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Robert Wyatt

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Robert Wyatt

Different Every Time

Domino/ホステス

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松山晋也、野田 努   Dec 26,2014 UP Old & New
E王
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松山晋也 / Dec 24, 2015

 曲目リストをざっと眺めて、いの一番に聴いたのが、ディスク2のエピック・サウンドトラックス「ジェリー・ベイビーズ」。この曲は、94年にリリースされたワイアットのレア曲中心のベスト盤『Flotsam Jetsam』で、当初収録される予定だったのに結局見送られた曲である。僕は昔から大好きだっただけに、残念なことだった。97年に亡くなったエピック・サウンドトラックス(ケヴィン・ゴドフリー)がスウェル・マップス解散直後の81年に〈ラフ・トレード〉から出したソロ・シングルで、ワイアットがもう一つの姓である(ロバート・)エリッジ名義でヴォーカルをとっている。ケヴィンは元々がドラマーだが、ピアノの弾き語りもする。そしてその歌は、いくばくかのメランコリーを孕みつつもどこか楽天的で飄々としており、独特な味わいがある。つまり、ワイアットにかなり近いのだ。きっとワイアット自身もケヴィンに対し、小さからぬ親近性を感じていたんだと思う。
 この作品が出たのは、ワイアットと〈ラフ・トレード〉の付き合いがはじまり、立て続けにシングル盤(それらは82年にアルバム『ナッシング・キャン・ストップ・アス』に収録された)をリリースするようになった頃だった。3枚目のソロ・アルバム『ルース・イズ・ストレンジャー・ザン・リチャード』を発表した75年以降は、政治問題に熱心になり、音楽活動といえば、請われて時々他人の作品にゲスト参加する程度になっていただけに、やっと本格的にやる気になったんだなと、当時うれしく思ったことを憶えている。
 今回の2枚組ベスト盤のディスク2は、ワイアットが他の音楽家の作品にシンガーやプレイヤーとして参加したコラボ曲(ライナーにある本人の言葉を借りると「緩やかな支配者」として参加した曲)の中から厳選されたものだが、当然ながら、積極的に若い音楽家たちとコラボするようになっていった〈ラフ・トレード〉時代以降の作品が大半を占めている。特に90年代以降の作品の豊かな国際色を眺めると、彼がいかに地球規模で敬愛され、影響力を放ってきたかをあらためて実感させられる。
 ディスク2では、他にも、イーノのオブスキュア・シリーズ第六番として76年に出たジャン・スティール/ジョン・ケイジ『Voices And Instruments』の収録曲“エクスペリエンシズ第2番(Experiences No.2)”とか、英国のコミュニズム系ブラス・バンドであるハッピー・エンドの『Turn Things Upside Down』のタイトル曲、あるいはスティーヴ・ナイーヴ(彼がキーボードで参加した屈指の名曲“シップビルディング”」も勿論ディスク2に収録)が私的パートナーである作家/精神分析医ムリエル・テオドーリと共作したオペラ的作品『Welcome To The Voice』の収録曲など、かなりレアなトラックも入っている。もっと有名な曲、人気のある曲は他にいくらでもあるのに……と感じるファンが少なくはずだ。だが、曲目リストの人名を眺め、通して聴いてみて思うのは、これらはすべて、ワイアット自身の人生に豊かな彩りと喜びをもたらしてくれた人びとなのだな、ということだ。なにしろマイク・マントラーが2曲も入ってるし、ニック・メイスンやフィル・マンザネラといった本当の恩人(音楽上でも生活上でも)、そして、本作と同時に出た同名の伝記本の著者であり、本作のオリジナル・ライナー執筆や最終的な曲順決定なども担当したマーカス・オデアーのバンド、グラスカットの曲もしっかり入っている。
 つまり、みんなありがとう、おかげで俺の音楽家人生はこんなにも楽しかったよ……という内なる謝辞がここからは聞こえてくる気がするのだ。となると、彼が数か月前に英国の雑誌アンカットで「音楽制作はもうやめた」と引退宣言したことも合点がゆく。正直、僕も、彼の創作意欲は近年衰えていると感じていた。今作のジャケットに、本人の顔を真正面からアップでとらえたリアルな写真が使われていることにも、本人の確かな意思が感じられる。たとえていえば、本作はロバート・ワイアット・エリッジの、ちょっと気の早い音楽的墓碑銘のようなものなのかもしれない。過去、ワイアットのベスト盤的作品は何枚もリリースされてきたが、その点が他とは決定的に違うと僕は思う。
 ディスク1は、ソフト・マシーン時代から近年に至る本人名義の作品から時代順に選ばれた、極めてノーマルな構成。とくに驚くような点はないが、意外だったのは、彼の人生最高の名曲、名演と多くのファンが思っているであろう“オー・キャロライン”(マッチング・モール1st収録)がなく、それに続く“ サインド・カーテン”が選ばれていることだ。“オー・キャロライン”は、デイヴ・シンクレアの書いたメロディの力が絶大なので、今回は遠慮した、という見方もできるけど、それ以上に、「今でも愛しているよ、キャロライン」としつこくリフレインされる歌詞(キャロラインは当時の恋人)のことを気にしたのではないかと僕は思う。下半身不随の人生をずっと支えてくれた愛妻にして同志アルフィのことを思えば、いかにもこれは墓碑銘にはふさわしくない歌だろう。

松山晋也

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