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泊

Pop

霽月小曲集

ぐらもくらぶ

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矢野利裕   Oct 24,2014 UP
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 ここ数年、戦前歌謡曲の熱が高まっている(と思う)。とくに、戦前のレア音源を積極的に発掘・紹介する〈ぐらもくらぶ〉というレーベルが、一部で好評を得ている。貴重な復刻作業を続けてきたその〈ぐらもくらぶ〉が満を持してリリースしたのが、泊の『霽月小曲集』だ。

 僕が泊の演奏を初めて聴いたのは、今年のゴールデン・ウィーク、江戸東京博物館でのことである。そのときはたしか、昭和初期のエロ歌謡や二村定一の曲などを歌っていた。このレパートリーからもわかるように、泊というバンドは、〈ぐらもくらぶ〉というレーベルにふさわしく、戦前から戦後すぐあたりの歌謡曲を基調にしている。笹山鳩(漫画家の山田参助である)の歌唱は、丸山明宏とあがた森魚を足したようだ。戦前の歌謡曲と言うと、いかにも古臭い民謡や、あるいは物騒な軍歌などをイメージするかもしれないが、必ずしもそうとは言えない。大衆モダン文化が華やいだ昭和初期の音楽は、ジャズを巧みに取り入れたハイブリッドなポップスとして展開されていたのである。「架空流行歌ユニット」を標榜する泊は、そのような時代の音楽の形態模写をしていると、ひとまずは言える。三拍子で小気味よくスウィングするアコーディオンとギター/マンドリンと、そのうえでのびやかに歌われる曲たちは、昭和初期におけるジャズソングの記憶を喚起する。とくに“マルゲリータ・ハポネサ”のスウィング感などは、現在の音楽ではなかなか聴くことのできないものである。

しかし、本作が一部の戦前歌謡曲ファンのものにとどまってしまうことがあるとすれば、それはあまりにも惜しい。戦前歌謡曲のスタイルとは言え、泊はもちろん現在のバンドとして活動しているし、聴き手もまた現在を生きている。泊自身、とくに本作では、当時の音楽をいかに現代的に響かせるか、ということを意識している感じがする。だから本作は、ele-king読者諸兄のなかにもいるだろう、オルタナ・ファンのような人にこそ届いてほしい。そう、『霽月小曲集』は、オルタナティヴ・戦前歌謡なのだ。
 いや、これはあながち冗談でもない。本人たちが意識しているかどうかは別として、本作を聴いていると、ときどき本当にオルタナ的な響きを感じ取ることがある。本作のライナーを書いている音楽評論家・小川真一は、武村篤彦の「相の手のような、呟きのような」ギターに、マーク・リボーとビル・フリゼールを思い出していたが、なるほど共感する部分はある。僕は、基本的に歌謡曲ファンとして泊を聴いていたが、本作については、ニック・ドレイク~デヴェンドラ・バンハートといったアシッド・フォーク/フリー・フォークの延長で聴いている感覚も間違いなくある。とくに“げんごろう小唄”は、和製アシッド・フォークの大傑作である。とても感動した。この格別に美しい曲は、途中、香取光一郎のフルートが挿入されるのだが、これが往年の木田高介(休みの国、ザ・ジャックス他)を彷彿とさせる。木田高介好きとしては、とくに感銘を受けざるをえない。
 本作は、戦前歌謡曲でありながら、かつオルタナである。それは単なる勘違いだろうか? もしかしたら、そうかもしれない。でも、そういう勘違いはたぶん大事だ。僕は、デヴェンドラ・バンハートやアニマル・コレクティヴが好きなようなリスナーに、本作をおすすめしてみたい。

矢野利裕