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ミドリ

ミドリ

Shinsekai

Sony Music Associated Records

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岩崎一敬   May 25,2010 UP

 「ひと皮むけた」「よりポップになった」というのが一聴したときの感想。音楽性はさらに広がり、ひとつひとつの完成度の高さもダントツだし、後藤まりこの歌もこれまでに増して魅力的だ。オフィシャルの資料にある「最高傑作」というのは間違いないだろう。ゼロ年代のネクストも感じさせる重要な作品だとさえ思う。セーラー服はもっと前に脱いでいてもいいと思っていたが、もはやどんなギミックも必要ないほどバンドは次の段階へ進んでいる。

 今回の新作『shinsekai』は、3人のエンジニアが録音を手掛け、ミックスは5人が担当している(うちひとりは後藤まりこ)。ミックスをやり直したりヴォーカルや演奏を差し替えたり、じっくり時間を掛けてレコーディング作業がおこなわれたという。

 ご存知のようにミドリには、クラシック出身のピアニストとジャズ出身のベーシストがメンバーにいる。そういった音とともにノイズ・ギターも、そしてときに邦楽的なドラミングも等価なバランスでミックスされる独特なものだ。その4人のセッションは直情/衝動的で、ともすればノイズ的なものになることさえ多かった。

 が、新作ではそうしたひとりひとりの個性がうまく共存しているというか、収まりがいい。それは音の抜き差しが丁寧になされているとか、お互いの音を尊重し合っているということだと思うが、個々の際だった個性はしっかりと発揮しつつ、うまく曲のパーツとして組み込まれているのだ。つまり衝動的でノイジーな曲も、今回は聴きやすい。つまり、ミドリのアクの強さといったものが、きちんと整理されたうえで再提示されたのが新作『shinsekai』の特徴ではないだろうか。ぼくがこの作品に感じる"ポップ"とは、そうしたミドリの強烈な個性を自ら"客観視"しているような感覚だ。


 そうなるとバンドは強い。キャッチーな展開を試みてもバンドの個性は揺るがない。もともとは「歌謡曲のコピー・バンドをする」というきっかけで結成されたミドリだが、『shinsekai』ではいままで以上にJ-POP的なメロディを使っている。これまでも"おしとやか"な一面はあったが、それはどちらかというと"あばずれ"的な面と相反する飛び道具的な要素として機能していたような感じだった。これほどまでにヴォーカルが伸び伸びと歌っているのは初めてなんじゃないだろうか。

 もちろんバックの演奏は一筋縄ではいかない。後藤まりこのキュートなヴォーカルが眩しい"鉄塔の上の二人"は、キャッチーなサビ以外はエクストリームなジャム演奏だったり、"リズム"にいたってはブラスト・ビートが差し込まれる始末だ。それでもヴォーカルとバック演奏のあいだにまったく違和感を感じることはない。むしろ、その不思議な一体感にフレッシュな感動さえ覚える。ちなみに、この2曲はA.S.Eがミックスを担当。メンバーは「まるで作曲のようだったし、自分たちの新たな引き出しを開けてもらった」と語っていた。


 ミドリをはじめとするゼロ年代のバンドの特徴のひとつには、ロック以外の要素をどんどん取り込んでいく雑食性がある。その雑食性を咀嚼せぬままにアウトプットして、ただたんに奇天烈さをアピールするだけのようなバンドも多いが、この新作『shinsekai』はそうしたところから脱却して、それを新たな表現とするヒントがたくさんあるように思える。

岩崎一敬