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R.E.M.

R.E.M.

Collapse Into Now

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木津 毅   Apr 13,2011 UP

 このあいだ『ピッチフォーク』で生中継のストリーミングがされた、LCDサウンドシステムのラスト・ライヴを観て僕は案の定ボロボロとパソコンの前で泣いていたのだけれど、それは実に見事な幕引きであった。ジェームズ・マーフィは自分のやってきたことにけじめをつけるものとしてそのライヴを「葬式」だと表現していたが、キャリアを網羅する3時間40分で彼は音楽仲間を総動員して自分たちが投げかけてきた音と言葉をすべて出し切るかのようだった。「最後の一曲だよ」と言って"ニューヨーク、アイ・ラヴ・ユー・バット・ユア・ブリンギング・ミー・ダウン"が演奏されると、ジェームズは自分が信じてきたものへの失意と迷いを歌い、そして、「もしそうなら、この歌があるよ」という言葉でそのバンドを終わらせたのだった。それを僕たちに伝えることこそが、自分の役目だったと言わんばかりだった。

 LCDのそのライヴを観終えて、そしてこのR.E.M.の通算15作目となる新作『コラプス・イントゥ・ナウ』を聴いて、R.E.M.は自分たちのバンドの終わらせ方は見えているのだろうか......と僕はふと思った。もちろん、長きに渡ってアメリカのロック・バンドのひとつの指標であり続けた彼らに終わってほしい、ということでは断じてない。80年代から90年代頭にかけてのもっとも勢いがあったときの彼らをリアルタイムで知らない僕ですら、後追いで聴いていくうちにアメリカの数多くのバンドのなかに彼らの影響があることを感じ取ることができたぐらいだから、その功績は計り知れないものがある。リベラルな立場でつねにその時代に起こっていることを見据えながら、しかしそのことを詩的な言葉とパンクが根幹にあるしなやかなサウンドで表現してきたアメリカの知性がR.E.M.である。しかも、それが退屈な誠実さにはならない独特のシニカルさやニヒルさを彼らは備えていたし、かと言ってときには"エヴリバディ・ハーツ"のような言ってしまえば大衆的なアンセムを歌うことからも逃げなかった。それは海を越えてレディオヘッドのようなバンドにも引き継がれたし、アメリカではザ・ナショナルのようなバンドにいまもきちんと息づいている。
 ただ、その責任感の強さからなのか、ここ10年ほどR.E.M.は自分たちの役割を負いすぎるようなところがあったようにも思う。2000年代は彼らにとってブッシュ政権下のアメリカのなかで、しかしそのことに強い違和感を覚えるアメリカ人として、どのような表現が可能かということに挑んでいた時期だった。だから〈VOTE FOR CHANGE〉ではその先頭に立ったし、それでも2004 年ブッシュが再選されるとニューヨークで「これは世界の終わりだけど、僕はだいじょうぶ」と歌い、リスナーを奮い立たせた。だが2005年の『アラウンド・ザ・サン』は如実にその落胆が反映された重々しいアルバムであったし、その反動となった2008年の『アクセラレイト』は怒りとシニカルさに覆われたパンク・アルバムとなった......それらは、かつての彼の作品群にあったような軽やかさを見つけにくいものであった。長いキャリアのなかで背負ってきたものを、彼らはいつしか下ろすことができなくなっていたのかもしれない。

 『コラプス・イントゥ・ナウ』は政権交代後のはじめてのアルバムで、その分風通しの良さを感じるアルバムである。"ディスカヴァラー"は視界が開けていくような鮮やかなオープニングだし、"オール・ザ・ベスト"や"マイン・スメル・ライク・ハニー"のようなロックンロール・チューンはいまもスマートな体型とファッション・センスを保ったマイケル・スタイプのカッコ良さをはっきりと示している。"ウーバーリン"は名曲"ルージング・マイ・レリジョン"を思い起こさせ、ピーチズとのデュエットもキマってるし、パティ・スミスやエディ・ヴェダーのような盟友の参加もファンなら納得だろう。
 だが、これもまたR.E.M.が自分たちがずっと求められてきたことに対して、きっちりと応えたアルバムであるように聞こえる。とてもバランスの取れた内容の充実作だが、かえって彼らがいまいる場所が見えにくい。自分たちで、世間がイメージするR.E.M.像に忠実に寄り添っているような感じなのである。責任を果たすこととそこから離れることで揺れている......15作目にして、「過渡期の」と形容したくなるアルバムである。

 これまでのキャリアでR.E.M.はその役割を十分果たしてきたが、しかし不思議なことにバンドは完結することなく、いまも自分たちのあり方を模索しながら存続する道を選び続けている。このアルバムに伴うツアーをやらないという選択も、ルーティンのような活動からはいったん距離を置きたいということなのかもしれない。だからこそ音源ではもっと冒険しても良かったと僕は思いもするが、そんな風にして地道に前進し続ける姿もこのバンドらしい。
 だからここからも、R.E.M.の大成はまだ感じ取れないし、その終わり方も見えてこない。ジェームズ・マーフィのような誠実さとも、また違うものを目指しているのだろう。かつて「世界でもっとも重要なロック・バンド」と呼ばれていた彼らは、もうさすがにその場所からは降りてしまったが、まだ自分たちがやるべきことを探し続けている。それはいまもR.E.M.が、オルタナティヴであることの理想を捨てていないということである。

木津 毅