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Seeda

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野田 努   Sep 17,2010 UP
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 自分が歳を取っていくなかで、音楽家もどのように歳を取っていくのか、ここ数年、興味を持っている。木下君のECDのアルバム・レヴューを読むと、「自分も聴いてみようかな」という気持ちになったりもする。
 "若さ"というものに関する過剰な信仰心は危険だ。「若さを保つ」とはコンプレックス産業の宣伝文句だが、常識的に考えて、保てるはずがない。人生において何かアクシデントがない限りは、若さとは誰もが平等に経験して、そして通り過ぎていくもので、生きていれば歳を取るのだ。もし生きていることを肯定するなら、ゆえに若くなくなることも肯定しなければならない。シーダの復帰後最初のアルバム『ブリーズ』は、ハスリング・ラップで鳴らした音楽家が着実に歳を重ねていっているなかの現在が収録されているという点において僕には興味深い。そして、シーダの作品の歳の取り方は、社会との関わりのなかで発露されている。
 
 『ブリーズ』のリリックの多くは、前作に収録された"Dear Japan"の発展型であり、政治的な言及はさらに目立っている。いっそうのことデザインやアルバム・タイトルにおいても彼の政治的態度をはっきりと表明すればよかったのに......と思ってしまうほどだ。カーティス・メイフィールドの、残酷な社会への憤りを露わにした『ゼアズ・ノー・プレイス・ライク・アメリカ・トゥデイ』ように。『ブリーズ』の本質が"日本"を徹底的に批判することであるならば......。
 
 いや、たとえ『ブリーズ』の本質がある種の人生論であり、"日本"批判が目的ではないとしても、アルバムにおける狙いのひとつは、いまの日本の姿を彼なりに炙り出すことにある、と思われる。政党政治、環境問題、格差社会、普天間基地、医療問題、派遣切り、バブル経済......などなど、いまの日本社会のトピックをいくつも挙げ連ねながら、このテクニシャン・ラッパーは彼のライム(芸当)によって、こうしたある意味鈍くさい物言いを娯楽のレヴェルにまで押し上げようとする。"FLAT LINE"のような感傷的な曲でさえも、彼の卓越した個人技(ライム)にかかれば最後までしっかり聴いてしまう。それはそれで拍手ものである。「政治は生活の一部であり、もしそれを無視するなら生活について歌えなくなってしまう」と意見したのはブルース・スプリングスティーンだが、シーダはJラップにおけるスプリングスティーンのようだ。その感傷的な体質まで似ている。
 
 それにしても......オートチューンを使って殺伐とした競争社会を揶揄しつつ「思いやり」を説く"THIS IS HOW WE DO IT"、国会中継をクサしながら「好きな日本を探す」と繰り返す"TAXI DRIVER"のような曲を聴いていると、「なんて一途で真面目な人なんだろう」とひとしきり感心する。こうした、どちらかいえばべたな言葉遣いは、どこかぎこちなく、咀嚼し切れていない感じが残っているように聴こえるかもしれない......が、他方で、"ReBARS"や"MOMENTS "のような怒りが詰まった曲では、具体性を帯びた言葉が説得力にもなっている。音楽はほとんどの場合、個々の感情にしか影響を及ばさないとしても、抽象性を欠いた『ブリーズ』は、ゆえにひとつの明確な伝達として働きかけ、リスナーにとってわかりやすい助言――という言葉をあえて使わせてもらうが――になりうる可能性を秘めている。リスナーを外の世界へと向かわせる契機をはらんでいる。そもそもヒップホップを聴いている多くの人間が、二木信のように系統立てて社会や労働について学んでいるわけではない。
 『ブリーズ』はしかし、その中心がわかりづらいアルバムでもある。19曲もあるなかで、満場一致で芯と思えるであろう曲が見つからない。ボス・ザ・MCを迎えた勇ましい"WISDOM"? アルバム冒頭にあるダンサブルな"SET ME FREE"? アメリカの大物デヴィッド・バナーの客演を取り入れた話題曲"LIFE SONG"? センチメンタルな"DREAMIN'"? あるいは路上の人生学"道(23区)"? ......聴く人によって見え方が異なるタイプのアルバムで、下手したら資本主義社会における生き残りを描いた『カイジ』の世界のような"鋭利"がいちばん好きだという人だっているかもしれない。いずれにせよ、『ブリーズ』は音よりも言葉が気になってしまうアルバムだ。音楽的な快楽がないわけではないが、どうしても言葉に耳がいく。随所に出てくる"money""ビジネス""サクセス"といった言葉には、僕はいまでも馴染めないのだけれど、しかし、それが彼らのリアリティなのだ。「そういうものか」と思うしかない。
 
 昔、ニューヨークで開かれたミュージック・セミナーにおいて、「音楽家は良いレコードと良いショウをすればいいだけで、自分の聴衆に対してまで責任を負うべきではない」という意見に対して、「絶対にそんなことはない」と迷わず反論したのがジョージ・クリントンだったという。シーダがその場にいたらジョージ・クリントンとがっちり握手して、音楽家はよりよい社会のために貢献すべきだと誓いを立てていたかもしれない。シーダの音楽に"ファンク"は感じないけれど、彼が外の世界と結びつこうとしているのは間違いない。部屋のなかで自問しているのでなく、彼は世界に向けて窓を大きく開けているのだ。

野田 努