ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Mark Turner - We Raise Them To Lift Their Heads | マーク・ターナー
  2. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第2回 ずっと夜でいたいのに――Boiler Roomをめぐるあれこれ
  3. Sharp Pins - Radio DDR | シャープ・ピンズ、カイ・スレーター
  4. interview with Mark Pritchard トム・ヨークとの共作を完成させたマーク・プリチャードに話を聞く
  5. Big Hands - Thauma | ビッグ・ハンズ
  6. Adrian Sherwood ──エイドリアン・シャーウッドがソロ名義では13年ぶりとなる新作を発表
  7. interview with aya 口のなかのミミズの意味 | 新作を発表したアヤに話を訊く
  8. interview with IR::Indigenous Resistance 「ダブ」とは、タフなこの世界の美しきB面 | ウガンダのインディジェナス・レジスタンス(IR)、本邦初インタヴュー
  9. 別冊ele-king 渡辺信一郎のめくるめく世界
  10. Khadija Al Hanafi - !OK! | ハディージャ・アル・ハナフィ
  11. 青葉市子 - Luminescent Creatures
  12. Columns 4月のジャズ Jazz in April 2025
  13. interview with Nate Chinen アリス・コルトレーンは20年前とはまったく違う意味を備えた存在になっている | 『変わりゆくものを奏でる』著者ネイト・チネン、インタヴュー(後編)
  14. DJ Koze - Music Can Hear Us | DJコッツェ
  15. Eli Keszler - Icons  | イーライ・ケスラー
  16. Bon Iver - SABLE, fABLE | ボン・イヴェール、ジャスティン・ヴァーノン
  17. interview with Nate Chinen カマシ・ワシントンの登場が歴史的な瞬間だったことは否定しようがない | 『変わりゆくものを奏でる』著者ネイト・チネン、インタヴュー(前編)
  18. Sherelle - With A Vengeance | シュレル
  19. Columns Nala Sinephro ナラ・シネフロの奏でるジャズはアンビエントとしての魅力も放っている
  20. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第1回 悪夢のような世界で夢を見つづけること、あるいはデイヴィッド・リンチの思い出

Home >  Regulars >  Forgotten Punk > #2:アナキストに煙草を

Forgotten Punk

Forgotten Punk

#2:アナキストに煙草を

野田 努 Feb 02,2010 UP

アナキストに煙草を ――そう、やっているあいだはたしかに楽しかった。が、それも家に戻って自分たちの姿をテレビで見るまでの話で、私に関して言えばテレビがポイントだった。(略)革命はテレビで報道されなければならず、このショーにおいて我々はベトナム平和運動という派手なテレビ・コマーシャルに登場したエクストラに過ぎなかった。現在このことを私はいたってシンプルに要約できる。「もし我々が1968年の反米デモから何かを学ぶ取ったとすれば、デモは何の役にも立たないということである」
 が、私の思考はもう少し深く及んだ。ポスト・マクルーハン時代に生まれたカルチャーの俗物たる私は、(略)自分に他にもっとやるべきことがあるとわかっていた。私は単に大衆のひとりでいるのではなく、大衆に向けたコミュニケーションによって貢献すべきだった。新聞、雑誌、映画、テレビ、ロックンロールのレコード。こういうものこそが変革の武器になるんだ。
       ミック・ファレン著『アナキストに煙草を』(赤川夕起子訳)

 フォーガトン・パンク――僕がこの連載にこんな題名を付けたのは理由がある。この言葉を見つけたのは『ガーディアン』の記事のなかだった。忘却されたパンク――なんて言葉だ、そしてある意味、なんて言い得ているんだ。

 実に長いあいだ、僕はかれこれ30年以上も「パンク」というタームはつねに素晴らしいもの、自分のアイデンティティとしては非の打ち所のないもの、そしてそれはタイムレスに輝けるコンセプトであると信じてきた。おめでたい話だが、さすがにこれだけ生きているとそれが万能ではないことが気がついてくる。むしろ「パンク」という言葉に嫌悪を抱いている人は少なくない。クラブ・シーンにおいても「パンク」嫌いの人に会ってきた。しかしそれだけならまだいい(それがゆえに「パンク」なのだから)。僕は......ひょっとしたら今世紀においてそれは、本当にパンク=役立たずの言葉になっているのではないかと思うようになった。僕が15歳の頃は「パンクが好き」であるということは、それは市街戦に臨むゲリラ戦士の合い言葉のような響きを持っていた。異教徒たちの暗号だった。ティーンエイジャーにとっての秘密のパスワードだった。われわれはそこに「punk」と打ち込みさえすれば良かった。しかし、ポスト・モダニストが闊歩する現代においてパンクの反抗とはある種のジョークになりかねない......そんな悪夢が襲い、真夜中に布団から飛び起きる。

 とはいえ、考えてみれば、日本には青春パンクというジャンルがある(磯部涼の得意ジャンルだ)。そしてまた......日本のパンクは「政」よりも「性」に強いコンプレックスを抱いてきたフシがある。大江健三郎の有名な「セブンティーン」ではないが、スターリンにしてもじゃがたらにしても、電気グルーヴ(パンクではないが)にしても銀杏ボーイズにしても、ステージで全裸になった経験を持ち、またそういう人たちは売れている。ザゼンボーイズにしても「抑えきれない性的衝動」だし。

 もっともストゥージズやヴェルヴェッツをその起源とするなら、パンクに「性」のオブセッションがあったことは事実だ。セックス・ピストルズというネーミング......、ピアッシングしたジェネシス・P・オリッジ......。が、それと同等に彼らのパンクは「政治的」でもあった。そこへいくと日本は「性」や「性愛」に偏っているように見える。ピューリタニズムとは違ったカタチで、「性」が抑圧されているからなのだろうか、それとも近代以前の日本が「性」に寛容だったことの記憶がそうさせているのだろうか......。セックス・ドラッグレス・ロックンロール......そしてこんな書き出しからはじまるこの原稿は、まったく別のところにワープするのであった。

123

RELATED

COLUMNS