイトをリプリゼントすべくゲスト・ラッパー陣は全て地元のアーティストで固めており、フランクンダンクからエルジー、ファット・キャットが参加し、J・ディラがデトロイトで聴いて育ったクラフトワーク、アフリカン、ジャズ・ファンク/ボサノヴァ、そしてもちろんブーム・バップに至るあらゆる音楽をディラ流に仕上げたクラシックがズラリ……! 全てデジタル・リマスタリングを施し、さらにこのアルバムのセッション中にJ・ディラのプライベート・テープに残された未発表音源やアウト・テイクを追加収録、そして日本が誇るキング・オブ・ディギン、Muro による “Think Twice” のリミックス、クラシック “Rico Suave Bossa Nova” のアジムスによるカヴァーなどを収めた全46曲の脅威のヴォリュームで送るボックスセット! アンプ・フィドラーやマ・デュークスなど参加アーティストのインタビューなどを収録したブックレット(英語)も付属。

label: BBE
genre: HIPHOP
format: 7INCH × 12枚組 BOXSET
cat no.: BBEBG001SLP
barcode: 0195497389094
発売日: 2021.2.5
税抜卸価格: (オープン価格)

Tracklist:

Disc 01
A1. Y’all Ain’t Ready
A2. Think Twice (faded)
B1. Y’all Ain’t Ready (Instrumental)
B2. Think Twice (Instrumental ? faded)

Disc 02
C1. The Clapper feat. Blu
C2. Shake It Down
D1. The Clapper (Instrumental)
D2. Shake It Down (Instrumental)

Disc 03
E1. Come Get It feat. Elzhi (edit)
F1. Come Get It (Instrumental ? edit)

Disc 04
G1. Pause feat Frank ‘n’ Dank
G2. B.B.E. ? Big Booty Express
H1. Pause (Instrumental)
H2. B.B.E. ? Big Booty Express (Instrumental)

Disc 05
I1. Beej-N-Dem Pt.2 feat. Beej
J1. Beej-N-Dem Pt.2 (Instrumental)

Disc 06
K1. Brazilian Groove
K2. It’s Like That (Edit) feat. Hodge Podge, Lacks
L1. Brazilian Groove EWF (Instrumental)
L2. It’s Like That (Instrumental)

Disc 07
M1. Give It Up
N1. Give It Up (Instrumental)

Disc 08
O1. Rico Suave Bossa Nova
P1. Azymuth ? Rico Suave Bossa Nova (Vinyl Edit) ? Azymuth

Disc 09
Q1. Feat. Phat Kat
R1. Feat. Phat Kat (Instrumental)

Disc 10
S1. African Rhythms
S2. One
T1. African Rhythms (Instrumental)
T2. One (Instrumental)

Disc 11
U1. It’s Like That (Alternate Version)
U2. Beej-N-Dem (og) feat. Beej

Disc 12
V1. African Rhythms (No Drums)
V2. Brazilian Groove EWF (No Drums, No Vocal)
V3. Give It Up (Acapella)
W1. Think Twice (DJ Muro’s KG Mix)
X1. Think Twice (DJ Muro’s KG Mix Instrumental)

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大前至/Kiwamu Omae大前至/Kiwamu Omae
音楽ライター。今はなきヒップホップ専門誌『blast』を中心に執筆。2003年から2015年までの約12年間、LAに滞在し、数多くの現場を目撃している。

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