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250(イオゴン)

ElectronicPpongjjak

250(イオゴン)

뽕 PPONG

BANA/カレンティート

Amazon

万能初歩 Oct 06,2022 UP

 映画『母なる証明 Mother』(dir. Bong Joon-ho, 2009)はトロットのリズムに合わせた「母」の踊りで首尾を飾る。報われない犠牲、解消しえない性欲、後に戻れない選択でまみれた人生からの一瞬の逸脱を集約した表現として解釈しうるだろうし、これらを併せて考えると『ポン PPONG』という題名から見出せる情緒はだいたい思い浮かべるだろう。
 「ポンチャック」は成人歌謡とも呼ばれるトロットまたはトロット・テクノの蔑称である。そして「ポン」は果実、精髄などを指す俗語、あるいは性交、麻薬の隠語として使われる。リード・シングルで発表された“이창(Rear Window)”(2018)と“뱅버스(Bang Bus)”(2021)のヴィデオが露骨に性的隠喩・描写を含んだことに対して、私が過剰な意味の探り合いを警戒すると同時に特別に問題視するわけでもない理由は、まさに「ポン」にまつわる情緒が性に帰結するからである——本作が問題なのはその文化要素の取り入れ方にある。
 ポンチャックに関してはこのくらいで省く。理由は、まず『ele-king』誌がすでにニュース記事などを通してシン・ジュンヒョン(신중현)やイ・パクサ(이박사)をはじめとする豪華なゲストセッションやポンチャックの意味について詳しく語っているからである。ただ、この場を借りて違う観点から言わせてもらうと、トロット・リヴァイヴァルはここ数年間でたしかに訪れている。それはソン・ガイン(송가인)、イム・ヨンウン(임영웅)などのスターを生み出したTV番組『ミス/ミスター・トロット』の大成功によるものだ。もっともこれは、大衆メディアの個人アルゴリズム化による世代的乖離を現す現象でもあった。つまり、10〜20代、30〜40代、50〜60代にとってのスターがそれぞれまったく違い、互いに知る由もなくなったことが明らかになったのだ。250の作業はおそらくこうした流行とはあまり関係ないと思われるうえに、トレンド・セットよりもオルタナティヴ性に意義を見出せると思う。(むしろ彼のトレンドセットに関してはNewJeansのデビューEPへ核心的に参加したことから見るべきだろう)

 もうひとつの理由は、恥ずかしくも筆者本人が、『ele-king』誌の記事で言われるその「トロットにあまり理解と関心を示さない若者層」の一人なのだ(⁈)。そんな私があえてこのレヴューを書き綴る理屈を言わせてもらうと、私は本作のことをトロット以前の、まずは電子音楽作品として認識している。『ポンを探して』というドキュメンタリー名には悪いが、私が焦点を置くのは本作を通じて「真のポンチャック」に至ったかについてなどではなく、それをどのようにしてひとつの作品として完成させたかである。(それはパンソリ-ファンク・バンド、LEENALCHI(이날치)の音楽にも同様に言える話で、彼らの音楽において古典の再現度の重要性は、それをファンク楽曲に用いる仕方の次にくるものだろう)
 生々しい波動のシンセサイザーで打ち込む単線的なメロディは安い麻薬に関するよくある描写のように、朦朧なテクスチャーでありつつも馬鹿げたくらいド直球で興奮させる。“뱅버스 (Bang Bus)”や“바라보고(Barabogo)”の速めなBPMと、“사랑이야기(Love Story)”のブルージーな伴奏を派手なレイザーでぶっ壊す様を聴いてみよう。急なタイミングで仕掛けるモジュレーションを含め、“뱅버스(Bang Bus)”のヴィデオでペク・ヒョンジン(백현진)が下着一丁で逃げ回り続ける姿や“사랑이야기(Love Story)”と“레드 글라스(Red Glass)”でイ・パクサの声をサンプリングする仕方などはかなりミーム的だ。このような場面から私は、トロットというジャンルがコンセプトとして従属される形になっていると分析する。
 それでも本作が「ポンを探す旅」というコンセプトに本気を感じさせるのは、サウンド・デザインの巧みさと多彩なジャンル・ブレンディングの試みだろう。“뱅버스 (Bang Bus)”はその名の通り近来聴けるもっとも異質なバンガーのひとつだろうし、“바라보고(Barabogo)”と“레드 글라스(Red Glass)”のハウス・ビート、“사랑합니다(I Love You)”のアンビエントと“모두 주세요(Give Me)”のフューチャー・ベースなどのような電子音楽ジャンル要素が「ポン気」なメロディと出会うさまざまな試みは、この実験をただ単発的なものではなくする。白眉は“로얄 블루 (Royal Blue)”で、単線的シンセのメロディ、過剰なヒット音、寂しげのサックスとヴォーカル・チョップなどの要素すべてがグルービーに混じり合ってキッチュなオマージュとリアルな情緒再現の間のグレーゾーンにおとしいれるのだ。
 作品の首尾を飾る、キム・スイルの歌唱を録音・編曲したイントロ“모든 것이 꿈이었네(It Was All a Dream)”と、アニメーションOPでお馴染みのオ・スンウォン(오승원)を呼んだアウトロ“휘날레(Finale)”の精度の高いオマージュは、Quentin Tarantinoのフィルモグラフィーのような、いわゆる「低俗」だと貶される文化要素を自分の世界観に取り入れて尊重を送る大衆文化史独特の行列に、本作をも同行させる。レトロ/ニュートロが氾濫する今時期の流れにおいて、巧みな成功例として挙げるには充分だろう。


万能初歩