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Wilco

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Ode To Joy

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木津 毅   Oct 23,2019 UP
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「歓喜の歌」とのタイトルとは裏腹に、ウィルコの11枚めのアルバムはズン、ズン……というドラムの重たい音から始まる。小さい音量で揺れるギター。曖昧な感触の鍵盤。控えめで物憂げななジェフ・トゥイーディの歌。「ぼくはけっして変わらない/きみはけっして変わらない」……。エレクション・イヤーに強い否定の言葉をしたためた『シュミルコ』から3年、アメリカン・オルタナティヴのヴェテランはいま、メランコリーの渦中にいる。
 僕はいま、日本ではわりと大雑把に「アメリカの良心」などと表現されがちなリベラル白人男性によるロック・アクトの動向を気にかけている。マイノリティたちの主張が注目される昨今において、否が応でもマジョリティである彼らが何を言えるのか。ヴァンパイア・ウィークエンドザ・ナショナル、そしてボン・イヴェール……彼らはとにかく真面目に、ジェンダーや人種の融和を訴えることで次の時代を照らそうとしているようだ。いっぽうで、そのさらに先輩にあたるウィルコはどうも内省を深めている。そして、わたしたちも世界も簡単に変わることはないのだと憂えている。

『オード・トゥ・ジョイ』は音響のアルバムである。たとえば“Quiet Amplifier”ではシンプルなストンプ・ビートが下方で4分を鳴らし続けるなか、鍵盤やギターのざわめきが空間全体に散りばめるように広げられる。ウィルコの得意とするポップなフォーク・ロック“Everyone Hides”や“White Wooden Cross”においても、奥のほうで細かく鳴っているギター・ノイズや鍵盤楽器が立体的なサウンド・デザインと複雑なニュアンスを与えている。このことから多くのひとが連想するのが彼らの最高傑作『ヤンキー・ホテル・フォックストロット』(02)で、同作は「カントリー」というアメリカらしさを表象する音楽にモダンな感触を与えることで時代の音になった一枚だった。そして、「アメリカ」に対する失意とか弱い嘆きを音像化したものであったと。であるとすれば、この「歓喜の歌」たちはこの時代の何を示しているのか。
 本作を象徴する楽曲は、もっともヘヴィでブルージーな“We Were Lucky”だろう。ザリザリという雑音が繰り返し挿しこまれ、ギターが歌い上げようとするやいなやそれはブツリと途切れる。「僕たちは幸運だった」──過去形である。それは僕からすれば、過去に掲げられた理想がひとつずつ潰えていくことのメタファーにも思えるし、行き詰まったわたしたちの現在における苦悩そのもののようでもある。「もう手遅れなんだ」……トゥウィーディは苦々しげに吐き出す。このアルバムの現状認識は重い。ソロ作でトゥイーディは自分がもはや若くも新しくもないことを噛みしめ、老いていく「オルタナティヴ」を見つめているようだったが、ウィルコはいま、明らかに斜陽のフィーリングを捕まえようとしている。オルタナ・カントリーの功績はもはや過去のものになろうとしているのだと。
 本作は、ウィルコはだから、自分たちがもう新しくないことを受け入れているようだ。それでも繊細な音使いでどうにか「愛はどこにでもある」と歌う(“Love Is Everywhere (Beware)”)。ネルス・クラインの雄弁なギターとグレン・コッツェのデリケートで多面的なドラム。カントリー・ポップ“Hold Me Anyway”では「きみは思うわけ? すべてがうまくいくって」と疑念を示しながら、どうにか「okay」と繰り返して曲を締めくくってみせる。思えばウィルコはずっとそうだった。何も変わらないという諦念にどっぷり身を浸しながらも、ギリギリのところで顔を上げてみせるということ。埃のかぶった古めかしい音楽に、耳を澄ませば発見できる奥ゆきや複雑さを与えてみせること。
 僕はボン・イヴェールのようなタフな理想主義に鼓舞される人間だが、ウィルコのこの憂鬱──とても誠実な憂鬱──にも耳を傾けたいと思っている。彼らにはどこか、(いつだって、)アメリカという強さが称揚される国で隅に追いやられている誰かの弱さを拾い集めるようなところがあるから。

木津 毅

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