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ラフムス。羅府夢衆。嗚呼、なんて素敵な響きなのだろう。ロサンゼルスの夢追い人たちよ、僕らはみんなあなたの子どもだ。
僕がロサンザルス・フリー・ミュージック・ソサエティー(LAFMS)をディグるきっかけとなったのは1971年創業の老舗中の老舗ともいえるLAのレコ屋、プーバー(Poo-Bah)だ。永久に売れることのないセールワゴンに積もる魔法の埃には、この店に踏み入る者に幸運をもたらす不思議な力が宿っているのだ。思い返せば僕も、まだ出会ってまもないマシューデイヴィッドのアンビエント・セットと慣れないメディカル・ウィードに完全にノックアウトされ、インストア・ライヴ中に店の床で爆睡してしまったのもココであるし(起きたらレコ屋ってすげーびっくりするよ)、後に同じ屋根の下で暮らすことになるショーン・マッカンやマシュー・サリヴァン、アレックス・グレイらと親交を深めたのもココであるし、先日も金欠を理由にはるか昔に頼まれた仕事をいまさら仕上げて持っていっても笑顔でメシと給与を施してくれたのもココである。プーバーの懐は果てしなく深く、広く、そしてゆるい。
だから、入手困難であったLAFMSの音源の販売や再発など、彼らの徹底したDIY主義に共鳴し、プーバーが長年サポートしてきたことは必然に思えるのだ。
LAFMSコレクティヴの中核を成すスメグマ(Smegma)のジュ・サック・リート・ミートとジャッキー・スチュワートによるベテラン奇才デュオ、テンシズ(Tences)のサウンドはスメグマのそれよりミニマルなセットアップのコンパクトなプロジェクトだ。ターンテーブル、テープ・マニュピュレーション、歪みまくるサーフ・ギターとコルネット等で丹念に築き上げられたこのレコード。映画や短波レディオ・ドラマからのサンプリングとループやサイレン等のノン・インストゥルメントのコラージュの上を縦横無尽に駆け巡るリンク・レイ的なギター・リフ、聴者がエコーマシンに乗ってカリフォルニアの空へどこまでも飛ばされてゆくサウンドはひたすらに享楽的だ。エクスペリメンタル=難解というイメージを抱くリスナーにこそこのレコードでトリップしていただきたい。誰かの敷いたレールの上でなく、誰かの模倣でもなく、自分たちのやり方で、独自の作品を創造するLAFMSのヴィジョンをあなたも夢見ることができるかもしれない。
僕にとってのLAは羅府夢衆そのものとも言える。ローカル・アーティスト、インディペンデント・ギャラリー、レコ屋、DIYスタジオetc、町中の至るところにその夢は生きている。ジュ・サック・リート・ミートに週2、3で近所のカフェで遭遇したりもする。
プーバーももちろん然り。LAFMSコレクティヴやレコード・コレクター、自宅のゴミ・レコードを店先に放置する地元のオッサンやオバハン、ルンペンにネコ、シャモジ等々……ありとあらゆる人種が交錯するこのレコ屋は、先日のジャパン・ツアーでも最高のアクトを披露してくれたラスGがバイヤーを務めるということもあり、〈ローエンド〉や〈ストーンズ・スロー〉周辺のLAビート・キッズも多く集う。野田編集長がよく呟く、LAのヒップホップは何故ビートが溶けるほどにサイケデリックなのか? という問いかけの答えのヒントはここにもあるかもしれない。
倉本諒