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野田 努   Apr 15,2010 UP
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 ここ数年でダブステップの境界線もすっかり曖昧になっている。例の3連打(ダダダ、ダダダ、ダダダ、ダダダ......)がなければテクノと呼んだほうが通りやすい......が、しかしダブステップがどうしても捨てきれないものがあるとしたら、そのひとつはメランコリーの感覚だろう。〈ホットフラッシュ〉レーベルを主宰するポール・ローズ、通称スキューバのセカンド・アルバムを聴きながら、僕はあらためてこのジャンルにおけるポスト・レイヴの素晴らしいメランコリーに思いを馳せている。

 ローズがレーベルを立ち上げ、スペクターの名前で自分のトラックを発表したのは2003年のことだが、彼がダンス・カルチャーに足を入れたのは90年代初頭だった。音楽好きの両親に育てられたローズは、幼少の頃から音楽学校に通い、楽器を演奏した。やがてレイヴ・カルチャーがUKを襲い、彼はキスFMでコリン・フェイヴァーとコリン・デイルのDJを聴いた。そしてローズはある晩、偽造IDを使ってクラブに入った――と『Resident Advisor』の取材に答えている。彼はそして初期のジャングルと〈ワープ〉に心酔した。オウテカの『インキュナブラ』、続く『アンバー』が彼の人生に強烈なインパクトを残した。それでも彼は、真っ当な道を選んだ。大学を出ると就職した。が、それは長く続かなかった。大手企業に6年勤めたローズは、仕事を憎悪し、上司や同僚を軽蔑した。こうして彼はアンダーグラウンドの道に踏み入れたというわけである。

 初期の〈ホットフラッシュ〉からはローズ本人のほか、ディスタンス、あるいはボックスカッターといった、言うなればテクノ・テイストを持ったダブステッパーたちのトラックを出している。2005年からはスキューバ名義でシングルのリリースを重ね、2008年には最初のアルバム『ア・ミューチュアル・アンティパシー(A Mutual Antipathy)』を発表している。ちょうどその前年にディスタンスが〈プラネット・ミュー〉から出した『マイ・デモンズ』の評判に続くように、このアルバムもずいぶんと賞賛を浴びた。もし〈ワープ〉の"アーティフィシャル・インテリジェンス・シリーズ"でダブステップを企画したらきっとこんな音になっていだろう。ストーンしたエレクトロニックの夢が繰り広げられるものの、昔と違うのはキラキラした楽天性がないことである。少ししかないのではない、まったくないのだ。

 スキューバの『トライアンギュレーション』は、彼がロンドンからベルリンに移住してからリリースされる最初のアルバムである。ベーシック・チャンネル系のくぐもるような質感と乾いたミニマリズムがこのセカンド・アルバムを特徴づけている。2009年に〈ホットフラッシュ〉からもトラックを発表したジョイ・オービソンやアントールドのようなジャンルにこだわらない新しい才能にも触発されたのだろう、あるいはまたロンドンのダブステップの狂騒から離れたことも大きく関係しているに違いない、これはダブステップを通過したテクノ・アルバムと考えたほうが良さそうだ。つまり音楽的に幅が広く、間違いなく前作をしのぐ出来なのだ。
 それはまるで下水の流れる地下道の湿ったコンクリートにこだまするダブのようである。実際、スリーヴ・アートはそんな具合だ。電子音は壁に染みる水滴のように響く。ガラスが割れる音とともにドラムマシンは走る。暗く続くその道は、どこまでも暗い。振り返っても暗闇だ。

 ブリアルに端を発しているダブステップの暗さとは、まやかしの明るさへの拒絶の表れである。僕たちがこのダーク・ミュージックを聴いて居心地の良さを感じるのは、これが僕たちの反発心を後押しするからである。そしてこの暗く湿った地下道は、避難場所でもある。もう後戻りできないことはローズ自身がよく知っているはずだ。

野田 努