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NHK'Koyxeи

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Dance Classics Vol. II

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野田 努   Jan 18,2013 UP

 二木信のいう「ファンク」が僕にはいまひとつわかるようで、わからない。僕は、彼と比べるのもおこがましいほど、量的な意味で日本のヒップホップを聴いていないので、偉そうなことを言える立場ではないのだけれど、もちろんいくつもの例外はあるにせよ、これはネガティヴな意味ではなく、個人的には、わりと人気のある日本語ラップからはむしろ演歌的なエートス/フォーク的な散文詩をかぎ取っていたので、それが二木のように、ざっくりファンクというタームに結びつく回路が見えないのである。いろんな現場に足をはこんでいる人にとってはわかって当たり前の感覚かもしれないし、これは僕の怠惰なのだろうけれど、どうせなら、いちどそのあたりの感覚をしっかり説明していただけたら幸いに思っている。

 「ファンク」というタームは、「ポップ」や「パンク」と同様に、それなりの歴史と展開と再解釈を経ているので、いまとなっては文脈のなかで主観的に使われることも多く、絶対的な定義を求めるのも野暮かもしれないが、僕が「ファンクとは何か?」と問われれば、迷うことなく、ジェームズ・ブラウンの「パパズ・ガット・ア・ブランド・ニュー・バッグ」に代表される、16ビートのリズミックな反復と、言語的な意味を超越した迫力について話す。基本中の基本の話で、世界で最高のフットボーラーはペレだというのに近い、ある種王道的な答えだが、一見単純に聴こえてその実複雑な反復、言葉の意味よりもそれもまたリズム譜であることを優先される演奏、そう、ダンスとある種の超越性、障害を説明するのではなく、障害を乗り越えるもの、それがJB、P-ファンク、トラブル・ファンク、クラフトワーク、バンバータ、パブリック・エネミー、UR、ジェフ・ミルズ、ドレクシア、あるいはオウテカ等々にも継承されているリズミックな衝動、すなわち「ファンク」ではないかと考える(『テクノ・ディフィニティヴ』には、テクノの重要なルーツとして「ファンク」の項目を設けたほど)。
 トーキング・ヘッズの『リメイン・イン・ライト』をファンクだと思える人なら、トム・ヨークとフリーのアトモス・フォー・ピース(平和のための原子力)名義のデビュー・アルバム『Amok』も素晴らしいファンクだと感じるだろう。そして、オウテカをファンクだと思える人なら、NHK'Koyxeиことマツナガ・コーヘイの『Dance Classics Vol. II』もファンクだと言えるだろう。3Dメガネをかけて、土木作業員のズボンをはいて、身体を小刻みに揺らしながらライヴをするその姿もファンキーそのものである。

 マツナガ・コーヘイは、Aoki TakamasaやKyokaやBunたちと同じように、今日の電子音楽シーンにおけるノマドで(日本という、たまたま自分が生まれた小さな島国にとどまることに必要以上な意味を見出さない)、2月におこなわれる彼ら4人の日本ツアー「abkn set japan tour 2013」の詳細に関しては来週記事をUPする予定だが、Bunをのぞく3人は、たとえばベルリンの〈ラスター・ノートン〉のような、便宜上、IDMの牙城のように分類されるレーベルから作品を出しているものの、しかしヨーロッパをよく知る彼らの音楽にはダンスがあり、ことNHK'Koyxeи名義の『Dance Classics』シリーズは、そのタイトルがはっきり言っているように、ダンスである。
 今回の『vol.2』はもちろん前作『vol.1』の延長だが、さらにダンサブルな展開が強調されている。エレクトロの影響下にあった頃の90年代初頭のプラッドがやり残したことをやっているようにも聴こえる。あるいは、ジェフ・ミルズがDJをやっているときに、いきなり彼の脇腹を「こちょこちょこちょ」と、くすぐったらきっとこんな音楽になるんじゃないかとも想像できる。ここには、言葉ではなく音の、笑い、ユーモアがあるのだ。
 しかし、ないものも多い。何よりもこの音楽には、啓発的な対話やわかりやすい説明がない。思い出話もなければ、気の利いた、何かに役に立ちそうなものがない。そういうものを求めたがる、決められた道筋を建設的に生きたい人生にとってはまったくもって無益な音楽だ。が、音楽の現場に、作品の送り手とその良き理解者たるリスナーという、昔ながらの上下はっきりとした関係性に逆戻りしている向きが固まっているのであれば、『Dance Classics』は極めて重大な滑稽さを秘めていると断言できる。まるでこの音楽は、「くっ、くっ、くっ」と笑いながら、動物と老人が安心して暮らせる世界へと自転車を走らせているようだ。前作のジャケはフラミンゴで、今回はキリン、裏ジャケの写真は、前回が丘の上から望遠鏡で町を見下ろすマツナガ・コーヘイで、今回は道路を自転車で走っているマツナガ・コーヘイ......ひと足先に春風を浴びているように、気持ちよさそうである。

野田 努