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Likkle Mai

Likkle Mai

Dub Is The Universe

MK STARLINER

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二木 信   Aug 03,2012 UP
E王

 「リクルマイとは何者か?」といま問われれば、反原発運動の最前線で闘う勇敢なレゲエ・ミュージシャンであると僕は答える。震災後、「音楽に何ができるか?」という騒々しい議論に加わるよりも先に、素早く、そして大胆に路上に出て声を上げたのが彼女だった。また、津波の被害にあった地元の岩手県宮古市の漁村を支援するために、LOVE BOAT基金を設立している。とはいうものの、より重要なのは、彼女の音楽が常に一貫しているということだ。彼女の創り出すレゲエ・ミュージックは震災以降、時代の変化に伴い説得力を増しているが、時代に左右されない普遍的な輝きが最大の魅力だということを強調しておこう。

 いまさら僕なんかが指摘する話ではないけれど、リクルマイが、彼女の敬愛して止まないボブ・マーリーから多大な影響を受けていることはよく知られている。ボブ・マーリーの伝記『ボブ・マーリー レゲエの伝説』の著者スティーヴン・デイヴィスは、「マルクス主義者は、彼の音楽の中に、戦闘と蜂起への呼びかけを聴いた。黒人は、ボブの書いたすべてのことに素直に共鳴できた。一方、若い白人のファンは、全人類の愛と友好のメッセージを受け取った」と簡潔に記しているが、それらすべてを全身全霊で体現してきたのがリクルマイだ。前作『マイレーション』の"Come Together For I&I"を聴いてみよう。彼女は、ボブ・マーリーのワン・ラヴの精神をストレートに歌い上げている。ちなみに、この曲を絶賛したスミス&マイティのロブ・スミスが、リクルマイのリミックスを手がけたというエピソードもある。

 リクルマイは、90年代後半から00年代前半をレゲエ・バンド、ドライ&ヘビーのヴォーカリストとして活動している。2005年に脱退したのちにソロ活動をはじめ、『ルーツ・キャンディ』『M W』『マイレーション』という三枚のアルバムを発表、『ダブ・イズ・ザ・ユニヴァース』は通算四作目のソロ作品となる。『ダブ・イズ・ザ・ユニヴァース』は、リクルマイが最も愛する70年代のジャマイカのルーツ・レゲエを基調としている。彼女の音楽は、例えばバニー・リーやジョニー・クラークのようなルーツ・レゲエに直結しているわけだが(ジョニー・クラークの名曲"Every Knee Shall Bow"のカヴァーも収録されている)、次々にさまざまな表情を見せるリクルマイの歌とリクルマイ・バンドの演奏はとにかく楽しい。甘いメロディのロックステディがあり、マイナー調のワンドロップ・ダブがあり、迫力のあるホーン・セクションにバックアップされた直球のルーツ・レゲエがある。ダブ・エンジニアを務めるのは内田直之で、"Open Your Eyes"の強烈なダブ・ミキシングを手がけるのは、キング・タビーの門下生であるサイエンティストだ。そしてレゲエのみならず、ファンクやソウル、ロックやブラジル音楽にまで造詣の深いリクルマイらしい音の拡がりがあり、それが彼女のレゲエの豊穣な魅力となっている。

 ざっくりと言ってしまえば、リクルマイのようなインディペンデントで活動しながら、カネが物を言う巨大な資本主義システムに対抗して生き抜いてきたレゲエ・ミュージシャンが、資本主義の暴走が生み出した利権まみれの原発に反対するのは当然のことだと思う。つまり、カネよりも大切なものがあるというもっともな主張を繰り返してきただけとも言える。だから何も彼女は、震災以降に、突然意見を変えたわけではない。

 政治的抵抗という意味においては、次の2曲のパンチラインにすべてが集約されている。"I Seh No"で「願うだけではもの足りない/経済至上主義の名の下で/世界中の富を吸い上げる/Vampireを許してはいけない」と経済的グローバリズムを批判し、"Just One Love Is All"では、「海山汚され/住処奪われ/どんだけ私らコケにされたの/この国とこの電力会社に叫んでやりましょ/原発やめろ!!!」と国家と電力会社にはっきりと怒りの矛先を向けている。メッセージはシンプルだが、彼女の肝っ玉の据わった行動力と歌唱力によって、突き刺さるような説得力を持って迫ってくる。

 ある反原発デモでリクルマイとTHE Kが"Just One Love Is All"をパフォーマンスしていたときのことだ。渋谷の繁華街に轟く彼女の怒りのこもった歌声に聴き入っていると、唐突に背後から肩をとんとんと叩く人物がいた。振り返ると、そこにいたのはデモでよく見る中年の私服の刑事だった。身構える僕に彼は、「良い歌だなぁ」と衒いなく感想を述べた。友人から聞いたところに拠ると、また別の刑事は「リクルマイのファンになった」と本気で告白したという。これ、本当の話ですよ。なにもここで警察との交流をセンチメンタルな美談にしたいのではない。敵対関係にならざるを得ない人間の耳を開かせ、心を揺り動かす、リクルマイの天真爛漫な歌声に感服しているのだ。やたらにピース&ラヴだけを謳うレゲエはどうにも胡散臭いし、怒りを表明することがまるで軋轢や対立を生む不毛な行為であると勘違いしているようだ。怒りは創造的な行為であるというのに。

 『ダブ・イズ・ザ・ユニヴァース』には、反骨精神とともに、自由や寛容、または多様性を愛する精神がある。つまりそれらすべてをひっくるめたものが、ボブ・マーリーの提唱したワン・ラヴとも言える。リクルマイのおおらかな歌声とリクルマイ・バンドの開放的な演奏にもよく現れている。その点において、美しい旋律が印象的なラヴァーズ・ロック風の"さよならバビロン"から"A Small Boat Is Sailing"の流れはとくに素晴らしく、テーマはシリアスだが、歌詞と曲調には遊び心と豊かな情緒がある。

 政治的勝利のために自由や寛容、愛が蔑ろにされるようなことがあれば、それはあまりにも悲しい。いまリクルマイのレゲエのリラックスしたムードが心地良く響くのは、うだるような暑さのせいだけではないだろう。2012年の緊迫した政治的情勢の渦中で、『ダブ・イズ・ザ・ユニヴァース』を聴いて、逞しくも、とろけるような甘い愛を抱きしめたくなるのは、おそらく僕だけではないはずだ。ENJOY LONG HOT SUMMER!!

近すぎるから 気づかないのか
近すぎるから 傷付け合うのか
優しさの木は 心の中で
あなたの訪れだけを 待ちわびる
"A Small Boat Is Sailing"


 追記:リクルマイさんが、8月9日の夜、〈club cactus〉という乃木坂のクラブでレゲエ・ミュージシャンのヒビキラ氏と「プロテストソング~レゲエの役割~」というトーク・ライヴをやります。マイさんの熱いレゲエ談義を堪能しましょう! http://clubcactus.jp/schedule/2012/08/talk_live.html

二木 信