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5lack×Olive Oil

5lack×Olive Oil

50

高田音楽制作事務所 x OILWORKS Rec.

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野田 努 Feb 26,2013 UP
E王

 下高井戸のトラスムンドの浜崎店長に頼んで、まず最初に、巷で話題のFLA$HBACKSの『FL$8KS』、その次にスラックとオリーヴ・オイルによる『50』を聴かせてもらって、結局、僕は財布の都合で、後者を買った。FLA$HBACKSに関して言えば、いろんな人たちが惜しみない賛辞を送るのもわかる。たしかに格好いい。90年代生まれによる90年代再解釈の、実にフレッシュで、エネルギッシュな(なにせ19歳だ)、そして前向きで、しかもスタイリッシュな1枚だし、これがいまそれなりの数売れているということは、シーンは健全で、元気いっぱいなのだ。
 素晴らしいことである。才能と情熱を持った新世代が次々と登場することで、トラスムンドはモノが売れないと言われる2月を忙しくしているのだ。それでも、疲れている僕は、唯物論的に『FL$8KS』の価値を理解できても......などと言っている時点で自分が疲れているのがわかる。そして、僕のように疲れている人間は、いまは『50』を聴いたほうがいいかもしれない。

 オリーヴ・オイルのトラックがまず良いのだ。それが買った理由のかなり多くを占めている。BUNのような、ここ数年のあいだに注目を集め、国際的な支持を得ている日本のビートメイカーたちの軌跡を追っていくと、彼らの多くがオリーヴ・オイルと関わっていることがわかる、と話してくれたのは三田格だったが、彼がいま重要人物なのは、フライロー以降の耳にはとくに納得のいく話ではないだろうか。
 とにかく僕は、繊細にして大胆、実験的にして郷愁的な、チルアウトでありながらビートがしっかりした、そしてドライでありながら叙情性のあるオリーヴ・オイルのトラックに惹きつけられたのだ。〈クロックワイズ〉の加藤由紀さんに教えてもらったことだが、彼は「南の国に楽園を作るのが夢」だと公言しているそうで、(これも、まさにいま話題の)沖縄のRITTOのデビュー・アルバム『AKEBONO』にも参加している。

 さて、『50』の1曲目は(正確には2曲目だが)、"愛しの福岡"である。スラックは作品を通じて、東京を離れ、福岡を発見したことに喜びを感じ、その感情を表しているわけだが、故郷ないしは仲間からひとりで離れていく様は、彼の"That's Me"における「ひとり」を具現化していると言える。別離することそのものに意味があったのだろう。そして、「別離」ならびに「出会い」がアルバムの主題だとしたら、オリーヴ・オイルの孤独を仄めかしつつも陶酔するビートは、その最高のパートナーだった。スラックのフロウは春の夜風のように、ビートの合間を滑らかに抜けていく。
 仙人掌とISSUGIのライムもお目見えする前半の、なかば憤怒の籠もった刺々しい感覚も良いが、後半の、ピアノが美しい2曲、"鼓動"~"I LIKEDARK CHOKOL"以降のメロウな展開は鳥肌モノ。よろめきながら前に歩く旅人さながらの"DRIVE ON MY LIFE"~"HUSSHSARD/50"~"AMADEVIL"の展開は、最盛期のクルーダー&ドーフマイスターをも彷彿させる。つまり、ピースで、そして最大限に恍惚としている。僕は缶ビールを3缶飲んで、帰り際に花田清輝3冊を千円にまけてもらって、トラスムンドを後にした。

野田 努