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松永拓馬

AmbientElectronicaGlitchPop

松永拓馬

Epoch

ecp / Pヴァイン

P-Vine

松島広人 Dec 13,2024 UP

 デコンストラクテッド・クラブがいつしかSNSやパーティの隅での雑談で「デコクラ」といういかにも日本的な略称で呼称されはじめたのを目に/耳にして以降、実験的な試みというのは必ずいつかどこかのタイミングで形骸化や飽和といったフェーズに向かってしまうものなのかもな、となんとも言えない気持ちになった。「さまざまな枠組みを片っ端から脱構築したら面白いかも?」という素朴な空想がいつしかありふれたテンプレートになってしまっていることに気づき、そのタイミングでオーセンティックな表現やトラッドなジャンルの持つ大樹のような強固さを再発見し、新鮮味に欠ける印象だった過去の作品群が突如として極彩色の輝きを放ちはじめるように見えてくる……といったような、いわば守破離の破と守を取り違えたような価値観の変化を、僕はここ数年で幾度となく繰り返した。

 もっともこれはパンデミック世代(コロナ禍になんらかの表現活動に取り組みはじめ、初期衝動のままにそれを前進させていったすべての人びと)の多くが内包する共通項のようなものだと(勝手に)考えていて、スターダムへ駆け上がることを目指す(あるいはそうせざるをえない)人も、ひたすら表現を深化させ続けていきたいだけの人も、どちらにせよこのタイミングでようやくオーセンティシティに目を向けるようになる、というのがいまの一般的な感覚だろうと思う。

 しかしながら、松永拓馬は最初からそういった感覚とは別のところにいた。たまたま一時の混乱とともにそうした同世代と交わっていたにすぎず、彼のまなざしはどのようなコミュニティと接していても “ちがうなにか” へ向けられていたようにいまは思える。

 今年の春先にも「ポスト・クラウド・ラップ」というテーマで取り上げた松永拓馬のアルバム『Epoch』が、このたび〈P-VINE〉よりヴァイナル/CD/カセットテープの3形態でフィジカル・リリース。記念品やファン・グッズとしてではなく、仮に自身の存在が消えたとしても残るものとして世に作品を送り出す、というスタンスひとつとってもポスト・コロナの新世代の刹那的な動き方とは対極に位置する遠大な時間感覚が伝わってくるし、そもそも本作のマスタリング・エンジニアにはダブ・プレートのカッティングで世界的な支持を集めるWax Alchemyがクレジットされていることからも、1年、1ヶ月、1日、1時間、1分といったタイム感では伝わらずとも長い時間をかけて真意を届けたい、という意思が込められているように思える。

 そんな『Epoch』の制作中、松永拓馬とMiru Shinodaは徹底的に音楽の聴取体験や制作におけるセット/セッティングや、それらを実行する前の心身のチューニングに強い意識を向けていたことをQetic掲載のインタヴューで明かしている。全編にわたってアナログ・シンセサイザーのProphet-10とデジタル・シンセサイザーのSUPER6がフィーチャーされており、アナログとデジタルが、モノラルとステレオという対極的な概念を山中でのパーソナルな遊び(インタヴュー内では「2人レイヴ」と称している)などを重ねることで互いに溶解させ、マスタリング時には実作業前に和ろうそくを見つめながら茶を囲んだという。
 インスタントにあらゆる情報をいつでも過剰摂取でき、サンプル・パックのように音楽を消費財として扱えてしまう時代の影響を露骨に受けてDJをはじめた自分にとっては、ちょっと背筋の伸びるエピソードだった。その上で、現行のオルタナティヴ・ラップやアンダーグラウンドでいまユースが紡いでいる熱気とも、直接的に交わらずとも感覚をうっすら共鳴させている。そのような点をとっても、本年リリースされた日本の音楽作品のなかでは一際輝くアルバムだったと思う。

 改めて『Epoch』をオフィスや喫茶店、電車、遠征先、公園、寝室、クラブ、とさまざまな場所で聴いたりプレイしたりすると、毎回のように違った印象が後に残る。騒々しい街なかで聴けばクラウド・ラップ的な新しいスワッグの気配が色濃く感じられるし、静かな郊外で聴けば音の細かな粒立ちに陶酔させられるし、クラブのサウンド・システムでプレイすればサウンドスケープの深淵さが恐ろしくもなる。自然のなかで再生すれば彼らのセッティングの一端にごくわずかながら触れることができるし、寝室で天井を眺めながら聴けばあるときには無感動で抽象的に感じられたはずのリリックが切実なものとして胸を刺す。

 松永拓馬が目指しているだろう、新しいオーセンティシティをゼロから築き上げるという並大抵ではない挑戦を軽やかに実行していくには、人と人の自然な交歓が欠かせない。その交歓を推し進めるのは、結局のところ動物的な直感がお互いに呼応し合うかどうかが決め手になるわけで、間違いなく『Epoch』に収録された8つの楽曲はそれぞれが独立しつつもひとつのまとまりとして、聴き手のセッティングに応じて姿を変え、個々人の奥底に横たわる根源的ななにかに訴えかけるはずだ。僕もあなたも「でかいなにかの一部」だとTr.8 “いつかいま” で松永拓馬もそう語りかけている。

松島広人