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Stubborn Heart

Stubborn Heart

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One Little Indian/Pヴァイン

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橋元優歩   Dec 25,2012 UP
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 明瞭にレディオヘッドからの影響があるが、たとえばトム・ヨークのようにちょっと面倒な内面性や自意識、あるいはジョニー・グリーンウッドの偏執的な音響感覚といったものはない。じつにスムーズでスマート、ダブステップを応用しながらジャジーかつソウルフルなヴォーカルを展開し、ジェイムス・ブレイク後のフィールドによい意味での大衆性を引き入れることに成功している。ジェシー・ウェアほど歌ものに割り切らないまでも、サブトラクトやジ・XX、ジ・インヴィジブルにはよく似た傾向を見ることができるだろう。マウント・キンビーと比較するものもいる。いずれにせよ非常にUKらしい音であり、BBCやガーディアン、NMEなどUKのマスなメディアを中心に評価される理由がよくわかる。これはあくまで大衆的なフィールドを舞台とする音である。ベッドルームや小さな小屋でかかるというよりも、テレビや街頭で聴かれるに耐える大柄なボディを持った音だ。そこを踏み間違えるとあまりピンとこないひともいるかもしれない。また、鬱々とするようでいて、パラノイアックな感性やディストピックな世界観、ブルーなヴァイブといった複雑性もない。そうしたものを風味程度にとどめるところにむしろ彼らの強さがある。「それでもおk?」という日本発の優れたリスナーズ・マナーを踏まえて臨むならば、本作は必ずや約40分間の「いいムード」を演出してくれるだろう。

 スタボーン・ハートはロンドンの2人組で、本作がデビュー・アルバムとなる。昨年に本作のハイライトでもある"ニード・サムワン"の限定シングルを出しているほかに、今年リリースのシングルがもう1枚存在している。彼らは自身の音楽を「エレクトロニック・ソウル」と呼ぶそうだが、ジャイルズ・ピーターソンに気に入られたことが本作リリースへと結びついたようだ。片割れであるルーカ・サントゥッチは90年代の初めから活動しており、コラボレーターとしてハーバートやプレイグループ、エドウィン・コリンズとの仕事も経験してきたかなりのベテランでもある。
 そつなく音を配し、なにかひとつでもバランスを崩さない、『スタボーン・ハート』のプロダクションはそのように慎重な足し算と丁寧な引き算によって作り出されている。アーティストとしてのマインドよりも、そうした仕事としての精度や職人性をよりつよく感じるだろうか。「スタボーン」というのはその意味での頑固さを指すのかもしれない。そういえば、「スタボーン・ハーツ」と複数形にしないのはなぜだろうか。ふたりの頑固者、とすればユニット名としてすっきりするようにも思うが、「スタボーン・ハート」とあえて抽象性をもたせているのは、純粋な理念としてその語を胸に抱いていたいというような思いからか。
 "インターポール"など、抑えをきかせつつドラマチックな展開を持ったダウン・テンポが聴きどころのひとつである。チルウェイヴ以降の感性もとらえつつ、それをクリアでリッチなサウンドへと練り上げているのがよくわかる。"ブロウ"のユーフォリックなアンビエントもとてもいまらしい。"スターティング・ブロック""ペネトレート"などは逆にやや古く感じられるだろう。"ヘッド・オン"の耽美的なストリングスやタイム感、あるいは"ベター・ザン・ディス"に挿入されるややヘヴィめのノイズなどは、もっと思い切った過剰さがあってもよいのではないかと思う。このあたりは好みかもしれないが、守備型のディレクションが何かを生かすとすればこれらの曲のようなやや崩れたおもしろみを持つ部分ではないだろうか。

橋元優歩