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Alfred Beach Sandal

Alfred Beach Sandal

One Day Calipso

鳥獣虫魚

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磯部 涼   Jul 08,2011 UP

 アルフレッド・ビーチ・サンダル(以下、ABS)の音楽性を説明するとしたら、とりあえずは、シャムキャッツの夏目知幸による「カリブ海のキャプテン・ビーフハート」というコピー以上に的確なものはないだろう。あるいは、元〈ロウ・ライフ〉の浜田淳が編集人を務める『音盤時代』創刊号に二見裕志が寄せていた、70年代後半から80年代前半にかけて、プログレッシヴ・ロックのアーティストたちが、インプットをそれまでのジャズや現代音楽からワールド・ミュージックに、アウトプットを"重く暗い"ものから"軽く明るい"音楽へ切り替えたことについてのテキスト「トロピカル洞、その陰と陽」がそれを代弁してくれる。曰く、「この距離感、遠い異国のフレーズを自前の楽器で奏でることの快楽と違和感がないまぜになった確信のなさが、ぼくにはとても重要に思える。それはぼくの距離感でもあるからだ。照明や家具、さらにはカーテンの柄を変え、BGMの音楽を変えたところで、ぼくの生活は依然としてきのうのままなのだ」。

 ABSは北里彰久のソロ・ユニットで、この『いつかの、カリプソ』がデビュー・フルレンスになる。ちなみに、前身のバンド、モグサ・デルタは、サン・シティ・ガールズが『トラウト・マスク・レプリカ』をカヴァーしているような、ノイジーなローファイ・ファンクだったが、本作では、以前までディストートしていたエキゾティシズムへのこだわりを、よりアコースティックに表現することで、解放的な響きを獲得している。しかし、それは、"本物"に近付くのではなく、むしろ、変態性が露になったという意味で、だが。

 ただし、北里とドン・ヴァン・ヴリートが違うのは、バックのマジック・バンドが決して奴隷ではないということだ。それどころか、日々、セッションを繰り返し、複数のユニットを掛け持つ彼等のコミュニケーションの残像は、実に健康的なシーンのようなものさえ浮かび上がらせつつある。メンツを順に紹介すると、まずは、スティール・パンとトランペットでMC.sirafu。インディ・ポップ・シーンの顔役として知られるこの髭面の男は、コンテンポラリー・エキゾチカ・ロック・オーケストラこと"cero"や、NRBQとスライ&ザ・ファミリー・ストーンが合体したような"片想い"、中川理沙とのデュオ"うつくしきひかり"等、そのバイオグラフィーを書き出すだけで、ちょっとしたフェスティヴァルのようだ。次に、ベース、ギター、ピアノで伴瀬朝彦。ハートボイルドだが、チャックを閉め忘れているようなチャーミングさもある"アナホールクラブバンド"を率いる他、前述した"片想い"や、フランク・ザッパの意思を受け継ぐ"ホライズン山下宅配便"等、癖のあるバンドに名前を連ねている。そして、ABSのマス・ポップとでも名付けたくなる複雑なサウンドの要を担うドラムは、フリーフォームなプレイで注目を集めている一樂誉志幸。他にはサックスで遠藤里美、トロンボーンで川松桐子も。ちなみに、レーベルはイベント・スペース〈七針〉が運営する〈鳥獣虫魚〉で、八丁堀のオフィス街の地下にある、この、まるでアジトのような空間は、mmm、王舟、oono yuuki、麓健一といったモダン・アシッド・フォーク・ミュージシャンが出入りするライヴ・ハウス、またはスタジオでもあって、本作の楽曲の多くもここでレコーディングされている。コンクリートの下で、南の国を夢見ながら。

 それにしても、ceroの『world record』、アナホールクラブバンドの『泥笛』、ヴィデオテープミュージックの『Summer of Death』......と、この周辺で、屈折したエキゾティシズムがリアリティを持ちつつあるのは、一体、どういうことなのだろうか。とりあえず、この、変拍子に乗せて少年のような声で歌われる、何処かの国のいつかの物語は、放射性物質が降り注ぐプールサイドよりも、節電の要請を無視して、寒いぐらいクーラーをかけた部屋がよく似合うのはたしかである。こんな国に、こんな時代に関わりたくないんだ、とばかりに爆音で鳴らすことにしよう。

磯部 涼