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闘魂 2019

闘魂 2019

出演:cero、フィッシュマンズ

2019年2月19日@Zepp Tokyo

三田 格野田 努   Feb 22,2019 UP
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E王

野田努

 最後の“Weather Report”がまた素晴らしかった。ceroとフィッシュマンズの共通点のひとつは、まあ、そう、あくまでもそのひとつは、リズムの魅力ということなんだろうけれど、「闘魂 2019」という夢の一夜から2日経った現在、ぼくのなかではceroが最後に演奏した“Poly Life Multi Soul”とフィッシュマンズがceroを交えてた最後に演奏した“Weather Report”がミックスされている。ライヴが終わって家に帰ってからこの2曲を聴いてしまったので、ライヴの残響はぼくのなかで都合よくアレンジされ、ミックスされているというわけだ。
 歳を取ると涙もろくなる。数年前に同じくZepp Tokyoで見たフィッシュマンズには泣けてくるばかりだった。が、そのときよりも、ceroが出演した「闘魂 2019」はなごんで見れたような気がする。
 ceroは、軽やかだった。彼らの前向きなヴァイブが伝わる、好感の持てるステージだった。ぼくなりの解釈でいえば、彼らのホワイトヘッド的な哲学(世界のそれぞれがそれぞれの動きで動いている感覚)がうまく具現化されていた。つまり、その感じが素直に入ってくる。とくに“Poly Life Multi Soul”におけるポリリズミックな演奏は、ぼくにはハウス・ミュージックに聴こえたほどで、結局、ceroのライヴ中はずっとカラダを揺らしていた(その間身体に流し込んだビールは3杯、完全にクラブのりだ)。話は逸れるが、ぼくはこのライヴの前日の夜、阿佐ヶ谷のROJIに行って、オシリペンペンズが作ってくれたハイボールを飲んだのだった。
 フィッシュマンズに関しては、三田格の原稿にゆずろう。が、思ったことをいくつか。○誰もが思ったことだろうけれど、バンドの絶対的中心が不在の演奏だというのにここまでリアルというのは奇跡というほかない。佐藤伸治抜きのフィッシュマンズとしてはいままでいちばん良かったと思えるほど。○クラフトワークのライヴではないが、楽曲たちが時間を超越している。すなわち永遠。○原田郁子は素晴らしい。○ceroとはもう一回ぐらいはやってもいいんじゃないだろうか。
 ライヴが終わって外に出ると、お台場のフェイク感満載の風景が目の前に広がる。フェイクな街のフェイクなエリアのフェイクな展示場のなかの、最高に気持ちのいい夜だった。ぼくにとってフィッシュマンズは哲学的なバンドで、ときが経てば経つほど哲学的なバンドになっている。ただ、フィッシュマンズの泥臭いところ、いまひとつスマートになりきれないところがぼくは好きなんだなとあらためて思った。

ーーーーーーーー

三田格

 休憩時間を挟んで後半はフィッシュマンズ。茂木欣一(ドラム)、柏原譲(ベース)、HAKASE-SUN(キーボード)に小嶋謙介(ギター)を加えたオリジナル・メンバーでまずは1曲「あの娘が眠ってる」。作詞・作曲とも小嶋の曲で、シャカシャカとしたギターのストロークがいきなり気持ちよく、ヴォーカルが入ると声が低いのでややずっこける。フィッシュマンズの曲としてはスタンダードな雰囲気を持ってる曲だなと改めて思っていると、パッと手を挙げて小嶋はこれだけで退場。余韻もなく“Oh SLime”へ。自分でも何を考えているんだろうと思うけれど、続いて木暮晋也(ギター)がステージに出てきた時、佐藤伸治が出てきたと思ってしまい、そんなことあるわけなのにひとりで真っ青になってしまった。しかも、たったいま「そんなことあるわけないのに」と思ったばかりなのに、さらに反対側からダーツ関口(ギター)が出てきた時も佐藤伸治だと思ってしまい、完全に頭がおかしくなっている。「ダーツ関口は元スーパーバッド」と心の中で3回ぐらい唱えて動揺を鎮める。「ザ・フィッシュマンズ!」と茂木が叫ぶ。客席が湧く。茂木は「ザ・フィッシュマンズ!」としか言わないのに、それだけで広大な世界観が広がっていくような気がする。それこそ会場全体で空中キャンプに乗り込んだような気分。茂木のMCが上手いとか技があるとかではなく、押し寄せるような期待と幻想が境界線を失い、誰かにコントロールできるような事態ではないのかもしれない。よくわからない。こういうことは佐藤伸治がいた頃にはなかった。佐藤伸治がいた場所が真空のようにして空いてしまったから、むしろ成立する感覚なのではないか。悪く言えば天皇制のようなものかもしれない。中心を失ったはずなのに凝集力があるというのはそういうことではないのだろうか。「ザ・フィッシュマンズ! ザ・フィッシュマンズ!」、ドラムを叩きながら茂木はコールを続け、いつも通りメンバー紹介へなだれ込む。上記のメンバーに加え、ヴォーカルの原田郁子とハナレグミ、そしてZAKの名前がコールされる。インドネシア式に「ホンジ」と「ヴォーカル佐藤」もコールされる。インドネシアでは誰が死んでもその人はどっかに行ってしまうとは考えない。そこにずっといるということになっている。
 8人編成のオープニングは“ナイトクルージング”。ややテンポダウンし、ヴォーカルは茂木。この曲はライヴで聴くとあまり透明感がない。20年前もそうだったけれど、ギャップの方に意識が行きやすく、もうひとつ入り込めない。もしくはもうちょっと後半で聴きたかったなというか。続いて“なんてったの”。ヴォーカルはハナレグミ。キーボードのリフだけで軽く持っていかれ、転調だけでじわっと来てしまう。心に張り巡らしていた鎧がどんどん剥がれていくというか。フィッシュマンズがやっているのは「ありきたりのポップ・ソング」で、だからいいんだろうなと思う。“土曜日の夜”“頼りない天使”“ひこうき”と曲は進む。「ありきたりのポップ・ソング」がそして、気がつくと奇妙なブレイクや間奏に切り替わっていて、ありきたりがありきたりではなくなってしまう瞬間がフィッシュマンズは実に上手い。彼らの曲がレコードだけではなく、こうしてライヴとして再現される必要があるのはそれを体験するためだろうと思えてくる。それは佐藤伸治が生きていた頃とまったく変わらない。“ひこうき”で茂木が「いつでも あの日のまま」と繰り返すたびに「あの日のまま」というのは「佐藤伸治が生きていた頃のまま」という意味に聴こえてしょうがなかった。“ひこうき”はこの日のベストだったんじゃないだろうか。
 ヴォーカルがハナレグミ&原田郁子に変わって“Smilin’ Days, Summer Holiday”。ゴージャスなアレンジと粘っこいグルーヴを叩きつけられて「これしかないのさ」と言われればそうですとしか言いようがない。途中でちょっと演奏がズレたように感じ、その時だけ最初からかかっていたマジックが消えたような気がしたものの、すぐに持ち直す。この曲はいくらでも聴いていられるなと思っていたので、いつも通りにやったと思うけれど、早く終わった気がしてしょうがない。それでも音楽を聴いていてこれだけ満ち足りた気分になったのは久しぶり。生まれてきて良かったなーと思ってしまう。続いて“MELODY”と、前期フィッシュマンズで埋め尽くすのかと思いきや、次は“すばらしくNICE CHOICE”かと思ったら“ゆらめき IN THE AIR”。佐藤伸治にとって生前、最後となった曲である。ヴォーカルはテープ=佐藤伸治。誰が歌っても佐藤伸治が不在だという思いは逆説的に強く感じられてしまうものの、意外にも僕はこの時が最も彼の不在を強く感じてしまった。映像でも流してくれればまだしもだったのかもしれないけれど、テープで佐藤伸治の声を聴くのはとっても悲しかった。そして「夕暮れがやってこない」という歌詞がいつにも増して引っかかった。“Smilin’ Days, Summer Holiday”で「これしかないのさ」と歌われていたはずの「日差しを終わらせるものとしての夕暮れ」を待ち望んでいるようにも聞こえたり。「君が今日も消えてなけりゃいいな」の「君」というのは、この曲をつくった当時、フィッシュマンズから離れると決めたZAKと柏原譲のことなんだろうか。テープで聴く佐藤伸治の声は悲鳴のようだ。それまでの7曲と何もかもが違っていた。この曲を聴いている間は僕はピクリとも動けなかった。
 “いかれたBABY”で元に戻った。辛い気分に背を向けられた。なのに、これがラスト・ナンバー。「フィッシュマンズの代表曲!」と茂木は紹介し、終わってもステージから引き上げるそぶりも見せずにそのままCEROと合体。ヴォーカルの高城昌平とキーボードの角銅真実が呼び込まれ、お互いに選曲が一致したという“JUST THING”へ。23年前に初めてフィッシュマンズにインタヴューした時も茂木は「JUST THINGが、JUST THINGが……」と繰り返していたので、かなり思い入れがあるのだろう。これもややテンポ・ダウンし、ビートはずっしりと重みを増した印象。高城昌平や原田郁子が滑らかに踊る様子を見て、そういえば佐藤伸治はビートに合わせず、ちぐはぐな体の動きをする人だったことに思い当たる。「みんなでポリドールの株を買おう!」とか訳のわからないMCもさることながら、予測がつかなかった佐藤伸治の妙な体の動かし方ももう見られないんだよな。つくづくヘンな男だったよな。そして、茂木は去年からこの企画を温めてきたという経過を話した上で「まだ終わりたくない!」と叫んで“Weather Report”へ。フィッシュマンズでも最もビートフリークな曲で終わりとはかえって酷でしょう! 最後の最後にまたフィジカルを煽るとは! ここまで来るとしかし、ノスタルジーとか現代にも通じるといった考え方さえバカバカしく思えてくる。そのような時間の概念からも自由になれた3時間が終わりを告げた。残ったのは広大な開放感と驚くほど優しい気持ち。帰りの混雑さえ余韻を温めてくれるような気までして。
 この日の功労賞はやはり茂木欣一だろう。彼は一片のエゴも挟まず、佐藤伸治がつくった曲を残すため、ただそれだけのために身を捧げていた。それは痛いほど伝わってきた。あの日、会場にいた誰もが叶わずとも、いつか茂木欣一だけは天国で佐藤伸治に会えたらいいなあ。