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Botany

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橋元優歩   Sep 02,2011 UP

 この鐘の音は、いや、鐘かどうかはわからない、ベルか鈴か金属片か、風鈴のような陶器かガラスか、ともかくチリンチリンと冒頭から存在感を放つサンプリング音は、東洋のものにちがいないと思っていたら、やはりそのようだ。あるインタヴューを読んでいたら、このボタニーことスペンサー・ステファンソンは東洋のサイケデリック・ミュージック、とりわけ60年代のものを好んでサンプルするという。彼自身はテキサスのアーティストで、日本盤も出ているエクスペリメンタル・サイケ・ロッキン、スリープ・ホエールのドラマーでもある。スリープ・ホエールでは印象的でダイナミックなドラミングを聴かせるが、ひとりでの活動も長いようで、他にアバカスという名義もある。本作は現ボタニーとしては初のEPとなる。来春にはフルレングスもリリースされるようだ。
 ボタニーでもドラムは叩くというが、彼がもっとも心血を注ぐのはサンプリングだ。それは音を聴くかぎりでも感じとることができる。レコ屋に通い、音をさがし、インスピレーションを得る。その一連が、彼の音楽制作における根幹をなすのだ、と、筆者が読んだインタヴューはざっとそんなふうに要約できるものだった。いまならチルウェイヴに繰り入れられるドリーミーでビューティフルなエレクトロニック・ミュージック。融和的なムードを持ったサイケデリアは、彼もまたアニマル・コレクティヴが準備した2000年代インディの種を宿していることをじゅうぶんに物語っている。サンプリングへのこだわりは、たとえば冒頭の"フィーリング・トゥデイ"に多用される鈴のような音などに現れ、感心させる。それは「音楽」の断片ではなく、ただの「音」なのだが、物語性をふくんでいて、情趣をかきたてる。そのような、ある密度を持った音だ。プレイ・ボタンを押して3秒でおや? と思ったのだ。これは何の音なのだろう? 鈴に似たそれはノスタルジックであり、幻想的でもあり、しかしいま曲自体が生み出そうとしている世界とは別の原理を持っているかのようでもある。それはどこか別の時代、別の国、別の世界で鳴っていたものだということを感じさせる。サンプリングされたものならもちろんそうだろう。しかし、サンプリング・ミュージックにおいては編集が肝なのだと、そうした音楽というのは引用の仕方に命が宿る、きわめて批評的なものなのだと、筆者のような門外漢は思っていたわけだが、特別な音をいち音だけ見つけてくるというアプローチもあるということを窺い知った。ステファンソンの場合、「使えるネタ」を探す耳ではなく、「自分の心に残る音」を探す耳を持っているのだろう。組み合わせやエディット能力が高いというよりは、砂浜から貝殻を拾い集めるといった具合で、きれいな音の断片をみつけては懐にしまいこむ、とてもパーソナルな音への姿勢、感性がみてとれる。それは昨今のドリーム・ポップが持つ傾向のひとつかもしれない。
 よって個人的にはヴォーカル・パートがやや凡庸にきこえてしまう。ゲスト・ヴォーカルを迎えているが、はっきり言ってしまえば歌メロがはじまる前までのほうが魅力的だ。"アガーヴィ"などヴォーカルのないものに、彼の才能はすっきりとおさまっている。このトラックもまたさまざまな音が澱か靄のように暖色に重なりあっているが、奥のほうでベルとも鈴ともつかない音がチリンチリンと異世界への扉を暗示する。個人的にもっとも好きなのはこの"アガーヴィ"か涼やかなアコースティック・トラック"べ・ネ・ファクトレス"だ。どちらにも繊細に彼の好む「音」たちが配されている。"ウオーター・パーカー"はシングルが切れそうな曲だ。総合的にみればこれが本EPのハイライトとなるだろうか。アニマル・コレクティヴとパッション・ピットとジャンク・カルチャーが入れ替わり立ち替わり編んでいくような華やかさがある。準備されているフル・アルバムにはフリート・フォクシーズのJ.ティルマンもヴォーカルで参加するというが、ぜひ良きコラボレーションとなってほしいと思う。ステファンソンはまだ彼の音に対するほどには声に向かい合っていないように思われるから。

橋元優歩