ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Theo Parrish Japan Tour 2023 ──セオ・パリッシュが来日 (news)
  2. interview with Loraine James 路上と夢想を往復する、「穏やかな対決」という名のアルバム | ロレイン・ジェイムス、インタヴュー (interviews)
  3. WWWβ ──これは尖っている! 渋谷WWWの最深部に新たな「場」が誕生 (news)
  4. Natalie Beridze - Of Which One Knows | ナタリー・ベリツェ (review)
  5. Caterina Barbieri - Myuthafoo | カテリーナ・バルビエリ (review)
  6. Laurel Halo ──ローレル・ヘイロー、5年ぶりのアルバムがリリース (news)
  7. SUGIURUMN ──ベテランDJ、気合いMAX。スギウラムが新曲を発表 (news)
  8. Hi Tech - Détwat | ハイ・テック、ゲットーテック (review)
  9. 10月開催の「AMBIENT KYOTO 2023」、坂本龍一、コーネリアスほか出展アーティストを発表。テリー・ライリーのライヴもあり (news)
  10. Fabiano do Nascimento ──ブラジル音楽とLAシーンをつなぐギタリスト、ファビアーノ・ド・ナシメントの来日公演 (news)
  11. Tirzah ──2023年の絶対に聴き逃せない1枚、ティルザのサード・アルバムが登場 (news)
  12. Columns 創造の生命体 〜 KPTMとBZDとアートのはなし ② KLEPTOMANIACに起こったこと (columns)
  13. talking about Aphex Twin エイフェックス・ツイン対談 vol.2 (interviews)
  14. interview with Wu-Lu 世界が変わることを諦めない音楽 | ウー・ルー、インタヴュー、マイルス・ロマンス・ホップクラフト (interviews)
  15. Milford Graves With Arthur Doyle & Hugh Glover - Children of the Forest | ミルフォード・グレイヴス (review)
  16. interview with IO KoolBoyの美学 | KANDYTOWN、イオ、キャンディタウン、喜多見 (interviews)
  17. Snow Strippers - April Mixtape 3 | スノウ・ストリッパーズ (review)
  18. Columns 黄金期NYヒップホップの神髄 ──発掘されたメイン・ソース幻のアルバム『The Science』について (columns)
  19. Columns 8月のジャズ Jazz in August 2023 (columns)
  20. interview with Jessy Lanza クラブ・ポップの万華鏡 | ジェシー・ランザ、インタヴュー (interviews)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Jamison Isaak- Cycle Of The Seasons

Jamison Isaak

Ambient

Jamison Isaak

Cycle Of The Seasons

Flora / PLANCHA

Tower HMV Amazon iTunes

デンシノオト   Feb 04,2019 UP

 この『Cycle Of The Seasons』は、その名のとおり、めぐる季節を感じさせてくれるアンビエント・ミュージックである。あるいは観葉植物のようなオブジェのようにそこにある環境音楽でもある。まさに瀟洒なインテリア・ミュージック。もしくはモダン・クラシカルな音楽集。
 いずれにせよ流していると空間に良い空気やムードが生れるタイプの音楽だ。たとえるならブライアン・イーノのアンビエント音楽の21世紀版か、それともペンギン・カフェ・ オーケストラの室内楽のエレクトロニック版か、もしくは尾島由郎の環境音楽の系譜にあるアンビエント音楽か、それともニルス・フラームなどモダン・クラシカル音楽の流れにある同時代的な音楽家か。要するに、そういったインテリアな音響音楽の系譜の作品なのである。

 本作は カナダのブリティッシュ・コロンビアを活動拠点とするティーン・デイズのジャミソン・イサークによる本人名義のアルバムである。ティーン・デイズについてもはや説明不要かもしれない。2010年代のチルウェイヴ・ムーヴメントによってその頭角を表し、すでに多くのリスナーを獲得している音楽家だ。
 2012年にリリースしたファースト・フル・アルバム『All Of Us, Together』(2012)が話題を呼び、2015年にはバンド編成による『Morning World』(2015)もリリースするなど、彼の才能と活動はムーヴメントに留まるものではない。
 2017年には自身のレーベル〈Flora〉から美しいアンビエント・ポップ・アルバム『Themes For Dying Earth』と、そのアウトテイク集的なアンビエント・アルバム『Themes For A New Earth』という連作を発表し、コンポーザーのみならずサウンド・デザイナーとしても類まれな才能の持ち主であることを改めて示した。
 2018年は『Themes For A New Earth』からの流れを継ぐように、〈Flora〉からジャミソン・イサーク名義でアンビエント・クラシカルな「EP1」と「EP2」をデジタル・リリースした。くわえてミニマルな『Spring Patterns』もカセット・リリースする。二作とも電子音や楽器が密やかな会話のように音楽を織り上げ、小さな環境音やの微かなノイズがレイヤーされるミニマルかつアンビエントなヴォーカルレスの音楽だ。モダン・クラシカルな音楽とも共振する「EP1」と「EP2」(エンジニアのジョナサン・アンダーソンのペダル・スティールが良いムードを醸し出している)、スティーヴ・ライヒのミニマル・ミュージックを思わせる『Spring Patterns』という作風の違いも興味深い。

 本作『Cycle Of The Seasons』は、「EP1」「EP2」「Spring Patterns」を1枚のCDにまとめたアルバムでもある。とはいえお手軽な企画盤ではない。リリースジャミソン・イサークが主宰する〈Flora〉からのリリースでもあり(日本側のリリース・レーベルは〈PLANCHA〉)、彼の美意識がアートワークにまで反映された素晴らしいアルバム作品に仕上がっているのだ。収録はリリース順、全16曲を収録している。1曲めから8曲めまでが「EP1」「EP2」の収録曲で、9曲めから16曲めまでが『Spring Patterns』収録曲となっている。
 通して聴くと、イサークの音楽日記/随想を聴いている気分にもなる。ジャミソン・イサークによる2018年の音/音楽の記憶と記録といってもよいだろう。いやそもそも〈Flora〉じたい、レーベル名、アートワーク、アルバムやタイトルからも分かるように季節や地球の円環を意識しているものが多いのだ。つまりジャミソン・イサークが生きるカナダという地における季節のサイクル、花や木の円環、彼の人生、その変化が、その音楽に込められているとはいえないか。
 中でも本人名義のEPシリーズは、イサークのパーソナルな思いや感覚の結晶したライフ・ミュージックのように思えた。折々の思いを綴った日記のようなアンビエント音楽とでもいうべきか。特にピアノと電子音が密やかなタペストリーを紡ぎ出す“Wind”や“Animals”という曲は、ゆったりとした時の流れに、間接照明のやわらかい光を当てるようなサウンドとなっていて本作を代表する曲に思えた。まるで日々の記憶を溶かしていくようなトラックなのだ。

 本作を再生すると、まるで音と空間が新たに関係を結び直し、その場の空気が不意に変わっていくような感覚を覚えた。小さなアート作品を部屋に飾るように、環境と共にある音楽とでもいうべきか。つまりは「環境音楽」の現在形である。あたりまえの生活の中に、繊細な色彩のアンビエンスを添えてくれる、そんな音楽集/アルバムである。

デンシノオト