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木津 毅   Jan 13,2017 UP
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 グラミー賞の季節に「アーケイド・ファイアって誰?」「ボン・イヴェールって誰?」という検索ワードが上位に来るという話題が上がることがあるが、明らかに今年は「スターギル・シンプソンって誰?」となるだろう。アデルやビヨンセに並んで最優秀アルバムにノミネートされたシンプソンは僕はたまたまアメリカで観たが、「オルタナティヴ・」という枕を忘れそうなほど、日本人の目から見るときわめてまっとうなカントリー・シンガーだった。けれども少なからぬアメリカ人にとってはそこに「オルタナティヴ・」の部分をいかに読み取るかが重要なのだろう。伝統の上に立ちながら、それをいかに更新していくか……性懲りもなく音楽と社会を結びつけて考えるならば、理念が大いに揺らいでいるあの国にとってそれは切実な問題であり、政治的なモチーフも取り入れられたスターギル・シンプソンの「オルタナティヴ・」カントリーはそのひとつの象徴なのだろう。

 伝統から切り離されていないことと、紛れもなくいまを生きていることをポップ・ミュージックとして両立させること。2000年代中ごろのUSインディ・ロックの隆盛を思い返すとき、その問いが彼らの音楽をより複雑により多層的に、ゆえに魅力的にしていた一因であるように感じる。それは9.11からイラク戦争へと向かっていった社会の荒れ方と無関係には思えなかったし、たとえ優等生的な振る舞いだと揶揄されようとも、自分たちがいま生きる場所とは何かをあのときインディ・ロック・ミュージシャンたちは真剣に考えた。大まかに言ってその回答をアメリカの外側に求めた一派と内側に求めた一派に分けられると思うが、後者としてはウィルコやザ・ナショナル、スフィアン・スティーヴンスやフリート・フォクシーズにボン・イヴェール……らがたしかに成果を残している。ニューヨーク派のザ・ウォークメンも明らかにそちら側であり、バンドが活動休止してからもフロントマンのハミルトン・リーサウザーはその実践を続けている。
 リーサウザーとヴァンパイア・ウィークエンドを脱退したロスタム・バドマングリがタッグを組んだ『アイ・ハッド・ア・ドリーム・ザット・ユー・ワー・マイン』は、ボン・イヴェールやエンジェル・オルセンといった例外を除いてどうも勢いが落ちているように見えるインディ・ロックのなかで昨年アメリカのメディアに静かに評価された作品で、けっして新しくはないが、親たちや祖父母たちの時代のポップ音楽へのまっすぐな敬意が感じられる。カウンター・カルチャーの夢が壊れてしまったのならば60年代よりももっと遡ってしまおうとばかりに、50年代のサウンドが聞こえる。なかば呆れるほどにレナード・コーエンへの尊敬が注がれてもいる。土ぼこりや酒とタバコ、男女の悲哀と文学の匂いのするフォーク/カントリーにドゥワップ、ロックンロール。見ようによっては古めかしいダンディズムやロマンティシズムも立ちこめているが、ロスタムによるシンセ・サウンドとリーサウザーのザラついたバリトン・ヴォイスを生かしたロウなプロダクションがギリギリのところで回避する。「お前が俺のものになる夢を見た」とアルバム・タイトルの言葉を狂おしく繰り返す“ア・1000・タイムズ”、ドラムの打音が生々しい響きを持った“シック・アズ・ア・ドッグ”の頭2曲を聴くだけで、まず本作の魅力を知るにはじゅうぶんだ。薄汚れたダイナーで演奏するバンドが、しかし、その辺に転がりボロボロになって忘れられた叙情を掬いあげるような……図書館の奥で眠っている優れたアメリカ文学を見つけたときのようなバラッド集が本作だ。白眉はギターのアルペジオがざわつく“イン・ア・ブラック・アウト”。繰り返すが、もう笑ってしまうぐらいここからはレナード・コーエンが聞こえる。ますます過去に遡っていくボブ・ディランと微妙にシンクロもしている。20世紀の遺産の行方を多くの人間が危惧した2016年に、しかしこのような誠実なインディ・ロックが産み落とされていたのだ。

 アメリカの社会は混乱している。それは間違いない。が、いまこそ「オルタナティヴ・」の枕を探すインディ・ロック勢……「優等生」たちが動こうとしている。2017年には、ヴァンパイア・ウィークエンドにダーティ・プロジェクターズ、グリズリー・ベアとフリート・フォクシーズの新作が出るという。新しい才能も現れるだろう。彼らは、自分たちが誰の子孫であるかを忘れていないのだ。

木津 毅