MOST READ

  1. Kid Cudi - Passion, Pain & Demon Slayin' (review)
  2. Clap! Clap! - A Thousant Skies (review)
  3. Eccy――エクシー、7年ぶりのフルアルバムが〈KiliKiliVilla〉からリリース! (news)
  4. yahyel - ──この一風変わった名前のバンドをきみはもう知っているか? ヤイエルが500枚限定の初CD作品をリリース (news)
  5. Tinariwen - Elwan (review)
  6. Visible Cloaks - Reassemblage (review)
  7. interview with IO - KoolBoyの美学 (interviews)
  8. Shobaleader One──スクエアプッシャー率いる覆面バンドがアルバムをリリース、来日公演も決定 (news)
  9. KANDYTOWN - ──キャンディタウンがついにメジャー・デビュー (news)
  10. interview with SHOBALERDER ONE音楽を破壊すべし (interviews)
  11. ROCKASEN──これストリートの夢心地かな、ロッカセンの素晴らしい新作が無料配信です (news)
  12. yahyel(ヤイエル)を聴いたか? - ──マット・コルトンがマスタリングを手掛ける“Once”MVが公開 (news)
  13. Clark──破壊を超えた先の絶景……クラークがニュー・アルバムをリリース (news)
  14. リヴァイヴァルじゃないのだ。 - ──行かないと何かを逃すかもしれない、DYGL(デイグロー)・ジャパン・ツアーは明日から! (news)
  15. Clap! Clap! - Tayi Bebba (review)
  16. Shackleton & Vengeance Tenfold - Sferic Ghost Transmits (review)
  17. interview with Sampha心を焦がす新世代ソウル (interviews)
  18. Dancehall - Raime - Reel Torque: Volume 13, Our Versions Of Their Versions (review)
  19. Random Access N.Y. vol. 90:南アフリカ、gqom(ゴム)ミュージック探訪 (columns)
  20. special talk : Arto Lindsay × Caetano Veloso続・特別対談:アート・リンゼイ×カエターノ・ヴェローゾ──音楽とことば (interviews)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Danny Brown- Atrocity Exhibition

Album Reviews

Danny Brown

Danny Brown

Atrocity Exhibition

Warp/Fool's Gold/ビート

Tower Amazon

GangstaHip Hop

Olive Oil

Olive Oil

HARD BODY

OILWORKS Rec.

Amazon

SoundtrackHip Hop

小林拓音   Dec 28,2016 UP

このエントリーをはてなブックマークに追加

 ナイン・インチ・ネイルズのことかしらと思って蓋を開けてみると、実際にサンプリングされていたのはグル・グルだった。1曲目の“Downward Spiral”からそういう調子なのである。デトロイト出身でありながらグライムやトーキング・ヘッズへの愛を語るこの風変わりなMCは、一体何を考えているのだろう。シングルとして先行リリースされた“When It Rain”には荒んだデトロイトの情景が描かれているし、DJアサルトの名前も登場する。かつてはJ・ディラの未発表音源に様々なアーティストが手を加えた『Rebirth Of Detroit』(2012年)や、エミネムのレーベルのコンピレイション『Shady XV』(2014年)にも参加していたし、デトロイトの生まれであるというアイデンティティ自体は保守し続けているのだろう。しかしやはりこれまでダニー・ブラウンが世に放ってきた音楽は、通常「デトロイト」という単語から連想されるサウンドとはだいぶ異なっている。



 『Hot Soup』(2008年)に具わっていた「古き良き」ブラックネスは、『XXX』(2011年)以降どんどん削ぎ落とされていく。そのプロセスの終着点のひとつが2013年の前作『Old』だったのだとすれば(ラスティの起用は大正解だった)、本作は「その後」を模索するダニー・ブラウンの「エキシビション」だと言えるだろう。このアルバムでは前作と異なりサンプリングが多用されているが、それも彼の音楽的趣味の異質さを「展示」するためだと思われるし、かつてタッグを組んだブラック・ミルクの手がける“Really Doe”やエヴィアン・クライストの手がける“Pneumonia”といったダークなトラックからは、現在の彼の苦闘や葛藤を聴き取ることができる。



 他方で“Ain't It Funny”や“Golddust”、“Dance In The Water”なんかはもはやロックと言い切ってしまった方がいいような吹っ切れたトラックで、ほとんどやけくそのように聴こえる。これらのトラックを「ハイ」だと捉えるならば、先述のダークなトラックたち、あるいは“Lost”や“White Lines”といった不気味な夢を紡ぐトラック群は「ロウ」だと考えることができよう。そのふたつの極の同居こそがこのアルバムの肝なのだと思う。それらは、まさにドラッグによって引き起こされるふたつの結果だ。実際、リリックの内容は前作に引き続きドラッグに関するものばかり。ダニー・ブラウンは若い頃ディーラー業を営んでいたそうだが、では彼はこのアルバムで自身のサグさを自慢したいのだろうか?
 たしかに、本作で展開されるロック~ポストパンク風のトラックや、ドラッグ体験をひけらかすかのようなリリックについて、「白人に媚を売っている」という判断をくだすことも可能だろう。でも、本当にそうなのだろうか? むしろ本作は、「みんなドラッグについてラップしてる俺が好きなんだろ? だからその通りにやってやったよ」というメタ的な態度の表明なのではないか。アルバムのタイトルはJ・G・バラードを借用したジョイ・ディヴィジョンの同名曲から採られているが、そういう自己の見せ方まで含めて丸ごと「残虐行為展覧会」ということなのではないか。さらに言ってしまえば、〈Warp〉との電撃契約やリリースの前倒しまで含め、何もかもが演出なのではないか。
 なるほど、たしかにルックスにせよトラックのチョイスにせよフロウにせよ(ケンドリック・ラマーやBリアルの参加も話題になったが、しかしゲストよりもやはり本人のラップに耳がいってしまう)、ダニー・ブラウンが一風変わったMCであることは間違いない。そういう意味で彼は、近年のUSインディ・ヒップホップの隆盛の一端を担いながら、そのなかで異端であることを引き受け続けているようにも見える。しかし、練りに練られたこのアルバムからは「狂人」や「変人」といったイメージはそれほど呼び起こされない。じつはダニー・ブラウンは、喧伝されているそのペルソナとは裏腹に、ピュアで知的な音楽的チャレンジャーなのではないだろうか。

 と、ダークでドープなアルバムの後には、リラックスして聴ける1枚をご紹介。



 初めてOLIVE OILの名を意識したのはいつだったろう。たぶんB.I.G JOEの『LOST DOPE』(2006年)だったと思うが、エイフェックス・ツインやスクエアプッシャーが好きだったというOLIVE OILにはどうしても親近感のようなものを抱いてしまう。彼の最新作は、Popy Oil x Killer Bongによるコラージュ・アート・ブック『BLACK BOOK remix』の初回限定版に付属したサウンドトラックCDである。
 コラージュ作品のサウンドトラック、と聞くと現代アートのような何やらハードルの高い音響作品を思い浮かべてしまうかもしれないが、このCDに収められているのは非常に聴きやすい短めのトラックたちだ。『カウボーイビバップ』や『サムライチャンプルー』といった渡辺信一郎のアニメを観ているときの感覚に近いと言えばいいのか、実際には存在するはずのないあんな場面やこんな風景の断片が次々と頭の中を横切っていく。
 “UPDATERs”や“NOO$”などは、00年代前半のプレフューズ73あるいは往年の〈Stones Throw〉や〈Ninja Tune〉の諸作から最良の部分のみを抽出して引っ張ってきた、と言えなくもない。決して強く自己主張するわけではないがしっかりとトラックを支えるハットの横を、IDMを経由した細やかな音響と、美しいメロディの数々が通り過ぎてゆく。この心地よさは、ちょうど年末年始にぴったりだろう。ギャングスタやトラップに疲れてしまったあなたの耳に、最大限の快適さをもたらすこと請け合いである。

小林拓音