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野田 努   Jan 17,2012 UP
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E王

 日本でクリスマスが普及し、定着したのは、ホワイ・シープが主張するような博愛主義が受け入れられたからではなく、ひとつには、日本人の"区切り"の感覚にフィットしからだという説がある。"聴きおさめ""歌いおさめ"という表現があるように、新たな年を迎えるにあたって1年のうちの最後の季節の終わりを感じなければいけないときに、クリスマスという外からやってきた文化は"第九"とももにうまくハマったのである。長年養われたある種の自然感覚が、季節の"区切り"を強調したがるのだ。そういう意味では、2011年から2012年にかけては"区切り"が得意な日本人にとっても後味の悪さを覚えざるをえないと言えよう。前代未聞の暴動を経験したUKにおいても同様だ。キング・クルエル(クルル?)はその後味の悪さから登場したシンガー・ソングライターである。

 僕を責めた/日々を奪った/信頼はなく/囲まれ、そして僕が地獄に堕ちるのを彼らは見た/地面を打たないで/僕は死んでいる/身体はわかっている/僕の魂は溺れ/コンクリートのなかで窒息している
"The Noose Of Jah City"

 ケン・ローチの映画から出てきたような風貌の17歳のガリガリ君、アーチー・マーシャルは、訛りの強い地元(東ロンドン)の英語で、今日的なロンドンの音――すなわちダブステップ/グライムが街のなかを駆けめぐってからの音をもって歌う。「この叙情的な音楽は必ずしも政治的ではないが、この夏宙ぶらりんになった不満、そして緊張と冷酷な感覚がある」と評したのは『ピッチフォーク』だが、実際のところアーチー・マーシャルは、彼のズー・キッド名義によるデビューにおいてビリー・ブラッグの擁護を受けている。こんな時期に......いや、こんな時期だからこそ、かつてポール・ウェラーと同盟を結び、80年代末には都内の反核デモにも参加した過去を持つ左翼活動家兼フォーク歌手の名前を聞くというのも興味深い。
 本作はアーチー・マーシャルの、キング・クルエル名義による5曲入りのデビューEPである。ダークウェイヴとロックンロールとの出会いなどとも形容されているが、実際はスタイルの新しさ以上の大きな予感を感じる作品だ。"Bleak Bake"は、リズムマシンのスネアの音を活かしたダビーな質感の、いわばポスト・ダブステップ的なアプローチを持っているが、その歌はまるで声変わりしたばかりの少年のような声で歌われている。音域は広くはないが表情は豊かで、初期のレナード・コーエンのようでもある。彼はそしてどうやら強烈な言葉を発している。「僕の心臓が僕の頭をつかんで、その縫い目を引き裂く」、さりげないメロディラインと凍えるような声は残酷な言葉を歌う。「ベッドのうえで僕は血にまみれている/それはお馴染みの光景」
 深いリヴァーブの反響するギターを鳴らしながら歌う......というとアトラス・サウンドを思い出す方も多いだろうが、この音楽はルー・リードというよりもジョー・ストラマーで、つまり文学というよりも社会を感じる。未解決で宙ぶらりんな後味の悪さを、うまく焦点を合わせることができないその苛立ちを率直に表しているという点におてはパンクとも言えよう。そしてこの暗い感覚こそ、ここ10年のあいだUKのロックが失っていたものではないだろうか。いよいよ出てきたか......2012年はキング・クルエル、そして近いうちに紹介しようと思っている24歳のロンドンの青年、トム・ザ・ライオンからはじまる。

野田 努