Home > Reviews > Album Reviews > 5lack × Aaron Choulai- Unfounded
僕はこれまで何をもってラップの巧拙を判断すればいいかわからなかった。リスナーレベルでこの議論をすると、多くの場合「巧拙じゃなく好き嫌いだよね」とか「それはトラックの話でしょ」とか「そこはリリックの内容や言葉選びの件じゃね?」みたいに、ラップそのものの話から離れてしまう。素人同士で話してても埒が明かないので、本職であるさまざまなラッパーたちにインタヴューして「ラップのうまさって具体的になんですか?」と直接訊いてみた。
彼らが言ってたことはだいたいこんな感じ。ビートに乗れているか、押韻、歌詞の聞き取りやすさ、声質、あとは音程や言葉の強弱といったフロウがかっこいいか。ラップはメロディよりリズムと言葉の強さがキモとなる歌唱法だから、ビートに乗れているか否かはすべての基本となる。歌詞の聞き取りやすさについてはいろいろ意見があって、あえて英語っぽくする人もいるし、乗せるビートの種類によっても変わってくる。さらに洋楽をメインに聴いているような人は、言葉の意味が伝わりすぎない方がいいと考えてたりもする。押韻についても意見が分かれるところではあるが、僕はテクニックよりも音楽としての完成度を重視すべきだと思う。声については才能の一部と言っていいだろう。
これらの能力を5段階評価にしてレーダーチャートを作ると5lackの基礎能力は5点満点の正五角形。しかも彼は曲ごとに配合を変える。初期の“Hot Cake”“Next”などはメロディの美しさでリスナーを虜にして、昨年発表された『夢から覚め。』収録の「Hingri Killin!!」では、不安定なシンセと重たいビートからなるK-BOMBの難解なトラックをまるで滑るようななめらかさでラップしていた。最新シングル「UNFOUNDED」は、パプアニューギニア出身のジャズ・ピアニスト、AARON CHOULAI(アーロン・チューライ)とのコラボ作。今回はジャズというトラックの特性に合わせて、配合バランスはややメロディ寄りだ。
突き詰めて言えば、MACCHO(OZROSAURUS)のパンチライン「アカペラで聴けねえラップじゃねえぜ」だ。5lackはトラック選びのセンスがいいので、そちらのイメージに引っ張られがちだが彼のラップはアカペラで聴いても異常にかっこいい。歌詞の内容やトラックではなく、純粋にラップだけ聴くとまた5lackの評価も変わってくるはずだ。
巻紗葉