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Sunburned Hand Of The Man

Sunburned Hand Of The Man

A

Ecstatic Peace!

野田 努   Mar 26,2010 UP
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 先日、dommuneの〈ダブステップ会議〉で話したように、キエラン・ヘブデン(フォー・テット)はここ数年で注目すべき音の冒険家のひとりである。彼自身のレーベル〈テキスト〉から発表したブリアルとのスプリット・シングル、そしてアルバムのリリースに先駆けてリリースされたシングル「ラヴ・シティ」でフィーチャーしたふたりのリミキサー――UKファンキーを代表するロスカといま将来を期待されているジョイ・オービソン――を選択するセンス、そしていまから遡ること2007年、USアンダーグラウンドに広がるフリー・フォークのシーンにおいてその中核をなしているサンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンの『ファイアー・エスケイプ』(リリース元はノルウェイの〈スモール・タウン〉で、アートワークはヤマツカ・アイ)のプロデュース......こうした彼の新しい動きに対する素早い働きかけとその成果には舌を巻くばかりだ。それらヘブデン絡みの作品のすべてが良いのだ。

 とくに注目したいのは、サンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンのプロデュースである。何故なら、サンバーンドのようなコミュニティめいた、サイケデリックでフリーキーなインプロヴィゼーション集団に彼のようなエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーが手を加えることは、その筆舌に尽くしがたい音の複雑さを結局のところポップという現代の信仰のもと、ただ手際よく単純化しかねないからである。サンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンのようなバンドが、何故大量なリリースを続けているかと言えば(1998年からはじめて、すでに50枚以上)、バンドにとっての目的が演奏行為そのものにあり、その演奏プロセスにのみ真実があり、そしてその結果などは極端な話、まあ、どうでもいいからであろう......というのは僕の勝手な憶測だが、もし本当にそうであるのなら、サンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンのプロデュースとはバンドの生命にとっての矛盾となる。そういう観点から言えば、ヘブデンは勇気ある試みをしているのだ。

 サーストン・ムーアの〈エクスタティック・ピース!〉からリリースされた『A』は、『ファイアー・エスケイプ』以来のヘブデンのプロデュース作である。以前バンドが〈エクスタティック・ピース!〉から出したアルバム名が『Z』だったので、それに準じて『A』なのだろう。例によってアートワークが秀逸で、ポスターも封入されている。こうした姿勢はこの10年のUSアンダーグラウンドにおいて顕著で、それが商品である前にアートであることを主張しているようだ。それはまあ、いつものサンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンである。もっともメディアからの"フーリー・フォーク"というレッテルを拒むかのように、ここ数年彼らははジェリー・ガルシアとジョン・フェイヒィとの中間で鳴っているようなフォーキーな感触を表に出していない(ように思われる、すべて聴いているわけではないのだけれど)。

 新しく録音されたサウンドは、僕の耳にはこれは、サンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンとフォー・テットのコラボレーション作のようだ。フォー・テットのアルバムをサンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンがプロデュースしたと言って良いほど『ファイアー・エスケイプ』以上にエレクトロニック色が際だっている。そして〈エクスタティック・ピース!〉の好みが反映されているのだろう、『A』は『Z』同様にささくれ立っている。あるいは『ファイアー・エスケイプ』より悪戯っぽく、フリーキーだ。電子のイズが耳に付くが、もちろん彼らがブラック・ダイスの背中を見ているようなことはない。フォー・テットが最新作で見せたミニマリズムとダブ処理がところどころで顔を出していて、それが『ファイアー・エスケイプ』にはない効果を生んでいる。

 思いつきで作ったような1分ほどの曲が4曲、3~4分の曲が4曲、7分の曲がふたつある。"ナウ・リフト・ジ・アウター・フィンガー"は不規則な電子ノイズとドローンとファンク・ベースの奇妙な混合で、"ロフト・アット・シー"はクラウトロック的ドラミングと抽象的なミニマル・ダブとのブレンドによるスリリングな展開を持った曲。"ア・レッド・ラグ・トゥ・ア・ブル"は酔っぱらったコニー・プランクがスタジオで踊っているような曲だ。"ザ・ブック・オブ・アビリティ"もユニークな曲で、ヘア・スタイリスティックとベーシック・チャンネルのあいだでこだましている。"アクション・フィンガー"はアルバムのなかでは唯一シンプルな曲で、いわば宇宙ステーションで演奏される電子ノイズとノイ!である。

 『A』は、『ファイアー・エスケイプ』の評判の良さも手伝って実現した作品だろう。僕は、いまの時点で『ファイアー・エスケイプ』か『A』と問われれば迷わず『ファイアー・エスケイプ』を選ぶけれど、数ヶ月後には考えを変えているかもしれない。なにせまだ買って間もないからね。入荷してもすぐに売り切れてしまい、再入荷をこの1ヶ月待っていたのである(好きな人がいるのだ、この世界のいたるところに)。

野田 努