ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. valknee - Ordinary | バルニー
  2. Columns Kamasi Washington 愛から広がる壮大なるジャズ絵巻 | ──カマシ・ワシントンの発言から紐解く、新作『Fearless Movement』の魅力
  3. Cornelius ──コーネリアスがアンビエント・アルバムをリリース、活動30周年記念ライヴも
  4. Columns ♯6:ファッション・リーダーとしてのパティ・スミスとマイルス・デイヴィス
  5. Natalie Beridze - Of Which One Knows | ナタリー・ベリツェ
  6. Li Yilei - NONAGE / 垂髫 | リー・イーレイ
  7. 酒井隆史(責任編集) - グレーバー+ウェングロウ『万物の黎明』を読む──人類史と文明の新たなヴィジョン
  8. interview with Lias Saoudi(Fat White Family) ロックンロールにもはや文化的な生命力はない。中流階級のガキが繰り広げる仮装大会だ。 | リアス・サウディ(ファット・ホワイト・ファミリー)、インタヴュー
  9. interview with Larry Heard 社会にはつねに問題がある、だから私は音楽に美を吹き込む | ラリー・ハード、来日直前インタヴュー
  10. Columns 4月のジャズ Jazz in April 2024
  11. Tomeka Reid Quartet Japan Tour ──シカゴとNYの前衛ジャズ・シーンで活動してきたトミーカ・リードが、メアリー・ハルヴォーソンらと来日
  12. Jlin - Akoma | ジェイリン
  13. 『成功したオタク』 -
  14. Ryuichi Sakamoto | Opus -
  15. みんなのきもち ――アンビエントに特化したデイタイム・レイヴ〈Sommer Edition Vol.3〉が年始に開催
  16. ソルトバーン -
  17. interview with Joy Orbison ダンス・ミュージックは反エリート、万人のためにある  | ジョイ・オービソン、インタヴュー
  18. interview with Shabaka シャバカ・ハッチングス、フルートと尺八に活路を開く
  19. Overmono ——UKダンス・シーンの真打ち、オーヴァーモノがついにデビュー・アルバムをリリース
  20. tofubeats ──ハウスに振り切ったEP「NOBODY」がリリース

Home >  Reviews >  Album Reviews > F- Energy Distortion

F

F

Energy Distortion

7even Recordings

Amazon iTunes

野田 努   Apr 05,2010 UP

 先行リリースされた同タイトルの12インチ・シングルにおけるアントールドのリミックスがすでに話題となっているフレンチ・ダブステッパー、フォローレン・アウペティ、通称"F"のデビュー・アルバムだ。Fはフランスのシーンにおける草分けのひとりで、彼の地で最初のダブステップ・レーベル〈セヴン・レコーディングス〉の看板アーティストである。デビューは2008年で、この年にはFともっとも作風が近い2562がファースト・アルバムを発表している。

 『エナジー・ディストーション』は、現在のダブステップの広がりを確認する1枚としてもすでに話題となっている。僕と同年代の人間はフレンチ・テクノのパイオニア、ロラン・ガルニエと彼の〈F.コミュニケーションズ〉を重ね合わせてしまうだろう。またしてもデトロイトからの影響が深く刻まれているからだ。
 あるいは、このアルバムはいまのダブステップ・シーンのある局面を強調している。ガラージとテクノの中間に位置しながらベルリンのミニマル・ダブが響いているという例の路線、2562やマーティン、あるいはロンドンからベルリンへ移住したスキューバらが押し進めている路線だ。そういう意味で目新しさはないと言えばない。ダブ処理もずいぶんと素朴で、真っ当と言えば真っ当である。が、それでも『エナジー・ディストーション』がシーンで温かく迎えられているのは、個々のトラックの出来の良さゆえだろう。リズムのプログラミングのセンスが良く、アントールドのような奇抜さはないが、素直なビートの心地良さがある。パーカッシヴな響きと、控え目だが効果的な電子音とのブレンドもうまい。すべてのトラックは滑っていくようにグルーヴィーで、それはこの人がダンスフロアからやって来たことを知らしめているのだろう。派手さはないが、DJやダンサーたちに愛される類の音楽なのだ。もちろん、ベーシック・チャンネルやチェイン・リアクションのように家のなかでも繰り返し再生されることにもなるはずだ。
 "シフト"はエイフェックス・ツインの初期のアンビエントを彷彿させるようなキラキラとした響きを有している。"アナザー・プレイス"はガラージのリズムを下地にしながらホコリにまみれた路上から遠く離れ、クリーンで透明感のある空間で鳴っている。"ホログラム"はジェフ・ミルズめいたパーカッシヴなミニマリズムのトラックにダブのベースとエフェクト処理をかませている。"スペースウォーカー"のようなトラックではミニマル・テクノのクリシェをそのまま使っているものの、リズムトラックが入ってきた瞬間にそれを新鮮な次元へと瞬間移動させる。

 アートワークも秀逸だ。UKダブステップのダークなイメージとは異なる、まるでラウンジ・ミュージックのジャケットのようなエレガントなデザインである。こうした上品な洒落っ気が彼の抽象的な音楽にも反映されているように感じる。何はともあれ2010年のダブステップにおける最初の成果だ。しばらくのあいだ僕はこのアルバムの良さを訴えることになるだろう。

野田 努