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[House]  #1  by Kazuhiro Abo

[House] #1 by Kazuhiro Abo

――singles of April――

アボカズヒロ / Kazuhiro Abo
1984年生まれ。青森県八戸市生まれ。東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科。1998年よりDJ/トラックメイカーとして活動を開始。現在は「DONUTZ@amate-raxi」,「CLOUDLAND@ageHa/ISLAND BAR」を中心に、都内、地方を問わず神出鬼没に活動中。サウンドクリエイターとしてもダンストラックのみならず、美術作品のための音響製作やファッションショーや映像作品のための音楽/音響制作も手がける。

アボカズヒロ   Apr 23,2010 UP

1. Henrik Schwarz / Ame / Dixon / A Critical Mass Live EP | Innervisions

 ダンス・ミュージックを聴きはじめたばかりの友人に日々質問攻めにされている。たいていの場合、質問の内容は「この曲ってなんていうジャンルなの?」というものである。そんな友人に「これはダブステップっていうんだよ」だとか「これはミニマル・テクノね」などと教えているうちに、彼もだいぶ詳しくはなってきたのだが、いまだにハウスとテクノに関しては判別に困ることがあるらしい。友人曰く「生音だとか、ヴォーカルが乗ってたらわかるんだけど。テック・ハウスとかミニマルとか、いまいち違いがわからないものがある」とのことなのだ。僕自身、ジャンル分けにおける、ある種の縄張りのようなものにはあまり頓着しないほうなので、たいていの場合は、「あんまり気にすることないと思うよ。気持ちよく踊れればそれでいいじゃない」とお茶を濁してしまうのだが、本人が気になるというのならばしょうがない。本当は「とにかくいろいろ聴いて自分の好きなものを探せ!」と一喝すべきなのかもしれないが......。

 そういえば、僕がクラブカルチャーに足を踏み入れた90年代の終わり頃には、そこまで悩むようなこともなかったように思える。記憶を遡ってみると、テクノとハウス、言ってみれば4つ打ちのエレクトロニック・ダンス・ミュージックの領域が双方向に侵食の度合いとその速度を増していくその契機になったのは、05年にリリースされたアーム(Ame)の「Rej」である。これがミニマル・テクノとディープ・ハウス両方の現場で熱狂的な支持を集めたことに端を発していたように思える。

 このシングルは、そのアームが「Rej」を発表したレーベル〈インナーヴィジョンズ〉の看板アーティストたち、ヘンリック・シュワルツ、ディクソンとともに昨年おこなった〈a critical mass〉ツアーでのライヴ・テイクを収録したものだ。ライヴのコンセプトは「テクノ的アプローチによるフリー・ジャズ」だったそうだが、しかしこの演奏からフリー・ジャズの持つ力学――作法や理論による束縛から脱却しようとするエネルギーを感じることは難しい。むしろライヴ・テイクであるにも関わらず、そして4人で演奏しているにも関わらず、そこから発せられるサウンドはそのコンセプトとはまったく逆の印象さえ覚える。無駄をいっさい削ぎ落とした、ひたすらストイックに反復する強固なマシン・グルーヴである。

 A面に収録されているのは、2003年にリリースされたヘンリック・シュワルツによるロイ・エアーズの"Chicago"のカヴァーのライヴ・エディットで、原曲に含まれていたヴォイス・サンプルなど多くのパートは消失し、ミニマル・チューンに再構築されている。ジワジワと厚みを増すアシッド・シンセとハイハットの微細なディケイの変化によってグルーヴは紡がれていく。

 B面に収録されている"Berlin-Karlsruhe-Express"では、中期のアシュ・ラ・テンペルを彷彿させるかのようなシンセ音のレイヤーが幾重にも折り重る。なんともダイナミックなテック・ハウスである。

 同期された3台のラップトップ・コンピュータと2台のキーボード、そしてドラムマシンによって演奏されるこれらのミニマルなサウンドは、強固なシステム的束縛の上に存在するように思える。が、しかし、だからこそプレイヤーの一瞬の閃きによるインプロビゼーションが、その束縛との対比によって拡大され、そして聴衆に大きなカタルシスを与える。この現象こそが彼らの目指した「ミニマル・テクノ以降のフリージャズ」なのかもしれない。また、友人への説明に苦労しそうだ......。

2. Sly Mongoose / Noite | ene

 同期型ラップトップ・ライヴ・ユニットの次に紹介する1枚は、一転して"人力コズミック・ハウス/ディスコ"とでも言うべき作品である。

 リーダーでベースの笹沼位吉、キーボードの松田浩二、ギターの塚本功、パーカッションの富村唯、そしてトランペットのKUNIという完全生バンド編成から成るスライマングースは、2002年に結成し、腕利きのライヴ・バンドとして地道な活動を続けている。ザ・スカタライツやロヴォらと競演するいっぽう、そのトラックは海外の人気DJによるミックスCD――レディオ・スレイヴの『Radio Slave Presents Creature Of The Night』やリトン & サージ・サンティアゴ(Riton & Serge Santiago)の『We Love...Ibiza』など――に収録されている。要するに、海外のダンスフロアからの支持も集めている稀有なバンドなのだ。

 "Noite"は、昨年発表したメジャー・デビュー・アルバム『Mystic Daddy』に収録の、空間を捻じ曲げながら疾走するようなシンセ・リードと、レゲエ・マナーを基調とした粘りながら地を這うベースが印象的なトラックである。この度、ノルウェーにおけるコズミック・ディスコの鬼才、プリンス・トーマスによる13分にも渡る大作リミックスを収録してのシングル・リリースとなった。レーベルは、先日"13"時間に渡るロング・プレイで幕を閉じた〈青山LOOP〉の老舗パーティ〈DANCAHOLIC〉をオーガナイズしていたDJ CHIDAが主宰する期待のレーベル〈イーネ〉である。

 プリンス・トーマスのリミックスは、オリジナルのグルーヴに敬意を払いつつも、ピアノとテープ・エコーによるフィードバック・ノイズをフィーチャーした2分を超える荘厳なイントロからはじまる。そしてじわじわとビルドアップさせながら、ミステリアスなヴォイス・サンプルを加え、あるいはYMOの"ファイヤークラッカー"を彷彿とさせるオリエンタルなフレーズ・サンプルを散りばめながら、まさにコズミックなディスコ・チューンとなっている。

 自身のDJプレイにおいてもアナログにこだわるCHIDA氏のレーベルからのリリースだけに、ダイナミック・レンジはとても広く、クリアなサウンドの盤になっていることも特筆したい。

3. Underground Resistance / All We Need / Yeah | UR

 まず最初に断っておかなければならないのは、高校3年の夏休みにわざわざ地元の青森から上京し、宇田川町のレコード・ショップでアンダーグラウンド・レジスタンスのバックパックを購入し、現在に至るまでほぼ1日も欠かさず使用し続けているような僕が冷静で客観的な批評眼をもってURの音楽を語ることができるか、非常に怪しいということだ。もちろん、できる限りの努力は試みるが......。

 アンダーグラウンド・レジスタンスの魅力を端的に語るならば、強いメッセージ性を持ちながら、それを決して言語だけではなく、トラックにおいてもときに攻撃的に、そしてときに力強くロマンチックなサウンドで饒舌に物語るマッド・マイクのスタイルにある。2007年の「 Footwars」以来のシングルは、マッド・マイクとデトロイトのベテランDJ、ジョン・コリンズとのプロデュース作品で、URクルーのDJ スカージ(DJ Skurge)がエディットで参加している。それはシンプルで力強いゴスペル・ハウスだ。おそらくマッド・マイクによるであろうレーベル面に記された――「本物ぶった偽者のサウンドに飽き飽きしているお前に本物がなにか教えてやろう。なに、簡単なことさ、ファンクがあればそれでいいんだ」――とういこの言葉の通り、これらのトラックは愚直なまでに骨太なファンクネスで満ち溢れている。

 "All We Need"、"Yeah"、それぞれのタイトルは曲中に使用されているヴォイス・サンプルに由来している。そして、レコードから採取されたであろうそれぞれのサンプルは大きなニードル・ノイズを発する。それがよりいっそう荒々しくラフな雰囲気を醸し出している。サンプルを支えるトラックもざっくりとしたエディットが施され、手弾きと思われるシンセサイザーやギターのレイヤーで構成されている。ラップトップ・コンピュータ1台でいくらでも綿密なプログラミングや編集が可能な現在のやり方と逆行するかのようである。

 このEPに一貫しているテーマは原点回帰だろう。ノイズが乗ったままのサンプル使いや、確信犯的にラフなエディットは、音楽制作の初期衝動を想起させるエッセンスとして抜群の効力を発揮している。風邪をひいたときにはファンクを爆音で聴くことで治すというほどに、ファンクに並々ならぬ思いを持っている男、マッド・マイクである。ファンクがあればそれでいいと言う気持ちに一片の嘘もないのだな! ......と関心してしまうのは、ちょっと感動屋がすぎるだろうか?

4. madmaid / Who Killed Rave at Yoyogi Park EP | Maltine Records

 E王
DOWNLOAD LINK→ http://maltinerecords.cs8.biz/69.html

 プロディジーが初来日し、東京ドームでライヴをした1993年に産声をあげ、2008年に当時若干15歳ながら代々木公園で開かれていた初期ハードコア・テクノにフォーカスしたフリー・レイヴ〈MAD MAX〉にて、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いのネット・レーベル、〈マルチネ・レコーズ〉代表のトマド(Tomad)に見出されるという、筋金入りのレイヴ・キッズにして日本のダンス・ミュージック・シーンにおける新星中の新星"まどめ"ことmadmaidのシングルを紹介しよう。

 〈マルチネ・レコーズ〉からリリースされた彼のデビュー作「Who Killed Rave at Yoyogi Park EP」は、2ライヴ・クルーの『Fuck Martinez』が「ファック・マルチネ」に聞こえるこという空耳一点張りで展開する"Too Mad To Fuck"、往年のコカ・コーラのCMソングをサンプリングしながら牧歌的ベースライン・ハウスに仕上げた"Buy Me Cola"(ビールじゃなくて本当に良かった......!)など、思わず年齢を疑いたくほど巧みなプログラミングセンスで構築されたトラックが収録されている。そして、そこには素晴らしい悪ノリ、悪ふざけ、悪ガキ感溢れる荒唐無稽なサンプリングが散りばめられているというわけだ。自身でデザインしたというジャケットもどこまでも人を食ったできになっていて、僕が最早この上ないほどハマっていると言わざるを得ない。

 驚いたことに、2ライヴ・クルーや、ユーロマスターズといった往年のIQひと桁チューンを無邪気にサンプリングして切れ味鋭いベースライン・ハウスに仕立て上げるこの早熟すぎる16歳のトラックは、早くも海を渡り、ニューヨークのビッグ・パーティ〈Trouble & Bass〉でもプレイするUK出身のプロデューサ、カンジ・キネティック(Kanji Kinetic)にプレイされ、反響を呼んでいる。しかし、そんなことよりも、我々が本当に驚くべきことであり、信じがたいことはIDチェックによって20歳以下のクラブへの入場が厳しく制限されている東京のクラブ・シーンにおいて、彼のプレイを合法的に楽しむにはあと3年もの年月が必要だということだ。我々がいますべきことは3年間コーラを冷やし続けることか、はたまた10代でも堂々と存分に遊べて、表現出来る場を作ることか......。答えは明確だろう。

5. Santiago Salazar / Your Club Went Hollywood | Wallshaker

 アンダーグラウンド・レジスタンスを母体とするバンド・ユニット、ギャラクシー2ギャラクシーやロス・エルマノス(Los Hermanos)のメンバーでもあり、イーカン(Ican)名義でも活躍するS2ことサンティアゴ・サラザールがデトロイトのアーロン・カール(Aaron-Carl)の〈ウォールシェイカー〉レーベルからリリースした新作は、現在のUSアンダーグラウンド・クラブ・シーンに対するUR流儀での痛烈な問題提起である。イーカン名義のラテン・フレイヴァーなサウンドは影を潜め、感情を押し殺したようにダークなフェンダーローズの反復フレーズとフランジャーによって金属感を増したハイハットに添えられるのは「車を停めるのに20ドル、入場するのに25ドル、ドリンクを買うのに12ドルもかかる」というコマーシャリズムに傾倒したクラブ・シーンを批判するポエトリー・リーディングだ。サラザールはこう続ける「一体アンダーグラウンドに何が起こってるんだ?」

 ポエトリー・リーディングが佳境にさしかかるにつれてトラックも熱を帯び、アンダーグラウンド・レジスタンスの名曲"インスピレーション"を彷彿とさせるようなソウルフルなシンセとドラマチックかつ浮遊感溢れるストリングスフレーズが挿入される。

 ここで語られているような問題は決してアメリカのシーンだけの話ではないだろう。建前としてはアンダーグラウンドを名乗りながらも、ときに、当人も気づかぬうちに、ゆえにその実はハリウッド化されてしまっているような現場は少なくない。それだけならまだしも、結局のところはどっちつかずでエンターテイメントとしてのクオリティすらハリウッドの劣化コピーにしかなっていないようなパーティも少なくない。現実的な問題としては、パーティを作る上で商業的意図が介入することは避けることができないが、その上で常に自らを省みることの重要性を思い出させてくれる1枚と言えるだろう。

6. VSQ / This Is That | Kalk Pets

 DJプレイ、とりわけひとりのDJが朝までプレイするようなロングセットは、レコードによって紡がれるその世界観をしばしば旅に例えられる。今回最後に紹介するのは、そういう意味では"旅情"を高めるのに最適な1枚だ。

 ドイツのエレクトロニカ・レーベル〈カラオケ・カルク(Karaoke Kalk)〉は、どこか牧歌的で、どこかアコースティックな趣があるサウンドを多くリリースすることで知られている老舗レーベルである。その〈カラオケ・カルク〉を母体として、ミニマル・ハウスに特化したサブレーベル〈カルク・ペッツ〉の19作目はハンノ・リヒトマン(Hanno Leichtmann)によるプロジェクト、ザ・ヴルヴァ・ストリングス・カルテット(The Vulva String Quartet)ことVSQの作品である。本作は、昨今のミニマル/テック・ハウスにありがちな、エッジのたったパルスやノイズは形を潜め、ひたすら柔らかで催眠的な音響世界が展開されている。

 A1に収録されているエフデミン(Efdemin)のリミックスはこの上なくシックで美しいミニマル・ハウスである。音程感を失うギリギリの瀬戸際に踏みとどまった、低周波のサイン波によって奏でられるベースラインと、虚空を漂うかのような2拍ループのシーケンスの向こう側には、極々小さな音量で高いピッチのランダム・シーケンスが配置されている。パーカッションの存在に気づいた頃に、今度はフィルタリングとダブ処理を施されたアコースティックピアノが現れる。意識の遷移を見透かされているかのように音の主題が移り変わっていくさまは、さながらディズニー映画の『ファンタジア』のようにサイケデリックだ。

 B1に収録されているオリジナル・ヴァージョンは、硬めの音色によるイーブン・キックと変調されチョップされたアコースティック・ピアノと地底で蠢くようなサイン波ベース、そしてタイトルをリフレインするヴォイス・サンプルで構成されたダビーなミニマル・トラックだ。B2にはロングセットのクライマックスにプレイしたくなるドラマチックなテック・ハウス"This is Not the Last Song"が待っている。揺らめくシンセパッドのレイヤーは、ぼんやり明るくなったダンスフロアの照明を、2拍4拍のタイミングで入ってくる発信音は小鳥の囀りを連想させる。エッジを取り去って体への浸透圧を高めるかのようなミックスをほどこされたこのトラックは、一晩を踊り明かした夜の住人たちに朝を告げるにふさわしい音楽である。

アボカズヒロ