ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 柴田聡子 - がんばれ!メロディー (review)
  2. 中原昌也 ──作家デビュー20周年を記念し最新小説とトリビュート作品集が2冊同時リリース (news)
  3. Reeko Squeeze - Child’s Play 2 (review)
  4. ビール・ストリートの恋人たち - (review)
  5. Columns What’s the point of indie rock? インディー・ロックの核心とは何か (columns)
  6. Vince Staples - FM! / Earl Sweatshirt - Some Rap Songs (review)
  7. 闘魂 2019 - 出演:cero、フィッシュマンズ (review)
  8. ポスト・ミューザック考 第一回 (columns)
  9. Holly Herndon ──ホーリー・ハーンダンが人工知能と共作した新作をリリース (news)
  10. Sharon Van Etten - Remind Me Tomorrow (review)
  11. The Comet Is Coming ──UKジャズのキイパーソン、シャバカ・ハッチングスのザ・コメット・イズ・カミングが新作をリリース (news)
  12. 資本主義リアリズム - マーク・フィッシャー 著 (review)
  13. ポスト・ミューザック考 第二回:俗流アンビエント (columns)
  14. Norhern Soul ──『ノーザン・ソウル』、この最高な映画を見たらスリムのデニムを履けなくなる (news)
  15. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第2回 マグカップは割れ、風呂場のタイルは今日も四角い (columns)
  16. talk with Takkyu Ishino × Stephen Morris 特別対談:石野卓球×スティーヴン・モリス(ニュー・オーダー) (interviews)
  17. The Caretaker ──ザ・ケアテイカーが新作、並びに故マーク・フィッシャーへ捧げられたアルバムの再発盤をリリース (news)
  18. Lee "Scratch" Perry ──リー・ペリーがニュー・アルバムをリリース (news)
  19. interview with IO KoolBoyの美学 (interviews)
  20. interview with Masato Matsumura これからの前衛音楽のために (interviews)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Schoolboy Q- Habits & Contradictions

Schoolboy Q

Schoolboy Q

Habits & Contradictions

Top Dawg Entertaiment/Pヴァイン

Amazon iTunes

二木 信   Nov 28,2012 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 USヒップホップ・シーンでは現在、ケンドリック・ラマーのメジャー・デビュー作『good kid, m.A.A.d city』が大きな話題を呼び、日本のラップ・ファンのあいだでもずいぶん騒がれているが、同じくブラック・ヒッピーのラッパーであるスクールボーイ・Qのセカンド・アルバム『ハビッツ&コントラディクションズ』も面白い。この作品のいちばんの魅力は、スクールボーイ・Qの、ダークではあるが、自嘲気味でとぼけた感じのするギャングスタ・スタイルのラップではないだろうか。

 スクールボーイ・Qことクインシー・マシュー・ハンリーは1986年、在ドイツの米軍基地に生れている。幼少期に母親とLAに移り住み、特別に貧しくも豊かでもない環境で育ったという。優等生でもあったが、12歳で地元のギャング、52フーヴァー・クリップスに加入する。日本のヒップホップ・サイト『YAPPARI HIPHOP』が『Complex』のインタヴュー記事を翻訳しているが、それに拠れば、スクールボーイ・Qがギャング業をもっとも活発にやっていたのは16歳から、逮捕されて刑務所に送り込まれる21歳頃までの間で、クラックやウィード、オキシコドン塩酸塩(医療用麻薬製剤)などを売って稼いでいたという。本格的にラップに情熱を傾けはじめたのも21歳の頃からだった。

 その後、2008年にインディ・レーベル〈トップ・ドウグ・エンターテイメント〉に加わったスクールボーイ・Qは、2009年にはケンドリック・ラマー、ジェイ・ロック、アブ・ソウルとともにブラック・ヒッピーを結成する。その間に、ミックステープを2枚発表、11年には配信限定のデビュー作『SetBacks』をリリースして頭角を現す。このデビュー作の発表はギャングを辞めてから4ヶ月後のことだった。ブラック・ヒッピーはギャングスタ・ラップのパイオニアの、同じくLAを代表するN.W.A.の再来であるという見方もあるが、スクールボーイ・Q自身は、ノートリアスB.I.G.とナズと50セントからもっとも強く影響されたと語っている。

 『ハビッツ&コントラディクションズ』の歌詞の対訳を読むと、ドラッグやセックス、暴力やビッチといったギャングスタ・ラップにお決まりのワードやトピックがずらりと並んでいる。 "レイモンド 1969"という曲名はレイモンド・ワシントンという人物が1969年にベイビー・アヴェニューズ(のちのクリップス)というギャングを結成した史実からきている。ベイビー・アヴェニューズは、結成当初こそブラック・パンサーのスタイルを継承して、自己防衛の信条を示すために黒い革ジャケットを着ていたというが、やがて血なまぐさい抗争をくり広げるようになる。スクールボーイ・Qが育ったのはそういった歴史と背景のある街で、"レイモンド 1969"では、「ここは恐怖で包囲されてんだ/死の臭いが立ち込める」とラップしている。さらに、冗談か本気か、「俺がギャングスタ・スタイルを戻しに来たのさ」("セクスティング")と意気込んでもいる。

 とはいうものの、セックス・ソングにしろ、セルフ・ボースティング(自慢話)ものにしろ、バイオレンスものにしろ、ラップのフロウから、スクールボーイ・Qのコミカルで、多彩な表情がみえる。凄んでみたり、好き者っぷりをひけらかしたりしているが、二枚目というよりは三枚目のノリで、それが面白い。英語が理解できれば、ブラック・ユーモアをもっと楽しめるのだろう。アブ・ソウルとぶりぶりのゲットー・ベース風のトラックに乗って、「ヤバイ、クスリが切れそうだぜ」だの「エクスタシーをキメてる女はイクのが早い」だの......ここに書くのを遠慮したくなるようなナスティーなラップをハイテンションで連発していく"ドラッギーズ・ウィット・ホーズ・アゲイン"は、要はボンクラ・アンセムである。ケンドリック・ラマーをゲストに迎えた"ブレスド"では唯一前向きで信心深いライミングをしているものの......、『ハビッツ&コントラディクションズ』(=常習と矛盾)というのはなかなか気が利いたタイトルだと思う。

 サウンド・プロダクションに、ポスト・ダブステップをはじめとするUKのクラブ/エレクトロニック・ミュージックやトラップ・ミュージックからの影響がうかがえるのもこの作品の魅力だ。『SetBacks』や『good kid, m.A.A.d city』のソウルフルでオーガニックなプロダクションとは対照的である。一曲目の"サクリレジアス"からして四つ打ちではじまるし、ジェネイ・アイコのセクシーなヴォーカルをフィーチャーした"セックス・ドライヴ"もUKのクラブ系のインディ・レーベルが出してそうな音だ。RZAを彷彿させる"レイモンド 1969"の陰鬱なトラックでは、ポーティスヘッドの"カウボーイズ"がサンプリングされている。そうかと思えば、マリーナ・ショウが歌う官能的なソウル・ミュージック"フィール・ライク・メイキン・ラヴ" をループさせ、ドム・ケネディとカレンシーとともにねっとりとフロウしていたりもする。

 2012年1月14日に配信限定で発表された作品のCD盤である今作に、エイサップ・ロッキーとコラボレーションした"Hands on the Wheel"が収録されなかったのは残念だが、日本盤にはボーナス・トラックが二曲入っている。ケンドリック・ラマーの新作とおなじく、同時代のUSのラップ・ミュージックを聴いているワクワク感が堪らなくいい。

二木 信

RELATED

Schoolboy Q- Blank Face LP Top Dawg Entertainment/Interscope

Reviews Amazon