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Traversable Wormhole

Traversable Wormhole

Vol 1-5

CLR

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メタル   Nov 11,2010 UP
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 世界で最初にハード・テクノを叩き付けたのは、デリック・メイの〈トランスマット〉からリリースされたサバーバン・ナイトであり、1990年のジョイ・ベルトラムによる「Energy Flash」だった。マッド・マイクとジェフ・ミルズによる〈UR〉もほぼ同時期にハードコアを発表し、彼らの動きに呼応したのがベルリンの〈ベーシック・チャンネル〉だった。するとカナダのウィンザーからはリッチー・ホーティンの〈プラス8〉が登場した。こうしてハードコアは瞬く間にヨーロッパのレイヴ・カルチャーを席捲したわけだが、もうひとり、ハード・テクノにおける先駆者を忘れてはいけない。ニューヨークで〈ソニック・グルーヴ〉を立ち上げ、実の兄であるフランキー・ボーンズとともに90年代のNYハード・テクノ・シーンを牽引したアダム・Xのことである。

 2009年、レコード・ショップに並んだホワイト盤の12インチ・シングルがテクノやダブステップのDJのあいだで話題になった。トラヴァーサブル・ワームホールの1枚目のシングルであり、本作にも収録されているハード・テクノ"Tranceducer"とダビーな音響のブロークン・ビーツ"Space Time Symmetries"は、〈ハードワックス〉のサブスタンスやモノレイク、あるいは〈ベルグハイン〉で活躍するシェドやマルセル・デットマンやベン・クロックなど、新しいハード・テクノの体系のなかでたしかな存在感を示すものだった。それはスキューバやマーティンなどのダブステップとも共振した。
 当初は覆面プロジェクトとしてはじまったトラヴァーサル・ワームホールだったが、ライヴへの出演からその正体がアダム・Xだと判明した。5枚目のシングルをリリースしたところでレーベルをアダム・ベイヤー以降のハード・ミニマルを代表するDJ、クリス・リービングが主宰する〈CLR〉に移し、そしてマルセル・デットマンやスリープアーカイヴのリミックスを加えたシングルをリリースするなど、いまも順調に活動を続けている。

 本作『Vol 1-5』は、12インチのシングルでのみ流通していた5枚目までのトラックを本人がコンパイルし、ミックスしたトラヴァーサブル・ワームホール名義での事実上のファースト・アルバムだ。
 トラヴァーサブル・ワームホールのトラックは、シンプルなミニマル・テクノとダブステップにも通じるブロークン・ビーツが基本になっている。インダストリアルもしくはゴシックと形容したくなるアダム・X名義のトラックのダブ・ヴァージョンとも言えるもので、自身のハード・テクノを骨組みまで解体し、エフェクトと音の配置によって空間的な音響世界を構築している。
 1曲目の"Tachyon"のヘヴィなベースラインのブロークン・ビーツからラストの"Space Time Symmetries"のコズミックで美しいフィナーレまで、緊張感のある世界が広がっている。すべてのトラックには「宇宙」に関連したタイトルが付けられているが、コズミック・コンセプトの下にアダム・Xのダークなサウンドが投影されると、地響きのような低音とともにインナー・スペースを突き進んでいく。ちなみにトラヴァーサブル・ワームホールのコズミック・コンセプトは『スタートレック』に由来している(アダム・Xという名義に関しては、アメリカの人気コミック『X-MEN』に出てくるヒーロー「ADAM-X」からの借用である)

 90年代には「激しければ激しいほどよい」とされたハード・テクノは、ゼロ年代に入るとマスタリングの音質の向上と〈マイナス〉以降のミニマリズムに濾過され、柔軟な音楽へと変化を遂げた。従来の力強いハード・テクノは消え失せ、モダンなミニマルがリリースされ続けた。しかし、従来の力強いテクノを求める動きが高まっていったのも事実だ。レディオ・スレイヴやレン・ファキはこの流れに応えるようにヒットを飛ばし、ルーク・スレター、サージョンも興味深いリリースを続けた。が、ハード・テクノの多くは回顧主義的で面白みに欠けるものばかりだった。
 トラヴァーサル・ワームホールは、このアルバムによって新時代のハード・テクノを創出したと言えるだろう。ダークで攻撃的な音響と柔軟なグルーヴを結びつけ、ダブステップをも取り込み、ポスト・ハードコアからポスト・ダブステップへの可能性まで追求している。アダム・Xはいまでもテクノを先に進める数少ないアーティストのひとりであり、『Vol 1-5』はハード・テクノの最先端を走っている。

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