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Vladislav Delay

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Vladislav Delay

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デンシノオト   Jan 13,2015 UP

 2014年の終わりから2015年の年始にかけて、冬の空気と似ている冷たい質感のエレクトロニクス・ミュージックを耳が求めていたので、アンディ・ストットの『フェイス・イン・ストレンジャーズ』と、ニコラス・ベルニエ『フリークエンシーズ(A/フラグメンツ)』、そして今回紹介するヴラディスラヴ・ディレイの2年ぶりの新譜『ビザ』などを繰り返し流しつづけた。寒いだけの味気のない冬だが、そんな乾いた正月の空気に、この3作品のクールな音はとても合っていた。

 近年のヴラディスラヴ・ディレイ=サス・リパッティは、モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオへの参加(現在は脱退)や、ヴラディスラヴ・ディレイ・カルテットなどの活動も目立ったが、ヴラディスラヴ・ディレイ名義でも、電子音響レーベルの老舗〈ラスター・ノートン〉から、『ヴァンター』(2011年)や『クオピオ』(2012年)などのアルバムを順調にリリースしていた。これらはまさに極寒の音響ダブであり、素晴らしいアルバムであった。となれば、さらなる新作も〈ラスター・ノートン〉からと思いきや、2014年暮れに、突如、自身のレーベル〈リパッティ〉から2年ぶりの新作を発表したのである。しかも久しぶりの「アンビエント・アルバム」というアナウンスであった。
 この作品の成立過程は、いささか特殊であったらしい。サス・リパッティがツアーのために訪れたアメリカで入国を拒否され、ツアーが中止になり、そこで空いてしまった2週間ほどの時間で制作をしたと言われている(仕上げにもう少し時間をかけたようだが)。そのためある種のライヴ感というか、一気呵成に作られたかのような流れを感じさせる仕上がりだ。
 その独特の霞んだ音響は、まさにヴラディスラヴ・ディレイのサウンドである。〈チェイン・リアクション〉からリリースされた傑作『Multila』(1999年)を思い出しもする淡いダブ音響が魅惑的だ。ビートレスというより、霧の中にビートが溶けきってしまったようでもあり、その意味で、本作は単純にアンビエントとはいえない。停滞ではなく、まるで景色が流れていくような展開があるから。

 じじつ、本作の音響は、持続音、パルス、微かなノイズ、などがいくつものエレメントが交錯し、加工されている複雑なものだ。まるで景色が流れていく感覚。この景色が流れゆく感覚は、どこか空港的な雑踏を思い出せもする。旅の中継点で忙しく行き交う人々のように。むろん、サス・リパッティが、足止めをくらったのも当然、空港であろうし、その体験が本作に影響を与えてもいるのだろう。だが個人的に注目したいことは、これまでヴラディスラヴ・ディレイのアルバムはフィンランドの真冬を思わせる極寒の音響ダブであったが、本作は空港や都市の雑踏を思わせる音響に仕上がっている点である。アルバム名が、ヴァンターやクオピオなどフィンランドの都市名から、『ビザ』に変わったのも(自身が入国拒否されたことへの皮肉としても)、その事実を象徴しているように思える。

 また、アンビエントで空港とくれば、ブライアン・イーノの名盤『ミュージック・フォー・エアポート』も思い出してしまうが、本作と『ミュージック・フォー・エアポート』では、流れている時間がまるでちがう点が(当然だが)おもしろい。『ミュージック・フォー・エアポート』は、いわば雑踏の中において、不意に音楽を聴取してしまうような環境音楽である。普段はその音に気がつかなくとも、ふと耳に入ったとき、その音楽によって自身の時間が変化するような感覚とでもいおうか。
 対して本作『ビザ』は、雑踏の中だからこそ静けさを感じるような音響空間がコンポジションされているのだ。多種多様なざわめきがつねに環境化し、結果、それは静寂になる。たしかに本作は、空港や都市において、さまざまな音やノイズが交錯する感覚にとても似ているのである。本作は21世紀の旅行者が聴きとる都市のアンビエンス/アンビエントなのだ。

 アルバムは全5曲収録されているが、中でも特質すべきは、1曲め“Visaton”である。このトラックでは、さまざまなノイズや持続音がミュージック・コンクレートのように接続し、まるでアンビエント・ダブと化したピエール・シェフェールのような音が展開している。22分50秒の長尺だが、構成が絶妙でありまったく飽きない。まるで流れ行く光景のような独自の速度感によって、サウンドの素材がコンポションされているのだ。リズムはビートではなく、サウンドの周期によって影のように鳴っており、やがて明確なループを形成することになるだろう。
 そして、アルバムのクライマックスは、トラックが4曲め“Vihollinen”だろう。非周期的な打撃音に、透明な持続音がレイヤーされていくトラックに、いくつもの音響が交錯し、多層的なノイズ・アンビエントが形成されいる。楽曲途中からは、明確なリズムが刻まれ、いわばヴラディスラヴ・ディレイ的な音響ダブ的な音響空間へと移行するだろう。その音響的な快楽性や、即興的な構成・展開の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。

 それにしても、である。インダストリアル・テクノや、ダーク・アンビエント、グリッチなどのノイズを主体にした電子音楽が、それなりに音楽ファンに受け入れられている現在の状況はやはり興味深い。私見だが、そこにクラッシュしつつある近代世界(モダニズム)の終わりの予兆を感じ取っているからではないかとも思う。壊れつつある世界への予兆。それゆえのエラーへの偏愛。エラーへの同一化。エラーへのアディクト。いわば合理性=モダンへのノイズ・レクイエム。まさに「さらば、言葉よ」とでもいうように(私などは4曲め“Vihollinen”の途中で聴こえる微かなピアノの響きに、近代への鎮魂を(勝手に)聴きとってしまうのだが……)。
 その意味で、年末年始にかけて本作を聴きつづけていたのもあながち的外れともいえないだろう。すぐれた音楽は、時代のサウンド・トラックになりえる。現在的潮流とリンクした重要なアルバムでもある。

デンシノオト