ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Cornelius - Refractions | コーネリアス
  2. heykazma ──セカンド・シングル“blueberry”がリリース
  3. interview with Tyondai Braxton ひさびさの新作を出した実験音楽家タイヨンダイ・ブラクストン
  4. interview with NF Zessho サンプリングは、それを突き詰めればDJプレミアみたいなすごいことになるけど、俺がDJプレミアになれるわけじゃない。だったら自分にないものを埋めたいと思って。
  5. interview with HASE-T and Bose パンクからレゲエ/ヒップホップへ、それから30年後の “現代” へ | ──80年代日本ラップ黎明期のリアルな物語をHASE-TとBoseが語る
  6. R.I.P. Miru Shinoda 追悼:篠田ミル
  7. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  8. Columns 8月のジャズ Jazz in August 2026
  9. interview with midori jaeger 静寂な水面にぽたりと落ちて波紋を広げていくような | ──注目のチェロ奏者ミドリ・イエガー、インタヴュー
  10. Juan Atkins ──デトロイト・テクノの創始者、ホアン・アトキンスが日韓ツアー、来日は13年ぶり
  11. ニートtokyo ──約9年の活動に幕、記念としてTシャツ、フーディーなどのグッズが発売
  12. interview with MOONGA K. 南アフリカ音楽の完全なる新世代、ムーンガ・K.登場
  13. Mamoru Goth-O ──“暗黒綺想家” 後藤護の新刊『博覧狂気の怪物誌』が発売
  14. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  15. Phew, Danielle De Picciotto - Paper Masks
  16. 自転車日記 - デヴィッド・バーン 著 / 東辻賢治郎 訳
  17. Half Japanese - Overjoyed  | ジャド・フェア、ハーフ・ジャパニーズ
  18. Roy Montgomery & Martha Skye Murphy - Nebular | ロイ・モンゴメリー、マーサ・スカイ・マーフィー
  19. Columns ♯8:松岡正剛さん
  20. Crack Cloud ──カナダのインディ・バンド、クラック・クラウドの来日公演が決定

Home >  Reviews >  Album Reviews > Zs- New Slaves

Zs

Zs

New Slaves

The Social Registry

Amazon iTunes

野田 努   Jul 14,2010 UP

 アルバート・アイラーが中原昌也とスティーヴ・ライヒといっしょにブラック・メタルのセッションをはじめたとしたら......。

 残忍なアヴァンギャルド(あるいはブルタル・プログレ=残酷なプログレ)としてその筋では名高いジーズによる新しいアルバムは"新しい奴隷"なるタイトルを冠している。〈ザ・ソーシャル・レジストリー〉から昨年出している12インチが"モダン・ホワイトの音楽"だったから、サックス奏者のサム・ヒルマー率いるこの新奇なフリー・ジャズ集団が4枚目のアルバムにおいてアメリカの植民地主義をテーマに掲げていることは容易に想像が付く。"コンサート・ブラック""エーカーズ・オブ・スキン"等々といったアルバムの曲名は、ホワイト・アメリカに人種差別にまつわる忌々しい記憶を想起させるらしい(黒人のリンチや白人警察の暴力行為、奴隷船における疫病等々)。アメリカのある音楽ライターは本作を――音楽性はまったく違うものの――パブリック・エネミーと同類の表現として評論しているほどだ(ちなみにジーズは白人グループである)。

 われわれがジーズの"新しい奴隷"から触発されるのは、普天間基地問題で明らかにされたような「所詮アメリカはアメリカだった」という事実だろうか、あるいは左翼の教科書に出てくるマントラ=「資本主義の......」「搾取された......」といった言葉だろうか。とにかくはっきりしているのは、いま彼らは奴隷に関する"新しい物語"を語ろうとしていることである。

 
 ジーズの録音物としてのデビューは2003年だが、このプロジェクトはサックス奏者のサム・ヒルマーが1990年代後半にマンハッタン音楽学校でジャズを学んでいるときに始動している。ジャズを土台としながら、ブルックリンのDIYシーンのなかでジャズのエリート意識とお行儀のよいロックをトイレに流すと、彼らはノイズ・パンク・サウンドの探求にハンドルをまわし、戦闘的で、いかにも喧嘩っ早そうなその音楽を磨いていった。グループはときにカルテットであり、ときにセクステットでもあった。デトロイト・テクノと初期ヒップホップに敬意を払いながら、彼らはフリー・ジャズの激しさにヘヴィー・メタルのギターを調合させ、さらにそれをミニマリズムに変換させるのだった。それはアグレッシヴで、扇情的で、隙あらば攻撃してきそうな勢いの音楽である。オーヴァーグラウンドでもアンダーグラウンドでも逃避主義が主導権を握っているこの時代のポップにおいて、狂ったように暴れているが、そのことだけでもこの音は価値があるように思える。ジーズの前では、レディオヘッドやゴッドスピード・ユー・ブラック・エンペラー!でさえお涙頂戴のメロドラマに聴こえてしまうのだ。

 しかもジーズの爆発力は、アヴァンギャルドの退屈さとも無縁である。3人組となったジーズによるこのアルバムも、ただ闇雲に爆発しているわけではない。"コンサート・ブラック"や"エーカーズ・オブ・スキン"は異教徒たちの呪詛のようだが、その奇妙で不気味な響きは耳を離さない。"ジェントルマン・アマチュア"や"ドント・タッチ・ミー"といった曲ではSFPがミニマルをやったようなハードコア・サウンドを展開する。苦しみのなかから生まれたであろうその破壊的なノイズには、しかし人を惹きつける力がある。"メイソンリー"はアルバムのなかで唯一おだやかさを有したアンビエント・テイストの曲だが、それは文字通りの嵐の前の静けさだ。

 20分にもおよぶ表題曲"ニュー・スレイヴ"がアルバムのクライマックスなのは言うまでもない。これは......特筆すべき曲で、"怒り"というものをここまで露わに表現した音楽を久しぶりに聴いた気がする。単調なミニマル・ノイズと爆風のようなメタル・ギターとの対比によって進行するディス・ヒートめいたこの曲は、そして後半の15分過ぎからがとくに凄まじい。まるでそれは......彼らがぶっ倒れるかリスナーが逃げるかの勝負事のようである。ウォッシュト・アウト(疲れた)なムーヴメントへの嫌がらせ......なわけはないだろうが、ひとつ言えるのは、気が狂いそうになるほどこの壮絶な演奏が収録されているだけでも、本作は注目されるべき充分な価値があるということだ。

 アルバムの最後はふたつの"ブラック・クラウン・セレモニー"という曲で締めている。最初の"ブラック・クラウン・セレモニー"は13分もあるが、不思議な響きのダーク・アンビエントめいた曲だ。サックスの音色は地獄の底から聴こえてくるようだが、淡々とした禁欲主義的な展開がこの曲の表情を曖昧にしている。それでも"六界"なるサブタイトルが付けられた二番目の"ブラック・クラウン・セレモニーII"からは、非業の死を遂げた死者たちの悲鳴が聴こえるようだ。それはこのアルバムにどうしようもない後味の悪さと不吉な余韻を残している。

 アートワークには暗い海に投げ出された奴隷船にまとわりつく化け物が描かれている。その素晴らしい絵は、この大胆不敵なアルバムに相応しい。

野田 努

RELATED

Zs- Xe Northern Spy

Reviews Amazon iTunes