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アナキズム・イン・ザ・UK

アナキズム・イン・ザ・UK

第30回:『ザ・レフト』続編:左翼セレブたちの総選挙

May 19,2015 UP

 昨年『ザ・レフト―UK左翼セレブ列伝』という本を書いた。
 で、5月7日に行われた英国総選挙の前後、そこで取り上げた著名人たちにも動きがあったので拙著の続編としてまとめてみたい。

 まず、マンチェスターのサルフォードから国会議員に立候補した元ハッピー・マンデーズのベズ。彼はリアリティー党という政党を立ち上げ、今年1月に選挙委員会に登録しようとしたが、以前リアリスト党という政党が存在したことが判明し、有権者の混乱を招くかもしれないので改名せよと選挙委員会から命じられ、ウィー・アー・ザ・リアリティー・パーティー(俺らがリアリティー党だ)という党名に変更している。
 のっけからトラブルに見舞われた船出となったが、立候補者3名のミニ政党にしてはさすがに注目を集め、BBCニュースの小政党特集にも招かれ、ベズが党首インタヴューを受けた。吉本新喜劇のヤクザ役が着るような派手なストライプのスーツを着て登場したベズは、緊張していたのかラリってたのか判然としない目のとび方で、「フラッキングに反対ならマラカスを振れ」、「全ての人に変革を、それも今すぐに」という党の選挙スローガンについて語った。目つきはヤバいしスーツは池乃めだかみたいだし、ってんで完全にイロモノ扱いされていたが、ベズはインタヴューの中で、自分が政党を作って立候補したのはみどりの党がマンチェスターでは弱いからだということを明かした。
 みどりの党のお膝元といえば我が街ブライトンだが、各選挙区で勝利した政党のカラーで色分けされた英国マップを見ていると、ロンドンは赤(=労働党)だが、それより南の地域は見事にブルー(=保守党)一色であり、最南端のブライトン&ホーヴ市だけが赤とグリーン(=みどりの党)になっている。よって「ブライトン&ホーヴは南部のスコットランド。独立すべき」などと言う人もいるが、みどりの党の国会議員キャロライン・ルーカスは、拙著『アナキズム・イン・ザ・UK』に登場する底辺生活者サポート施設のアドバイザーを務めていた人だ。みどりの党は、「エコお洒落なミドルクラスのための政党」と呼ばれた頃とは違い、近年は反緊縮や貧困廃絶のカラーを強く打ち出している。
 北部の労働組合が強い地域は今でも労働党が幅を利かせているので、ベズが立候補したサルフォードでも約2万1000票を獲得して労働党議員が当選した(ベズは約700票で落選。8候補者中6位)。が、ブレア以降、著しく保守党寄りの政策をとるようになった労働党にベズは不満を感じており、SNP(スコットランド国民党)やウェールズ党と組んで反緊縮、反核の左翼連合を組んだみどりの党への強い共感を表明している。
 投票日の夜、ベズは地元紙にこう語っている。
 「これは単なる始まりだ。今年は勝てなくとも、俺たちが重要だと思っている問題への人びとの認識を高められたと思う。同時に、俺は人びとにもっとみどりの党に投票してほしい。彼らのマニフェストは俺たちと非常に似ている」
 他党への投票を訴える党首というのもなかなか新鮮だが、みどりの党さえベズを受け入れる勇気があれば、次はグリーンのマラカスを振っている可能性もあるのではないか。

 べスの政党同様、ケン・ローチのレフト・ユニティーも今回は全滅した。10人の候補者を立てたが、最も多くの票数を獲得したべスナルグリーン&ボウ選挙区でも949票となかなか厳しい。レフト・ユニティーは著名人候補者を1人も立てなかったし、ケン・ローチを前面に出してメディアを使う戦略も取らず、地味な草の根の選挙運動を行ったので、一般的にはまだその存在を知られていない。若いスクワッターやフディーズと、ゴリゴリの社会主義タイプの中高年の両方を党員に抱える政党なので、意見の衝突もあるようだが、あくまでもストリートで支持者を獲得して行こうとする方針では一致しているようだ。
 ベズとは対照的に、ケン・ローチはSNP、みどりの党、ウェールズ党の国内左派ブロックは屁温いと感じているようで、ギリシャのシリザ、スペインのポデモスへの共感を示し、「国境を超えた反緊縮連合VS大企業に支配されたヨーロッパ」のイメージを構想している。
 「緊縮の終焉は新経済の誕生を意味する。それがシリザやポデモスが求めていることだ。これはヨーロッパ規模で行わねばならない。大企業支配への対抗勢力を作らねば」
 「産業を計画し、生産を計画すれば、国民全員の雇用を実現できる。すべての子供たちに社会に貢献する権利を与えなければいけない。安定した生活を得て、家庭を作ることを計画でき、人生を計画する権利を一人一人の子供たちに与えなければ」
とマニフェスト発表記者会見で語ったローチは、SNPやみどりの党、ウェールズ党の国内左派連合については
 「反緊縮での連携は良いことだ。しかし、これらの党は社会民主主義政党だ。彼らは庶民に有利に働くように市場を操作することは可能だと思っている。僕はそうは思わない」
と発言している。
 EU離脱、スコットランド独立問題などのナショナリズムの気運が高まる英国で、ケン・ローチの欧州主義は時代に逆行する古めかしさを感じさせるが、逆に「今」ではないからこそ「未来」を見ているのかもしれない。

 今回の選挙で大きな注目を集めたのが革命の扇動者ラッセル・ブランドだ。彼は投票日直前に労働党のミリバンド党首を自宅に招いて公開インタヴューを決行し、現在の労働党に足りないものを率直に助言した。それを知った保守党のキャメロン首相が「ラッセル・ブランドは単なるジョークだ」と発言し、右派の新聞が「コメディアンにまで頼らねばならないピエロを首相にはできない」とミリバンドをこき下ろしたものだからラッセルは激昂、「現代の政治への最大の抵抗は投票しないこと」というスタンスから劇的なUターンを見せ、投票日の3日前に「緊急事態発生:革命のために投票を」と題した映像を900万人のツイッター・フォロワーたちに送った。彼は映像中でこう呼びかけた。
「もし君がスコットランドに住んでいるなら、すべきことはもうわかっているだろうし、もし君がブライトンに住んでいるならみどりの党に投票してくれ。だが、それ以外の人びとは労働党に投票して欲しい。なぜなら、ミリバンドはまだ我々の言うことを聞こうとするからだ。一番危険なのは他者に耳を傾けない首相だ」。
 しかし、保守党が過半数の議席を獲得して勝利した直後、衝撃を受けたラッセルはもう政治からは手を引くと宣言し、右派メディアが自分とミリバンドのインタヴューを利用して大騒ぎしたことが労働党のマイナスイメージに繋がったとして、「選挙をクソみたいな結果にした責任の一端は自分にもある」と反省した。が、すぐに気を取り直し、キャメロン首相の勝利演説を鋭く批判する映像を発表し、「これはポスト・ポリティクスの時代の始まりだ。人びとが政治から離れ、自分たちでオルタナティヴなシステムを創造する時代が来る」と発言している。

 最後に、スコットランドとSNPの躍進が大きくクローズアップされた今回の選挙で、そのとばっちりを受けた人物としてJ・K・ローリングに触れておきたい。スコットランドは左翼的思想と燃えるようなナショナリズムを両立させている地域だが、後者のほうは結構えげつない部分もある。スコットランド在住のローリングは昨年の独立投票で反対派に回ったので、一部のSNP支持者たちから「裏切り者」「スコットランドで生活保護を受けながらハリポタを書いたくせに、その恩を忘れたか」と迫害された、という話は『ザ・レフト』に書いたところだ。
 で、SNPが労働党の議席を奪って選挙に大勝すると、勝利の美酒に酔う一部のSNP支持者たちが再びローリングいじめを始めた。
 「親愛なるJ・K・ローリング様。わが国は95%がSNP支持者になりましたが、まだご無事でおられますか」「労働党支持の糞ビッチは出て行け」「労働党のクソどもはくたばれ。スコットランドでは貴様ら左翼の時代は終わった。特にお前だ、J・K・ビッチ顔」など、数多くの口汚いツイートが寄せられたが、中でも面白いのは最後のつぶやきで、これなどはSNP支持者には自分たちを右翼だと思っている人もいるということを端的に示している。はっきり言って彼の地ではもう誰が右なのか左なのかわからない状況なのではないか。というか、SNPは右にも左にも足をかけているから支持が飛躍的に伸びるのだ。両方カバーできるのだから無敵である。
 で、彼女をビッチと呼んだり、容姿をからかったりする愛国者たちのツイートをJ・K・ローリングはこう制した。
 「インターネットは女性憎悪的な虐待を行う機会を提供しているだけではありません。ペニス増大器具もこっそり買えたりしますよ」
 彼女の反撃はイングランドでは痛快だと評価され、メディアに大きく取り上げられた。一方、スコットランドの新聞のサイトでは、ローリングを批判した人びとが彼女のファンからネットで集中攻撃を受けているという話が大きく報道されていた。
 昨年から、この国では「ソリダリティー」という言葉がよく聞かれるようになってる。が、どうも今のところ民衆のソリダリティーはナショナリズムの枠組みの中にしか存在しないように感じられる。愛国主義がソリダリティーの位置にすっぽりスライドしているというか。
 だとすれば、それは同性愛者たちが炭鉱労働者たちと団結した『パレードへようこそ』のあのソリダリティーとは異質のものであろうし、新しい夜明けが来るように感じられた選挙前のムードが実はまったくの勘違いだったのも、それと無関係だとは思えない。

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Profile

ブレイディみかこブレイディみかこ/Brady Mikako
1965年、福岡県福岡市生まれ。1996年から英国ブライトン在住。保育士、ライター。著書に『花の命はノー・フューチャー』、そしてele-king連載中の同名コラムから生まれた『アナキズム・イン・ザ・UK -壊れた英国とパンク保育士奮闘記』(Pヴァイン、2013年)がある。The Brady Blogの筆者。http://blog.livedoor.jp/mikako0607jp/

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