ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Ryuichi Sakamoto | Opus -
  2. interview with Lias Saoudi(Fat White Family) ロックンロールにもはや文化的な生命力はない。中流階級のガキが繰り広げる仮装大会だ。 | リアス・サウディ(ファット・ホワイト・ファミリー)、インタヴュー
  3. Li Yilei - NONAGE / 垂髫 | リー・イーレイ
  4. Columns 4月のジャズ Jazz in April 2024
  5. tofubeats ──ハウスに振り切ったEP「NOBODY」がリリース
  6. interview with Larry Heard 社会にはつねに問題がある、だから私は音楽に美を吹き込む | ラリー・ハード、来日直前インタヴュー
  7. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  8. The Jesus And Mary Chain - Glasgow Eyes | ジーザス・アンド・メリー・チェイン
  9. Larry Heard ——シカゴ・ディープ・ハウスの伝説、ラリー・ハード13年ぶりに来日
  10. Columns ♯5:いまブルース・スプリングスティーンを聴く
  11. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回
  12. interview with Shabaka シャバカ・ハッチングス、フルートと尺八に活路を開く
  13. Free Soul ──コンピ・シリーズ30周年を記念し30種類のTシャツが発売
  14. interview with Fat White Family 彼らはインディ・ロックの救世主か?  | ファット・ホワイト・ファミリー、インタヴュー
  15. Fat White Family ——UKインディ・ロックの良き精神の継承者、ファット・ホワイト・ファミリーが新作をリリース
  16. 『成功したオタク』 -
  17. claire rousay ──近年のアンビエントにおける注目株のひとり、クレア・ラウジーの新作は〈スリル・ジョッキー〉から
  18. Columns 3月のジャズ Jazz in March 2024
  19. Beyoncé - Cowboy Carter | ビヨンセ
  20. Columns 坂本龍一追悼譜 海に立つ牙

Home >  Reviews >  Album Reviews > Stephan Mathieu and David Sylvian- Wandermude

Stephan Mathieu and David Sylvian

Stephan Mathieu and David Sylvian

Wandermude

Samadhisound / Pヴァイン

Amazon

Jimi Hendrix

Jimi Hendrix

People Hell & Angels

ソニー

Amazon iTunes

三田 格   Mar 26,2013 UP

 『ピープル、ヘル&エンジェルズ』はちょっとヘンなアルバムで、ジミ・ヘンドリクスの新作が出るわけないのに、まさにそうとしか呼べないアルバムがつくられてしまったというものになる。つまり、正式にはリリースされなかったさまざまな音源(1968-1969年の間にビリー・コックスとバディ・マイルズと共にレコーディングされたものがほとんど)から、彼が次にアルバムを出すとしたらこうだったろうという曲をそれ風に並べ、そこにきちんとした哲学があったために、出来上がったものにまったく破綻がなく、本当に新譜のようにして聴けてしまうというものだから。しかも、その印象はジミ・ヘンドリクスにしては少し軽く、あっさりとした印象を拭えないんだけれど、それは彼がファンクのリズムを大胆に取り入れていただろうという視点に基づいてつくられているため、彼の代表作と比べて明らかにリズムの面で聴きやすいことが原因なのである。それこそジミ・ヘンドリクスがスライとPファンクの隙間を埋めたかのようにさえ聴こえてしまうし、それってポピュラー・ミュージックの歴史まで変えてしまう視点ともいえるし......(そもそもファンクの流れではなく、ロックがどうなっていただろうというようなことさえ考えてしまうというか)。

 音源は実際に本人が残したものなので、マスクド・マラウダーズのような捏造ではない。しかし、あくまでもコンセプトは仮定でしかないから、本人の作品とはやはり言い切れない。要するに、ある種のエディットである。たいていはある曲がこのような構成であったらいいなーというようなことで再構成されるものがエディットだったりするところを、もっと広い視野に置き換えてみたわけで、最近の映画産業で言えば『バットマン』や『シャーロック・ホームズ』など、オリジナルのストーリーに含まれていた小さな断片を大きく膨らませ、新たな物語として仕上げた「リビルド」と同じかそれに近い。ここへきてジミ・ヘンドリクスのリビルド盤がつくられたのである(PIL『メタル・ボックス』を使いまわしたジャー・ウォッブル『ビトレイアル』などもいまから考えればリビルド盤だった)。

 リビルドを、よく知られた話からもうひとつのストーリーを描き出すこと=2次創作だとヤオイ風に言い換えるならば(ということはハリウッドも最近はヤオイに走っているということか?)、シュテファン・マシューがデヴィッド・シルヴィアンによるトゲトゲしいアブストラクト・アルバム『ブレミッシュ』(03)からヴォーカルを取り去り、起伏の少ないアンビエント・ドローンに変換したものも、リミックス盤というよりはリビルド盤と言った方がいいのかもしれない(10年以上前にリリースされたマシューの2作目『フル・スウィング・エディット』がそもそもモノレイクやヨ・ラ・テンゴらのエディットだけで構成されたアルバムだった)。森のなかに迷い込んだような方向感覚の欠如と微妙な心細さを反復し続けるアンビエント・ドローンは『ワンダーミューデ(=歩き疲れて)』と題され、『汚点』と題されていたオリジナルをより精神的な体験へと抽象化したようなところがある。手法的な意味も含めて、最初は自分で手を加えるつもりだったというシルヴィアンがマシューの手に委ねてしまったのもわかるというか(オリジナルに起用されていたフェネスはマシューのポリシーに基づいて新たにレコーディングし直したそうである)。果てしない残響音とどこまで行っても出口にはたどり着かないない感触。帰り道のわからなくなったナルニア国か、オーバールックホテルの巨大な迷宮か(映画『シャイニング』)。『ワンダーミューデ』はストレートに現在のEUを表しているのかもしれないし、どこかシルヴィアンの心底にしまわれていた不安とその解消というストーリーを『ブレミッシュ』から導き出したものかもしれない。

三田 格