ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Various - Tempat Angker: Horror Movie OSTs & Sound FX From Indonesia (1971–2015) | Luigi Monteanni(ルイジ・モンテアンニ)
  2. Cock c'Nell ——コクシネルの伝説的なファースト・アルバムがリイシュー
  3. Kendrick Lamar - GNX | ケンドリック・ラマー
  4. Bon Iver ──ボン・イヴェール、6年ぶりのアルバムがリリース
  5. FKA twigs - Eusexua | FKAツゥイッグス
  6. eat-girls - Area Silenzio | イート・ガールズ
  7. Columns 夢で逢えたら:デイヴィッド・リンチへの思い  | David Lynch
  8. Columns ♯10:いや、だからそもそも「インディ・ロック」というものは
  9. Music for Black Pigeons ──〈ECM〉のジャズ・ギタリスト、ヤコブ・ブロを追ったドキュメンタリー映画『ミュージック・フォー・ブラック・ピジョン』が公開、高田みどりも出演
  10. Jlin おー、なんとジェイリンの新作には、フィリップ・グラスとビョークが参加している
  11. Panda Bear ──パンダ・ベア、5年ぶりのニュー・アルバムが登場
  12. guide to DUB ──河村祐介(監修)『DUB入門』、京都遠征
  13. パソコン音楽クラブ - Love Flutter
  14. Columns E-JIMAと訪れたブリストル記 2024
  15. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第1回 悪夢のような世界で夢を見つづけること、あるいはデイヴィッド・リンチの思い出
  16. interview with Waajeed デトロイト・ハイテック・ジャズの思い出  | ──元スラム・ヴィレッジのプロデューサー、ワジード来日インタヴュー
  17. Waajeed ──デトロイトのワジード、再来日が決定! 名古屋・東京・京都をツアー
  18. Columns The TIMERS『35周年祝賀記念品』に寄せて
  19. R.I.P. Tadashi Yabe 追悼:矢部直
  20. Doechii - Alligator Bites Never Heal | ドゥーチー

Home >  Reviews >  Album Reviews > ILLA J- Illa J

ILLA J

Hip HopR&BRap

ILLA J

Illa J

Bastard Jazz / Pヴァイン

Tower HMV Amazon

小川充矢野利裕   Oct 21,2015 UP
12

「の弟」であることに向かいあう 小川充

 1967年にコルトレーンが亡くなってからのジャズ界は、長年に渡ってその亡霊に憑りつかれていた。彼の死後に台頭したテナー・サックス奏者の多くは、コルトレーンからの影響を引き合いに出され(サックス奏者に限らず、実際にその影響を受けたジャズ・ミュージシャンは多かった)、比較され、結局そのフォロワーというような位置づけをされた。ヒップホップの世界ではジェイ・ディラが似たような立場にある。その死から9年を経た現在、彼の影響力はいまだに色褪せていなし、一種の神格化された存在に近い。ただ、一方で多くのジェイ・ディラ・フォロワーを生み出し、右へ倣えといった状況も生み出した。本人が望む、望まないにかかわらず、「ジェイ・ディラ風」というレッテルを貼られるアーティストも少なくない。実弟であるイラ・ジェイとなれば、なおさらそうした視線にさらされるわけだ。

 イラ・ジェイのデビュー・アルバム『ヤンシー・ボーイズ』は、ミルトン・ナシメントの『ミナス』を模したジャケットで、2008年にリリースされるやいなや大きな反響を集めた。いまも高く評価されるアルバムだが、純粋な意味でイラ・ジェイ個人が反映されたものかというと、少々様子が異なる。というのも、1995年から98年にかけて生前のジェイ・ディラ(この頃はジェイ・ディーと名乗っていた)が残した未発表トラックを使用し、そこにイラ・ジェイのラップをのせた変則的な作品だったからだ。当時はジェイ・ディラ・トリビュート企画が次々と生まれ、そうした流れの中で評価をされてきた。その後のイラ・ジェイは、2010年にはかつてジェイ・ディラが参加したスラム・ヴィレッジの新しいアルバム『ヴィラ・マニフェスト』に客演し、2013年にはフランクン・ダンクのフランク・ニットとヤンシー・ボーイズの名義でアルバム『サンセット・ブルーヴァード』をリリースするが、これらもジェイ・ディラのビートを使用していた。つまり、よくも悪くもイラ・ジェイはジェイ・ディラの亡骸を後ろ盾にしていたのだ。

 そんなイラ・ジェイにとって、2014年にカナダのモントリオールへ移住したことは、大きな転機となったようだ。それによってモカ・オンリー、ポテトヘッド・ピープル、ケイトラナーダといった現地のアーティストたちと新しい交流が生まれた。そうしていままでとは異なる自分のサウンドを見つけようとしていることが、『ヤンシー・ボーイズ』以来7年ぶりとなるこのニュー・アルバム『イラ・ジェイ』から感じ取れる。本作はポテトヘッド・ピープルとの共同制作となるが、彼らはヒップホップだけでなくハウス、ニュー・ディスコ、ブロークンビーツなどの要素も加え、より多彩なビート・メイクをするユニット。本作でも“ユニヴァース”のようなメロウ・ブギーは、こうしたポテトヘッド・ピープルとのコラボがあればこそ生まれた楽曲で、それこそデイム・ファンクやオンラなどに近いものを感じさせる。女性シンガーのアリーを交えたフュージョン・ソウルの“サンフラワー”は、フォーリン・エクスチェンジとか4ヒーローあたりの作品といってもいいくらいだ。このあたりはポスト・ジェイ・ディラとは異なる世界を感じさせる代表で、ほかにもアルバム前半はモカ・オンリーをフィーチャーしたコズミックな質感の“シー・バーンド”、ジャジーなグルーヴに満ちた“キャノンボール”や“オール・グッド”にしても、デトロイトのヒップホップとは異なるトーンを感じさせる。モントリオールで新しいサウンドへ取り組もうとするイラ・ジェイの現在の姿を反映した楽曲群といえるだろう。

 一方、“ストリッパーズ”は比較的ジェイ・ディラ・マナーのヒップホップと言え、サー・ラー・クリエイティヴ・パートナーズやプラティナム・パイド・パイパーズなど、ジェイ・ディラのキャリアの中でも後期に関わったアーティストたちの音に近い。アルバムの後半は“オール・アイ・ニード”“フレンチ・キッス”“フー・ゴット・イット”“パーフェクト・ゲーム”と、こうした流れが続く。イラ・ジェイがジェイ・ディラの影響から訣別することはできない。偉大な兄だから当然だろう。影響を素直に消化し、遺志を継ぎ、その上で新しく発展させるという姿勢が、とくに“フー・ゴット・イット”“パーフェクト・ゲーム”というフューチャリスティックな匂いを漂わせる2曲に表れているのではないだろうか。そして、アルバム最後のメロウな浮遊感に彩られた“ネヴァー・レフト”は亡き兄に捧げた曲となっている。


»Next 矢野利裕

12

RELATED

Dilla Dog- Dillatroit Mahogani Music

Reviews Amazon