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Duffstep

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三田 格   Mar 10,2011 UP

 イヤなことが続いたりすると、良くも悪くも感情を高ぶらさない音楽が欲しいなと思う。感覚を鈍くさせてくれて、どんな小さな感動にも誘わない。それでいて飽きない。あるいは聴きたくないという感情を呼び起こさない。エリック・サティのいわゆる「家具としての音楽」はドイツ人に対する皮肉のようなもので、観念的になり過ぎないという意味だったということは前に『リミックス』の連載で書いた通り。しかし、その誤解に基づく「家具としての音楽」がここではあったらいいなということになるだろう。存在感のない音楽という意味ではないし、古さが気になるようだとそれもマイナス要因だから、ある程度の同時代性を持っている必要はあるし......ということを考えていると、これがけっこう難しい。サブリミナル・マインドを操ってくれというオファーを自分自身に向けている以上、自分が自分に音楽を聴かせているという意識を取り除ければ早いんだろうけれど、音楽を聴かされている自分(=自己)がそれを聴かせている自分(=自我)から距離を置くためにはそれなりにテクニックもいる(時間差やブラインド式などを使えば絶対にできないことではない)。しかし、この瞬間をなんとかしたいと思うような時に即効的かつ有効な手段はあまりない。どうすればいいのだろう。どんな音楽を自分に聴かせればいいのだろうか。自己は疑われるものだけど、それに働きかける自我に疑いを持った者はいないというのは誰の言葉だったろうか。自分に聴かせる音楽を選ぶという行為は本当に難しい。

 これまでダフ・ディスコの名義でダンス・トラックをつくってきたジェレミー・ダフィが自分の名前をもじったダフステップ(=価値のないステップ、あるいは役に立たないステップ)の名義でリリースしたデビュー・アルバムはセンチメンタルに揺れる部分も多少は含みながら、現時点でもっとも「家具としての音楽」然としている。何度、聴いても感情は揺れないし、退屈もしない。無機質ではなく、かすかに色気のあるダウン・ビートがこの世の無駄をすべて振動に変換し、のっそりとここまで運んでくれる。大して面白くもない反面、気に障るところもまったくなく、なんというか、喜怒哀楽のニッチ部分を上手に埋めてくれる。また、もう少し音楽的に凝ったものだと、昨年末にリリースされたジャネイロ・ジャレルのセカンド・アルバムはラテン・ミュージックの要素をさりげなく消化しつつも、ラテン系にありがちな派手な展開をほとんど削ぎ落としているので、やはり飽きずに流し続けることができる。緩急をつけたブレイクビーツは少し感情を揺さぶる面もあるけれど、全体としては抑制が効き、それよりも細かいテクニックに耳が行きやすい(タイトル曲の前後はかなりいい)。ラロ・シフリンかデオダートがクラブ・サウンドに転向したら、場合によってはこうなったかも?
 ジャレルをフック・アップしたのは懐かしきボム・スクウォッドだったそうで、その時はニューヨークを拠点にしていたものが、最近は西海岸に移動してブレインフィーダーの一員に加わったという話も(パブリック・エナミーとフライング・ロータスにパイプができたということか?)。ヘンな風に変化しないといいんだけど......

三田 格