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Tim Hecker & Daniel Lopatin

Tim Hecker & Daniel Lopatin

Instrumental Tourist

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野田 努   Dec 17,2012 UP

 先日、ダニエル・ロパーティンのシンセ・ポップ・ユニット、フォード&ロパーティンの『チャンネル・プレッシャー』を聴き直したところ、この音楽の、シンセ・ポップを装ったある種の「アンビエント/プロセス・ミュージック」めいた作りに気づかされた。歌と伴奏が分離しているようでしていない。それぞれのパートが万華鏡のようにゆっくりと変化する。近視眼的に聴けば、ところどこの音響的な変化や仕掛けがわかる。彼のワンオートリック・ポイント・ネヴァー(OPN)名義のノイズ/ドローンのカタルシスにも、彼のクリアなデジタル音響による空間的なモーフィング(変化)がある。
 いっぽうのティム・ヘッカーは、『レイヴデス,1972』がそうだったように、なかば宗教的とも言える崇高さを音響のなかに求めている、と僕には思える。過去にも、美の求道者さながら洞窟や教会における音響/残響をなかばスピリチュアルなアンビエントとして蒸留している。タイプの異なる、そして熱心なファンを持っているふたりの共作『インストゥルメンタル・ツーリスト』がリリース前から注目を集めるのは当然である。

 『インストゥルメンタル・ツーリスト』には、トーマス・マンに捧げられ曲があり、"人種差別的ドローン"や"消費のための儀式"なる曲名、また、「観光客」「パリ」「芸者」「Tascam」といった言葉からもアルバムが聴覚的な面白さのみに限定したものではないことが察せられる。ロパーティンの音楽は、デジタルを使いながらデジタルの牢獄から精神を解放するかのような柔軟性と自由度がある。ときにそれは、ポスト・モダン的な相対的なものとして表出する。ゆえに彼は安っぽいシンセ・ポップも実験的なノイズ/ドローンも並列してなんでもできる。
 かたやティム・ヘッカー、彼が求める崇高さは、トーマス・マンを持ち出すほどだから、「芸術」と呼ばれるものの意味を再考するものなのだろう。アルバムは全体的に言えば、ロパーティンの奔放さ(ノイズ)はほどよく抑制され、ヘッカー色が強く出ているように感じられる。ヨーロッパの重みを思わせる、異様なほどの陰り、悲嘆とメランコリーが聴き取れる(とくに"人種差別的ドローン"はすごい迫力)。そして、それら陰影の隙間からは美がこぼれる。もう少し両者の(異なる価値観の)せめぎ合いを見たかった感はぬぐえないが、聴き応えはたっぷりある。

 考えてみれば、チルウェイヴという良くも悪くもB級趣味の流行のなかで生まれたのがロパーティンの〈ソフトウェア〉というレーベルなので、『インストゥルメンタル・ツーリスト』は世俗における耽美派といった趣とも言える。2012年は、ある種の隠遁的態度を表明するかのように、グルーパーのライヴが養源寺でおこなわれ、ブライアン・イーノが21世紀に入って初のアンビエント作品を発表した年である。シンリ・シュープリームが10年ぶりに新曲を出してもいる。デムダイク・ステア、アンディ・ストット、レイム......陰鬱さのなかに夢を見ようとするゴス/インダストリアル・リヴァイヴァルがいよいよ際だった年でもあった。そんな1年の締めくくりに相応しいアルバムだと言えよう。

野田 努