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Cate Le Bon

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Cate Le Bon

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ブレイディみかこ   Dec 24,2013 UP

 「ルー・リードが死に場所として選んだところはやはり都市であったと誤解をさせて欲しかった」という三田格さんの文章を読みながら、わたしが思い出していたのはニコのことである。人間、一定の年齢になると死に方を夢想する瞬間もある。わたしにとっての理想形はニコだ。
 イビサ島で自転車でこけて死んだ。なんて、ごっつくていい。過去16年間、夏になると行っているのでイビサをチャリキで疾走する感じはよくわかる。あそこでこけて頭を打って死ぬなんて、実に清々しい。その最期だけで、ニコはわたしの永遠のヒロインである。

             ************

 ウェールズのニコ。と呼ばれるケイト・ル・ボンについては、例えば『ピッチフォーク』なんかは、両者の欠伸しながら歌っているような歌唱法の相似について、「生まれながらにして両者ともそういう歌い方をする」と書いている。それが皮肉にしろ何にしろ、ケイト・ル・ボンはニコに影響を受けている。んでそれは、全然悪いことではない。
 アデル→ダスティ・スプリングフィールド、リリー・アレン→ザ・スリッツのリリックス、というように、現代の女子アーティストは過去の女性アイコンのペルソナを借りなければアイデンティティ的に成立が難しいようなので、ニコまで出て来たというのは喜ばしい限りだ。
 が、その彼女がロスに移住したというので、整形&増乳でもしてハリウッド系に変身するのかと不安になったが、彼女が彼の地で製作したのは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドに黙って言うことを聞かせているニコ。みたいなアルバムだった。フリーキー・フォークとか、サイケ・フォークとかいうカテゴリーに納められがちな彼女の新譜は、70年代もここまで行けば神々しい。トム・ヴァーラインの息遣いも聞こえる。後半のより実験的な曲群を聴いていると、ヴェルヴェッツのジョン・ケイルも思い出すのだが、そういえば彼もウェールズ出身のロス在住者だ。ひょっとすると、彼らはロスで会ったりしたのかしら。というようなことも夢想させるアルバムだ。
 上記のキー・ワード(アデルとリリーは除く)で引っかかるものがある人は聴いてみて損はない。冬の暗い午後には(UKはもう4時には暗闇だ)じわじわ来るアルバムである。

             *********

 すっかり芸能界の重鎮&ご意見番になっているという点では、UKの和田アキコになった感のあるノエル・ギャラガーがこんなことを言っていた。
 「レディー・ガガとかマイリー・サイラスとか、音楽以外のパフォーマンスで物議を醸すことがフェミニズムだと思っている女たちは、実は音楽界での女性アーティストの発展を5年ぐらい後退させている。本当に良い曲さえ作っていれば、そんな小細工は不要だろう。Sisters are not doing it for themselves.」

 リリー・アレンは、ビッチという言葉について「他人の反応など気にせず、言いたいことを言う女」と定義している。が、アタシはこんなことまで言えるのよ。平気で炎上だってさせちゃうの。みたいな過激ちゃんたちは、実は他人の目が気になって仕方ないからこそ「もっと私を見て」コンペに参入するのである。
 なんというか、ビッチ。はもういい。
 過激ちゃんや奇抜ちゃんたちの妙な切羽詰り感というか、不安定なきーきー声は聴きたくない。メンヘル上のプロブレムとフェミニズムというのはまた別の問題である。
 女であるということは、そんなに七転八倒するような大変なことではない。
 女であるということに自分の存在価値や存在意義を見出そうとさえしなければ。

 保育園の教室でわざと本棚の角に頭ぶつけて劇的に号泣する子や、ワンピースの裾をまくって裸体を晒しながらじっとり保育士を見ている子のような「私を叱って。そして抱いて」オーラを全開にしている女児が「ビッチ」タイプだとすれば、ケイト・ル・ボンは、いつも教室の片隅で黙々とお絵かきしているタイプだ。普段は何処にいるかわからないが、「え、これ、あなたが描いたの?」と思わず声をあげたくなるような絵を描いている女児である。こういう子が毎年クラスにひとりかふたりはいる。
 彼女なんかはマグカップまで焼いているそうで、焼いているうちにいつの間にかアルバム・タイトルの『マグ・ミュージアム』と呼べるほどの数になったというから、本当に物を拵えるのが好きなんだろう。
 男も女もない純然たる創造欲を感じさせる女子の音楽が、今年はやけに聴きたくなった。彼女たちは「女である」というどうでもいいようなファクトに拘泥して病んで気張って行き詰まっておらず、何よりもまず、創造することの楽しさを感じさせてくれるからだ。
 ケイト・ル・ボンとヴァレリー・ジューンとサヴェージズがわたしの2013年トップ・アルバム10に入っているのはそのせいだ。彼女らには自転車でこけて死にそうな気配がある。

ブレイディみかこ