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Mala in Cuba

Brownwood Recordings / ビート

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北中正和   Oct 16,2012 UP
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E王

 コーキとのデジタル・ミスティックズ名義でロンドンのダブステップの動きをリードしてきたマーラが、ジャイルス・ピーターソンの招きでキューバを訪れ、ハバナのミュージシャンの演奏を持ち帰って完成させたのがこのアルバムだ。

 ソン、ルンバ、チャチャチャ、マンボなど、多彩なスタイルのリズムで20世紀の世界のポピュラー音楽に影響を与えてきたキューバ音楽は、演奏の約束事がとても多い。約束事が多いということは、そこに他の要素が入りこみにくいということでもある。ライナーによれば、キューバで録音してきた演奏と自分のビートやサウンドの組み合わせ方を探るのが難しくて、マーラは途中で投げ出したくなった。そこでジャイルスに相談したら、プエルトリコで出会ったことのあるシンバッドが送りこまれてきて、そこからようやく作業が好転したのだそうだ。平凡なDJなら自分流のドラムとベースのリズムにキューバの打楽器類を上モノ的に飾って一件落着にしそうだが、マーラとシンバッドは一歩踏みこんだ組み合わせを考えていった。
 たとえば"The Tourist"はリズムの骨格をキューバのミュージシャンにまかせた伝統的なソンのスタイルの、ふだんのマーラならやりそうにない曲だ。弦楽器トレスのように聞こえる音は演奏者のクレジットがないが、サンプリングだろうか、音は加工されているが、フレーズは伝統的。マーラはイントロや途中で合成音を加え、伝統的なソンの新しい音色による再解釈といったおもむきの曲に仕上げている。
 もう1曲キューバ色が強いのは、アフリカ系の宗教サンテリアのお祈りを使った"Como Como"だ。地元では打楽器類の伴奏だけでうたわれるお祈りだが、ここではエレクトリック・ピアノをループして使ったり、ハーモニー感のある女声コーラスを入れたりして、これまた伝統的なものとは次元の異なる編曲をほどこしている。
 それ以外の曲はふだんのマーラ色がもっと発揮されている。冒頭の"Introduction "から"Mulata"にかけては、おしゃべりとコンガのソロからはじまり、ロベルト・フォンセカのピアノとサンプリングのマラカスが加わるところまではキューバ風だが、その後のドラムや背後のかすかな謎めいた音やベース、ピアノの残響をカットする手法などはマーラ風ということになるのだろう。美しい曲で、フルートがのっかっていれば、ぼくなどフランキー・ナックルズの未発表曲だと言われても信じてしまいそうだ(彼のハウスはキューバン/ラテン・リズムを換骨奪胎したものだった)。"Mulata"はアフリカ系とヨーロッパ系の混血女性のことだが、異なる音楽の要素がバランスよくミックスされたこの曲らしい。
 4つ打ちのリズムにピアノや打楽器がのっかる"Tribal"やテクノ系の音楽でアイコン的に使われてきたリズムを強調した"Cuba Electronic"などは、よりロンドン色の強い音楽ということになるのだろうか。ダナイ・スアレスのうたう"Noches Suenos"のようなバラードでさえ、途中で初期のダブステップ的なドラムが出てくる。

 デジタル・ミスティックズ名義の作品からすると、生楽器度が高く、過激な実験が少ないので、ダブステップのファンにはどう受け止められるのかわからないが、キューバ音楽とのフュージョンとしては誠実によく作られたアルバムだと思う。

北中正和