ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. R.I.P. Aretha Franklin (news)
  2. Mars89 ──たったいま聴こう。東京新世代のプロデューサー、Mars89が新作をリリース (news)
  3. Aïsha Devi - DNA Feelings (review)
  4. MUTE ──ミュート・レーベル、40周年の新プロジェクト“MUTE 4.0 (1978 > TOMORROW)”発動 (news)
  5. Merzbow + Hexa - Achromatic (review)
  6. Double Clapperz 最近のフェイバリット・トラック10選 (chart)
  7. Spiral Deluxe ──ジェフ・ミルズ率いるエレクトロニック・ジャズ・カルテットがデビュー・アルバムをリリース (news)
  8. Kelela ──新世代R&Bシンガー、ケレラがついにデビュー・アルバムをリリース (news)
  9. 菊とギロチン - (review)
  10. Fit Of Body - Black Box No Cops (review)
  11. interview with Dorian Concept 自分自身を模倣すること (interviews)
  12. Andy Stott ──アンディ・ストットが2年半ぶりに来日 (news)
  13. Khalab - Black Noise 2084 (review)
  14. Thundercat ──時代が悪くなると音楽は面白くなる……サンダーキャットの新作もすごい (news)
  15. interview with Eiko ishibashi 音をはこぶ列車/列車をはこぶ音 (interviews)
  16. New Sounds of Tokyo 東京でもっとも尖っている音楽をやっているのは誰だ? (interviews)
  17. Lotic - Power / Witch Prophet - The Golden Octave (review)
  18. ヒロインズ - ケイト・ザンブレノ 訳:西山敦子 (review)
  19. Aphex Twin ──エイフェックス・ツインが9月に新作「Collapse EP」をリリース (news)
  20. Brainfeeder ──〈ブレインフィーダー〉日本初のポップアップ・ショップが登場&フライング・ロータス監督映画作品が上映 (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Forest Swords- Engravings

Forest Swords

DubElectronicPsychedelicR&BWitch House

Forest Swords

Engravings

Tri Angle

Amazon iTunes

橋元優歩   Oct 29,2013 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 2000年代において「ウィッチなもの」はまずフリー(ク)・フォークの周辺に姿を現した。森ガールからさかのぼること5年前後。たとえばジョアンナ・ニューサムを、たとえばココロージーを取り巻くウィッチな――オカルトチックな雰囲気は、世を離るための装置として強烈な印象を持っていた。森へ、森へ。戦争のさなかでもあったアメリカ内部では、それはひとつの逃走でもあり闘争でもあっただろう。ドリーミーなどと甘いものではない、時期は少し後のものになるが、『イース』(2006年)の異様な肖像画に浮かんでいるのは、この世をつめたく切り離す微笑ではなかっただろうか。
 フォレスト・ソーズの音楽は、すこし、その頃のドロドロとして危なげな森とウィッチネスを思い出させる。

 UKはリヴァプールのプロデューサー、マシュー・バーンズによるユニット、フォレスト・ソーズ。2010年にリリースされた前作EP『ダガー・パース』を覚えている方も多いことだろう。ポカホーンテッドのようにずぶずぶなダブとギター・サイケデリック、クラムス・カジノの亡霊じみたスクリュー、またハウ・トゥ・ドレス・ウェルのR&Bやそのシミのように抜けにくく忘れ去り難い音像、などなどの印象に重なって、バーンズの音の世界はよどみ、滞り、ひたひたと現実の感触を腐食させていく。呪術的で間の多いビートとヴォーカル・サンプルもあわせて考えれば、ウィッチ・ハウスの傍流としてとらえられても当然だろうし、ファースト・フル・アルバムとなる今作は〈トライ・アングル〉からのリリースである。この線で現在もっとも充実したかたちを提示するための条件をずらりと揃えている。

 一方、往時のブルックリンの実験主義的なムードに含まれていたようなトライバル志向も、バーンズの音楽にとって重要な要素だ。なかでも近世~近代日本の表象が好んで用いられていることは、彼のなかのトライバリズムを大きく特徴づけている。日本趣味というよりも小泉八雲趣味というか、逝きし世の面影に寄せる興味のようなもので、前作と今作のジャケットに色濃いのは、芸者富士山ネコミミではなくて、開国ののちさまざまに失われていこうとする、あるいは開かれていこうとする、小さく、あわれ(あはれ)な存在や風俗である。ウィッチはウィッチでも、名も無き髷の日本女性を立てたところに、なんとなくではあるけれどもバーンズの問いかけがある。大きなちからの陰に、あるいは大きな時代の流れの陰に消えていくものへまなざすことが、彼のサイケデリック・ミュージックでありウィッチ・ハウスの芯ではないだろうか。“オンワード”の乾いた打撃音を、その隙間の反響音を聴いていると、知らないはずの郷愁と、それがあるはずの、ここではない世への思慕に胸がしまってくる。そして“ギャザリング”で反復されるヴォーカル・サンプルが、どこか木挽き歌のような掛けあいを生みながらピアノの旋律とキック音を招じ入れるとき、彼のアルバムは架空の風土記のように、この世のネガとして光を透過させる。

橋元優歩