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北中正和   Oct 04,2012 UP

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 ぼくはふだんはワールド・ミュージックやその周辺の音楽を紹介する仕事が多いので、コンピュータやエレクトロニックな音を中心に構成された音楽については、ジャンル名も細分化されたスタイル名もよくわからない。月に1回新聞の仕事で会う三田格さんから教えていただいた音楽を気が向けば聴いている程度だ。

 しかしワールド・ミュージックとて生楽器ばかりで弾かれているわけでなく、プログラミングされているものや著名DJによるリミックスもさしてめずらしいことではない。クラブに足を踏み入れたときに、音楽というよりリズムを中心とした音に体を包まれる感覚も、かつてはそれなりに体験したことがあり、家でぼんやりCDを聴く体験とは異なることもいちおう承知している。

 先日サカキ・マンゴー・リンバ・トレインのライヴでDJをやった。そのときはアフリカやアフリカに関連するその他の地域の音楽を中心に、いくつか欧米の曲もかけた。そのうちのひとつがクラークの"ヘンダーソン・スウーピング"(『ファンタズム・プレインズ』収録)だったが、終わったあと、会場にいたKPMの広瀬さんから、「あのタブラの入ってる曲がカッコよかったけど、何ですか」とたずねられた。また、サカキ・マンゴーの追っかけという70代とおぼしき女性の方がDJブースの前にいたのだが、この曲をかけているときに彼女から、会場のライティングと音がいっしょになってまるで海中で鮫と遊んでいるようだと書いたメモを手わたされたことも忘れられない。

 この曲は『イラデルフィック』の収録曲"ヘンダーソン・レンチ"をリミックスしたもの、あるいは別ヴァージョンだ。ギター(サンプリング?)の音が前に出ているせいもあって、この曲は「生楽器含有率」が高いアルバムのなかでもひときわ「生楽器度数」が高く感じられる。"ヘンダーソン・スウーピング"では冒頭に、タブラなのかほかの打楽器なのか(サンプリングかどうかも)判別できないが、打楽器のリズムが加わり、マルティナ・トップレイ・バードの歌声も加わり、より「伝統的」なポップ・ミュージックに近く感じられる。

 "ヘンダーソン・レンチ"では最後に登場したドラムがさらに強い音ではやばやと登場し、シンセの音も嵐のように挿入されるのだが、この曲ならアフリカの打楽器中心の音楽と並べてかけても、そんなに違和感がないだろうと思ってかけたのだ。

 大風呂敷を広げさせていただくと、20世紀の70年代ごろまではジャズからR&Bにいたるアメリカ合衆国のブラック・ミュージックのリズムがロックやポップスも含めて世界のポピュラー音楽のかなりの部分を支配していた。大雑把にいえば、それは工場の音のこだまであり、そこにあるシンコペイションによるグルーヴは工場のリズムからの跳躍である。いずれにせよ、それらは演奏者や歌手の肉体というか身体性に支えられていた。

 しかし80年代から一般化してきたコンピュータやシンセサイザーをプログラムする音楽の作り方は、身体性をひとまずわきに置いて、音の構成やグルーヴの可能性を追求することを可能にした。逆にいえば、演奏者の手ぐせでも成立できたグルーヴと異なり、それだけ想像力が要求されるようになったということである。一方、世界各地のポピュラー音楽がワールド・ミュージックという名前で欧米日のマーケットにも登場したことも、アメリカ合衆国のR&B的なグルーヴではないリズムの可能性を多くの人に気づかせた。ハウスやデトロイト・テクノの黎明・定着期にあたる1987年が音楽業界におけるワールド・ミュージック元年だったことは偶然の一致ではない。こうした動きを受けて欧米の音楽が変わりはじめたことも音楽の歴史が証明しているとおりだ。

 クラークに話を戻すと、『イラデルフィック』と『ファンタズム・プレインズ』は、ぼくのような年寄りでも家でCDをかけてポップに気持ちよく聴けるアルバムだ(後者はミニ・アルバム)。短く聴ける後者のほうが年寄りのぼくには気軽に楽しめるし、クラシック・ピアノの練習曲のようなフレーズではじまる『ファンタズム・プレインズ』のリズムの工夫にも感心させられた。

北中正和